序文

中国医学は宝庫である。近年は現代科学を使って発掘した文化遺産を整理していると、驚くような成果が多く出現する。江蘇金陵整骨科病院の朱漢章氏は、十年以上の探求のあげく、小鍼刀を使って整骨科疾患を治療し、優れた効果を得た。多くの臨床治療により、慢性の軟部組織損傷と関節の損傷により起こった組織の癒着に対し、独特な治療効果をもつことが証明された。簡便、安全、簡単で、医療費を節約し、病人の苦痛を軽減する。ここで朱医師の治療経験を整理して出版するに当たり、序文を仰せつかった。私は気持ちよくこの本を推薦できる。朱医師の成功を祝福するとともに、適応症が広がって治療効果が向上し、治療原理が解明されることを希望する。
1989年1月11日。尚天裕

序言

小鍼刀療法は現代科学の知識と方法に基づき、現代整骨の軟部組織損傷と関節損傷の最新成果をまとめたものである。小鍼刀は西洋の合理性を東洋のマクロ的辨証哲学思想の中で運用し、それによって新天地を切り開こうとするものである。それは多くの臨床治療によってまとめられた新しい治療法で、中医の刺鍼療法でもなく現代医学の手術でもない。しかし刺鍼療法と手術療法が融合して生まれたものである。
小鍼刀療法の理論は、外科手術理論と刺鍼治療理論を一緒にし、考えて分析し、選り分けたものである。特に現代の専門家の努力によって、外科手術と刺鍼療法において大きな成果が得られるとともに殻を打ち破った進展があり、それがあったからこそ小鍼刀の理論体系は自然に作り出され、新しい理論体系となった。
小鍼刀は鍼とメスが一体となったものである。二つの道具の治療作用を結び付けたことにより、過去には解決の難しかった疾患も治療できるようになり、難しい要求にも答えられるようになった。新しい思想体系により、過去の誤った病因や病理の考え方は是正され、ゴチャゴチャしてはっきりしなかった病因や病理もはっきりし、再発見もされた。そして世界の医学に更に新しい医学が加わることになった。診断と治療でも新しい水準に飛躍した。
小鍼刀療法で治療できる一般的な疾患や多発病の診断と治療方法だが、それには各種の軟部組織損傷による後遺症、例えば一部の骨棘形成、以前にした手足の骨折の後遺症、ある種の運動系統疾患によって起こった後遺症などがある。このような疾患は運動機能に大きく影響し、そのため患者を社会の生産活動に参入できなくさせ、社会の負担を増加させる。
小鍼刀療法は簡便で苦痛が少なく、速効性があって費用もかからず、不治の病を治癒させて、複雑な病状を簡単に治療し、難治の病気をすぐに治してしまうので患者に喜ばれている。
小鍼刀療法の理論は、整骨科のある種の疾患治療に応用することから始まった。十五年に渡る進歩により完全なものに近づき、徐々に試みられていなかった適応症にも使われるようになり、やはり優れた効果が得られた。特に1987年から中国全土で普及が進められ、小鍼刀療法も中国全土の同業者によって多くの疾患に用いられ、内科、外科、婦人科、小児科など多くの疾患に使われて優れた治療効果を得られた。また時間の推移に伴って、各種疾患の病因や病機について研究が深まり、適応症も次々と広がった。
損傷後遺症とは、転んだり、打ったり、筋を違えたり、挟まれたり、圧迫されたり、引っ張られたりして起こる軟部組織の閉鎖性損傷や開放性損傷、それに運動系統の病変、手術による損傷などを指す。関節が損傷され、治療や自然治癒のあとで機能障害、筋肉の萎縮や拘縮、怠い、脹れぼったい、痛い、痺れなど(これより後遺症と呼ぶ)が残る。こうした後遺症の中には先人が研究して明らかにしたもの以外に、骨と肉の癒着、筋肉と靭帯の癒着、筋肉と筋肉の癒着、筋肉と神経や血管との癒着、血管と靭帯や神経との癒着、骨と靭帯、神経、血管との癒着、筋間膜の拘縮瘢痕、腱膜間の癒着、それらの結節瘢痕などが後遺症の主要な病理要素である。このような癒着により複雑な症状や徴候が作り出され、しばしば単独の疾患となる。こうした癒着は体内に発生するが発見されにくい。また癒着や瘢痕が、局部に急性無菌性炎症をよく起こすため、癒着や瘢痕の存在は被い隠されてしまい、疾患の本質を識別することが難しくなる。
正常な筋肉が収縮や弛緩するときは、その筋肉の縦軸幅に沿ってそれぞれが伸縮するとともに、それにつながる他の組織もくっついて移動する。多くの筋肉群のそれぞれの筋肉が、それぞれ違った方向に縮むことにより、いろいろな複雑な動作ができる。こうした軟部組織の一点や一部が癒着すると、筋肉や他の軟部組織は自由な収縮運動ができなくなり、体内の動態平衡が失調して生理機能が障害され、また癒着により神経が引っ張られたり押さえ付けられたりし、程度によって痛み、痺れ、脹れぼったさ、怠さなどが起こる。さらに瘢痕や癒着は血管も圧迫して塞いでしまうので、局部の筋肉を萎縮させたり腫脹させたりする。大きな瘢痕や癒着であれば、いくつかの筋肉や靭帯が、圧迫されたり、太くなったり、短くなったり、硬くなったり、弾力性がなくなったりして外観が変形する。
こうした後遺症には、瘢痕や拘縮、癒着が存在していることは確かで、多くの臨床治療によって実証されている。癒着は筆者が作り出した概念ではなく、軟部組織損傷に関する医学文献には古くから記載されていた。しかし、それを後遺症が起こる重要な要因とせず、よく見られる組織形態学的変化の一つとだけ見做していた。癒着や瘢痕がある軟部組織を病理学的切片検査すると、ヒアリン変性(硝子変性)による虚血が起こっており、これを乏血性炎症と呼ぶ。以前には癒着や拘縮、瘢痕を主要な病理要因と考えず、炎症を主要な病理要因としていた。そのため治療が大きく違った。
筆者は瘢痕や拘縮、癒着はこうした後遺症の主要な病理要因であり、こうした疾患には広く存在するといっている。しかし過去には癒着や拘縮、瘢痕は、こうした疾患の中で個別で副次的な病理変化だと考えていた。認識の大きな違いで、全く異なる治療方法を採用することになり、小鍼刀は生まれなかった。
癒着や拘縮、瘢痕は軟部組織に内在する動態平衡を失調させる。この新しい見解は整形外科の領域内で、疾病の病因と病理に対する認識を深め、多くの新しい治療方法を生み出し、さらに多くの病人の苦痛を取り除く。小鍼刀療法は新しい病理要因を認識し「人体の正常な状況での動態は、調和のとれた平衡状態である」との基本概念から始まっている。 いかに認識上の新たな進展と打破といっても、自分自身の経験や、先人の治療経験や常識を踏まえなければならない。小鍼刀療法の損傷後遺症治療では、それに特殊な治療作用があると言っても、他の治療法も無視できない。逆に疾患によっては互いに協力して進めることも多い。
複雑な疾病では、二つや複数の問題点がある。異なる問題には、それと対応する治療方法を使わないと治らない。例えば治療したが変形して癒合した昔の骨折では、靭帯、筋肉、神経や血管が互いに瘢痕となって癒着している問題点と、変形して癒合した骨格の問題点がある。軟部組織は小鍼刀の松解術、骨は小鍼刀の折骨術で治療する。骨折転移も一つの問題であるが、それは整骨によって治療し、固定しなければならない。出血や浮腫、あるいは風湿が挟雑した疾患では、漢方薬や薬物治療を併用しなければならない。局部の筋肉がシクシク痛んだり、力がなければ、マッサージなどを併用する。
疾患の問題点の中で主要なものと副次的なものを分け、それにより各治療法で各種の疾患を治療するときに、時には決定的な作用をし、時には副次的な作用しか起こさない。変形癒合した古い骨折の後遺症は、以前には難治と考えられていた。それは疾患により癒着や瘢痕があるのだが、こうした病理が十分認識されていないために、正確に癒合したところを切断し、再び整復する治療もなかった。松解剥離や切骨により、古い骨折を新鮮な骨折に近づけ、そこで「新たな整復治療」が可能となる。
また椎間板ヘルニアの治療でも、今までの整骨手法では問題点が解決できなかった。整復したあとも腰腿の一部にやはり痛みが残っていた。この痛みは欝血(瘀血)や癒着によるものである。それに対して漢方薬や小鍼刀療法を使えば、もっと効果的である。気血の滞ったものに対しては、マッサージを補助とするとよい。
結局どんな方法でも疾病を治療する手段の一つに過ぎない。
小鍼刀療法も損傷後遺症治療に対する有効な手段の一つであり、唯一の手段ではない。各種疾病に対して漢方薬や薬物を併用したりするが、小鍼刀療法は単独の治療法でなく、総合療法と考えるからである。そうすると、ほとんどの手術では麻酔薬を使用し、手術中には輸血が必要で、術後には輸液や抗生物質を投与するので総合療法である。このように「純粋な治療法」は存在しにくく、ほとんどが「総合療法」である。
この治療法を世に出してから15年になり、臨床から理論に成熟して、1987年から小鍼刀療法は全中国で応用され、千人近くの技術者が養成され、各地で素晴らしい成果を収めた。小鍼刀で治療した患者は90年までで89万人に上り、治療効果は90%以上、多くの難病を完治させ、その際立った治療効果を報道した各地の地方紙は258紙。そこで全中国の医学界の面々は、理論的に完備された小鍼刀療法の専門書を出版するように希望された。全中国の学習班には、普通班と上級班の二冊の教科書があった。そこで私は二冊の教科書をネタ本とし、本書を出版して世界の医療従事者の要請に答えた。
本書は序文と序言を除いて、上、中、下の三篇に分かれている。上篇は総論で八章からなり、慢性の軟部組織損傷病理学説と治療方法の進歩と沿革について述べ、それにより新しい動態平衡失調の病理学説と非観血的手術の科学性、それが医学科学の歴史の必然的帰結であることを論証し、小鍼刀の刺鍼療法における原理をはっきりさせる。中篇は各論で、頚、肩、上肢、腰部や臀部、下肢、足そして全身の各種慢性軟部組織損傷疾患の病因と病理、診断と治療方法、また今まではっきり述べられていなかったあいまいな病機と診断を分析し、読者が理解できるようにした。さらに小鍼刀による非観血的施術方法を詳しく解説し、正確で、速効性があり、安全な治療効果を保証する。下篇と付篇は、小鍼刀療法による非観血的施術の理論体系と刺鍼療法分野での変革と進歩した原理。内科、外科、婦人科、小児科などにおける小鍼刀療法の展望と応用状況、小鍼刀治療学の基本内容、小鍼刀治療学派の医学界での位置などについて述べる。
小鍼刀療法の内容は広く、研究や臨床時間は少ない。わずか十年たらずの歴史しかなく、私のレベルと条件の問題もあって間違いや不足を免れ得ない。本人は人類の健康に対して、点滴のようであっても速やかに貢献しようという精神で、力不足を顧みないで文とし天下の同業者に捧げ、交流と補足、訂正をいただきたく思う。

上篇 総 論

第一章 慢性軟部組織損傷に関する病理学説

病理学は疾病の発生と進行の法則を研究する学問で、二つの内容を含んでいる。その一つは病理形態学で、組織器官と細胞の形態学変化から疾病の発生と進行の法則を明らかにする。その次は病理生理学で、生理学と生物化学の観点から疾病の発生と進行の法則を明らかにするものである。慢性軟部組織損傷の病理学も、当然この二つの内容である。
慢性軟部組織損傷については、何年にも渡って世界中の専門家が絶えず努力を続け、自分の研究成果を基に、いくつもの病理学説を著し、慢性軟部組織損傷という整骨分野の大きな難病治療の指針となる積極的役割を果たした。それぞれの学説には各々特色があり、異なる観点で疾患の病理変化を映し出している。しかし何が一番重要な病理変化なのか?どの学説が治療学に最も効率的な理論的根拠を提供できるのか?もっとも根本的で最も主要な、発病原因となっている病理変化はいったい何なのか?これらについて本章では検討してみたい。
慢性軟部組織損傷の病理に関する学説はかなり多いが、主なものを次に述べる。

一、無菌性炎症学説
いかなる刺激であろうが、適当な強さと時間で作用し、それが身体の防衛能力を超えてしまったら炎症が起こる。炎症発生因子は次の四つである。 生物的因子:細菌、ウイルス、リケッチア、真菌、スピロヘーター、寄生虫などの発病微生物。 物理的因子:高温、低温、放射線そして各種の機械的損傷。 化学的因子:酸やアルカリなどの腐食性の化学物質やサリン、ホスゲンなどの毒ガス。 アレルギー的因子:花粉、皮毛、魚、エビそして粉塵などのアレルゲンが引き起こすアレルギー反応による炎症。このほか感染したあとで抗原抗体結合物によっても炎症が起こる。
慢性軟部組織損傷による炎症反応の炎症発生因子は非生物的因子である。つまり非細菌性の炎症発生因子によって起こった炎症なので、無菌性炎症と呼ぶ。
炎症反応に係わっているある種の化学活性物質を、炎症性物質あるいは化学物質と呼んでいるが、こうした物質は炎症の発生と進行プロセスにおいて重要な役割をする。炎症性物質には外来性のものと内在性の二つがある。 外来性の炎症性物質は、微生物によるもので、感染によってもたらされる。主に外毒素と内毒素を指す。 内在性の炎症物質は体内にあるが、存在する部分により血漿中の炎症性物質と組織中の炎症物質に分けられる。
慢性軟部組織損傷による炎症性物質は、当然内在性である。
1.血漿中に放出される炎症性物質には三グループある。
(1)キニン系統:血漿中には不活性なプレカリクレインが存在する。血液凝固第ⅩⅡ因子と活性表面(破壊された組織表面、例えば膠原線維や血管基底膜など)が接触すると、カリクレイン活性物質が産生され、プレカリクレインはカリクレインに変わる。カリクレインの作用によってキニノーゲンは血管拡張ペプチドに変わり、血漿アミノペプチターゼの作用によりブラジキニンに変化する。こうした化学変化をキニン-カリクレイン系とする。
ブラジキニンはキニン系統の中で作用の最も強い物質で、ヒスタミンの10倍の作用があり、小動脈を拡張させて小静脈の透過性を増加させ、血圧を低下させて痛みを引き起こす。さらに非血管性平滑筋を収縮させるが、中性多核白血球の走化作用はない。
(2)アレキシン(補体)系統:アレキシン系統は酵素活性を備えた一連の血漿蛋白によって構成されており、免疫と炎症のプロセスで重要な作用を果たす。アレキシンC3(C3a、C3b)、C5(C5a、C5b)と炎症は深く関係している。
C3aとC5aは抗原抗体結合物により活性化されたC3とC5の中間生成物で、アナフィラトキシンとも呼ばれる。血管透過性を高めるとともに、肥満細胞からヒスタミンを放出させ、血管を拡張する。
C5aとC567(C5、C6、C7の三つの補体成分の複合物)は中性多核白血球に対して走化作用を持つ。
C3は細菌の細胞壁に付着するとオプソニン作用を発揮し、菌を中性白血球やマクロファージに食べられ易くするので、抗感染では重要な働きをする。ある種の 型アレルギー反応性の疾患では、抗原抗体結合物が局部に沈着して補体を活性化し、そのため補体は白血球を引き寄せ、白血球はリソソーム酵素を放出して局部組織の変性壊死をもたらす。
(3)血液凝固系統とフィブリン溶解系統:血液凝固のプロセスでは、トロンビンがフィブリノーゲンに作用してフィブリンモノマーとペプチド類を産生する。血液凝固第ⅩⅡaとトロンビンは、血液凝固第ⅩⅠ因子を活性化して、プラスミノーゲンアクチベータ(組織が損傷した後でリソソームもこうした物質を放出する)に変え、それがプラスミノーゲンをプラスミン変える。
プラスミンはフィブリノーゲンとフィブリンに作用し、それを分解して可溶性ポリペプチド(つまりフィブリン分解生成物)FDPとfdpにする。前者はフィブリノーゲンが分解されたもので、後者はフィブリンが分解されたものであるが、これがフィブリン溶解系統である。この二系統のペプチド類には抗凝作用があるほか、血管の透過性も高め、白血球に対して走化作用を持つ。
2.組織から放出された炎症性の物質
(1)血管作動性アミン類:ヒスタミンと5-ヒドロキシトリプタン(5-HT)である。それらは肥満細胞や好塩基球、血小板、腸粘膜の中に存在し、5-ヒドロキシトリプタンは能組織の中にもある。上に述べたように組織や細胞が損傷すると、ヒスタミンヤ5-ヒドロキシトリプタンが放出され、血小板が拡張して血管壁の透過性が高まり、非血管性平滑筋を収縮させて、痛みに対する感受性を高める。濃度が高ければ比較的大きな静脈も収縮させる。5-ヒドロキシトリプタンは腎、肺、小動脈を収縮させる。また壊死した組織中のアミノ酸もデカルボキシラーゼによってヒスタミンになる。血管作動性アミン類は好酸球に走化作用がある。
(2)酸性リポイド類:主に緩徐作用アレルゲン(SPS-A)とプロスタグランジン(PG)である。(SPS-A)はアレルギー反応において肥満細胞から放出され、平滑筋を緩慢に持続的に収縮させるとともに、血管壁の透過性を高める。白血球に対する走化作用はない。プロスタグランジンはさまざまな組織中に存在し、F、E、AそしてBなど数種あるが、その中で最も重要なのがPGEとPGE2である。これらは血管壁の透過性を高める。PGEには走化作用もある。
(3)リソソーム成分:白血球のリソソームから放出される化学物質である。陽イオンプロテイン、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼなどで、陽イオンプロテインは血管壁の透過性を高め、単核細胞に対して走化作用があり、中性プロテアーゼは組織を分解する作用が極めて強く、膠原線維、弾性線維、腎基底膜、軟骨やフィブリンなどを分解する。酸性プロテアーゼの作用ははっきり判ってない。こうした物質は白血球が死ぬと放出され、細胞毒と呼ばれている。食菌時に放出されるものを分泌放出と呼ぶ。
内在性の炎症性物質は身体が損傷されると血漿や組織の中から放出され、炎症反応に係わる一連の病理変化を引き起こす。
炎症性の疾患では、原因や部位がどうであれ、変性、滲出、増殖の病理変化が起こる。
1.変性
炎症区の組織細胞が炎症発生因子の影響を受けると、代謝障害が生じて機能や形態上の変化や変性が起こる。
(1)変性の形態学変化:変性は実質細胞にも、間質細胞にも起こる。実質細胞にもっとも多く現れる変性には混濁腫脹、脂肪変性、水変性があり、ひどい場合は凝固壊死、液化壊死なども発生する。間質細胞の変性には線維増殖、粘液変性、線維素様変性、線維断裂、壊死と崩壊がある。
(2)変性による機能と代謝変化:炎症区組織損傷で最もひどいのは、酸素の供給不足による中心部の酸化水準の低下である。周辺区の酸化水準は亢進し、糖類、脂肪、蛋白質の分解が加速され、酸性代謝産物(乳酸、脂肪酸、ケトン、アミノ酸など)が増加してアシドーシスが発生する。組織が崩壊するときに、ヒスタミンや5-ヒドロキシトリプタン、キニンなどの炎症性物質を多量に放出する。こうした活性物質も炎症の進行を加速し、局部組織の機能と代謝にはっきりした異常を発生させる。
2.滲出
炎症性物質の作用によって、炎症区の血管は拡張して透過性が高まるので、血管内の成分が血管壁を通り抜けて炎症反応に酸化する。このプロセスを滲出と呼ぶ。
(1)滲出のプロセス:滲出が始まる前に、炎症性の充血が起こり、血管が拡張するので局部が赤くなって温度が上昇し、代謝産物が集まって血管壁を刺激し、滲出が徐々に発生する。出てきた液体を滲出液と呼ぶ。滲出液によって組織に浮腫が起こったものを炎症性浮腫と呼ぶ。滲出液の中にグロブリンやアルブミンなどの小分子物質だけを含んでいれば漿液滲出と呼び、フィブリンを含んでいればフィブリン滲出と呼ぶ。滲出液が漿膜腔内に集まっていれば腹水である。滲出した各細胞を炎症性細胞と呼んでいる。滲出して組織内に炎症細胞が散在していれば浸潤と呼ぶ。滲出した血漿フィブリンと細胞成分を一緒にして滲出物と呼んでいる。
(2)炎症性細胞の種類
①好中球:血液中にあり、急性化膿性炎症で多く見られ、運動能力と食菌能力がある。中性顆粒の中には多種の酵素(トリプシン、カテプシン、ヌクレオチダーゼ、ヌクレアーゼ、リパーゼ、ペルオキシダーゼ、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、リソチームなど)を含んでいるため細菌を殺したり組織を溶解でき、また白血球発熱物質を放出して人を発熱させる。成熟した好中球の細胞核は分葉状である。急性炎症では核の左方移動が現れ、細胞形質(サイトプラズム)には中毒顆粒が見られる。1図に炎症部分、2図に炎症細胞の種類を挙げる。














1図 急性炎症と慢性炎症(低倍率) 2図 いろいろな炎症細胞
左側:急性横紋筋フレグモーネ N.中性多形核白血球
1.横紋筋 L.リンパ球
2.中性多核白血球 M.単球
右側:慢性炎症 P.形質細胞(プラスマ細胞)
3.巨核球 4.上皮細胞 E.好酸球
5.単球 6.形質細胞 B.好塩基球
7.リンパ球 8.結合織細胞 Ma.マクロファージ
②単球:炎症細胞に現れる単球をマクロファージと呼ぶ。細網内皮系統で好中球より食菌能力が強く、組織破片や異物のほか、細胞全体を食べることもある。多量のリパーゼを持っているので、TBBのセロイド膜を消化できる。TBBを呑み込むと類上皮細胞に変化し、比較的大きな異物に出合ったとき、これらの類上皮細胞は互いに融合して多核巨細胞となる。単球は細胞性免疫と体液性免疫にも関係しており、慢性の炎症やウイルス感染で多く見られる。細胞が比較的大きく、核が折りたたまれていて、細胞形質には呑み込んだ顆粒と破片が入っている。
③リンパ球:血液とリンパ組織から来て、運動能力は弱く、食菌能力もないが、感作リンパ球や形質細胞(プラスマ細胞)になって抗体を産生する。またアデノシナーゼを放出して蛋白代謝による有害産物を分解する。リパーゼはTBBのセロイドを分解するために一定の作用を果たす。慢性炎症とウイルス感染による疾病で多く見られる。細胞は小さくて核は一側に片寄っている。
④好酸球:血液中から来て、細胞形質には大きな好酸性顆粒があり、核は二分葉だが常に大きな顆粒に被われている。プロテアーゼとペルオキシダーゼを含み、運動能力は少なく食菌能力も劣っている。しかし抗原や抗体結合物、そしてヒスタミンなどの物質を食べる。寄生虫に感染したりアレルギー疾患などで多く見られる。
⑤形質細胞:炎症が起こった病巣内の形質細胞は、リンパ球や組織内の間葉細胞が分化したもので、免疫グロブリン(IgA、IgM、IgG、IgEなど)を産生して体液性免疫に参与し、慢性炎症で多く見られる。核は円形で片寄っており、車輪状の縞模様があり、核の周囲には粗面小胞体があり、細胞形質は好塩基で、内部には常に小胞がある。
⑥好塩基球:細胞形質中に大きな黒色顆粒があり、その中にヒスタミンや5-ヒドロキシトリプタン、ヘパリンが入っている。この細胞とある種の抗原作用によって産生されたIgEが結合して、身体を過敏状態にする。そして再びこの抗原に遭遇すると、血管作動性アミンが放出されて、身体にアレルギー反応が起こる。
⑦組織肥満細胞:血中成分ではない。間葉細胞が変化してできたもので、胃腸粘膜や皮膚、気管支周辺、漿膜と滑膜の結合組織中に、常に存在しており、特に血管周囲に多い。
円形や楕円形で、縁は不規則、細胞形質は豊富でヒスタミン、5-ヒドロキシトリプタンそしてヘパリンを含んでいる。常に好酸球とともに、ある種のアレルギー反応に参与している。
3.増殖
炎症性組織内の細胞は分裂によって繁殖しているが、これを増殖と呼ぶ。こうした細胞の主なものは、組織細胞と線維細胞そして血管内皮細胞である。これらには食作用があるので、異物や壊死した組織を食べてきれいにし、修復プロセスに参与している。
①組織細胞の増殖:組織細胞は、血管外膜の細網内皮細胞と結合組織細胞、血管から滲出した単球からできている。それらは同じような形態で、水泡状の核を持ち、腎臓のような形をしている。細胞形質内に呑み込んだ異物があるためマクロファージとも呼ばれる。異物を呑み込んだ組織細胞は多核巨細胞となっている。多核巨細胞はいくつかの細胞が互いに融合したり、核分裂しても細胞自体は分裂しなかったりして作られる。複数の核が楕円形に細胞に沿って並び、馬蹄形になったものをラングハンス細胞と呼び、結核結節や乾酪性壊死となった部分の周囲に多く見られる。複数の細胞核が細胞形質全体を占め、異物を含んだものを異物巨細胞と呼び、異物肉芽腫内や異物の周囲に集まっていることが多いが、こうした細胞は抗体を産生すると考えられている。
炎症初期には、上に述べたような各種組織細胞が増殖しはじめ、それらは食作用や運搬作用によって組織を修復したり作る基盤となる。
②線維細胞の増殖:結合組織細胞、血管外膜細胞、組織細胞が増殖すると、全て線維細胞となる。最初は紡錘形に変形し、その縁に線維の分化が起こるが、こうした細い原線維を銀親和性線維と呼ぶ。そして細胞でムコ多糖類の基質が産生されて銀親和性線維に付着すると膠腹線維になるが、これは結合組織が成熟した印である。
③血管内皮細胞の増殖:血管内皮細胞増殖により血管芽が作られ、徐々に前に伸びるとともに血液が流れる。こうした毛細血管と多量の線維細胞や炎症性細胞が一緒になって肉芽組織を形成し、しばらくするうちに炎症細胞と血管の数が減少して線維細胞になり、多量の膠腹線維が産生され瘢痕となって組織の欠損は修復される。
炎症プロセスの増殖は炎症性病巣を限局し、損傷組織は治る。しかし増殖が過剰だと病変や器官機能の回復に影響する。たとえば皮膚の慢性潰瘍により肉芽組織が過度に増殖すると、傷口は長期に渡って治らない。心膜炎で多量のフィブリンが滲出すると、癒着して器質化し瘢痕ができ、心臓機能に影響する。
慢性軟部組織損傷による無菌性炎症では、一般に上に述べた三つの病理変化があり、ほとんどは局部症状だが全身反応が起こることもある。炎症の局部症状を次に述べる。
体表から判る炎症症状には、赤くなる、腫れる、熱をもつ、痛み、機能障害などがある。炎症の基本的病理変化に対する理解ができたら、こうした症状の発生する原因を解説する。
赤くなる:血管が充血し、酸化ヘモグロビンが増えた結果である。
腫れ:局部の炎症性滲出と増殖によって起こったものである。
熱:炎症が起こると局部の動脈が充血し、物質代謝が加速されて発熱するからである。
痛み:組織が腫れ、知覚神経の末端を圧迫したり引っ張ったりするためと、発痛物質(5-ヒドロキシトリプタンやキニンなど)が局部を刺激するからである。
機能障害:腫れや痛み、組織の変性などの原因が総合されて起こる。
慢性軟部組織損傷によって起こった無菌性炎症のほとんどは慢性で、急性発作期にだけ局部の痛みがひどくなる。炎症した部分の局部症状が、はっきり体表に現れずに体表からは判らないが、血管が充血したり酸化ヘモグロビンが増えて赤くなるため、皮下の慢性軟部組織損傷疾患の急性発作期に、たまに体表に現れることもあり、軽いものは病巣の皮膚が赤く染まる。腫脹は触診したときに塊りやロープ状の腫れものが触知できる。熱も触診のときに触知できる。もっとも主要な局部症状は痛み(あるいは痺れ、怠さ、腫れぼったさ)で、機能障害が最もはっきり判る。
炎症の転帰には、治癒、慢性化する、広がるの三つの状況となる。
慢性軟部組織損傷は損傷しても完全に治らず、不完全な治癒だったり、長引いて治らない慢性疾患になったものである。慢性軟部組織損傷の主要な病理と病機は、慢性無菌性炎症である。
慢性軟部組織損傷の病理病機は無菌炎症学説であるが、この学説は我々がこうした病気を治療する上で理論的根拠となり、また無菌性炎症を徹底的に無くすように努力さえすれば、こうした疾患が治癒するのは理論にかない、客観的事実ではっきりしている。
それでは慢性無菌性炎症に対する、この百年間の効果はどんなものか?慢性軟部組織損傷の急性発作期については効果がはっきりしているが、結局は根絶が難しかった。急性でない場合は、ほとんど効果がないことは慢性軟部組織損傷を治療している者であれば身に染みて判っている。それは何故か?方法が誤っているのではないのか?それが本書が明らかにしようとしている問題である。

二、ゲート・コントロール学説
慢性軟部組織損傷の頑固な痛み(あるいは痺れ、怠さ、腫れぼったさ)に対する、現代科学の精密機器を使ったミクロ的研究で、傷害刺激によって起こった痛み信号に対する中枢神経系統での伝達と、生物電流の神経細胞膜内外での運動状態を正確に測定し研究したものである。1965年、メルザックとウォールは有名な痛みのゲート・コントロール学説を提唱した。この学説は以下のようなものである。
末梢知覚インパルスは後根から脊髄に入った後、痛みを産生するかどうかは脊髄のゲートコントロール系統によって決定されるというもので、中枢下行コントロール系統および脳の認識コントロールが最初の中枢伝達細胞(T)に対して、脊髄後角の膠様質ニューロン(SG細胞)を介してコントロールする。SG細胞には様々な機能があるが、興奮性と抑制性の二つの細胞を持つ。太い脊髄線維(Aβ)が伝達するインパルスにより、後角にある最初の中枢伝達細胞(T)が興奮すると、同時にSGの抑制細胞が活性化されるため、T細胞の興奮が抑制される。細い線維(AδとC)からインパルスがT細胞を興奮させると、SGの興奮性細胞が活性化し、それによりT細胞の興奮が昂まる。このようにSGの働きはゲートの役割をして、太い線維の活動が優位にあるときは、インパルス伝達のゲートが閉じてT細胞の活性を弱め、細い線維の活動が優勢になればゲートを解放してT細胞の興奮を強める。
脳の認識系統もゲート・コントロール系統に参与して調整する。
この学説は理屈が通っているので広く支持されており、またレセプターの膜電位理論とも一致する。神経膜の内外には、普通の静止状態でも電位差がある。膜の内側は-電位で、膜の外側は+電位になっているが、これを膜電位と静止電位と呼び、このような神経膜を分極状態と呼ぶ。
膜電位は、膜の内外のイオン濃度の差によって生じたもので、膜に対する透過性の違いによって起こる。つまりK+、Na+、Ca2+、Cl- などのイオンが生物電位を作り出す上で重要な作用をしている。陽イオンでは、細胞内はK+濃度が高く、細胞外ではNa+濃度が高い。陰イオンについては、細胞内では有機物による陰イオンが主となり、細胞外はCl-の濃度が高い。細胞膜はイオンを選択的に通過させる。静止時の神経膜では、K+は自由に通過できるが、Na+の透過性はK+の2%しかない。Cl-に対する透過性も高いが、有機イオンは膜が静止状態であろうが興奮状態であろうが全く通さない。そのうえ膜内のK+とCl-の濃度差が加わって、K+は膜外に向かって拡散するので膜内外の電位差が作られ、膜内は-で膜外は+になっている。また電位差は、そのほかのK+が外に向かって拡散してしまうのを防ぐので、膜電位は一定の数値を保っているが、これを平衡電位と呼ぶ。これを3図に示す。
次に再びレセプター電位について述べる。自由な末梢神経が刺激されると、刺激が神経インパルスに変換される前に一つの中間プロセスが
|  膜内液  |膜|膜外組織液|          必要だが、このプロセスでレセプターに直流電位変化
|        |  |        |          が現れる。これをレセプター電位と呼ぶ。例えば域値
|        |  |     Na+ |          下刺激で、膜が軽度に脱分極されると局部電位反応が
|        +-+          |          起こるが、その特徴は①電位の振幅が刺激の強さに伴
|K+ ----------→  |          って増大する。②前後した二つの局部反応が合計され
| ←----------Cl- |          て、大きな局部電位反応になる。③電位の変化はレセ
|        +-+          |          プターの特定部位の受容膜上にだけ発生する。
| A-     |微|    HCO3  |          レセプターの電位は刺激の増大によって、近隣部位
|Na+ A- |孔|    K+     |          に向かって有限距離で拡散されるが、その距離は算術
|Cl-    |  |     K+    |          級数で増大し、電位の振幅は幾何級数で下降する。た
| Cl-   |膜|    Na+   |          だし拡散が、細胞体から上に伸びた部分である軸索
|HCO3  |  |           |          付近に到達すると、高位状態にあるレセプター電位に
                              急に電位変化が伝わるが、これを活動電位と呼ぶ。
3図 膜電位産生の膜式図           あるいは刺激が域値の強さまで達すると局部の膜が
刺激されて脱分極から逆分極に変わる。つまり膜外が-で、膜内が+となって活動電位が起こる。活動電位とレセプター電位は全く異なる。①短時間のパルス放電で、例えばレセプター電位の継続時間が活動電位の継続時間を超過すれば、すぐに引き続いて第2、第3の活動電位が起こって一連の活動電位が産生され、一種の周波数変調プロセスとなる。スキャン記録では波形が一つの山のようになるが、これをスパイク電位と呼ぶ。
②活動電位は伝達されるが、その振幅は距離によって変わることはない。③刺激が域値を超過してもスパイク電位の振幅は変わらない。つまりスパイク電位は加算されず、振幅は一定している。
スパイク電位は神経膜が脱分極し(膜が刺激されて起こる膜自体による脱分極反応)、膜のNa+に対する透過性が一瞬にして高まり(静止時の膜では、Na+の透過性はK+の2%しかない)、膜内外のNa+の濃度差(膜外のNa+濃度が膜内より高い)と膜電位の極性(膜内は-)により、Na+は速やかに膜内に拡散するので、膜の脱分極はさらに進む。膜が興奮した時はK+に対する透過性がNa+より小さいために逆分極が起こる。スパイク電位がオーバーシュートし、逆分極するためNa+の流入が阻止される。スパイク電位が作られるプロセスで、K+は膜内外の濃度差があるため一部が膜の外に拡散し、スパイク電位の数値は接近したものとなるが、わずかにNa+の平衡電位が小さい。スパイク電位がピークに達すると、膜のNa+に対する透過性が再び小さくなり、K+に対する透過性の増加はさらにはっきりしてK+は濃度差によって外に拡散し、膜の再分極が促進れてスパイク電位は下降する。「ナトリウムポンプ」によって興奮時に流入したNa+イオンは排出され、流出していたK+イオンが引き入れられて、再び静止電位に戻る。活動電位の振幅は、静止電位に膜の逆分極によるオーバーシュート電位が加算されたものである。
活動電位の伝播メカニズムは局部電流理論から説明できる。神経線維のある一部が刺激されて興奮すると、そこに逆分極が生じてスパイク電位が起こる。このとき膜外は-で膜内は+となるが、隣にある静止膜の膜外は+で膜内は-である。電流は興奮した外膜内から軸索原形質を経て、興奮した隣の膜は(膜内を脱分極から逆分極する)外に流れ、同時に細胞外液によって回路は完成され、再び新らしく興奮した部位と隣の部分に局部電流が発生し、このプロセスを繰り返して興奮が伝達される。神経線維は絶縁性伝導、不減衰伝導、両側性伝導であるため、活動電位は刺激された部分から神経線維に沿って双方向に伝達される。
活動電位は神経線維の種類によって伝達される速度が違う。一般的に神経線維が太いほど伝達が速く、有髄線維の伝達速度は無髄線維より速い。
 神経髄鞘は、ランビエの絞輪からランビエの絞輪に興奮を跳躍伝導させるが、ランビエの絞輪は髄鞘がないことによる。A8線維の直径は1~9μm、伝達速度20~40m/sで、無髄のC線維は直径2μm以下、伝達速度は1m/sぐらいである。
簡単にゲート・コントロール学説に関する内容を述べたが、侵害刺激の神経細胞内外での伝達状況と生物電流の運動状況を解説したが、これが治療学の理論的根拠となる。慢性軟部組織損傷の主症状--痛み(怠さや腫れぼったさ)を取り除こうとするなら、通覚伝導経路と生物電流平衡の問題を解決し、痛みの域値以下に抑えれば、患者の苦痛を取り除ける。二~三十年以来、多くの電子治療機が使われてきたが満足できる効果はなかった。こうした機械は段々と高級になり、また精巧になっているのに何故だろうか?

三、痺症学説
慢性軟組織損傷疾患は、中医では痺症になる。『霊枢・賊風』に「転んだり高いところから落ちて、瘀血が内部に溜る。さらに怒りなどの激しい感情変化や、飲食の不節制が加わり、異常な気候変化に遭ったりすると、腠理(汗腺)が閉じて通らなくなったり、あるいは腠理が開いたときに風寒を感受して気血が凝結する。このように外部の風寒と体内の湿気が結び付くと寒痺となる」とある。
痺とは閉であり、閉とは塞がって通らないことである。外傷が治らず、そこに「寒暖の異常」が加わると、「気血が凝結して、寒邪と体内の邪が連合して攻める」。閉じて通らなければ痺となるが、これは急激な外傷を受けて後遺症となった軟組織損傷疾患について述べたものである。使い過ぎによって起こったものについても『素問・宣明五気篇』は、「五労によって起こる傷。長く見ていれば血を傷付ける。長く寝ていれば気を傷付ける。長く座っていれば肉を傷付ける。長くたっていれば骨を傷付ける。長く歩いていれば筋を傷付ける。これらを五労による傷と呼ぶ」と述べている。血、肉、筋とは軟組織を指しており、長時間に渡って使うために傷となった。つまり現代で言う使い過ぎのことで、慢性軟組織損傷とも呼ぶ。
痺症の症状については『素問・痺論』に「痺症には、痛むもの、痛まぬもの、不仁となるものがある」とあり「痛むものは寒が多く、寒があるところが痛む。痛みがなくて不仁であるものは、慢性になって病気が深くなり、営衛が滞って経絡がカラッポになり、痛みが判らなくなる。皮膚が栄養されなくて不仁になったものである」と述べている。
不仁とは知覚が鈍いもので、木のように感覚がなくなったものという意味であるが、これは慢性軟組織損傷による痛みや知覚麻痺症状に極めて似ている。
もちろん中国医学でいう「痺」とは、慢性軟組織損傷疾患のみを指したものではなく、筋痺、骨痺、皮痺、脈痺、肌痺など、多くの疾患を含んでいる。慢性軟組織損傷は痺症の一つにすぎない。
「痺」は通じないという意味である。つまり気血が滞ったために機能障害を起こすという見解である。そして気血が滞ったために起こった局部の痛みや知覚麻痺、運動障害や無力、拘縮なども表す。
清代の医者である沈金鰲は『雑病源流犀燭』で「痺とは閉である。三気が混じって侵入し、経絡を塞いで気血を流れなくする。すぐ邪を取り除かず、長引けば痺となる。全身に及んだり四肢が引きつって痛むものは、病が慢性化して深くなったものである」と解説している。
慢性軟組織損傷に対して、中国医学の「痺症」病理学に基づき、千百年前から温通辛散(辛い薬物で温めて経絡を通らせ、邪を散らす)や活血化 (血を活発に循環させて滞りを消す)などの方法を使って治療してきた。時間もかかり薬も使うが、ある程度の効果がある。われわれが現代科学の知識と方法をどのように使って、痺症に関する知識を整理するか。それは緊急に解決しなければならない問題だが、本書でもそれを取り上げている。

四、筋出槽(筋の位置ズレ)学説
皮膚、皮下組織、筋肉、筋腱、筋膜、靭帯、関節包、滑液包そして神経や血管など、中国医学で筋と呼んでいるものを現代医学では軟組織と言う。筋の出槽(位置ズレ)とは、軟組織が損傷されて正常な位置から外れることなので、中国医学では筋転、筋歪、筋走、筋翻などと呼んでいる。軟組織の疾患を中国医学では傷筋と呼ぶが、その病理変化は筋の位置がずれたことである。本文で検討する慢性軟組織損傷疾患とは、急性損傷をほっておいたものや誤治により起こった疾患だけでなく、慢性の使い痛みによる軟組織損傷も含んでいる。「筋出槽」は急性損傷であるが、慢性損傷の病理変化も急性損傷が治らずに残ったものである。
筋出槽学説は中国医学で、軟組織損傷疾患の病理にユニークな貢献をしている。臨床治療に積極的な、そして有効な方針を示し、急性軟組織損傷疾患を完全に治癒させるために重要な役割を果たしている。また急性軟組織損傷疾患が完全に治癒していないものや不完全に回復したもの、そして慢性軟組織損傷となってしまったもので、その中の一部は急性軟組織損傷治療のときに、筋転(筋たがい)、筋歪(筋のねんざ)、筋走(筋の位置異常)、筋翻(こむらがえり)などを治せないために起こったものである。もちろん急性軟組織損傷は、筋転、筋歪、筋走、筋翻などの筋出槽がすべてではなく、ほかにも筋断(筋断裂)、筋柔(筋が軟弱)、筋粗(筋が太くなる)がある。だから筋出槽は、そのうちの一部にすぎない。
急性損傷による筋出槽を治さなければ、慢性筋出槽となって病変が残るだけでなく、自己修復や血腫の組織化によって病巣部が安定化する。そうなると慢性期の「筋出槽」問題になるが、その主要な病因は何であろうか?筋転、筋歪、筋走、筋翻を解決する方法があるのか?さらに慢性軟組織損傷の一部である疲労性損傷には、筋出槽によるものは少ないといった問題もある。
それでは筋出槽による病理学説は、慢性軟組織損傷の治療に有力な理論的根拠をもっているのかどうか?またどのように解決するのか?これは興味深い問題である。

五、トリガーポイント説
トリガーポイント説は、慢性軟組織損傷疾患の病理メカニズムを解明する中で、現れた学説である。この学説によると、慢性軟組織損傷疾患にはガンコな痛点があり、それが痛みを発生させる中心となっているが、その痛みを発生させる点が痛む原因、つまりトリガーポイントである。もし何かの方法でトリガーポイントを破壊できれば、痛みは消える。それではトリガーポイントが発生する原因は何か?その組織学、形態学、生物化学と生理学的根拠は何か?それについては何も判ってはいない。ただ現代の測定器の助けを借りて、痛みを発生させる発痛源が判る程度である。その発痛源とは何か?最初に痛みが発生するポイントはどこか?本書では、そうした問題に答えている。

六、気滞血瘀学説
中国医学は、慢性軟組織損傷によって発生する痛みをどう考えているのか?それは気が滞るために血が停留し、「通じなくて痛みが発生した」としている。慢性軟組織損傷疾患では、はっきり腫れているわけでもなく皮膚の色も正常で、急性損傷のように腫れがひどかったり、激しい症状があったり、痛みがひどいわけではない。常にシクシクと痛み、また痛んだり止まったりし、休憩すると軽くなり、労働するとひどくなる。これは気血が凝滞して、病巣部の経絡がスムーズに流れないために起こったものである。
こうした慢性軟組織損傷に対する病理認識は、まったくでたらめなものではない。中医でいう気とは、現代の動力エネルギーと呼吸の気を意味している。血とは血液であり、血流である。損傷が長引けば、病巣や全身のエネルギーを消耗し、さらに痛みが加わるため動力エネルギーは働きようがない。損傷したときには血管が破れて内出血し、長引いて回復しなければ患部の組織が変性し、無菌性の炎症反応が起こったりする。患部の血液循環は阻まれ、病巣部に酸素不足や血液不足が発生するが、それが気滞血瘀である。
慢性軟組織損傷で、気はどうして滞るのか、血がどうして瘀血になるのか?気滞血瘀より先に起こる病理要因は存在するのか?その問題についても明らかにしてゆきたい。

七、筋肉緊張学説
最近になって、中国の専門家が慢性軟組織損傷の病理を詳しく観察して研究し、中国医学の関連した理論を根拠に、気滞血瘀理論に匹敵する筋肉緊張学説を著した。そして「不通則痛(通じねば痛む)」に対する「不松則痛(緩まねば痛む)」の理論を提唱した。病理からすれば、さらに慢性軟組織損傷病理の本質に近づいたことは疑いなく、臨床治療にヒントと理論を与えることになった。損傷が長引いて、患部に一連の生物物理学と生物化学的変化が発生し、自己修復のプロセスにおいて患部に酸素欠乏や血液不足が起こると、軟組織が拘縮する。それを中国医学では「大筋変短、小筋変粗(大きい筋肉は短くなり、小さな筋肉は太くなる)」という。
この学説は、慢性軟組織損傷疾患における重要な病理変化をはっきりさせている。
では慢性軟組織損傷疾患の病理変化は、筋緊張のほかには重要な病理変化がないのか?またどのような病理概念によって、それをまとめるのか?それがわれわれの課題である。

八、筋膜隙シンドローム学説
筋膜間室シンドローム(osteofascial compartment syndrome)は外来語で、compartmentの意味は「仕切られた部屋」、つまり「隔室」である。これは筋膜内組織に病変が起こったことを表している。
この理論は、骨と筋膜によって形成された間隙内で、さまざまな原因によって組織圧が上昇した場合、間隙の許容量が筋膜に制限されているため圧力が逃げずに上昇を続け、それによって血管は圧迫されて損傷し、血液循環が障害されて筋肉や神経組織に供給される血流量が減少するもので、ひどいものは乏血性の壊死を起こし、最終的には組織機能を損傷する。こうしたことで発生する一連の症候群を「筋膜隙シンドローム」と呼ぶ。
この学説ができたのは百年近く前のことで、多くの外科医の研究により、骨と筋膜の間には密閉状態の筋膜隙が存在することが発見された(主に前腕と脛にある)。
さまざまな発病原因、たとえば骨折、重症の軟組織断裂や挫傷、血管損傷や手術による損傷などのような急性損傷。また軟組織の疲労や筋肉疲労、ある種の出血性や神経性の疾患、薬物刺激、腎臓機能や医源性のような慢性損傷などによって本病が起こるが、その病理変化は同じである。つまり筋膜を取り囲んでいる間隙内の組織圧が、絶えず上昇し、血管を圧迫して血液循環を妨げ、筋肉や神経はそれによって血液不足となり、ひどい場合は壊死する。
HoldeとMatsenは、この病理変化のプロセスを次のようにまとめている。
組織の血管損傷 血管動力学変化 浮腫 圧力上昇 血流量減少
こうした悪循環が繰り返され、その結果として組織圧が絶えず上昇し、最後に血流が停滞し、組織が乏血状態になる。
現在では、組織圧が30mmHgを超えると、筋膜隙シンドロームが発生する可能性があることが証明されている。
筋膜隙シンドロームには急性と慢性がある。慢性筋膜隙シンドロームも慢性軟組織損傷の一種だが、慢性筋膜隙シンドロームの発病率は極めて低く、現在に至るまで世界中の文献で報告されたものは、千例に満たない。症状は急性のものほどひどくないが、長引いて治らず、再発したり治まったりしながら数年から十数年続く。一般に休憩すると好転し、運動すると発作が起こる。
筋膜隙シンドロームの病理学説は、軟組織損傷疾患の一部が、筋膜隙損傷疾患の特殊な病理メカニズムによって起こることを明らかにしている。しかし筋膜隙シンドロームの病理学説は、すべての軟組織損傷疾患の病理メカニズムを解明したものではなく、その一部にすぎない。さらに慢性筋膜隙シンドローム理論に含まれる疾患も、慢性軟組織損傷疾患のなかで極めて限られた疾患にしかすぎない。もちろん慢性筋膜隙シンドロームの理論を、取るに足らないものだと言っているのではない。それは似たような疾患の秘密を明らかにし、やはり重要な貢献をしている。
しかし四肢の筋膜隙は正常であれば、内外の体液通路はスムーズに通じていて、損傷されなければ(急性あるいは慢性の損傷に係わらず)閉塞しない。もちろん急性損傷は、主に内と外の二つの要因によって、間隙内圧が高くなる。外部の要因は、手術の縫合がきつすぎたり、包帯で締めすぎたり、重いもので圧迫されたり、それ自身が圧迫したり、牽引スタンドに圧迫されたりなどがある。こうした要因は筋膜隙の筋膜を拘縮させ、間隙の容量を小さくし、組織圧を上昇させるので、筋肉血管に対する正常な血液供給をおびやかす。内部の要因は、損傷による出血、凝血システムの乱れによる出血、間隙内にある毛細血管の透過性が増加、毛細血管の浸透圧が増加、輸液や輸血が外に漏れたなどである。
こうした内外要因は間隙内の圧力を上昇させるが、なかでも最も主要な原因は、間隙内外の循環通路が塞がれることである。間隙が閉鎖するから内圧が上昇し、間隙シンドロームとなる。慢性の場合は特にそうである。慢性患者は休憩すると症状が改善するが、激しい運動によって症状がひどくなったり再発する。慢性軟組織損傷にとって、筋膜隙シンドロームの閉鎖と塞がりの重要な意味は何か?もし動的に理解しようとするのなら、その主なメカニズムはどんなものか?本章の最後の一節で検討したいと思う。

九、骨線維管圧迫症候群学説
慢性軟組織損傷の病理研究により、四肢において多くの骨線維管が、狭くなって圧迫されているのが発見された。それによって骨間掌側神経の圧迫症候群、肘管症候群、手根管症候群、足根管症候群、足根骨洞症候群などの複雑な症状が起こる。こうした病理要因の発見は、線維管の神経、血管、筋肉循行部分に現れる、複雑な症状の原因を理解する手段となる。こうした線維管が傷を受けると狭くなり、通っている神経や血管、筋肉を圧迫する。だが狭窄の起こる原因や、圧迫がどのような動的病理変化を起こすかについては、もっとはっきりさせなければならない。
それでは次の一節で、以上の九種類の病理学説を総合的に検討し、残っている疑問に対して統一した観点と答えを出すことにする。

十、ホメオスタシス失調理論
動態平衡失調理論は、軟組織損傷の一番重要な病理メカニズムである。この結論は、前の9つの慢性軟組織損傷の病理学説を学習し、20年の臨床研究と総合して得られたもので、私自身の治療経験と全中国の千名近い医者の臨床治療によって、信頼性の置けるものと確信されている。長期間治療を続けても治らなかった慢性軟組織損傷疾患を、迅速に治癒する。現在までで、この理論を使って治療した症例は、大ざっぱに見積って89万人、平均有効率は90%以上に達している。また治療期間がきわめて短く、10年や8年でも治らなかった頑固な疾患も1~2回で治癒している(本書の後ろの付録を見よ。中国各地で応用された観察報告)。切った貼ったの手術はいらず、費用も易くて、再発率もきわめて低い。
人の身体は正常な状態であれば、体幹や四肢の動きは、機能範囲内ならば自由であり、なすべき動作ならばできる。それを動態平衡と呼ぶ。慢性軟組織損傷は運動系統の疾患なので、内臓器官は含まない。慢性軟組織を損傷すると、罹患した肢体の軽重によって機能範囲が制限される。つまり罹患した肢体は、その機能範囲内でも、なすべき動作がおこなえない。それを動態平衡の失調と呼んでいる。
動態平衡失調理論には複雑で豊富な内容が含まれているが、本節では読者に初歩的な理解をしていただくに留め、第四章の第六節で深く検討したいと思う。
われわれが最初に理解すべきことは、動態平衡失調理論はどうして慢性軟組織損傷で一番重要な病理メカニズムになるのか?その病理変化は、ほかの病理学説ではっきり解説されているのではないか?ほかの慢性軟組織損傷の病理学説は深くて詳しいのに、動態平衡失調説は表面的で大ざっぱすぎるではないか?
急がないで!われわれはゆっくりと検討しましょう。
まず前提として、先駆者達が代々と努力を積み重ね、微に入り細に入り慢性軟組織損傷の病理変化を調べあげ、その本当の姿を明らかにしてきた。そうした彼らの成果によって、われわれはミクロ的な考え方ができるようになった。しかしもう一度「表面的で、大ざっぱすぎる」マクロ的観点でまとめる必要があるのではないだろうか?皆さんがすでに御存じのとおり、科学的思考には必ず「演繹」と「帰納」がついて回る。細かく分析するミクロ的「演繹」プロセスがなければ、それをまとめて法則化するマクロ的な「帰納」プロセスは存在しない。ましてや動態平衡失調というマクロな結論は、慢性軟組織損傷疾患の動的状況での組織学、生物物理学、生物化学的変化に基づき、それを基礎としている。
みなさんも、どうして慢性軟組織損傷が治療学で常に大きな難問となっているか判るであろう。それは、こうした疾患の主要な病理メカニズムが、まだ全面的にはっきりと判っていないからである。現代の接骨教科書『中国骨傷科学』には「軟組織損傷は、接骨でよく治療する疾患である。しかしその発病メカニズムと病理形態の変化で、判っていることは非常に少ない。だからそれは接骨病理学の研究課題に入っている」と記載されている。
前に挙げた九種の病理学説は、すべて静態的な組織学、形態学、生物物理学と生物化学の見地から、慢性軟組織損傷の病理メカニズムを研究したもので、動態で研究したものはなかった。慢性軟組織損傷は運動系統の疾患だから、動きが大切である。病気のあるなしにかかわらず、問題はすべて動的問題であり、その病理変化も動態と切り離せないのに、動きと切り離したり、静止状態で研究したり、認識している。動態状態で病理変化を研究しなければ、その一番重要な病理要因を把握できず、また病気の本質も判らない。
慢性軟組織損傷疾患は、一般に中枢神経や末梢神経がひどく損傷したもの(断、裂、破損など)によって起こった運動麻痺を含まない。慢性軟組織損傷の概念は、四肢や体幹の痛み、痺れ、腫れぼったさ、怠さ、筋肉の軽い萎縮、機能障害などの外傷科疾患に限られている。全麻痺や廃用性疾患とは別に論じなければならない。つまり慢性軟組織損傷疾患は、可動する、あるいは可動はするが動かせない外傷科疾患の範囲を境界としている。まったく動かない疾患は神経科や別の科の疾患であり、われわれは検討しない。この可動する、あるいは可動はするが動かせないことが動態平衡失調の問題だが、その特徴のために病理変化が複雑になり、われわれが臨床でどのように対処してよいか判らなくなる。
もしそれを無菌性炎症とするなら、われわれは無菌性炎症を解決すれば、治療後は吸収されて病状は好転し、回復してあたりまえに仕事ができるようになる。だがしばらくするとまた再発する。また「痺」症とし、気滞血瘀によるとして気血を流通させる薬物を使っても、有効な場合もあるし、効果がない場合もある。そしてを中枢伝達路にゲートがあって人体の痛覚をコントロールしているとし、膜電位の生物電流に変化があれば、われわれは電子治療機を使って調整し、痛みがすぐに軽くなったり消失したりする。しかし電子治療機を止めて、いくらもしないうちに痛みが再発する。それが筋膜隙の内圧が上昇するためだとすると、どうして休息すれば上がらず、またしばらく運動すると高くなるのか?それが骨線維管による圧迫で起こるとすれば、休憩すると好転し、運動したあと再発したりひどくなるのはどうしてか?筋出槽のためとすると、位置のズレは日が経つうちに元の位置に戻るのではないのか?元の位置に戻るのは難しく、休憩すると緩解し、運動するとひどくなったり再発する。一つのトリガーポイントがあるとすれば、それを取り去ってしまえばどうか?難しい。いや不可能である。やはり動けば痛む。
以上の病理学説に基づいて、それに対応した治療措置を使えば、ほとんどに有効である。たとえ効果が現れるのが遅いものがあっても、これらは慢性軟組織損傷の病理学説が、科学的で客観的で、否定できないものであることを表している。唯一の問題は、治療効果が安定しておらず、再発を避けられないことである。効果を安定させられない根本的な問題は、人は動かなければならないからである。人は労働し、身の周りのことを自分で片付け、運動しなければならない。動けば、われわれにはどうしようもなく、無能であり、なさけない存在である。
こうした原因も、我々が慢性軟組織損傷の病理を、動態から研究しなければならないようにする。動がもっとも重要な根本問題である。
動態平衡失調とは、四肢や体幹に外在するマクロ的な動態平衡失調を指すだけでなく、内在的な動態平衡失調を主としている。人体内部にある各種の軟組織は、人が運動するときには、それぞれの特定な範囲内で、その運動に応じた動きをする。運動形式は、点のものもあれば、面のものもあり、線のものもあって、総合された運動もあり、それぞれが複雑に組み合わされている。何かの原因で、それらの相対的な運動が制限されたなら、その特定運動の軌道上での完全な運動ができなくなるが、それが動態平衡失調である。これが慢性軟組織損傷で一番重要な病理メカニズムである。
それでは、どのような要因が体内と体外の動態平衡失調を生み出すのか?それについては第四章で詳しく述べる。
われわれは、こうした病理メカニズム観点に基づいて、臨床治療での指針とし、具体的に疾病を分析した。動態平衡失調にさせる本当の原因を捜しだせれば、難治の病気を完治させるのは簡単なことだろう。しかし本当に深くこの理論を理解するには、もうしばらく時間が必要である。

第二章 慢性軟組織損傷の各種治療法

どのような治療方法であれ、病理学説に基づいて発明された。慢性軟組織損傷の各種治療法も、それぞれの病理学説に基づいて作られている。
先人が慢性軟組織損傷に対して、さまざまな学説を提唱したため、治療家もいろいろな治療法を考え出した。次にそれらの治療法を述べる。

一、ブロック治療
ブロック治療は注射療法の一つである。注射療法といっても普通の筋肉注射や静脈注射とは違い、病巣局部に直接薬物を注入して疾病を治療しようとする方法である。局部に注入する薬物には、エチルアルコール、ベンジルアルコール、フェノール、明礬水溶液、塩酸キニーネ尿素注射液、キニンウレタン注射液、複方キニーネ注射液、肝油脂肪酸ナトリウム注射液、硫酸14アルキルナトリウム、ステロイドホルモンなど、いろいろである。
ブロックの本来の意味は神経の伝達を遮断することで、薬物を局部に注射して神経伝達を遮断することから、ブロック療法と呼ばれている。化学的に神経を切断して痛みを止めようとするものである。のちに慢性軟組織損傷の局部注射に使われるようになり、本来のブロックする意味から大きくはずれてしまった。例えばプレドニゾロンにプロカインを加えて局部注射をしても、習慣からブロックと呼んでいるが、プレドニゾロンにプロカインを加えた局部注射の作用は、化学的に神経を遮断して神経伝達を阻止しようというものではなく、プレドニゾロンの抗炎症作用によって軟組織の炎症反応を抑制し、滲出物を減少させ、微小循環を改善させようとするものである。
こうした治療法は、慢性軟組織損傷の炎症病理学説を根拠に発明されたもので、たしかに炎症反応を抑えて滲出物を減少させ、微小循環を改善して症状を緩解させるが、再発しやすく、また症例によってははっきりした炎症反応がないため、プレドニゾロンにプロカインを加えた薬物を局部注射しても効果がない。また中国では、きわめて少数だが末端の医者がステロイドホルモンをよく知らず、量が多すぎたり長期間使ったりして激しい副作用が現れることもある。プレドニゾロンの使用量が多すぎたり長すぎれば、7つの副作用が起こる可能性がある。①ナトリウムの貯溜と組織の浮腫。②多尿と糖尿。③高血圧。④蛋白質の分解を促進し、合成を抑制するので、筋肉を萎縮させ、骨をスカスカにする。⑤組織の修復能力を低下させ、結核病巣を活動させて、潰瘍では穿孔が起こる。⑥精神障害。⑦副腎皮質の機能減退など。

二、物理療法
物理療法は理学療法とも呼び、その範囲は大変広いが、自然物理要素と人工物理要素の二つに大別される。自然物理要素の理学療法には、日光、大気、温泉、海水、気温、砂風呂、泥療法などがある。人工物理要素の理学療法には、電気治療、光線治療、超音波、音熱、気功やヨガなど体操、吸玉、鍼灸、按摩やマッサージ、放射線治療などがある。そのうちの多くは、鍼灸、按摩マッサージ、体育療法など、すでに独立した治療体系ができて専門分野になっており、そのほとんどは慢性軟組織損傷疾患の治療に使うことができる。次に具体的に解説しようと思うが、現在の理学療法でよく使われている電気治療について述べることにする。
物理療法は、現在において慢性軟組織損傷治療の重要な方法と考えられている。この治療法は確かに慢性軟組織損傷の治療において、積極的な作用を及ぼす。特に物理療法の治療家は、いくつもの物理要素を併用した総合治療が重要であると強調している。たとえば『創傷理療学』の34ページには「創傷治療の経験:完全に創傷を治療して、機能を回復させることが任務であるが、それはけっして手術療法や薬物治療だけで到達できる目標ではなく、総合的な物理療法とリハビリ治療が必要である。たとえば創傷のあとで瘢痕が増殖したり、瘢痕が癒着したり、瘢痕が引きつると機能障害が起こるが、現在でもこれを完全に治す手術や薬物療法はない。音熱療法や可聴周波数電流療法、竹紅菌甲素光化療法(竹紅菌甲素なるものを皮膚に塗って紫外線をあてる治療法)を応用することよって緩解する」とある。
電気治療は、試験的に試みられてから広く応用されるに至るまで100年近い歴史がある。1907年にWallとSweetは、電気で神経を刺激することにより、その神経が支配している部分の疼痛感覚が和らぐことを発見した。かれは電流が末梢神経のA線維を刺激することにより、何らかの方法で脊髄に影響を与え、疼痛刺激を受けられるようにすると考えた。
Wallは、電気刺激が末梢神経の中でも太いA線維の興奮性を高め、脊髄内の細い痛覚線維の興奮性を抑制するため、疼痛感覚が和らぐことを動物実験によって証明した。
のちにShealyなどが、猫の脊柱(すべて太いA線維によって構成されている)を刺激すると、有害刺激に対する反応が減少することを発見し、「電気は痛みを止める法」という言葉を作りあげた。当時では、痛みを止める神経生理に対するメカニズムについては、さほど理解されていなかった。
この「電気は痛みを止める法」という理論のもとに、治療家が大いに努力して電気治療を普遍的な治療方法に作り上げ、慢性軟組織損傷の治療に広く応用された。さらに神経生理学の進歩によって現れたゲートコントロール学説、膜電位学説などの理論は、電気治療の新たな理論的根拠となり、十分に発達した。
電気治療の種類はとても多く、直流電流や薬物イオン導入療法、感応電流治療、間断電流治療、電気体操治療、電気刺激治療、可聴周波数電流療法、変調正弦波電気治療、干渉電流治療、共鳴電気火花療法(ダルソンバリゼーション)、パルス短波療法、パルス超短波ジアテルミー療法、マイクロ波療法、静電治療などなど、いくつもの方法が開発された。それぞれの電気治療法の作用原理はいくらか異なるが、まとめれば次のようなものになる。
1.鎮痛効果
①中枢の痛覚伝導路に干渉する。多くの臨床治療と実験によって、経皮神経の電気治療は、さまざまな原因で起こる急性や慢性の痛みを緩解することが確認されているが(『創傷里療学』63ページ)、その痛みを止める理論的根拠は「ゲートコントロール学説」である。末梢神経には太さの異なった神経線維がいくつかあり、伝達速度も違い、機能も異なっている。そのなかの太い神経線維は、主に痛みでない感覚を伝達するが、これらの神経線維の興奮閾値は低いので興奮しやすく、伝達も速いので、その刺激はすぐに中枢に入る。もし太い神経線維が興奮すれば、興奮運動の遠心性神経線維の反応は起こらずに、太い神経線維が脊髄後角のグリア細胞(ゲート)を興奮させる。「ゲート」が興奮すると中枢に入る「ゲート」は閉じ、そのために細い神経線維によって伝達される痛みの刺激は入れなくなるので鎮痛効果が生まれる。電気生理テストの研究によって、パルス間隔100Hz前後、振幅100μsの方形パルス電気刺激が、もっとも効率よく太い神経線維を興奮させることが証明されている。そのために経皮神経の電気刺激療法によって痛みがコントロールできる。
②膜電位を調節する。
第一章の第二節で、簡単に疼痛レセプターの膜電位理論を述べた。遊離神経終末が刺激されると、刺激が神経インパルスに変換される前に一つの中間プロセスを経て、刺激が膜の透過性を変化させて、膜の能動的脱分極を引き起こす。このプロセスで、最初はレセプターに直流の電位変化が現れるが、それをレセプター電位と呼ぶ。レセプター電位は刺激が強まるにしたがって増大する。レセプター電位は、プラスとマイナスのイオンが移動することによって起こる。直流電界の中で、陰極の組織にはカリウムやナトリウムイオンが多く集まって組織の興奮性が昂まり、陽極の組織にはカルシウムやマグネシウムイオンが相対的に多く集まって組織の興奮性は低下する。だから電気治療は膜電位を調節することによって痛みを止めているとも言える。
2.熱効果
①炎症による浮腫を吸収する。
②局部の血液循環を改善できる。
③筋肉の痙攣を解除する。
3.磁場効果
磁場の人体に及ぼす影響は複雑であるが、軟組織損傷に対しては鎮痛作用があり、炎症を鎮めて浮腫を吸収し、鎮静作用があることは、多くの臨床治療により証明されている。
4.機械的効果
パルス電流や超音波などの治療には、明らかな機械的作用がある。ときには強力な圧縮と弛緩の機械振動波があるが、組織に作用して組織粒子を圧縮したり牽引し、イオンと粒子に異なる運動速度を与え、摩擦力を生み出し、さらに細胞の波動を引き起こすが、それによって「細かなマッサージ」作用を生み出す。こうした作用は血液とリンパの循環を改善させ、組織の栄養と物質代謝にとってよい影響をもたらす。
以上で現在の理学療法で使われている機械の治療作用を簡単に述べた。そのポイントはやはり軟組織損傷に関する病理学説が明らかにした病理要因を取り除くことにあり、指向性が強く、これらの病理要因を取り除くには有効である。
鉱物温泉や日光など、自然の物理要素を利用した治療作用も、ほぼ同じようなものである。

三、レーザー治療
レーザー治療も物理療法の一つである。レーザーは60年代になって発達した新しい技術だが、徐々に医療に使われるようになった。次に外傷科におけるレーザー治療の状況を解説する。
レーザーによって治療する方法をレーザー治療と呼ぶ。レーザーは「誘導放出による光の増幅」の頭文字を取ったものである。
それは光学共振腔中にあるなんらかの物質を、外界エネルギー源による励起作用のもとで、粒子を何回も反転させて励起状態すると、大量の粒子が高エネルギー状態から低エネルギー状態に戻るときに光線を輻射する。その光は単色光で、広がらず、明るくて可干渉的など一般の光源と異なった特性がある。レーザーの種類は、現在では数百種類もある。
物質の状態によって分類すれば、気体レーザー、固体レーザー、液体レーザーに分けられる。レーザーの波長によって分類すれば、紫外線レーザー、可視光線レーザー、赤外線レーザーに分けられる。レーザーの出力方式によって分類すれば、連続レーザーとパルスレーザーに分けられる。励起方法によって分類すれば、電子励起レーザー、熱励起レーザー、化学反応レーザー、そして核ポンプレーザーなどがあるが、次のようなものが現在の治療によく使われている。
1.ヘリウム-ネオンレーザー:ヘリウムとネオン原子から発光する。高周波高電圧の電界で励起させると、波長632.8nmの赤いレーザーを輻射する。連続発車式で、出力は1~100mWである。治療に使われるのは2~20mWが多い。
2.二酸化炭素レーザー:二酸化炭素分子から発光する。放射される波長は10.6μm。遠赤外線レーザーで、連続とパルスがあり、出力は200Wに達する。
3.窒素レーザー:窒素分子により発光する。337.1nmの波長の光を放射し、紫外線レーザーで、連続放射する。出力は100mWに達する。
レーザーの人体組織に対する透過性と吸収性は、放出される波長の光線と同じである。たとえばヘリウム-ネオンレーザーは赤い可視光線なので、その透過能力は赤い光線とほぼ同じである。窒素レーザーは紫外線で、二酸化炭素レーザーは長波の赤外線なので、組織に対する透過能力は弱い。
レーザーの人体に対する治療作用は、熱作用、機械的作用(光圧作用)、光化学作用と電磁気作用の四つがある。
ヘリウム-ネオンレーザーの治療作用は、主に熱効果と光化学効果である。窒素分子レーザーの治療作用は、主に光化学効果であり、炎症を鎮めたり、痛みを止めたり、傷口の癒合を促進したりする。二酸化炭素レーザーの主な治療作用は、熱効果と機械的効果であり、高出力のものならば照射した組織を一瞬のうちに1000℃まで上昇させ、凝固させたり炭化させたり、気化させたりできる。理学療法での応用は、遠赤外線の効果と似ている。

四、手技療法
手技療法も物理療法の一つである。中国古来の推拿や按摩術は数千年の歴史があるが、この物理療法にはユニークな長所がある。それには千変万化の手技があり、いろいろな疾患に合わせて、さまざなま手技を使うので辨証性が強い。例えば、引っ張る、圧迫する、緩ませる、回す、揺らす、転がすなどの手技により、いろいろな機械的効果を生み出し、異なった疾病に適切な治療をする。それ同時に、こうした機械的効果は人体の特定部位に対する力学的刺激を通して、疾病が回復するのに有利な生理状態へと調節する。こうした効果は、ほかの理学療法では得られにくい。
手技は慢性軟組織損傷の治療に対しても一定の治療効果があり、ときには他の理学療法よりはるかに勝る。慢性軟組織損傷患者のほとんどが手技治療を受けたがるのは、そのためである。副作用がなく、身体の動態平衡を回復させるので大きな効果があるが、体内の病巣に直接作用できず、間接的に作用を及ぼすしかないことが欠点である。そのために長時間治療しなければ効果がない。もちろん、こうした効果は安定しており、後遺症もなくて再発も少ないので、理想的な治療法と言える。

五、鍼治療
鍼治療は、ここで簡単に説明できないほどの内容がある。慢性軟組織損傷治療に対する鍼治療についていえば、鎮痛と気血を流通させる作用があるが、慢性軟組織損傷のような難治の疾患を根治するのは難しい。

六、化学療法
化学療法とは、化学的な薬物を使って疾患を治療する方法である。現代化学の薬物が、人類の疾病予防と治療に広く応用されるようになり、大きな力となったのは周知の事実である。しかし化学薬物には副作用を伴い、耐性菌を生み出し、いたちごっこのようになってきた。化学薬物の慢性軟組織損傷に対する治療効果は、医者や患者が満足できるものではない。その治療作用の主なものは、慢性無菌性炎症による滲出物を吸収したり、浮腫をひかせたり、痙攣を止めたり、鎮痛や神経を栄養するものである。薬物は、プレドニゾン、スパントール、インドメサシン、ブルフェン、ビタミンB1 など、ホルモンやパラホルモン、ビタミンが常用されるが、こうした薬物を使っても動態平衡失調を作り出している拘縮、瘢痕、癒着など、主要となっている病理要因を取り除くのは困難である。しかし慢性軟組織損傷疾患の補助治療としては悪くなく、時には絶対に必要なときもある。

七、漢方薬治療
漢方薬は人間の、ほとんどの病気を治療することができ、大部分の疾患に対して優れた効果があり、また慢性軟組織損傷疾患に対する治療にも一定の効果がある。舒筋活血(筋肉を緩めて血を活発に循環させる)、鎮痙止痛(痙攣を鎮めて痛みを止める)、温経散寒(経脈を温めて寒邪を追い出す)などの面で、漢方薬のユニークな治療作用を発揮する。しかし内部にある筋の固まりを解いたり、癒着した部分を分離したりはできない。そうしたことは外科手術の助けを借りなくてはならない。

八、手術療法
慢性軟組織損傷疾患は、長いこと治らず、苦痛も大きいので、各分野の専門家が精力を傾けて治療方法を研究し、また自分の専門分野の特徴に基づいて、それぞれの治療方法を考え出した。外科の専門家も例外ではなく、いろいろな手術方法でこの疾患を治療した。たとえば指屈筋腱腱鞘炎、上腕骨外側上顆炎、棘下筋損傷、手根管症候群、足根管症候群などを治療し、特に20年近く前に上海の某病院の外科専門家が慢性腰臀部筋損傷に対して、大面積の切開手術治療をおこなったが、それが大松解術(大弛緩術)である。これは反響が大きく、議論も多かった。この手術を支持するものは、慢性軟部組織損傷には有効な治療法がないが、大松解は患者の苦痛を取り除き、損傷が大きくて出血も多く、後遺症が残る場合もあるが試みる価値があるという。これに反対するものは、この手術は治療に使えない。大面積を切開し、損傷も大きく、出血も多く、手術により障害が起こった症例もある。この手術は痛みを止めるためのものであるが後遺症がひどく、治療法にならない。また痛みは止まっても短期効果しかなく、長期にわたって観察すると損傷が大きくて瘢痕組織も多く、痛みの再発率も高いなどと批判した文献もある。
大松解術について、中国の医学界で長年にわたって論争が続き、激しいときは互いに譲らなかった。その理由は次のようなものと考えられる。
慢性軟部組織損傷疾患、特にある種の重症な症例では、現在いろいろな治療法を使っても解決できないが、大松解術はいくつかの問題点を解決できる。だから支持する人もある。しかし批判する人の論拠もはっきりしていて理屈が通っているので、大部分の人の支持が得られている。
長期にわたって論争を続けても結論が出ない原因は、当時では慢性軟部組織損傷を満足に治療できる方法がなかったからだ。損傷させることもなく後遺症もない治療法があれば、この論争は終わる。
切開外科手術療法は、この100~200年の間に完全なものとなり、すでに極めて高いレベルに達し、人々の疾病治療に大きく貢献している。そしてまた慢性軟部組織損傷治療にも、独特の効果を発揮している。しかし人々の治療レベルに対する要求もだんだんと高くなり、傷口も損傷も与えない治療が望まれている。しかし非手術療法は体内の拘縮部分を直接切開したり、狭くなったところを直接広げたり、癒着した部分を分離したり、瘢痕を取り除くことができない。こうした人々の矛盾する希望を解決するため、切開手術の効果があり、傷口も損傷も与えない小鍼刀療法が誕生することになった。

九、小鍼刀-非観血的手術療法
小鍼刀療法の誕生は、人類の疾病との戦いの中で、自然に生まれたものである。
慢性軟部組織損傷に対し、よく使われる8種類の代表的治療法を簡単に述べた。それぞれの治療法には、それぞれの特徴があり、一定の治療効果がある。特に外科手術は直接体内の病巣部を切開し、こうした疾患の主要な病理要因を解決する。しかし人々の疾病治療に対する要求は絶えず高くなり、病因も取り除いて苦痛もなく、皮膚も傷付けずに損傷も与えず、後遺症を残さないで、傷痕も残らないようにしてくれという。こうした状況のもとで、外科手術の成果と中医の鍼治療、そして薬物療法のメカニズムを総合し、現代科学で関係した研究成果を応用し、慢性軟部組織損傷の病理要因で主な問題点をはっきりさせ、小鍼刀療法は誕生した。小鍼刀は、はっきりした見解をもって医学の発達を考えている同業の専門家に承認され、大いに推奨されて広められたが、その理由は、この治療法に優れた治療効果があるだけでなく、理論においても医学の発展過程で十分な根拠があるからだ。
小鍼刀療法は非観血的手術療法である。これは切開する手術療法が非観血的手術療法に向かって踏み出した第一歩であるが、この一歩の意義については次の章で述べる。

第三章 小鍼刀療法の意義

一、疾病との闘争手段の絶え間ない改良
人類が世界中に移り住むにつれて、いろいろな病気に遭遇するようになり、生存と繁栄のために病気と闘わなければならなくなった。人類は初期の段階ではいかなる人工的治療手段も持たず、自然界の条件にまかせて病気と闘っていた。たとえば身体が熱ければ涼しいところや水に入って体温を下げたり、寒ければ太陽の下や、かがり火のそばで暖をとって体温を上げたり悪寒症状をなくしたりした。現代でも遅れた中国の山村では、マラリアになって悪寒がすると烈日の下で日光浴をし、発熱すると池で水浴びするところもある。このような原始的医療方法を、われわれは人類の自然医療の段階と呼んでいる。このような人類の長い歴史の中で、自然医療も徐々に進歩し、自然条件もさらに一歩進んだ選択の段階になり、外傷による出血に赤鉄鉱の粉末を傷口に塗ったり、動植物や鉱物で傷口を湿布したりするようになった(『中国骨傷技術史』より)。
この段階では天然の薬物を使った医療が絶えず進歩していった。その時代では、すでに多くの天然にある動物や植物、鉱物などを使って、さまざまな疾患が治療できることを知っていた。中国には神農が百草を食べて薬物を捜したという伝説があるが、これは人類が薬物を使った新しい段階に突入したことを示している。われわれはこの段階の医療を天然薬物医療段階と呼んでいるが、この段階で医療効果は大きく向上した。人々の自然薬物に対する効能や知識が増えるにしたがって治療効果もさらに向上し、また自然科学の発達と新たな成果に伴って自然科学の成果が医学に応用され、疾病を分類し、薬物を加工した。天然の薬物を加工することによって治療の目的に一層近づけ、治療効果を向上させた。

人類が自然の薬物を加工できるようになって、疾病に対する戦闘能力と方法は新しい段階に入った。これをわれわれは天然薬物に優れた加工を施す医療段階と呼ぶ。この段階も長い時間をかけてゆっくりと発展し、薬物加工は相当高度なレベルに達し、薬物の効能を変えるにまでいたった。化学反応によって作り出された新しい物質の治療効果は、天然の薬物が及ぶものではなく、その最終段階である大量化学薬品の生産時代を迎え、疾病を征服する強力な武器となった。
しかし、この段階の人類でも体内の病巣に対して無力なこともあり、皮膚を切開して体内の病巣を直接治療しようと試み、数々の失敗と挫折を繰り返した。当時ではいくつかの問題を解決できなかった。
①皮膚を切開したときの、激しい痛みを解決できなかった。
②切開したときの激しい出血を解決できなかった。
③身体を切開すると、正常な生命活動に影響を与え、ひどいものでは呼吸停止、血圧低下、心臓の拍動停止などを解決できなかった。
④人類の解剖に対する知識が乏しかったため、身体を切り開いても、どこを切ったらいいのか、どれを切ったら問題が起こるのか、はっきり判らず、軽いものは一生涯身体障害が残り、ひどいものは生命の危険があった。
⑤手術後の感染を解決できなかった。

上の5つの問題が解決できないため、当時の人類は切開による治療法を理想としていたが、実現させるのは困難だった。
しかし人類は、そのために尻込みしたり努力を放棄したりはしなかった。自然科学の発達と人類の人体組織に対する知識はたえまなく深まり、長期にわたる知識の蓄積によって哲学的理論を使った長きにわたる量的変化のすえ、ついに5つの問題を満足のゆくほどに解決し、切開手術が実現した。これで人類は疾病との戦いに新たな武器を獲得し、質的な飛躍を遂げた。治療法のなかった多くの患者に健康を取り戻させ、寿命を延長した。
これは人類の医学が新時代を迎えたということである。われわれはこの時代を切開手術医療の段階と呼ぶ。
切開手術が、この100年のうちに広く応用され、技術も段々と正確で完璧なものになり、人の心である脳などの重要な臓器も切開手術がおこなえるようになって、輝かしい成果を収めたと言える。
しかし、人類の文明は絶えず進歩しており、さらに高レベルの治療を要求されるようになった。それは手術による苦痛や損傷をさらに減らすことであり、副作用を少なくして、できるだけ人体を完全な姿で保存するよう、皮膚を傷付けず、手術の痕を残さない。つまり皮膚を切開せずに、体内の病巣だけを取り除けという要求である。これは非観血的手術をしろということである。特にこの数十年で、そうした要求が切実になった。しかし、それを実現するには、次のような難題を解決しなければならない。
①人体の内臓器や組織器官の位置を体表から正確に知ることができなければならない。
②体内の病巣を正確に、ミクロ的に知って、掌握しなければならない。
③体内の解剖構造を、ミクロ的に立体的に掌握しなければならない。
④それぞれの疾患に対して絶対に安全で、ほとんど損傷を与えない非観血的手術の刺入口を見つけ出さなければならない。
⑤ワンセットの非観血的手術方法が確立されていなければならない。
⑥非観血的手術に適した、小型の道具が必要である。
現代科学技術の飛躍的進歩にともない、前世代の専門家の努力と現代の検査機器によって、①と②は、ほぼ解決された。適切な非観血的手術には、人体の解剖構造を立体的でミクロ的に掌握しなければならないが、われわれは十数年にわたる努力を積み重ねて、ほぼ達成した。非観血的手術に対し、安全でほとんど損傷のない刺入部位が試行錯誤のすえ、はっきりし、理論体系もできあがり、すでに有効な八種類の方法がまとめられた。それぞれの疾病に対する操作方法も、絶えず向上して完全に近づき、完成されようとしている。また法則的なものも確立され、小鍼刀が登場して非観血的手術が現実となった。
非観血的手術療法は、切開手術療法を基礎に発達したものである。現在の先進的な科学技術を基礎に形成され、量的変化から質的変化のプロセスへと移り、非観血的手術の理論体系が形成され、人類の疾病との戦いは、さらに新たな段階に突入した。われわれはこの段階を非観血的手術医療段階と呼ぶ。
この段階において、副作用がなく、損傷や苦痛も少ない理想的な手術療法が、ほぼ実現した。
しかし、この段階は始まったばかりなので全世界の専門家が努力し、適応症を徐々に広げ、絶えず向上させて完全なものにしてゆかなくてはならない。小鍼刀療法は「非観血的手術医療」のすべてではなく、非観血的手術の序章にすぎない。まさに中国の著名な医学者である尚天祐教授の「さらに適応症の範囲を広げ、治療効果を向上させ、原理を明らかにするように努力しなければならない」という言葉どおりである。
非観血的手術の医療段階は、世界の医学者が協力することによって、さらに発達して完全なものになり、だんだんと医療手段の主流となって、二十一世紀には医療手段のメインになるだろうということは、はっきりしてる。現在もすでに大勢の専門家が研究と臨床を試みている。非観血的手術療法の出現と発達は、歴史の要求ではなく、必然となった。
現在では自然科学の成果がぞくぞくと現れ、それも非観血的手術療法の発達を加速している。たとえばさまざまな内視鏡の出現や、外部から内部を見る機械の出現、MRI、DSA(血管造影)、断層写真(CT)などにより、非観血的手術の医療技術は急速に発達した。
非観血的手術医療が完成すれば、理想的な医療になるのだろうか?そうではない。非観血的手術医療は、人類の疾病闘争における一つの段階であるに過ぎない。
人類の医療技術は、より高度なレベルに発達するが、さらに高度な医療とはどういうものなのか?われわれが勝手に想像をするわけにはゆかないが、三つの客観的事実に基づいて、科学的にはっきりした未来医療のモデルは。
①人類の疾病との闘争手段は、だんだんと完成したものになる。全体からすれば、非観血的手術医療は、まだ完全なものではなく、効果も理想的とはいえない。だが中国で現在使われている小鍼刀療法は、慢性軟部組織損傷およびそのほかの疾患で、八十数万例の臨床例があり、その平均有効率は90%以上である。これからも向上するにしても、100%の治癒率は達成できそうになく、また非観血的とはいえ、やはり少しは損傷し、多少の痛みは伴う。だから完全なものとは言えず、さらに高レベルに発達するのは必然である。
②現在の医学界でのいくつかの試みから、さらに完成された医療体系が生み出されつつある。気功治療の疾病治療を例にとると、患者が何も感じない状態にする。気功にはある種のイカサマがあり、病気に対する目的もなく、信頼の置ける科学的根拠もないが、ある問題を提起している。つまり人々は無感覚の中で病気が治りたいという欲求をもっているので、イカサマ気功でも多くの人々を引きつけるが、それこそ理想的治療を表すものだからである。また遠隔測定装置(テレメーター)の出現や、生物情報診断(生物信息診断:体温、脈拍、呼吸、血中酸素や二酸化炭素などの情報による診断)などは、高次元の医療の息吹を予見している。
③現代の生命科学の多くの研究成果によって、人類医療の最高峰は、自然へのある種の回帰であると証明されている。例えば現代アメリカの著名な生物科学者であり医学者でもあり、ノーベル賞を二回授賞したライナス、ボーリン博士は、1985年に正分子医学の理論を発表し、薬物を使って治療する常用医学を毒性分子医学と呼んだ。正分子医学とは「体内で正常に現れる物質を健康需要の物質として、これを調節することにより・・・・・・病気を治療する。これは合成された有効物質や植物からの薬物よりも優れている」とするもので、こうした「体内で正常に現れる物質を健康需要物質」と「体内で正常に現れる生命が必要とする物質」により治療すれば「ほとんど副作用がない」としている(『新栄養学と健康長寿』より)。
弁証ロジックと数学ロジックに基づけば、人間の思考ロジックの法則をはっきりさせられる。つまり本題とアンチテーゼの関係である。たとえば「薬物を使って治療する常用医学」の「毒性分子医学」が本題なら、「正分子医学」はアンチテーゼである。
言ってみれば正分子医学は人類医学が大自然に向かった、ある種の回帰である。もちろんこうした回帰は形式的にいっているもので、その内容はさらに高度な科学を総合したもので、人類の理想的な医療を達成したものである。
以上の三つは、われわれに未来の医療がどういったものかを示している。
われわれは未来の最高医療の段階を「高度な科学技術の自然医療段階」と呼ぶ。この段階は最高で多分野にわたる科学技術の成果を総合していることが前提で、疾病の診断にも血を抜いたり、切片をとったりCTする必要はなく、体外に現れた情報のみによって疾病の性質や部位を正確に知ることができる。疾病の治療でも副作用や薬物耐性のある化学薬物を使わず、身体の正常な生命活動に必要な物質濃度を調整し、生物体内にある生物自身のエネルギーにより病巣を自然に破壊させて取り除き、健全な組織を損傷しないどころか影響すらない。高度な科学技術によって、さまざまの特殊な自然環境を作り出し、いろんな患者をその中で生活させて、健康になるまで徹底的に回復させる。
人類が高度な科学技術自然医療段階に突入すれば、疾病の治療能力は自由自在になり、いかなる難病でも治るようになる。そのときの医療の中心課題は、いかにして老化を予防するか、いかにして寿命を延ばすかという問題に移っている。身体の各種器官が年齢とともに老化してゆくのはどうしようもないことだが、現代科学の研究成果によると、こうした老化は遅らせることができ、寿命も延長できる。
ボーリン博士は、彼の理論に基づいて摂生すれば、少なくとも25年は寿命を延ばせ、普通なら30年は延ばせると断言している。また自分で実践することによって、彼の理論が正しいことを実証しようとしている。彼は90歳の高齢だが、元気を奮って世界各地で講演している。そうすると老衰は遅らせることができる。寿命は延ばせるのだ。人類の高度な科学技術自然医療段階は、各分野の先端科学技術の成果によって、不老長寿が主な医療任務となり、人類の平均寿命を絶えず延長させ、人類の本当の繁栄が得られる。
人類と疾病の闘争手段は絶えず改善され、一定の法則の下に発展してゆく。そして時代時代の経済や政治、科学文化の発達レベルに制約され、ある発達曲線に沿って進んでゆく。

二、人類の疾病闘争技術の発達曲線
人類と疾病闘争技術の発達曲線は、各医療段階の技術レベルと、それに相応する医療効果との関係によって決定される。各医療段階は、それぞれの時代の経済や政治、そして科学文化の発達レベルによって決定される。人類の過去と現在、そして未来には、次のような六つの発達段階がある。
自然医療 天然薬物医療 天然薬物を加工した医療 切開手術医療 非観血的手術医療
高度な科学技術による自然医療。
各段階の医療効果は次の曲線になる(4図)
各医療段階の区分は、その時代を代表するもの。つまり時代的意義のある医療技術から命名した。つまり各時代全体をまとめたものである。そして次の段階の医療技術は、すべてその前の段階の成果を基にして生まれている。また後の段階の中にも、前の段階と同じような医療技術が存在しているが、はっきりと分けられない。たとえば現代は切開手術医療段階であるが、それと同時に天然薬物を加工する医療段階の産物である大量の薬物を、たくさん使用している。例えば抗生物質、ホルモン、漢方薬、現代薬の製剤は、すべて加工された薬物であるが、時代的意義のある医療技術というと切開手術の医療段階である。われわれが医療を各段階に分けるには、その発達を理解しなければならない。まず物事は常に動いてることが絶対的で、静止は相対的な哲学思想の一つであることを理解しなければならない。

治療効果 形式的には原始段階への回帰
100| +-------------------------------------+--------
90| | 内容的には医療技術が達した理想的医療 +---+
80| | |非観血的手術|高度な科学技術による自然治療段階
70| ↓ +----+治療段階 |
60| 切開手術治療のできない治療段階 |切開手術治療段階| |
50+------------+ | |
40| +-----+ | |
30| | | | |
20| +---+ | | |
10+--+ | | | |
0+--+---+-----+----+---+-------→医療技術の発展段階
自然医療 天然薬物医療 天然薬物を加工した医療 切開手術医療 非観血的手医療 高度な科学技術による自然治療

4図 人類と疾病闘争の発達曲線

この人類と疾病闘争技術の発達曲線末尾は点線であるが、これは医療の主な役割がすでに疾病治療ではなく、老化防止や長寿となっていることを表している。われわれは疾病治療効果を100としているが、現在でも100%治る医療技術は達成されておらず、今なお手の付けようのない難病も残されている。これは治癒できる疾患についてのことだが、それぞれの患者は個々の特徴が千差万別なので、まだ相当数の治らなかった患者もいる。その中の主なものは、現在でも人体自身そして疾病についての知識がはるかに不足しており、医療技術もそれほど高度に発達していないので、いくつかは偶発的に死亡するものがあることも避けようがない。どうして患者が手術治療を受ける前に、家族の署名押捺がいるのか?その理由はそこにある。医者は医療での偶発的な死亡について責任が負えない。
疾病に対する治療効果を100%にするためには、我々の時代だけの努力で達成できることではなく、非観血的手術医療が全盛になっても難しい。疾病を100%治療できる時代になったら、医療の主な目的は不老長寿となる。
さらに全体から人類と疾病闘争の発達曲線を見れば、前の三段階(自然医療段階、天然薬物医療段階、天然薬物加工医療段階)を一つの段階とでき、それを切開手術治療のおこなえない医療段階と呼ぶことができる。このように人類と疾病闘争技術の発達曲線は四つの段階に簡略できる。それを次に述べる。
切開手術ができない医療段階 切開手術の医療段階 非観血的手術の医療段階 高度な科学技術による自然医療段階。
では、医療の最高発達段階を、なぜ高度な科学技術による自然医療段階と呼ぶのか?
第一の理由は、この自然医療は、人類初期段階の自然医療とまったく異なり、極めて高レベルな科学技術によって確立された自然医療であること。高度な科学技術がなければ、このような自然医療は実現しないからである。なぜまた「自然医療」と呼ぶのか?
自然医療を形式から見ると、原始段階への回帰であり、実質的には医療技術が最高に発達した理想的境地である。人類史上、何回か復古主義が出現したが、原始的なものは現代文明より優れていると考えてのことである。それはなぜか?原始的なものは、確かに単純で、純朴で、人間性とぴったり一致するところがある。それは人々が追い求めるものだから、自然への回帰は人類理想の王国であるとする人もある。原始的な自然の属性は、現代医学で人体を切り開くように人間の自然な属性を破壊し、麻酔によって感覚を無くし、再び蘇生させるなどのように、文明の発達とともに破壊される。内服薬はすっぱすぎたり、甘すぎたり、苦かったり、辛かったりする。こうしたことは人々が望まないことであり、人間の自然な属性に反することである。しかし治療のため延命のためそうするしかない。つまり人間科学が発達したため、こうした方法が出来上がり、病気を治療する。現在の科学技術は、まだ治療を遊びのように気易いものにすることができず、知らず知らずに重々しいものと考えてしまう。しかし高度な科学技術医療は、そのような境地を達成できる。それが原始自然医療と同じ、つまり人体を破壊することがない自然の属性である。原始自然医療との違いは、それは無知に基づいて確立され、疾病はまともな治療が受けられず、あるいは治癒率が極端に低くて、治療の意味がないものである。しかし高度な科学技術による自然医療は、ハイレベルな科学技術に支えられ、知らず知らず農地に疾病が治癒し、治療効果が高く100%に達する。だから高度な科学技術による自然医療と命名する。

三、切開手術療法は手術できない医療の否定的発達である。
この一節は切開手術療法が、人類の疾病闘争技術の発達過程で、どのような意義を持つかに重点を置いている。
「否定」とは哲学的な用語であり、日常で使われる「否定」ではない。哲学的な否定とは、物事が永久的に発展変化し、量的変化から質的変化の過程をたどることを意味する。それは、あたかも卵が適度な温度条件の下で、3週間すると卵がヒヨコになるようなもので、その21日のあいだに卵の中は絶えず変化している。その変化は量的変化の一種であるが、それがどのような変化であれ、やはり21日するとヒヨコに変化する。卵がヒヨコに変わるのは質的変化である。卵からヒヨコとなるが、ヒヨコと呼ぶのは、もともとヒヨコを内包している卵の否定的発展である。これが哲学的否定の含む意味である。
われわれは切開手術を切開手術できない医療の否定的発展と言ったが、それは上に述べたような意味である。つまり切開手術医療の発達には、すでに切開手術医療の量的発達(増加)があって、一気に質的に飛躍する。つまり一般に時代意義を分けると言っていることである。
切開手術できない医療段階では、人体はタブーであり、切り開いて治療することなどできなかった。しかし切開手術医療は、そのタブーを打ち破り、いかなる部分でも自由に切り開き、体内の病巣を治療するようになった。その画期的意義は、それだけに留まらず、さらに高次元の医療技術を生み出し、蓄積された多くの科学資料は、その基礎を築くこととなった。

四、非観血的手術医療は、切開手術医療に対する、さらなる否定的発展である。
ここでの「否定」も哲学用語である。非観血的手術医療の発達もまた、切開手術医療を基礎に確立されたもので、切開手術医療の成果すべてを吸収したうえに、現代の自然科学の成果を加え、いろんな観点から理解し、整理して新たな発想をすることによって非観血的手術は誕生した。小鍼刀療法は、たんに非観血的手術医療の誕生を表しているだけであり、誕生したあとも発達して完全なものにならなければいけない。たった今、殻を破ったヒヨコと同じで入念に育てれば、健康に成長して徐々に成熟する。ちょうどそのように同業の専門家による協力が必要で、それによって非観血的手術は徐々に成熟して完成する。現在、そうした分野で中国の多くの専門家が、いくつもの作業に取り組んでおり、非観血的手術医療の発展に大きく作用している。専門家の中にはこうした分野に多大なる精力を注いでいるものもあるが、かれらは非観血的手術医療が発達する見通しと時代意義を判っている。

五、小鍼刀療法の応用は、非観血的手術医療理論を系統化する。
この20年来、多くの専門家が個々の疾病治療で、たとえば胆嚢結石や腎臓結石に砕石器を使ったり、核藻コロイド〒で作った硬化塞栓剤〒を使って悪性腫瘍を壊死させたり、など切開手術医療と似た非観血的手術医療の方法を考えだし、それが成功した例である。
こうした系統をまとめ上げ、全面的に整理して、非観血的手術医療の理論体系を完成させた文献はまだない。小鍼刀療法を広く応用すれば、非観血的手術医療の理論体系をまとめることができ、未来に展開するこの医療の基礎となる。基礎が完成すれば、非観血的手術医療の時代は全面的に始まる。

六、小鍼刀療法は、今まで切開手術が必要だった多くの疾病に適用できる。
小鍼刀療法は非観血的手術の一つである。まず整形外科で切開手術が必要であった疾患、たとえば慢性腰臀部筋肉損傷、第3腰椎横突起症候群、手根管症候群、足根管症候群、筋膜隙症候群、胸郭出口症候群、弾発指、骨折の変形癒着など、数十種に適応できる。
整形外科の多くの適応症には、ほとんど小鍼刀療法で治療できるが、この5年間に全中国で普及させたところ、さまざまな専門家によって、すでに一般外科、婦人科、胸部外科、手の外科、関節内骨折の非観血的整復法などに優れた治療効果があることが判り、医療費と患者の苦痛を大幅に減少させることができた。多くの専門家の絶え間ない研究応用によって、小鍼刀の応用範囲はさらに拡大された。第一回深 全国小鍼刀学術交流会と第二回沈陽全国小鍼刀療法学術交流会で、医者を代表した結論は「小鍼刀療法は、一般的に切開手術が必要と思われる疾病の大部分に適用できる」ということだった。
もちろん非観血的手術医療の時代は小鍼刀を出発点とし、切開手術療法に変わる非観血的手術の新治療が、ぞくぞくと出現するであろう。

七、小鍼刀療法の刺鍼療法での応用
小鍼刀療法の、もう一つの応用は、刺鍼療法での応用である。
小鍼刀療法の主要な意義は非観血的手術療法にあるが、それの刺鍼治療での意義も無視できない。
刺鍼療法は中国医学の宝であり、数千年にわたり中華民族の生存と繁栄を支え、歴代の医学者によって絶えず完全なものに高められていった。現在では刺鍼治療は世界中に広まり、世界の人々の健康につくしている。どうすれば治療効果をさらに高められるのか?それを現代科学と結び付け、現代科学によって整理して解明する。それがわれわれ、現代で中国医学を学んでいるものの目前に置かれているテーマであった。中国の現代鍼灸学者は、そうした分野で多くの貢献をし、優れた成績を挙げた。そして小鍼刀療法も、こうした現代鍼灸学者の研究成果を基礎にして、刺鍼療法の「鍼」と現代手術療法のメス「刀」を融合させてできたものである。もともと刺鍼療法では、鍼を体内の穴位に刺入したあと、捻る、転がす、提げる、挿すなどの操作をおこなって、治療の目的を達する。だが剥離したり、流れさせたり、緩めることは時間がかかる。鍼灸理論に基づけば、ほとんどの疾病は陰陽バランスが崩れており、経絡の気がスムーズに流れていない。穴位は経気が集まる場所なので、その穴位に小鍼刀を使って、経絡の走行に沿わせて軽く、剥離したり、流したり、緩めれば、経気はただちに流れて凝滞は解消し、病は取り除かれる。毫鍼で捻、転、提、挿をしても、剥離、流通、弛緩させるほどの効果はない。身体の反応が激しくて効果が大きいので、病はすぐに取り除かれる。これは円柱形の毫鍼には、できなかったことだが、鍼に刃を付けた小鍼刀だから可能である。
鍼灸師が小鍼刀を勉強し、数年も臨床治療をおこなうと、刺鍼によって治療できる病気は小鍼刀でも治療でき、しかも刺鍼よりも速効性があり、刺鍼では治らない病気も小鍼刀では治療でき、効果もよいという。恐らくそれが、かれらの結論であろう。
現在では中国で、たくさんの鍼灸師が、毫鍼でなく小鍼刀を使っている。それは、かれらの臨床治療によって、小鍼刀が毫鍼より臨床において、さらに大きな治療作用を発揮することを確認したからであろう。小鍼刀療法学習クラスで学んだ、小鍼刀療法に関する理論と技術は、刺鍼療法理論の新たなる進展であり、臨床治療での効果は現代科学の原理とも一致する。
数千年の歴史を持つ刺鍼療法は、幅広くて奥が深い。運鍼手法や辨証取穴についても、それぞれの穴位は適応症と禁忌症があり、その正確さと詳しさで比肩できるものがなく、ほとんど完全な域まで到達している。鍼のハード面についても、長短大小に奥深い。
刺鍼療法の鍼は、数千年来にわたり円柱体で先端が鋭利だが、伏羲が作った九鍼には、現在の刺鍼療法で使われている円柱形の鍼のほか、刃のある鍼もいろいろあった。このような刃のついた鍼は刃の部分が幅広いので、現代の小外科で皮膚を切開して排膿したり、表層の筋肉を突き破って欝血を排出したり、体内の深部に刺入して神経や血管を切断するもののようなので、体表で皮膚や筋肉を切開する目的で使われてきた。円柱形の鍼は穴位経絡に使うもので、主に内科疾患に使われた。そのことで混同してはいけない。小鍼刀には鍼に刃があるといっても、わずかのものであり、古代の九鍼で刃の付いた鍼のように大きな刃があるわけではない。そして刺鍼療法で使う円柱形の鍼と同じように人体の深部に刺入したり、いかなる部分の穴位にも刺入して、内科疾患を治療する。その特徴により小鍼刀を刺鍼療法に用いることができる(当然、現代解剖学に基づいておこなう)。
刺鍼療法に使う鍼を改良しようとした試みは過去にもあったが、それらはすべて鍼の太さや長さ、あるいは金属種類の面で研究され、常に毫鍼の形を基にしたものだった。小鍼刀は、刺鍼療法に使われる毫鍼の先端に小さな刃を加えることによって、刺鍼療法にかなり大きな変化を与えた。さらに現代解剖学や病理学の知識を踏まえ、中国の刺鍼療法に近代化をもたらした。

八、小鍼刀療法という非観血的手術療法は絶えず発展して完全なものとなる。
小鍼刀療法は、非観血的手術療法が完成されていない時点では、絶えず発達して補足され、改善されなくてはならないが、そのプロセスはすでに始まっている。1991年4月までで、中国全土で小鍼刀療法を学んだ医者は1,127名にのぼる。そのなかの大多数の医者は、自己の専門分野にたいへん造詣が深く、また治療経験が豊富だが、かれらは小鍼刀療法の基本理論を自分たちの専門分野に取り込むことによって思わぬ成果が得られ、非観血的手術療法を発展させるうえで貴重な貢献をしている。こうした医者達やかれらが連れてきた学生達は、誰もがこの治療法を研究して発展させようと努力している。適応症の範囲において、手術方法や治療原理は日進月歩している。
中国の多くの医者から小鍼刀療法を学びたいと、まだ続々と手紙が届いている。かれらは近々きっと、この理論と方法をマスターするだろう。そしてかれらが、この理論と方法を発展させて完全なものにするため、貢献してくれると信じる。
かれらの情熱はどこからくるのか?かれらが小鍼刀療法を使うようになると、この方法は理論が整っているだけではなく、これを使うようになってから数々の難題が解決でき、何万人もの患者の福音となることを痛感するからである。そして患者も要求する。こうした循環により医者の情熱は、ますます高まる。
小鍼刀療法が、さらに普及して適応症が広がり、中国全土および世界中の同業者の努力によって、非観血的手術療法の理論と方法が、ますます発展して完全なものとなることを信じる。また小鍼刀療法は、非観血的手術療法に通じることを示し、多くの患者の苦痛を解決するため(特に観血的手術を好まない患者や、不適応な患者にとって)明るい未来を切り開くものである。
第四章 慢性軟部組織損傷の病理メカニズムに対する新学説-ホメオスタシス失調学説

この章は慢性軟部組織損傷の病理メカニズムの新しい考え-ホメオスタシス失調学説について解説する。この問題をはっきりさせるためには、まず関係のある疾患の病理要因から話し始めなければならない。

一、軟部組織損傷によって発生する癒着のメカニズム
軟部組織の癒着は病理概念の一つであり、生理概念ではない。正常な人体ならば筋肉はすべて骨に付着しているが、それは癒着とは言わず、正常な生理現象である。しかしわれわれが軟部組織の癒着と呼んでいるものは、外傷や疾病によって筋肉組織が破壊され、生理的にあるべきでない付着部分を癒着と呼んでいる。
軟部組織の癒着には、大きく分けて二つある。一つは外傷性の癒着であり、もう一つはある種の疾病によって筋肉組織が破壊され、軟部組織が癒着したものである(これを次から病理性軟部組織癒着と呼ぶ)。
外傷性軟部組織癒着はどうして発生したのか?
大きさの異なる外力が人体に加わると、程度の差はあるが筋肉や血管、神経や靭帯などの軟部組織が破壊される。そして軟部組織が修復されるプロセスで、一定の条件のもとで軟部組織が一緒に癒着してしまう。たとえそれが軽微な外傷であったにせよ、筋肉線維と毛細血管はある程度破壊され、裂けて出血する。それは修復されるが、時によっては修復の過程で軟部組織が癒着してしまう。もちろんそれを直接見ることはできないが。
われわれは軟部組織の外傷を、急激な外傷、蓄積された外傷、そして潜在的な外傷の三つに分けている。
急激な外傷とは、明らかに外力による外傷で、骨折、脱臼、筋肉や皮膚が裂けるなどの事態となる。こうした損傷による軟部組織破壊は、はっきりしているが、治療と回復の過程で一定の要因が影響を与えると、骨格や筋肉、血管や神経、腱膜や筋間中隔などに癒着が発生する。
蓄積性損傷も同様に、筋肉線維や微細な血管、靭帯などに軽い断裂や出血を起こす。そのため同じように組織が修復される過程で、瘢痕や癒着が発生する。過去の筋肉疲労による疾病は、その本当の原因のほとんどが瘢痕癒着であり、頑固で治らなかった。
潜在性外傷とは軽微な外傷によるもので、医者や患者が気付いていない。
われわれの臨床治療体験では、さまざまな外傷による後遺症は、骨格や筋肉、神経や血管、靭帯などの癒着であり、それがこの疾患の主な問題点で、この問題点さえ解決すれば、そのほかの問題は簡単に解決する。
病理性軟部組織癒着は、病損性(病理損傷)と術損性(手術損傷)の二つがある。
病損性軟部組織癒着とは、なんらかの疾病によって筋肉線維や毛細血管、靭帯などを破壊されたものである。身体はどんな部分でも損傷を受けて破壊されれば、自分で修復してしまう。それが自然現象である。その修復のプロセスで、たとえば適度な運動やリハビリが不足したり、病巣が骨面にぴったり密着しているなどの一定の要因が作用すると、瘢痕癒着が発生するが、このような癒着をわれわれは病理損傷性の癒着と呼んでいる。例えばリマチや瘡、癤などで起こりやすい。
術損性軟部組織癒着は、手術治療をしたあと、それが癒合する過程において、ある一定の要因が作用して発生するもので、その発生メカニズムは上に述べたものと同じである。
ここで、われわれが強く主張したいのは、癒着した部分すべてに症状が現れるとは限らない点である。私が臨床治療を観察したところによれば、身体でも活動性が強く、筋肉運動の幅が大きい場所に症状が出やすい。もし手足や腰背、関節の周辺などが癒着すれば症状が現れやすく、頭や顔面、腹部では、あまり症状が現れない。
われわれの研究では、癒着は四肢や腰背部などの疾患で広く存在する。癒着は、こうした疾病の重要な病理要因であり、とりわけ長引いて頑固で治らない症例では普通にみられる。癒着していても見ることができず、機器を使ったり臨床検査しても異常がない。そのため医学文献には、こうした病理要因である癒着についての解説がなく、日常の臨床治療においても的確な治療がおこなえない。
われわれは按摩やマッサージが慢性腰痛に対して効果があると思っている。それは気血を流通させて治療すること以外に、さらに重要と考えていることは、按摩を繰り返すことによって癒着した部分が、機械的刺激により徐々に緩んで離れると考えるからだ。この事実は、慢性腰腿痛の中に癒着が普遍的に存在することによって証明できる。
次にわれわれの癒着に対する診断について説明する。
慢性の手足痛や腰背痛には、癒着という重要な病理要因が普遍的に存在するが、どうすればそれが判るのか?これはとても重要な問題である。正確な診断がなければ、的確な治療はなく、的の外れたことばかり繰り返すことになる。われわれの体験によれば、診断は決して難しいことではなく、癒着が起こるメカニズムを正確に理解して、次の点を知れば簡単に診断できる。
1.外力による損傷や病理損傷歴があるか?
2.他の原因を排除する。
3.病巣部の筋肉を引っ張ったときに、抵抗感がある。
4.患肢や体幹を他動運動させても、患部の筋肉を運動範囲まで動かせず、痛みがひどくなる。
上のような四つがあれば、癒着していると断定できる。外力による損傷には、はっきりした急激な力による損傷、蓄積性損傷、潜在性損傷がある。病理損傷歴には、病理損傷と手術損傷がある。排除すべきそのほかの病因には、炎症、腫瘍、リューマチ、骨棘、出血、筋肉や血管、神経や靭帯などの断裂がある。3と4については意味がはっきりしているので、言うまでもない。
次には瘢痕癒着の病理が発生するプロセスを説明しよう。
外力が人体を損傷すると、身体には必然的に、生物物理学と生物化学的変化が起こる。ひどいものは骨や軟部組織が断裂し、軽いものは部分的に筋線維が断裂したり、骨折移位(骨折脱臼)あるいは骨錯縫(関節の位置がズレる)、筋出槽(筋のズレ)など起こる。すると骨と軟部組織の力学状態が変化し、筋肉、筋膜、筋腱、腱鞘、滑液包、神経、動脈管、静脈管、リンパ管などの組織器官が破壊され、あるいは圧迫されたり、引っ張られたり緩められたりし、多くの細胞に破壊や壊死、滲出が起こる。こうした滲出物は人体にとって不要であり、周囲の組織や器官を刺激し、多量の滲出によって浮腫を起こし、異物に刺激されて痛みが起こり、ブラジキニン類や5-ヒドロキシトリプタミン類などの発痛物質が増える。
人体は神経反射系統と体液調節系統によって、病理プロセスを変化させる。一つは破壊された体の組織を修復しなければならず、次には乱れた生理機能を回復させなければならない。この修復と回復のプロセスで、病巣と関係した組織の自然防御システムによって、警戒状態となって病巣周囲が抑制される。そのため修復と回復プロセスが終わろうとするとき、瘢痕や癒着が極めて起こりやすく、それが新たな病理要因となる。(下の図)

+--+ +----+
|生物| |骨折移位|
| | | | +---------+
外力損傷|物理| 変化|骨 錯 縫| 力学状態の変化|軟部組織器官の破壊| 引き
| | | | +---------+
| 学 | |筋 出 槽|
+--+ +----+
---------------------------------------
+--+
|圧迫|
| | +----------+ +-----+
起こす|牽引| |多量の細胞破壊と壊死| |組織の滲出| 体内の異物となる
| | +----------+ +-----+
|弛緩|
+--+
---------------------------------------
+-------+
+----------+ |ブラジキニン類|
|周囲の組織を刺激する| 痛みを起こす 生物化学変化|5-ヒドロキシ|増加
+----------+ |トリプタミン類|
+-------+
---------------------------------------
+------+ +----------+ +-----+
|神経反射系統| |壊れた身体組織の補修| |病巣関係組|
人体の| | 病理過程の変化| | |織による防|
|体液調節系統| |乱れた生理機能の回復| |御システム|
+------+ +----------+ +-----+
---------------------------------------
その部分の警戒状態と制動 その結果は瘢痕癒着 新たな病理要因が作られる。
二、第3腰椎横突起症候群の病理メカニズム
第3腰椎横突起症候群であるが、「症候群」と呼ばれるものは、その疾患がいくつもの組織や系統に及んでるもので、病理のメカニズムが大変複雑だと考えられている。しかしわれわれの研究によると、その疾患の病理メカニズムはとても簡単で、腰背筋膜や仙棘筋、そして第3腰椎横突起の先端部が、慢性摩擦疲労や急性摩擦疲労、出血や器質化などのため癒着して起こったものである。腰部を屈伸させると第3腰椎横突起が引っ張られるので自由に動かせない。これは腰背筋膜と仙棘筋の防御性痙攣性の疼痛を常に引き起こす。
小鍼刀を使って第3腰椎横突起先端部の剥離と弛緩をおこない、そこの部分の骨と筋肉の癒着を剥がして筋肉を緩めてやれば、たちどころに効果が現れ、症状はなくなり、一度治療すれば二度と再発しない。この疾病の治療でも上の観点を実証している。

三、上腕骨外側上顆炎、大腿骨内側顆炎の病理メカニズム
上腕骨外側上顆炎や大腿骨内側顆炎などは「炎」と呼んでいるが、もちろん無菌性炎症を意味している。上腕骨外側上顆炎の一番の病理要因はなんだろうか?それは総指伸筋と尺側手根伸筋が、上腕骨外側上顆に付着している部分の疲労出血により器質化して瘢痕となったり、腕橈骨筋腱の摩擦疲労による出血のため器質化して癒着瘢痕となり、その部分の神経や血管束を圧迫して前腕部の運動を制限し、局部の防御性痙攣による疼痛を引き起こし、長引けば上腕骨外側上顆の瘢痕が石灰化して硬いトゲができる。
こうした病理に基づいて、小鍼刀で癒着を剥離し、瘢痕をこすり取ると、非常に優れた治療効果がある。この現実は、上腕骨外側上顆炎の病理メカニズムに対する観点が、客観的事実と一致していることを証明している。
大腿骨内側顆炎の原理も同じである。膝関節部の内側側副靭帯と大腿骨内側顆が癒着するために起こったものである。
上腕骨外側上顆炎や大腿骨内側顆炎などのように、関節周囲の骨が出た部分の頑固な疾患は、すべて損傷のため癒着瘢痕ができて運動機能に影響している。小鍼刀療法を使った治療は、それを証明している。

四、滑液包炎、腱鞘炎などの病理メカニズム
滑液包炎や腱鞘炎などの発病要因も、やはり損傷によって瘢痕や拘縮となり、それが滑液包を閉鎖させたり、腱鞘の内径を狭くするために起こる。また炎症性の滲出による続発性のものもある。小鍼刀で滑液包を数ケ所切開し、腱鞘を切開して緩めれば、すぐに症状が消えて治癒する。これもまた、その本当の病因が瘢痕と拘縮であることを表している。炎症は主要な病理要因ではない。

五、骨増殖の病因
小鍼刀療法は一部の骨増殖(骨棘とも呼ぶ)疾患に特殊な治療効果があるが、では骨増殖の本当の病因は何だろうか?次に、われわれの研究成果を解説する。
骨増殖は骨棘とも呼ばれ、臨床でよく見られる疾患であるが、その発病原因を一般的に退行性病変と呼んでいる。退行性病変とは、骨格が老化して変性したことをいう。しかし、この理論では多くの臨床症状を説明できない。たとえば多くの若年者でも、足関節や大腿関節、腰椎や頚椎などに骨増殖が起こるが、これをどうして老化による変性といえるのだろうか?また多くの骨関節炎やリューマチ性関節炎でも、関節に骨増殖がみられるが、それも老化変性とは無関係である。骨増殖や骨棘を一つの疾患とするならば、中年期では骨増殖がかなりひどくても症状のない人がたくさんある。これをどう解釈するのか?
では骨増殖の根本原因はいったいなんなのか?
長年にわたるたくさんの臨床観察を通して、生物力学の原理を使って骨関節炎の病因を研究し、骨関節炎(小さな骨増殖。大きな骨増殖あるいは骨棘)の根本原因は「力のバランス失調」であることを実証した。
われわれは次のような観察をおこない、すべての骨関節炎や骨棘の発生には、ほとんど
①関節を捻挫したことがあり、適切な治療を受けていない。
②関節周囲の軟部組織の損傷歴があり、軟部組織が変性して拘縮している。
③関節内骨折。
④罹患した関節と力学的関係がある骨幹の変形。
⑤変形性骨関節炎やリューマチ性関節炎。
⑥一つの比較的大きい骨棘は、必ず何かの軟部組織(ほとんどは筋肉や靭帯)の付着点
にある。

⑦下肢の関節である大腿、膝、足関節に内翻や外翻などの変形がある。
⑧老年になって身体が弱り、筋肉の衰えた頚、胸、腰椎には、骨増殖が起こる。
我々は、こうした8つの状況を次のように分析した。
①関節を捻挫して、適切な治療を受けていない。
関節の捻挫は、軟部組織を損傷するだけでなく、関節も必ず動いてずれる。これを中医では骨錯縫と呼ぶ。こうした骨錯縫に適切な治療をしなければ、張力を受けて引き伸ばされた側の軟部組織が緩んで伸び、圧迫されて圧縮した側は必然的に曲げられて短くなり(関節の捻挫では必然的に一側が伸ばされて、反対側が圧迫される)、長引くと骨錯縫が固定してしまう。このような骨錯縫の状態は複雑で、回転捻挫や側方捻挫、前後の捻挫など、いろいろな捻挫が起こりうる。
具体的な患者についていえば、彼あるいは彼女のある部分の関節(たとえば足関節や膝関節)が日常で受けている重量は一つの定数(一定量)である。われわれが仮に、この定数をmとするならば、mは不変であり、ただ大小便や飲食時にわずかながら上下するだけである。この関節面が受ける重力mは適度なものである。当然にしてmは関節面すべての単位面積に均等にかかっている。
人体の関節に平面でつながったものはなく、関節面はみな凹凸しているが、それらはうまく組み合わさっている。つまり人の上下歯のようなもので、平面で接触している部分は小さく、ほとんどは長短ふぞろいで厚さも一定でなく、前後に傾いているが、噛めばうまく吻合している。吻合していなければ咀嚼できない。
関節が骨錯縫すると、関節はうまく吻合できず、ある部分にだけ重力がかかって、ほかの部分には重さがかからなくなる。するとmの重力は変化しないので、負担のかかっている部分が受けている力は大きくなる。関節面にかかる重量は一定でも、部分的な負担増加には耐えられない。重さが変わらないのに力を受ける面積が小さくなれば、圧迫の強さは大きくなる。骨錯縫になると、力のかかる部分の関節面積が小さくなるが、重さは変化しないので負担のかかる部分の圧力は増える。そうなれば関節軟骨膜は圧迫に耐えられず、たくさんの軟骨膜細胞が圧迫されて壊れたり圧死する。関節のズレが、それほど大きくなくとも、0.5mm以上ズレれば、こうした現象は起こる。
仮に下顎骨が0.5mmズレたとしよう。とたんに歯の噛み合わせが悪くなる。関節のズレは、それと同じである。
軟骨細胞が異常な圧力に耐え切れず、破壊されたり圧死したときに、二つの状況が考えられる。その圧力が代償能力の範囲内であるならば、自己の代償防御システムによって大量のカルシウムやリンが破壊された場所に送られ、軟骨膜の強度を高め、異常な圧迫に耐えられるように補強しようとするので、骨増殖が起こる。こうした状態が長く続けば、骨の増殖が続いて骨棘ができる。また圧電気学の原理によれば、骨が受ける圧力が大きいほど局部の電位も高くなり、それが骨細胞を活性化して骨細胞の増殖を促進し、高い圧力のかかる部分に骨の突起物を形成するが、それが骨棘である(張福学の『圧電学原理』)。もう一つのケースは異常な圧力が代償能力を超えた場合だが、そのときは関節面に壊死が起こる。しかし壊死は関節面の表層に限られるので、関節性や結核性の壊死のように深部まで浸潤されることはない。
H00K’Sの法則では、圧応力が増加すると歪みも増加する。つまり関節内に高応力の力点が現れると、圧迫された部分は圧縮される。しかし人体の関節は生きており、正常な圧力がかかっていれば関節面の弾力性はH00K’Sの法則により変化し、正常な圧力を超過して、関節面の弾力性限度を越えれば、生物学の法則によっても変化する。さらに骨増殖を起こした異常な圧力が持続するが、骨増殖は短い時間で起こるものではない。また関節軟骨と骨端、そして骨幹の弾性係数が違うため、関節軟骨の弾性限度圧力を超えても、骨端と骨幹の弾性限度を超えるとは限らない。ここで哲学上の「度」という問題がある。これは関節内にある高応力の力点にかかる圧力が骨端と骨幹の弾性限度内であった場合であり、もし超過すれば骨端と骨幹に圧縮性の骨折が起こるが、それは別な話である。
人間の生物学的特性は、われわれが力学を使って人体を研究するとき、一時も無視できない問題である。こうした異常で、身体の代償能力範囲内の力が刺激すると、身体の代償現象がみられる。たとえば人々が両手でツルハシを握って労働し、長期に渡れば手にマメができるが、マメとは何だろう?それは角質である。これは身体の代償作用により、角質が手の摩擦する部分に送られ、摩擦に耐えられるように強化されたのである。手の表皮がツルハシの柄で摩擦されて破れるので、角質が増殖して表皮が破れなくなった。もしこのような代償能力の限度を超えた場合、例えばツルハシの柄が滑らかでなく、釘や刃物のようであれば手は破れてしまうが、それは身体の代償能力を超えてしまっている。
以上をわれわれが、いろんな方面から、いろんな角度から分析して論証した結果、得られた結論は、捻挫した関節に骨増殖や骨棘が発生するのは「力のバランス失調」によって起こっている。すると骨増殖や骨棘ができる根本原因は「力のバランス失調」と言える。この理論を使えば、骨増殖や骨棘が形成される病理現象を納得のゆくように説明できる。
②関節周囲の軟部組織損傷があり、軟部組織が拘縮している。
関節付近にある軟部組織損傷の大部分は慢性か、急性損傷が慢性化したものである。慢性軟部組織損傷による筋肉や靭帯の痙縮は、よく見られる病理変化の一種である。攣縮した筋肉や靭帯は、長期にわたって緊張状態におかれるが、こうした長時間にわたる緊張状態は、筋肉や靭帯を異常な力で牽引し、筋肉や靭帯を損傷させて、いくらかの筋肉線維が切断する。御存じのとおり、筋肉や靭帯が引っ張られると、両端の筋腱と付着部分にもっとも応力が集中する。そのため筋肉が長期にわたって引っ張られると、筋腱の両端や骨との付着部分を損傷する可能性がある。このとき身体の代償システムは、筋腱や付着部分を損傷しないように強化するため、多くのカルシウムとリンを送り込み、骨棘や筋肉の石灰化、骨化が発生する。
これと圧電気学の原理は矛盾せず、圧力が大きくなれば電位も高くなり、骨細胞も活発になって骨増殖や骨棘の成長が促進される。圧力が大きくなれば反作用も大きくなることは誰でも知っているが、引っ張る力は圧力からすれば、圧力の反作用である。だから圧力が大きくなれば反作用の力も大きくなるが、それがひっぱる力である。だから引っ張る力が大きくなれば、電位も高くなる。力学と圧電気学から言っても、これは圧電気学の原理に一致している。
これにより筋肉の引っ張る力が正常より大きければ、骨増殖と骨棘ができるが、これもやはり「力のバランス失調」の問題である。
③関節内骨折
関節周囲や関節内側を骨折すると、治療時で解剖的に正しい位置に戻すことがとても難しい。それは周囲の軟部組織が圧迫されて歪んだり引っ張られて緩んだりし、すぐに治療しなかったために拘縮したり伸びたりする。あるいは関節のズレが矯正されていないために関節内部の力学的バランスが崩れ、高応力の力点と軟部組織(筋肉や靭帯)が過度に緊張して引っ張られ、骨増殖や骨棘が発生したものである。前の二節を見ればすぐに判るので、これ以上の説明は省く。
④罹患した関節と力学的関係がある骨幹の変形。
骨幹の変形は、上下両端の関節を結ぶ力線が変化し、上下端の関節が吻合しなくなって、これもまた高応力の力点が現れて軟部組織を引っ張り、関節の骨増殖や骨棘が発生するが、そのメカニズムも で述べたものと同じである。特に後天的な外傷による骨幹骨折の変形癒合では、関節の骨増殖がかなりひどい。先天性の骨幹変形では、関係する関節に骨増殖や骨棘が発生することは少ないが、それは変形による関節の力学的変化が生まれついてのものなので、関節がほぼ適応できているからである。そこでわれわれは骨増殖の病因を「力のバランス失調」と結論付ける。先天性では力学関係ができるとバランスがとれるので、後天的な破壊のみがもともとあったバランスを崩し、そのため身体は代償システムによって調節する。
⑤変形性骨関節炎やリューマチ性関節炎。
この二つの病気では、きちんとした治療をしなければ、関節周囲の軟部組織に炎症性の滲出や浮腫、壊死などが起こり、ついには増殖が発生する。病理損傷、器質化、瘢痕、癒着、拘縮が起こり、それが関節内外そして周囲の軟部組織の力学状態を変化させ、圧力の高すぎる点や、牽引力の強すぎる筋肉や靭帯の付着部分ができ、そこに骨増殖や骨棘が発生する。ここでも骨増殖が起こる原因は「力のバランス失調」であり、関節炎によって直接発生するものではない。
⑥一つの比較的大きい骨棘は、必ず何かの軟組織(ほとんどは筋肉や靭帯)の付着点にある。
一つの孤立した骨棘は、必ず筋肉や靭帯の付着部に発生する。もし踵骨の骨棘が、常に踵骨隆起上の長足底靭帯や足底筋膜付着部分に発生するようであれば、われわれは上に述べたような観点に基づき、この筋肉や靭帯は必ず拘縮変性を起こしており、そこが緊張して引っ張られた状態にあると考える。そこで筋肉と靭帯の緊張牽引状態を解除させるような治療をすれば、症状はすぐになくなる。治癒したあと長期間観察を続けても、骨棘は自然に丸くなり、小さくなっている。
⑦下肢の関節である大腿、膝、足関節に内翻や外翻などの変形がある。
下肢にある大関節の内翻や外翻などの変形は、後天的になったものがほとんどで、先天的なものではない。こうした関節の内翻や外翻変形も関節内力線のズレによって起こったものである。軟部組織の一側が引っ張られて対側が圧迫されれば、力のバランス失調を作り出す原因になる。このような状況によって骨増殖や骨棘が形成されたものは、臨床で多く見られる。
⑧老年になって身体が弱り、筋肉の衰えた頚、胸、腰椎に骨増殖が起こる。
こうした部分に起こる骨増殖は、退行性変化なのか?老化ではなく、やはり力学問題である。
身体の重量は脊柱の骨組織だけが負担しているのではなく、頚部や腹、背中や腰の筋肉もかなり負担している。しかし老齢になると頚部や腹、背中や腰の筋肉が緩んで筋力が低下し、重量を負担する能力も大きく低下する。そして体重が減らずに太り始めれば、体重がますます増える。筋肉が支えなくなれば、身体の重量のほとんどが脊柱の骨組織にかかるようになり、頚、胸、腰椎の負担は全体的に増加し、これもまた身体の代償システムによって背骨が強化され、骨増殖が発生する。また高齢による多くの軟部組織の萎縮性変性(主に靭帯内部の小さな筋肉や靭帯)のため緊張性牽引が起こり、骨棘が発生する。たとえば椎間板の退行性変性により弾力性が小さくなったりなくなれば、椎体は長期にわたり前縦靭帯後側縁を圧迫し、前縦靭帯は長期にわたって後側の膨張力で引っ張られるので、前縦靭帯の付着部分に骨増殖が発生する。そしてX線検査により、椎体前縁に唇状の増殖が見られる。
一般的に、年をとって筋力が低下し、脊椎骨組織の負担が増えると骨増殖が起こるが、ほとんど症状は現れない。その特徴は、骨増殖がすべての分節にわたり均一で、左右差もない。このような状態は病態ではない。しかし老人の脊椎骨に左右非対称な骨増殖が起こり均一でなければ病態で、筋力低下によって起こったものではなく、加重の片寄りによって起こったもので、さまざまな損傷によって局部の応力が増加して起こったものである。
われわれが以上の8つの骨増殖現象を研究し、分析した結論は、いかなる状態で発生したにせよ、骨増殖はすべて「力のバランス失調」が原因である。
ここで臨床で使ういくつかの用語、すなわち骨関節炎、骨増殖、骨棘の意味をはっきりさせておかなければならない。実際は、これらはすべて骨増殖である。骨関節炎は、骨増殖が関節に発生する難治疾患なので、骨関節炎は一つの病名にすぎない。また関節部分に軽微な、あるいはかなりの骨増殖があるものをすべて骨関節炎と呼んでいる。骨増殖のなかで、大きくて出っ張ったものを骨棘と呼ぶ。
ついでに骨化性筋炎の発病メカニズムは、筋肉の牽引応力が高すぎるために骨棘が発生するメカニズムと同じなので、省略する。
次に力のバランス失調について述べる。
人体内部が正常な力学状態にあるときを「力のバランス状態」と呼び、逆に不正常な力学状態にあれば「力のバランス失調」と呼ぶが、これは生物力学の概念である。
人体内部の力のバランス失調が骨増殖の根本的な病因であり、われわれが臨床でよく目にする骨増殖によって起こった疾患の根本原因である。根本病因をはっきりさせることは、こうした疾患を根本的に解決する治療に極めて大きな意義がある。われわれは、このような根本病因に基づいて適切な治療法を研究し、この一大疾患の治療問題を一刀両断に解決した。
この病因学理論によれば、我々は簡単に骨増殖を分類できるが、基本的には次となる。
(1)圧応力が高すぎるために起こった骨増殖。
(2)引っ張り応力が高すぎるために起こった骨増殖。
(3)膨らみ応力が高すぎるために起こった骨増殖。
力には方向、作用点、大きさの3つの要素がある。
骨増殖の縦軸方向は、みな作用する力の方向と一致する。作用点とは、もちろん骨が増殖している部分である。力の大きさとは、正常な生理的適応範囲を超えるものを言う。
上に述べた理論により、もし骨増殖が関節面の内側縁か中間にあれば、圧応力が高すぎるために起こったものだと判る。もし関節面の外側縁や、そのほかの部分の軟部組織付着点に骨増殖があれば、引っ張り応力が高すぎるために起こったものだと判る。また骨増殖の縦軸が示す方向は、必ず罹患した軟部組織の縦軸方向と一致し、それと方向が一致する軟部組織(筋肉や靭帯)は必ず緊張して牽引状態にある。仮に関節包や椎間板に骨増殖があり、それが関節包や線維輪(線維輪は上位の椎体の下縁と、下位の椎体の上縁に付着する)の付着部分に沿って輪状に増殖していれば、膨らみ応力が高すぎるために起こったものである。つまり負担がかかる部分で骨が増殖するということである。
こうした分類により、我々は臨床で具体的に罹患した組織や器官を知ることができる。
一般に小鍼刀は、引っ張り応力が高すぎるためと、膨らみ応力が高すぎるために起こった骨増殖の治療に適している。具体的には第六章の小鍼刀療法適応症で細かく解説する。

六、動態バランスの失調は、慢性軟部組織損傷の根本的な病理メカニズムである。
われわれは第一章の慢性軟部組織損傷に関するさまざまな病理学説のなかで、既存の各病理学説を見直してみることにより、慢性軟部組織損傷疾患の根本的な病理メカニズムは何であるかを分析研究し、既存の「ホメオスタシス失調理論(動態平衡失調理論)」が、こうした疾患の根本原因となる最も重要な病理メカニズムの理論であるとした。本章の第四節で慢性軟部組織損傷に対して、疾患別に具体的な病理メカニズムを研究し、慢性軟部組織損傷の根本的な病理メカニズムは「動態平衡失調」であると結論付けた。本章の第五節、骨増殖の病因に関する記述の中で、慢性軟部組織損傷(拘縮、引っ張り応力が強過ぎる、膨らみ応力が高すぎる)の病理メカニズムに関しても同様の結論だった(注意:第五節は骨増殖の病因について述べており、ここでは病理メカニズムについて述べている)。
それでは慢性軟部組織損傷の病理メカニズムである動態平衡失調と概念を述べる。
1.動態平衡失調の定義
まず「動態平衡失調」を定義しなければならないが、その前に「動態平衡」とは何かを知らなくてはならない。動態平衡は「生物力学」の概念であるが、それは「生物学」の力学を研究する概念であって、一般の固体力学や流体力学などの力学概念とは異なる。生物力学は複雑なので、現代になっても人や動物のように、自由で敏速にいろんな複雑な動作をおこなえる機械は作られていない。このような自由で敏捷的で複雑な動作を、力学で表そうとしても複雑になるだけである。また生物力学には生命活動性もある。生物力学中の力学的問題は、すべての時間にわたって生命活動と関係しているが、逆に言えば生物力学中の力学は常に生命活動に制約されている。身体に現れる力学は、すべて時間と空間に厳しく制限され、さらに「量」と「度」の問題がある。我々が力学を使って人体を研究するとき、時間を無視できない。以上に述べたものが生物力学の3つの特徴である。
われわれが身体の動態平衡をいう場合、生物力学の3大特性に基づいている。平衡(バランス)は生命活動に制約され、時間と空間の制限を受け、一定の量と度のなかで運動する。動態とは、身体の外部の運動状態と、身体の運動系統組織器官の内部運動状態を意味している。こうした内部運動状態の力学は極めて複雑なので、次の一節で詳しく解説する。だから動態平衡の定義とは、身体の運動器官が正常な生命活動の許す範囲内で、特定な時間と空間の量と度のなかで、自由に運動がおこなえる状態を身体の「動態平衡」と呼び、これと逆であれば「動態平衡の失調」と呼ぶ。
2.動態平衡の内包
動態平衡というユニークな力学概念の定義は判った。しかしそれはもっと深い意味を含んでいる。身体にある正常な筋肉は、収縮と伸張のプロセスで、動き幅の異なる筋肉の滑り運動のとき、ほかの組織も巻き添えにして移動する。多くの筋肉群でそれぞれの筋肉が別々の方向に動くので、いろいろ複雑な動作ができる。こうした軟部組織のある一点やある部分に癒着や拘縮、瘢痕などが起こると、筋肉と他の組織は自由な伸縮や動きができなくなる。つまり一点の病変によって軟部組織の縦軸方向の運動が制限されてしまう。それが動態平衡に内在している意味である。それだけに留まらず、慢性軟部組織損傷の癒着、拘縮、瘢痕といった3大病理要因の存在によって、軟部組織の横向き面運動および相互間の公叉運動なども制限される。
動態平衡失調の内包には、上にあげた3つの機械的な運動制限のほかに、生物的な自己防御制動も含んでいる。軟部組織が引っ張られると、軟部組織は痙攣性に攣縮して、やはり運動制限を引き起こす。二番目には、軟部組織損傷変性による起こった拘縮が運動を制限するものがあるが、それも動態平衡失調の内包するものである。
動態平衡失調の内包とは、身体の内部運動器官の病理メカニズムをまとめ、表したものである。
3.動態平衡失調の外延
動態平衡失調概念の外延とは、身体の外部運動器官の病理メカニズムをまとめ、表したものである。
四肢や体幹、頭頚、手指、足指などの組織は、人の生活のなかで、それぞれ自己の持ってる機能を発揮している。だが肢体の力学的特性は、すべて生命活動に制約されており、時間と空間の量と度の範囲内にある。こうした範囲内での肢体の力学は極めて複雑で、また非常に自由である。慢性軟部組織損傷疾患になると、こうした肢体は持っている機能を自由に発揮できなくなるが、それが動態平衡失調概念の外延である。これは慢性軟部組織損傷の病理的特性として外在する内容をまとめている。
慢性軟部組織損傷で外に現れた病理特性は重要である。こうした疾患の治療では、外部に現れる病理変化の消失に基づいて調べなければならない。この類の疾患では、外部に現れた病理的特徴によってのみ、体内にあると思われる病変や病巣の正確な位置を見つけだすことができ、それに対する治療がおこなえる。
4.動態平衡失調の図解
動態平衡失調は抽象的な概念だが、いくつかの図を使えば具体的に表現できる。しかし一連の図形を使って動態平衡失調が内包する、そして外延するものをすべて表そうとすれば、一冊の図解説明書になってしまうため似つかわしくない。そこでいくつかの図を使って、慢性軟部組織損傷の3大病理要因である癒着、瘢痕、拘縮の形成と、動態平衡の失調を示し、本疾患の根本的病理メカニズムを解説する。
ここで少し言っておきたいのは、本章第一節で慢性軟部組織損傷損傷のもっとも主要な3大病理要因である「癒着」の発生と進行、形成のプロセスを説明したが、ほかの瘢痕と拘縮は解説していない。それらの発生と進行、形成のプロセスが癒着の発生と進行、形成のプロセスと基本的に同じだからである。また癒着自体にも瘢痕と拘縮があったりする。重複するため、これ以上解説しない。

| +----点b |両筋肉の癒着部分
| | |
点a---+---点b 点a----+ 点a---+-----点b
| |
| |
A B A B A B
1.静止状態の両筋隣接点 2.B筋が収縮すると、両筋 3.両筋が癒着していれば、B
肉の正常な相対運動では、 筋肉の収縮が制限を受け、
a点とb点が離れる。 a点とb点が離れず、A筋
肉が引っ張られる。

5図 筋肉が直線運動するときの動態平衡失調のようす
この図は筋肉が直線運動をするときの状況を表している。A筋とB筋の両筋が静止状態で隣接する点を、それぞれa点とb点とする。動態平衡の状態で、つまり正常状態で二つの筋肉が相対運動をすれば、a点とb点は離れなくてはならないが、離れられる。しかし二つの筋肉の隣接点aとbが癒着したり瘢痕があれば、両筋が相対運動するとき、aとb点が癒着しているので離れられず、動態平衡は失調する。
これは筋肉が線運動するときの状況だが、面運動するときも状況は同じである。
A A

B B

癒着部


C C

3つの筋肉が隣り合う 3つの筋肉が一定範囲 3つの筋肉が癒着して運動が
静止状態の平衡状態 内で面の相対運動する 制限され、動態平衡が失調し
ときの動態平衡状態 て面運動ができない。
6図 筋肉が面の運動するときの動態平衡失調のようす
6図は、病的な癒着が発生し、筋肉が面の運動する時に、3つの方向がすべて制限される場合。


二つの筋肉が癒着しているため
公叉運動ができない

| 前

| /
内-----+-----外 | 運動制限
/ | |
| +-運動制限
後 | |



7図 筋肉が公叉運動するときの動態平衡失調の模様
7図は、二つの筋肉が癒着して、公叉運動できなくなったときの模様で、二つの運動方向が制限されている。
次の8図は、また別の状況で、筋腱と腱鞘の内壁が癒着したときの状態である。腱鞘が狭窄したため、筋腱は腱鞘内部で運動を制限され、動態平衡を失っている。
さらに9図は、筋肉の拘縮によって肢体の伸直機能が制限され、肢体の動態平衡が失われた状態である。
指屈筋腱の炎症性膨隆部
| 伸指制限





\ ↓
滑液鞘が癒着して狭くなった部分 屈指制限


----------------------------------------

線維鞘 滑液鞘臓側板

指屈筋腱



滑液鞘壁側層
指骨

----------------------------------------


滑液鞘癒着狭窄 指屈筋腱

滑液鞘壁側層 滑液鞘壁側層


指の掌側固有の
運動制限← →運動制限 血管と神経

滑液鞘臟側板 線維鞘

筋腱炎症性膨隆
滑液鞘臟側板 指背腱膜 指骨


8図 腱鞘内で筋肉が伸張と収縮する時の動態平衡失調の状態




伸展制限


拘縮した筋肉

9図 筋肉が拘縮した肢体の伸展機能制限

以上5つの図は、慢性軟部組織損傷の動態平衡失調メカニズムを大ざっぱではあるが具体的に表したものである。しかし体内にある慢性軟部組織損傷の動態平衡失調は、実際にはとても複雑である。ここでは筋肉を主にした図で、いくつかの状況を紹介しているだけである。実際は靭帯、滑液包、筋間中隔、腱膜、筋膜、そして他の軟部組織が慢性損傷を受けて癒着、瘢痕、拘縮という3大病理要因を発生させ、動態平衡失調の病理メカニズムを作り出しているので、解説したものよりも遥かに複雑ではあるが、基本的原理は同じである。
動態平衡失調を使って慢性軟部組織損傷による病理変化をまとめると、こうした疾病の第一要因である病理変化が動態平衡失調によることのほか、治療学では疾病治癒の評価基準を定めることが大切である。慢性軟部組織損傷疾患に対する治癒の確かな基準が、動態平衡の回復にあたって必要であり、それによって治癒したかどうかが判る。もし痛みと炎症性病変の消失のみに基づいて治療効果を評価するなら、治療効果は当てにならない。それは根本問題の解決を何も表していないからだ。
さらに言っておかなければならないことは、神経圧迫や神経炎などの一部では、肢体運動の制限はなく、痛みやシビレがある。これは慢性軟部組織損傷による疾患ではなく神経科疾患であり、われわれが論じているものではない。

第五章 小鍼刀の治療メカニズム

小鍼刀の治療メカニズムとは、小鍼刀はどうして非観血的手術治療ができるのかという問題である。どうして慢性軟部組織損傷疾患を治療でき、なぜ刺鍼治療にも使えるのか?本章では、この問題を取り上げる。

一、非観血的手術
本節は非観血的手術の意義を述べるわけではなく、非観血的手術の治療方法について述べるわけでもない。小鍼刀でどうして非観血的手術をおこなえるのか?どうして慢性軟部組織損傷疾患を治癒できるのか?(小鍼刀を使った慢性軟部組織損傷治療も非観血的手術の一つであり、非観血的手術療法の適応症の一部に過ぎない)。
小鍼刀の形状は刺鍼治療で使う「毫鍼」のようだが、鍼尖に0.8mmほどの刃が付いている。この刃は大変小さいので、体内に刺入するときに神経や血管、重要な臓器を簡単によけられる。小鍼刀は方向性があるので、体外にある鍼柄によって刃の方向が判るように設計されている。また刺入方法や刺入経路に詳しいマニュアルが研究されているので、確実で安全に鍼尖を病巣部に刺入できる。
小鍼刀の刃には一定の硬度と鋭さがある。そのためすばやく体内に刺入したり病変組織を剥離させたりでき、刃がめくれることがない。
小鍼刀は弾力性があるので、体内で動かしたり回したり、少し移動させても折れることはない。
小鍼刀は細く、Ⅰ型小鍼刀は直径1mmの円柱体で、刺入や抜鍼による筋肉損傷はほとんどなく、わずかな鍼孔が残るだけである。抜鍼後は皮膚の鍼孔がすぐに塞がり、数日すると、いかなる痕跡も残らない。小鍼刀の特殊な構造と性能により、非観血的手術は順調に安全におこなえる。したがって小鍼刀は現代において理想的に非観血的手術をおこなえる道具であり、さまざまな科にわたる多くの疾患の非観血的手術に使える。
すでに小鍼刀で非観血的手術ができる原理を述べた。各疾患に対する具体的応用状況については、本書が問題にしている内容ではない。本書は慢性軟部組織損傷疾患の治療問題を紹介しているだけだから、次に各種慢性軟部組織損傷に対する小鍼刀の治療メカニズムについて細かく論じたいと思う。
小鍼刀は慢性軟部組織損傷をどうして治療できるのか?
軟部組織の癒着とは、骨と筋肉がくっついて一緒になっていることであるが、また筋肉と靭帯との癒着、筋肉と神経との癒着などもある。小鍼刀は、こうした癒着を剥離して別々にし、もともとの動態位置に復帰させようとするものである。つまりこうした組織を動かしたとき、自由に位置を変えられるようにするとともに、病巣局部の滞りを流通させ、病巣部分の気血がスムーズに流れるようにするのが目的である。中医の経典には、通じれば痛まず、痛めば通らず。滞りを疏通させ、気血をスムーズに循環させ、陰陽を調和させれば痛みはなくなり、機能は回復するとある。
外傷による後遺症治療の場合も、癒着の剥離が小鍼刀の作用であるが、この場合には筋肉と靭帯、神経、血管などが癒着している部分を剥離することと、筋肉を弛緩させることに重点がある。癒着を剥がして筋肉を緩めれば、局部の血液循環は復活し、さらにリハビリをおこなうことによって、後遺症は治癒する。
小鍼刀が骨化性筋炎を治療する原理では、骨化性筋炎の発病原因について検討する必要がある。骨化性筋炎のほとんどは蓄積性疲労によって起こる。筋肉や筋肉群が長期にわたって緊張状態にあり、加重が限度を超えていたり牽引状態のため、身体がその筋肉の強度や硬度を強くするために、多量のカルシウム質がそこに集められ、カルシウム質が多すぎるために局部の循環通路を圧迫し、筋肉を変性させて骨化したものである。したがって小鍼刀で筋肉線維の縦軸方向に圧して流通させ、周囲の水分や養分が変性した筋肉の中に常に注ぎ込むようにし、筋肉を修復する。カルシウム質は徐々に吸収されて、筋肉は元のような弾力性を徐々に取り戻す。
小鍼刀の腱鞘炎治療については理解しやすい。腱鞘炎は摩擦疲労により慢性損傷が起こり、腱鞘の瘢痕拘縮と筋腱癒着を併発した無菌性炎症(感染のないもの)で、腱鞘は浮腫となって膨らんでいる。小鍼刀で腱鞘を刺せば、腱鞘は緩んで癒着も剥がされ、溜った水分も排出されて炎症は吸収される。手根管症候群や足根管症候群に関する小鍼刀の主な作用は、癒着の剥離と弛緩させて減圧することである。屈筋支帯が正中神経を圧迫しているところを小鍼刀で剥離する。少し切断すればすぐに症状は解消する。足根管症候群は内踝下部に起こるが、靭帯が後脛骨神経を圧迫している足跟の内側を小鍼刀を使って剥離する。少し切断して薬物を併用すれば、すぐに症状はなくなる。
筋肉と靭帯の蓄積性損傷の小鍼刀治療。これは筋肉や靭帯損傷は、どうして起こるかという発病原因から話さなくてはならない。蓄積性損傷とは、筋肉線維や靭帯の軽微な断裂や裂傷、出血があり、絶えず損傷と修復を繰り返す過程で、筋肉と筋肉、筋肉と靭帯、あるいは筋肉自体や靭帯自体に瘢痕癒着が発生し、微小循環を障害するので症状が現れる。小鍼刀は筋肉や靭帯間の癒着を剥がし、微小循環を回復させ、筋肉や靭帯が修復されるように促す。筋肉や靭帯が身体の動きに併せて自由に動くようになれば疾病は根治できた。
小鍼刀による外傷性の筋痙攣や筋緊張の治療では、一部の痙攣したり緊張している筋肉線維を切断し、症状を迅速に緩解させる。整形外科の手術によって、いくらかの筋束や筋線維を切断したり切除しても、適切なものであれば運動機能に影響がないことが実証されている。だから筋痙攣と筋緊張の小鍼刀治療は、費用もかからず簡単な方法である。
以上で各種疾患に対する小鍼刀治療原理を終わる。次に全体的な治療作用、つまり生物物理学と生化学分野の作用と変化について述べる。
○生物物理学分野の変化
小鍼刀は機械刺激の一種であり、その刺激が深く病巣に達し、癒着瘢痕を剥離させる。こうした機械刺激は、生物電気の原理と圧電気学の原理によると、病巣部で機械エネルギーが熱エネルギーに変換され、その熱エネルギーが小血管を拡張させる。小血管が拡張すれば、局部の病変組織の栄養供給が強化する。また機械刺激が神経組織の末梢を強く刺激することにより、局部の組織器官の活動能力を増強させ、リンパ循環を促進して、局部の新陳代謝能力を大幅に向上させる。それにより切り離されたり、緩んだり、剥離による残存瘢痕組織はすぐに吸収される。
筋肉と筋肉の癒着、多くの筋間中隔や腱膜の拘縮、瘢痕などを、小鍼刀は切り離して弛緩させ、筋肉の動態平衡を回復させる。また患部の軟部組織自体を回復させる条件を作り出す。
○生物化学分野の変化
小鍼刀の刺激は局部の組織蛋白質を分解し、末梢神経伝達物質を増加させ、血管神経の活性物質を産生し、ブラジキニンや5-ヒドロキシトリプタミンの血清中の含有量を低下させることで組織の機能を活発にする。それによって鎮静させ、神経機能を調整し、痛みを軽減させたり疾病を治癒させる。
慢性軟部組織損傷に関する小鍼刀の治療作用をまとめると次のようになる。
癒着を剥離し、滞りを流通させ、気血をスムーズに循環させ、瘢痕を削り取り、筋肉を弛緩させ、痙攣を鎮めて痛みを止める。
小鍼刀は非観血的手術をするための極めて小さな鍼である。それにはいくつかの種類と大きさがあるが、どのようなものであっても上に述べたような特徴がある。例えば小鍼刀Ⅱ型とⅢ型は、非観血的に骨を整復する鍼である。骨折の変形癒合などは、以前は切開手術をして断ち切り、正常な位置に戻してから固定していた。Ⅱ型とⅢ型の小鍼刀を使えば切開しなくても、正確に切り離すべき部分を断ち切り、正常な位置に戻して固定することが非観血的方法でおこなえる。こうした小鍼刀の基本的特性は、軟部組織損傷の治療に使うⅠ型の小鍼刀とまったく同じであるが、少し大きい。
われわれは非観血的手術が広くおこなわれるに伴って、微小型小鍼刀の種類が、さらに増えると思う。しかし小鍼刀の基本的特性は変わらない。現在は小鍼刀を使った非観血的手術が成功しているが、非観血的手術鍼に必要な特徴を模索している段階である。これは今後、多くの非観血的手術鍼を作り出すための基本的模型である。
整骨分野の非観血的手術における小鍼刀の成功は、非観血的手術を広く発達させる上で模範的役割を果たしている。

二、刺鍼療法分野での応用
ここで取り上げた小鍼刀は非観血的手術の道具である。どうしてそれが刺鍼療法に応用できるのか?具体的にはどのように応用するのか?
小鍼刀の刺鍼治療法での応用は、言ってみれば非常に簡単なことである。刺鍼治療で使う毫鍼の尖端に刃を加えただけのものだから、具体的な疾病の治療にも刺鍼療法と同じように、選穴した経穴に刺鍼するだけである。小鍼刀の刃を経絡循行方向に沿わせて平行に刺入する。具体的な刺入操作は小鍼刀の刺入方法と同じで神経や血管を避け、目的深度に到達したら刃をグルッと回し、刃を施術部位の経絡走行と平行にする。そのあと小鍼刀の施術八法に従って、最初は縦方向に上下させて分離させ、次に横方向に1~2回動かして分ければよい。毫鍼の捻転、提挿手法はおこなわない。
このように縦横に動かせば簡単に剥離する。これを軽く考えてはいけない。それによって経気はすぐに通り、疾病はすみやかに解消する。ときにはわれわれや患者が想像もおよばないような効果がある。
小鍼刀の刺鍼治療での応用は、伝統的な運鍼手法のマニュアルを打ち破るものであり、刺鍼治療に新たな天地を切り開く。置鍼する必要もなく、捻転や提挿などの面倒な手法をしなくて済み、30秒ほどで治療が終わる。
第六章 小鍼刀療法の整骨分野での適応症と禁忌症。

小鍼刀療法の整骨分野での適応症。本書がここで取り上げるのは慢性軟部組織損傷と骨折による変形癒合に対する応用である。関節内骨折、関節内部の癒着、粉砕骨折などについては、別に個所を設けて解説する。
結論は、小鍼刀療法は整骨分野では11の適応症があるが、中心となるのは慢性軟部組織損傷の分野である。

一、さまざまな軟部組織の癒着、拘縮、瘢
痕によって引き起こされる四肢や体幹の難治性の痛み
軟部組織の癒着という病理概念を、二つの方面から論じてきた。一つは外傷性の軟部組織癒着であり、もう一つは病理性の軟部組織癒着である。
外傷による軟部組織の癒着は、急激な外力や蓄積性損傷、潜在性外傷などによって軟部組織が癒着したものである。潜在性外傷とは外傷があったときに自覚がなく、患者も気が付かず時間がたっても発病せず、発病したときに患者自身も外傷によるものとは思わず、発見が難しいものである。たとえば冗談で背中をポンと叩いた。そのあともはっきりした不快感はないか、わずかに不快感がある程度だがすぐに治る。我々の臨床経験では、こうした外傷でも条件さえ整えば軟部組織の癒着を引き起こす。こうした外傷によって引き起こされた軟部組織の癒着を、われわれは潜在性外傷による軟部組織の癒着と呼んでいる。この疾患を私は非常に重要だと考えるが、臨床ではおろそかにされやすく、患者自身も記憶がないため原因不明とか、気のせいにされたりする。病歴を尋ねたとき、急激な外傷や蓄積性損傷による軟部組織の癒着では、患者自身もはっきり病因が判っているので、多くを述べる必要はない。
病理性軟部組織癒着は、骨関節炎や疽、癰、 を切開して排膿したり、切開手術による癒着などで癒着が起こったもので、筋肉と骨、筋肉、靭帯、神経、血管などが癒着し、局部の疼痛や機能障害があるが、みな小鍼刀を使って治療できる。
外傷性と病理性の軟部組織損傷によって起こったさまざまな癒着は、身体の正常な運動機能を制限するだけでなく、癒着部分に難治性の痛みを引き起こす。こうした痛みは、それ特有の病理要因によって起こったもので、一般的な治療処置では効果がなく、癒着を解決することもできないので、機能障害は回復せず、痛みも取れない。
また癒着面積が大きいほど治療効果は劣る。もっとも適しているのは、癒着面積が小さいか一点だけの場合で、治療効果が最も優れている。

二、骨棘(骨増殖)
骨棘の生成については、前の章で細かく解説した。関節への圧応力が高すぎて起こるもの、軟部組織の張っぱり応力が強すぎて起こるものなどがあるが、ほとんどは筋肉と靭帯の問題である。小鍼刀は、緊張したり攣縮した筋肉や靭帯を弛緩させることで治療する。関節周囲の筋肉や靭帯付着部に発生する骨増殖(骨棘)は、大部分は軟部組織に原因があるので小鍼刀は非常に効果がある。
圧応力が高すぎるために発生した骨棘は、小鍼刀では治療できない。それは整骨の問題で、小鍼刀では関節を元の位置に戻して力のバランスを回復させることができないからである。小鍼刀は軟部組織の引っ張り応力が強すぎるために発生した骨棘を治療できるだけである。それに関しては小鍼刀で力の平衡を回復でき、動態平衡を回復させる。だから小鍼刀は局部の骨増殖(あるいは骨棘)を治療する効果的な方法である。

三、滑液包炎
滑液包は非常に多い。それは筋肉と関節の運動に必要な潤滑液を供給する器官である。
滑液包が急性や慢性の損傷を受けると、滑液包が閉鎖されて包内にある潤滑液の排出障害が起こり、滑液包が膨らむため怠くて腫れぼったい、痛み、運動障害などの症状が発生する。極度に膨張すると周囲の神経や血管を圧迫して、痺れや筋肉の萎縮などが起こる。
こうした病変に対して当り前の治療をしても効果がない。小鍼刀を使って塞がった滑液包に数ケ所ほど穴を穿けてやれば、すぐに効果が現れる。

四、四肢や体幹の損傷による後遺症
四肢や体幹の損傷による後遺症とは、治療によって急性症状がなくなってから100日以上経過しても、なお機能障害や筋肉萎縮が残っているもので、骨や筋肉の損傷などの併発症がないものに対して、小鍼刀を使って治療できる。しかし他の治療法を併用する場合もある。筋肉が萎縮して再生能力がなくなってしまった場合には、小鍼刀療法もあまり効果がない。

五、骨化性筋炎の初期(筋肉や靭帯の石灰化を含む)
骨化性筋炎に対する小鍼刀の適応症は、骨化で完全に硬直する前、つまり筋肉にまだ弾力性が残っている場合にのみ小鍼刀治療ができる。しかし治療時間は長くかかり、一般に2カ月ぐらい治療しなければならない。骨化性筋炎の原因は骨増殖と同じで、筋肉や靭帯の引っ張り応力が強すぎるために起こり、正常な運動機能を制限する。

六、各種の腱鞘炎
小鍼刀による各種腱鞘炎の治療は、とても速効性があり、特に狭窄性腱鞘炎、足根管症候群、手根管症候群などでは特殊な治療効果がある。ただし薬物を併用する場合もある。

七、筋肉と靭帯の蓄積性損傷
筋肉や靭帯の蓄積性損傷に対する小鍼刀治療では、慢性的な疾患については治療効果が優れているものの、急性のものでは治療効果がやや劣る。

八、外傷性筋痙攣と筋緊張(脳障害によらないもの)
外傷性の筋痙攣と筋緊張は、臨床症状が極めて複雑である。あるものはそれだけで一つの疾患となり、あるものは疾患中で症状の一つであったり、潜在的な症状であったりする。筋痙攣と筋緊張は、他の疾患に引き続いて起こる、きわだった症状である。それが起こった原因をはっきりさせ、小鍼刀で治療すれば、筋痙攣と筋緊張にすぐに効果が現れる。

九、手術による後遺症
四肢などに切開手術すると、関節周辺では特に、腱鞘の狭窄や筋膜、筋肉、靭帯、関節包の拘縮などが起こりやすく、瘢痕癒着して機能障害が発生する。これらは非常に頭を悩ませる後遺症ではあるが、小鍼刀を使って非観血的松解術をすれば、優れた効果がある。

十、病理性損傷の後遺症
病理性損傷とは、ある種の疾患によって軟部組織の変性拘縮、瘢痕、癒着などが起こった疾病である。たとえば骨髄炎の癒合やリューマチ性関節炎による関節の屈伸制限、軟部組織の変性拘縮、瘢痕、癒着などにも、小鍼刀は優れた効果がある。特にリューマチの中期や末期では、こうした変性によって肢体が変形するが、変形してしまったものには今まで解決方法がなかった。しかし小鍼刀なら解決できる。

十一、骨幹骨折の変形癒合
骨幹骨折の変形癒合は、機能に影響を与えたり、腫れがひかなかったり、筋肉が萎縮したり、痺れや痛みがあって治らないものである。癒合した部分を切断し、もう一度整復し直して固定しなければ変形は直らない。普通は切開手術をするが、傷口が大きく、軟部組織も大きく損傷され、四肢に力が入らなくなるなどの後遺症がおきやすい。伝統的な中医治療では三角木を変形癒合した部分に当て、手で折ってから整復治療する。この方法でも軟部組織を傷付けやすく、また健康な部分を折ってしまって、切断すべき個所はそのままの状態で残っているなどということも起こりやすい。もう一度切断したい場合、小鍼刀を使って非観血に骨を切れば、二つの治療法の欠陥を解決できる。切断すべき部分を正確に切断でき、周囲の軟部組織をあまり傷付けないので機能回復に有利である。関節周囲の骨折や関節内部の骨折変形癒合にも、小鍼刀の非観血的截骨を使えるが、成功率は60%にいたらないので適応症としていない(10図)。
刺入点
仮骨 /
\ /






10図 上腕骨幹骨折による変形癒合
十二、小鍼刀療法の禁忌症
小鍼刀療法の禁忌は6つあるので、よく覚えておかなければならない。
1.発熱症状のある患者。
2.ひどい内臓疾患の発作期。
3.施術部位に皮膚の感染があったり、筋肉が壊死しているもの。
4.施術部位が赤く腫れていたり、灼熱感があったり、深部に膿瘍がある場合。
5.施術部位に重要な神経や血管、臓器があり、施術により傷付ける可能性のある。
6.血友病患者。
以上6つの状況があれば、たとえ小鍼刀療法の適応症であっても治療してはならない。
また極度な虚弱体質や高血圧患者でも、小鍼刀治療をしないほうがよい。

第七章 小鍼刀の操作方法と注意事項

小鍼刀は独特な使用方法と操作方法があり、また注意すべき点もある。それによって治療効果が保証でき、間違いも起こらない。
厳格に無菌操作をしなければならない。小鍼刀はオートクレーブで消毒するか煮沸消毒し、切皮する皮膚はヨードチンキで消毒したあとアルコール綿花でヨードチンキを拭き取り、さらに消毒済みの穴を開けた小さな布を被せる。

一、刺鍼の四行程
1.刺入点を定める:病変部分を明らかにし、その部分の解剖構造をはっきりさせたあと、切皮部位にメチルバイオレットで印し、小さな無菌ホール布を被せる。
2.方向を決める:大血管や大神経、そして筋肉線維の走行が、刃と平行になるようにし、刃で刺入点を圧迫する。
3.加圧分離:2までが終わったら、右手の親指と人差指で鍼柄を摘み、ほかの3本の指で鍼体を支えて少し圧を加える。すると刺鍼点が凹むが、このとき重要な血管や神経、そして筋肉線維の走行と刃が平行になるようにする。このようにすれば神経や血管は刃の両側に分離され、切断する恐れはない。
4.刺入:押し続けて硬いものを感じたとき、刃先の下の皮膚は、すでに骨の近くまで押されている。そこで少し加圧すれば切皮できる。切皮が終わった瞬間、刺入点の凹みは消え、神経や血管は鍼体の両側の隆起した部分にある。このときは必要に応じて操作する。
これを四歩規程と呼ぶ。つまり小鍼刀を刺入するときは、必ずこの四つの段階を厳守しなければならず、一つもおろそかにできない。刺入点を定めることを定点と呼ぶが、治療効果は、まさに定点の正確さにかかっている。定点は、病因の病理を的確に診断し、いかなる方法を使うか、また刺鍼部位の解剖構造を立体的にミクロ的に把握してから定める。方向を決めることは定向と呼び、刺鍼部位の解剖構造を正確に把握しているという前提をもとに、いかなる経路で安全に刺入できるか、どうすれば神経や血管、重要な臓器を避けられるか検討しておこなえば失敗がない。加圧分離は、表層の神経や血管を避ける方法の一つだが、それにはさらに多くの技法がある(具体的には施術の章節で細かく述べる)。この3つの準備段階を終えて、やっと刺入できる。刺入時には、右手の親指と人差指で鍼柄を摘み、残りの3本で刺入点周囲の皮膚を支えて、鍼が深く入り過ぎて深部の神経を損傷したり、血管や臓器を損傷したり、あるいは病巣部を通過してしまって健康な組織を傷付けることがないようにする。

二、小鍼刀の手術八法
小鍼刀の治療での操作方法は複雑であったが、臨床治療の結果、八つの方法にまとめられた。
1.縦行疏通剥離法:癒着瘢痕が筋腱や靭帯の付着部にあるとき、刃を筋肉や靭帯の走行と平行に患部に刺入し、刃先が骨と接触したとき、刃の方向に前後させる。付着部の大きさにより、いくつかの線に分けて動かす。横行剥離はいけない(11図)。



長橈側手根伸筋付着部


/ |
/ |
/ 長橈側手根伸筋
縦行疏通剥離をおこなう個所
上腕骨外側上顆の縦行剥離の図
11図 小鍼刀による縦行剥離術

2.横行剥離法:筋肉あるいは靭帯が骨と癒着している場合、刃を筋肉や靭帯の走行と平行に患部に刺入し、刃先が骨に接触したら、筋肉や靭帯の走行と垂直に動かして引き剥がす。筋肉や靭帯を骨からすくい上げて、鍼下が緩んだと感じれば抜鍼する(12図)。

前脛骨筋 横行剥離によって正常な位置に復帰した筋肉

\ |




骨と筋肉の癒着部分

12図 小鍼刀による横行剥離術

3.切開剥離法:軟部組織どうしが互いに瘢痕癒着している場合。たとえば筋肉と靭帯、靭帯と靭帯などが互いに瘢痕癒着していれば、刃を筋肉や靭帯の走行方向と平行にして患部に刺入し、お互いの癒着や瘢痕を切開する(13図)。

筋肉と筋肉の癒着の切開剥離の図
筋肉と筋肉の癒着部分





切開剥離によって正常な位置に復帰した筋肉

13図 小鍼刀による切開術

4.?磨削平法:骨棘が関節の縁や骨幹にでき、しかも骨棘が大きい場合である。刃を
骨棘と縦軸になる垂直方向に刺入し、刃先が骨棘に当ったら、骨棘先端部や尖った部分を
削り取って平らにする(14図)。

膝関節の骨棘






膝関節の骨棘先端を削り落とす

14図 小鍼刀による 磨術

5.瘢痕刮除法:瘢痕が腱鞘壁や筋肉付着部の筋腹にあった場合、小鍼刀で削り落とせる。まず軟部組織の縦軸に沿って数回切り離したあと、切り離した部分で2~3回前後に動かす。鍼下が柔らかくなったら瘢痕が砕けているので抜鍼する(15図)。

-------腰背筋膜




瘢痕で硬くなった部分---- ---中臀筋




-----大臀筋
筋肉の瘢痕は切り離されて削られた

15図 小鍼刀による瘢痕刮除術

6.骨痂鑿開法:骨幹が変形癒合して機能に影響するものは、小鍼刀で数ケ所に孔を穿けたあと、手法を使って切断してから整復する。小さな仮骨ならば小鍼刀の刃を、骨の縦軸に対して垂直で仮骨に刺入し、骨折の間隙や両骨の間隙を2~3鍼ほど穿てば分離する。大きな仮骨なら同様の操作を7~8回おこない、手法を使って切断するが、この場合は仮骨を小鍼刀で弱くしてあるため、健全な骨を折ることはありえず、仮骨の切断に必要な部位のみ切断する(16図)。

鍼孔を穿けた個所
仮骨 /
\ /





16図 小鍼刀による仮骨鑿開術

7.通透剥離法:広範囲にわたる癒着では、一つ一つ剥離するわけにはゆかない。癒着した部分に数ケ所刺入するが、刺入点は筋肉と筋肉、あるいは他の軟部組織と隣り合う間隙を選んで刺入する。鍼が骨と接触したら、軟部組織が骨に付着している部分以外、すべて軟部組織を骨から引き剥がす。また軟部組織間の癒着も前後に動かして剥がし、瘢痕も切り離す。Ⅰ型小鍼刀の鍼体は細いので、こうした目的に適している(17図)。

複数の筋肉が癒着 刺入点 回外筋
している部分 | |
| | |
| | |
前腕後部の筋肉
| | |
| | |
短橈側手根伸筋 長橈側手根伸筋 腕橈骨筋

17図 小鍼刀による通透剥離術

切割筋線維法:どこかの部 大臀筋 大臀筋痙攣
分の筋肉線維が緊張したり痙 |
攣すると、難治性の痛みや機 |
能障害が起こる。その場合、 |
刃を筋肉線維と垂直に刺入し ||
、緊張したり痙攣を起こして |
いる筋線維を少し切断してや |
れば、すぐに症状が緩解する |
ことが多い。この方法は、手 痙攣したり緊張している筋線維
足や腰背痛の疾病治療に広く
使われる(18図)。 18図 小鍼刀による筋線維の切割術
抜鍼後はしばらく鍼孔を圧迫し、出血が止まるまで待つ。しかし普通は出血しない。
抜鍼は迅速におこない、抜鍼したら無菌ガーゼで少し圧迫する。
小鍼刀では麻酔は必要ない。それほどの痛みはなく、一般に使われる毫鍼と鍼感は大差ないが、怠さや腫れぼったさ、力が抜ける感じがある。しかし深部では筋肉が特に厚いので、40mgのプロカイン局部麻酔をしてもよい。陳旧性の骨折を整復し直す場合には、麻酔が必要である。
以上で紹介した八法は、慢性軟部組織損傷疾患と骨折の変形癒合に対して使う。そのほかの疾患に使う場合には、さらに多くの手術があるが、それは本諸で紹介する内容ではない。

三、小鍼刀の刺入路
小鍼刀の刺入路とは、非観血的手術の刺入路である。安全で効果的な手術をおこなうには科学的な刺入路を使わなければ目的を達成できない。非観血的手術の刺入路は比較的難しい問題である。それは病変部の正確な位置に基づいて決定するが、この定位は平面的なだけでなく、立体的な定位でもある。たとえば橈骨と上腕骨で作られる肘関節滑液包炎の治療では、われわれが体表の平面的な定位だけを取っているわけではない。上肢を伸ばした状態で肘窩横紋の橈側端から約1.5cmの位置であり、さらに表層は腕橈骨筋で尺側を被われており、上腕二頭筋腱が深部にあり、橈骨粗面の前面であることを知らなくてはならない。その内側の中層には橈骨動脈と橈骨静脈があり、正中神経が橈側遠端に向かって通っていて、上腕二頭筋腱末端の尺側の一角は、橈骨動脈と橈骨静脈を被っている。橈骨動脈と橈骨静脈の尺側は正中神経である。上腕二頭筋腱の橈側縁には、さらに橈側反回動脈と橈骨神経の深枝、そして浅枝がある。このように正確に位置を定めたうえで、われわれは安全で科学的な刺入路を選び、安全で効果的な手術がおこなえる。当然ここでは多くの技法の問題がある。しかし技法は正確に刺入路が決定しなければ発揮できない。
非観血的手術の刺入路は、さまざまな疾患に対する一般的な刺入路であることもあり、また特殊な疾患に使われる特殊な刺入路であることもある。本節で述べる刺入路は整骨で使われる刺入路であり、そのほかの疾患で用いられる刺入路は本書の述べるところではない。
1.一般的刺入路
整骨分野の一般的刺入路は、おもに慢性軟部組織損傷疾患の治療に使われる。
①定点、定向、加圧分離、刺入の四歩規程は、整骨疾患で不変的に使われる刺入方法である。刺入点を定めて、刃を置いたら(刃を施術部位の神経や血管の走行方向と平行にする。神経や血管のないところでは、筋肉線維の走行方向と平行にする)、刃に適当な圧力を加え、皮膚を破らないが体表が凹む程度にする。こうすると刃の下にある神経や血管が刃の両側に押される。さらに押して鍼を体内に刺入すると、筋肉や皮膚の弾力性によって筋肉と皮膚は隆起して長方形の凹みは消失し、神経や血管も鍼の両側に押し込まれる(19図)。
この方法を使えば神経や血管は逃げるので、健康な組織は損傷されることなく鍼を体内に刺入できる。
定点 加圧分離 刺入








19図 小鍼刀の刺入方法

②腱鞘炎治療の刺入路
刺入路①の方法で刺入し、腱鞘の外壁(骨から離れた側の腱鞘壁)に刺入したら、さら
に筋腱を貫き(刃は筋肉線維の走向と平行なので、筋線維を傷付けることはない)、腱鞘
内側壁(骨と接する腱鞘壁)に到達させたあと手術をする。つまり縦に癒着を剥離すると
か、硬結(瘢痕組織など)を切り離すなどの操作をする(20図)。









20図 腱鞘疾患治療の刺入路


---小臀筋

梨状筋の体表投影----

----梨状筋



内閉鎖筋---


21図 表層の投影図による深層組織治療の刺入路
③深層組織の刺入方法
深層の組織を治療するには、まず深層組織が体表に投影する部位を定めたあと、病変部位を捜し、病巣を被っている表層の各組織(神経や血管、筋肉や靭帯など)をはっきりさせ、表層組織に基づいて①の方法で刺入する。病巣に達したら鍼尖をグルッと回し、刃を病巣の神経や血管、あるいは筋肉線維の走向に平行にし治療操作をする(21図)。
④骨突起を目印にした刺入路
これは体表から触知できる骨突起、たとえば烏口突起、橈骨茎状突起、関節突起、四肢の内顆と外顆、足首の内踝と外踝などを目印にして、病変組織の位置を定めたり、刺入路の参考としたりする。骨突起は筋肉や靭帯の付着部であり、慢性軟部組織損傷の好発部位でもある。このような骨突起に付着している軟部組織の病変は、刺入路①の方法で切皮してから、まっすぐ骨まで刺入して操作する。たとえば腱鞘の病変では、腱鞘の刺入方法に基づいて操作する。骨突起周辺にある滑液包の病変ならば、滑液包の立体的部位に基づいて、まず刺入路①の方法で刺入し、滑液包を貫いて滑液包の対側にある内側壁(骨に近い側の滑液包の内壁)に刃先を到達させる。滑液包を通り過ぎてはならない(22図)。


長母指伸筋腱-----


短母指伸筋腱-----


長母指外転筋-----

-----伸筋支帯

22図 骨突起標示による刺入路

 ⑤肋骨を目印とした刺入路
胸背部の疾病治療では、肋骨は筋肉 肋骨-----
の内側にあるものの、鍼を表層に刺入
すると、すぐに肋骨に達する。そのと 肋間静脈----
きは肋骨を基準にする。胸部の慢性軟 肋間動脈---
部組織損傷が肋骨表面より表層でなく 肋間神経----- ---病変癒着部
肋骨の上下にある場合、刃先を病変部 神経筋枝---
からもっとも近い肋骨上か肋骨辺縁に 内肋間筋---- ---外肋間筋
刺入し、さらに刃先を病変部に移動さ
せる。このように術者が見当を付け、 神経と血管の側枝<
ほどよい深さを把握していれば刃先が
胸腔内に入ることはない(23図)。 23図 肋骨標示による刺入
⑥横突起に基づいた刺入路
脊椎の両側にある、頚、胸、腰部の慢性軟部組織損傷疾患の治療では、横突起を基準にする。刺入路①の方法で刺入し、刃先が横突起に当ったところで刃先を病巣部に移動させて治療する。このようにすれば術者は見当が付き、刃先をコントロールして深度も把握でき、胸腔や腹腔に刺入することはないし、また頚椎横突起の前側にある重要な組織を損傷することもない。注意することは、脊柱付近の軟部組織損傷疾患では、すべて背側から刺入する。絶対に前側から刺入してはならない(24図)。

頚部
癒着病変部---


椎骨動脈---- 横突起




24図 横突起標示による刺入

⑦軟部組織の順序による刺入路
病巣が複数組織の間にあるときは、組織の順番をはっきりさせ、下の組織に入るごとに、その層の組織の神経や血管、筋肉線維と平行になるように刃の向きを変え、徐々に深層に刺入してゆけば、健康な組織を傷付けることなく鍼尖が病巣に到達する。注意すべきことは、刃が病巣部を通過しないこと。通過してしまえば病変組織で刃による操作ができないばかりか、深部にある健康な組織を刃で掻き回してしまい、効果がなかったり、ひどい場合では健康な組織に傷を残してしまう(25図)。


三角筋下滑液包


三角筋下滑液包\


三角筋--

三角筋


25図 組織の順序に基づいた刺入路
2.特殊刺入路
特殊刺入路は、特別な個別の疾患に対する刺入方法であり、多くの疾病には使えない。
⑧手根管症候群治療の刺入路
手根管には9本の筋腱と神経および静脈が通り、掌側面は屈筋支帯に被われ、しかもこの靭帯は厚くて丈夫である。屈筋支帯を緩めれば手根管症候群は治り、しかも屈筋支帯の強度は弱まることがなく、屈筋腱を支える働きも保持される。安全な手術をおこなうには特殊な刺入方法を使う。まず患者に拳を握らせて手首を屈曲させると、手首に3本の筋腱が現れる。橈側の1本は橈側手根屈筋腱、尺側の1本は尺側手根筋腱、この2本の筋腱の内側縁が遠位腕関節横紋と交わる二つの交点が、屈筋支帯の近位辺縁の両端である。橈側と尺側手根屈筋腱の内側縁、そして遠位腕関節横紋の二つの交点を遠端に2.5cm移動させたところが、屈筋支帯の遠位辺縁両端の内側である。この4点が屈筋支帯の施術部位で、深部にも重要な神経や血管がない。そこの皮膚に刺入して屈筋支帯の両側両端の施術部位に到達させ、靭帯を緩める(26図)。
⑨手法で表層の組織を推し分
けて、直接深層に刺入する方法
これは腕橈関節滑液包炎の治
療に使われる。腕橈関節滑液包
は腕橈骨筋上端の深部に位置し
刺入点------- -----刺入点 ているが、深層には多くの神経
\ / や血管がある。安全に刺入する
ため、手法を使って腕橈骨筋を
遠位腕関節横紋--- 開き、左親指で圧迫して深層の
神経や血管を両側に推し分け、
近位腕関節横紋--- ----尺側手根屈筋腱 刃先を左親指の爪に密着させな
橈側手根掘筋腱--- がら刺入する(刃と爪面は平行
にする)。こうすれば上腕二頭
26図 体表の特徴に基づいた刺入図 筋腱を貫いて腕橈関節滑液包に
達し、操作できる(27図)。
⑩非観血的骨切りの刺入路
上腕二頭筋-- 陳旧性骨折の変形癒合治療も特殊な刺入方
法を使う。皮膚から骨面までは刺入路 の方
尺骨動脈 法で刺入し、それからは1点3孔の刺入方法
\ を使う。皮膚には一つしか鍼孔がないが、骨
--正中神経 には太さによって3つや4つ、あるいは5つ
の穴を穿つ。この方法は軟部組織の構造を損
傷しないので、軟部組織構造の組織形態を完
全に保ち、再度の整復による機能回復を保証
腕橈骨筋/ するので重要な意義がある(28図)。
以上で十種の刺入方法を簡単にまとめた。
27図 浅層組織を推し分けて深層に刺入 ここに挙げた十種の刺入路は、大ざっぱにまとめただけなので、それぞれの疾患については、さらに説明が必要である。しかし、今まで挙げているものは最も重要で基本的な刺入路である。それぞれの刺入路には二つの角度の問題がある。一つは刃先と神経、血管、筋線維、肢体の縦軸方向との夾角、そしてもう一つは鍼体と施術部位の体表、あるいは骨平面との夾角。この二つの角度は、それぞれの施術時で、はっきりさせなければならない。もちろん中篇で、それぞれの疾患について具体的な治療法を細かく解説する。
また施術において刃先と鍼体の角度を変更するとき、方向をはっきりさせなくてはならない。でないと失敗する。

四、小鍼刀操作の鍼感
小鍼刀の操作時には、安全のために正確に刺入しなければならないが、刺入路をしっかり把握することのほか、鍼感を知ることも正確に安全に操作する上で重要である。
小鍼刀は四歩規程に基づいて切皮し、病巣部が表層にあれば深度は達している。しかし病変が深層にあったり筋肉の厚いところにあれば、切皮のあと深部に刺入しなければならない。それが達したかどうかは鍼感によって判断する。刃先が組織の間隙にぶつかっても患者は何も感じない。血管や正常な筋肉にぶつかれば患者は痛みを訴え、神経にぶつかったら痺れや触電感を訴える。そのときはすぐに刃先を引き上げて1~2mm移動させ、引き続き刺入して必要な深度まで、つまり病巣部まで刺入して小鍼刀の操作をする。病巣に刺入すると患者は怠くて腫れぼったい感じを訴えるが、痛みや痺れ、触電感などはない。治療中に痛みや痺れ、触電感があった場合には、ただちに刃の方向を変えなければならない。
怠い、腫れぼったい、萎えるなどの感覚は、小鍼刀の正常な鍼感である。そして痛みや痺れ、触電感は異常な鍼感である。もし異常な鍼感があったなら、それ以上刺入できないし、操作もできない。何の感覚もなければ小鍼刀が組織の間隙にあり、病巣まで達していないのだから、弛緩や剥離、切り離しなどの操作は必要ない。しかし一部の病変がひどくて麻痺した病巣では、すでに無感覚になっており、刺入や操作においても感覚がない。しかし無感覚であれば、一般にあまり効果がない。

五、小鍼刀の刺入方法
1.軟部組織疾患の治療
刺入点を捜す
a.小鍼刀療法の適応症ならば、一般に患部表面で最も敏感な圧痛点を刺入点とする。
b.その筋肉を牽引して、最も痛みがはっきり起こっている部分を刺入点とする。
c.その筋肉が本来おこなえる他動運動をさせて、もっとも痛みがはっきり起こった部分を刺入点とする。
d.特殊な症例を除き、その疾患特有の刺入点から刺入する。
刺入段階
a.刺入点の皮膚を消毒したら、刃先を刺入部の神経や血管、筋肉の縦軸方向と平行に当てる。
b.刺入点付近に大きな神経幹や神経枝、大きな血管幹や血管枝があるときは、刃先を神経や血管の走向と平行にして刺入する。この場合は筋肉線維の方向を考えない。
c.刃先を皮膚に当ててもすぐに刺入せず、鍼柄に圧力を加えて皮膚を凹ませ、神経や血管を逃がしてから切皮する。刃先が硬く感じたら、刃先が骨に近づいている。このとき神経や血管、筋肉は刃先と骨面に挟まれて、刃の両側に推しやられている。そこでさらに圧を加えて切皮する。いったん刺入したらできるだけ引き上げない。もし鍼を引き上げれば鍼下が陰圧になるため、逃げた血管や神経が再び刃の下に戻ってくる。病巣に達したら必要な操作をする。
d.筋肉の特に厚いところでも、できるだけ刺入点を大きく凹ませてから切皮する。
2.骨を穿つとき
a.X線検査や触診をもとにして、刺入点を骨折していた線上に合わせる。
b.小さな骨であれば一つの刺入点を取る。その場合は骨折線の中点である。
c.大きな骨であれば、2~3ケ所の刺入点を取らなければならない。
刺入段階
a.軟部組織疾患治療の刺入段階a,b,c,dと同じである。
b.刃先が皮膚を貫いて骨に当ったときも引き上げてはいけない。刃先を骨面上で動か
して、刃と骨折線が平行になるようにし、で
きるだけ刃先が骨折線上にくるようにする。
c.前の段階まで終えたら、鍼柄をハンマー
で叩き、刃先が対側の骨面に達したら直ちに
鍼を後退させる。ただし刃先を軟部組織まで
戻さなくてよい。刺入した骨表面で止める。
また鍼体を骨折線に沿わせて、さっきの孔と
30度の角度で孔を穿つ。再度同じように移
動させ、孔をあけたら抜鍼する。一般に一つ
の刺入点からは骨に2~3孔しかあけられな
い。大きな骨の場合には、2~3ケ所の刺入
点を取り、6~9孔あける。こうすれば手法
で骨を切断できる(29図)。
29図 小鍼刀の刺入点三孔骨切り図 d.切断した新しい骨折を整復し、変形を直
して固定し、漢方薬を湿布したり服用する。
六、暈鍼の予防と処理
小鍼刀操作でも刺鍼治療時のように暈鍼がある。これは二つの原因があって発生する。一つは患者が鍼を恐がって精神が緊張している場合。もう一つは空腹だったり身体が弱っている場合。小鍼刀治療では、術者は患者に必要な説明をおこなって、心配を恐怖感をなくしておく。
親切な人は刺鍼点に麻酔しておけばよいと提案する。しかし小鍼刀による軟部組織損傷後遺症の治療では、一般に麻酔は必要ない。その理由は次のようなものである。
1.小鍼刀による軟部組織損傷後遺症の治療は、余り痛くない。怠いとか腫れぼったいという程度で、鍼感は刺鍼治療で強刺激の操作をしたときのように大きくない。だから一般の患者(老若男女を問わず)なら我慢できる。また刺激する時間も刺鍼治療のように長くない。刺鍼治療では少なくとも1分以上強刺激を続けなければならないが、小鍼刀療法では熟練さえしていれば怠いとか腫れぼったい感じのピークは30秒以内で、そのときは操作が終わっている。だから麻酔する必要はない。
2.小鍼刀療法は非観血的手術の一つである。安全を確保するため切皮するとき、特殊な方法で刺入するとき以外は、刺入している部分が筋肉か血管か、それとも神経か、靭帯か、組織の間隙かを鍼感によって判断しなければならない。もし局部麻酔をしたならば、刺入したときに感覚がないので、鍼尖が現在どんな組織に当っているのか判断できない。そうなると絶対安全な操作ができなくなり、重要な組織を傷付ける恐れがあるので局部麻酔はできない。
小鍼刀操作では、術者は知識を深め操作法に熟練して、切皮と病巣部での操作をてきぱきとすばやくおこない、患者に苦痛を与えないようにする。
暈鍼を防止するには、術者が事前に患者に説明して緊張や不安を取り除くと同時に、軽く、すばやく、巧みな操作ができなくてはならない。患者と和やかに談笑しているうちに治療を終えていなければならない。
また患者の体が弱ったり情緒が不安定なときは治療せず、落ち着いてから治療する。このようにすれば暈鍼の発生を大幅に減らすことができる。
万一暈鍼が起こっても心配することなく、速やかに処理をする。
暈鍼症状は、頭がぼんやりする、心臓がどきどきする、顔面蒼白、吐き気、動悸が速くなる、血圧低下などである。
処理方法
1.ただちに患者をベッドに寝かせ、保温に注意する。ふつう2~3分で血圧が元のように上昇し、顔色も赤味がさして正常になり、目まいも治まって気分も落ち着き、吐き気も起こらなくなって15分ぐらいで正常に回復する。
2.まれに上のような処置をしても効果のないものもある。そのときは直ちに人中穴、内関、外関穴に指圧すれば回復する。
3.上のような処置をしても効果がなかったものには、すぐに漢方薬や薬物治療によって一般的処置をおこなう。このような状況は極めて稀で、私は小鍼刀療法を十数年おこなっているが、未だにそのような状況になったことがない。しかし心得ておくべきだろう。

七、小鍼刀の維持と補修
小鍼刀は金属でできている。金属を長いこと使用していれば、金属疲労によって折れる可能性がある。そのため折鍼を防止しなければならない。
1.使う前に鍼体を細かく検査する。かすかな裂け目や傷があれば破棄する。
2.2年ほど使った小鍼刀は破棄する。
3.小鍼刀の刃先が骨組織にぶつかると丸くなる。消毒して使う前には尖端を検査し、丸くなっていれば油砥石を使って研ぎ、消毒してから使う。

八、小鍼刀の無菌操作
小鍼刀操作では、筋腱や関節の間隙、軟部組織に深く刺入して、深部で切断や剥離などの操作をおこなう。そのため一旦感染すれば深部に膿胞ができるので、無菌操作がマニュアル化されている。
1.治療環境:条件の整った環境。室内には紫外線消毒器、手術台、治療台、そして治療ベッドのシーツは常に取り替え、洗って消毒する。
2.刺入部位の皮膚は十分に消毒する。まず刺入点を定めたら、メチルバイオレットで印を付け、ヨードチンキで皮膚を拭いた後、さらに75%アルコールで拭き取り、無菌ホール布で被う。そしてホール布の穴の中央から刺入する。
3.術者は施術前に必ず手を洗う。まず石鹸とブラシで手の裏表や爪の間を洗い(術者は爪をきれいに切っておく)、きれいな水で洗った後、0.1%の臭化ベンザルコニウム液に5分間浸し(あらかじめ洗面器を用意して準備しておく)、アルコール綿花で手を拭く。
4.器具の消毒:小鍼刀は洗った後でオートクレーブで高圧殺菌する。一点に1本の小鍼刀を使う。1本の小鍼刀で何ケ所も使ってはいけない。器具は機械消毒液に30分浸してから使用する。操作に使う器具は、すべてオートクレーブで消毒する(金槌、外固定器、小鍼刀など)。
5.治療中は、術者や助手は消毒マスクと頭巾を被り、白衣を着る。助手がホール布や小鍼刀を手渡しするときは、常に無菌ピンセットを使い、決して汚さないようにする。
6.治療が終わったら、鍼孔を直ちに無菌ガーゼで被い、バンソコウで固定する。そして患者に3日以内は鍼孔を湯に浸さないように申し渡す。
7.小鍼刀を使って非観血的骨切りをおこなうときは、外科手術のマニュアルにしたがっておこなう。
8.非観血的骨切り整骨をしたあとは、抗生物質を3日間服用して、万一の感染に備える。

九、注意事項
1.大神経や血管を傷付けないように特に注意を払い、腰背部では深く刺入しすぎないようにする。
2.恐がっている患者や、衰弱している患者では、暈鍼やショックを予防する。
3.適応症と禁忌症をきちんと把握する。
4.折鍼と鍼尖の損傷を防止する。
5.小鍼刀は一般に2年使ったら新しいものに替え、継続使用はしない。折鍼防止は非常に重要で、一度折鍼すると大変で、容易には取り出せない。
小鍼刀で何回も剥離操作をしていれば、刃先が必ず丸くなったりめくれたりする。だから前もって鍼尖を検査しなければならない。丸くなったりめくれた刃先は、油砥石で研いでから消毒して使う。

第八章 小鍼刀の様式と品質

小鍼刀は、鍼と刃の二つの性能をもった新しい治療器具である。その様式と品質は、治療内容によって決まる。癒着を切り離したり、滞りを通らせたりしなければならないが、皮膚や肉は切らず、外科手術のような傷を残さず、また優れた治療効果がなければならない。こうした治療器具には、ある程度の精度が必要である。つまり鍼体は細くて硬く、弾力性に富み、刃先は小さくて鋭くないといけない。太ければ患者に苦痛を与え、治療でも損傷する。軟らかければ剥離できず、弯鍼する。弾力性がなければ折鍼する。医療事故の原因として、刃先が大きければ神経や血管は避けられず、健康な組織を傷付けてしまい、また関節の間隙に達するなど深部の治療ができない。刃先が鋭利でなければ骨棘を削れず刃先がめくれる。
小鍼刀療法は慢性軟部組織損傷や骨折の変形癒着を解決できるが、こうした疾患に対する病因と病理に新しい見解を持つとともに、メスと鍼という2つの治療作用を融合させて新しい治療器具である小鍼刀を作り出した。
こうした弁証的融合は、われわれに損傷の後遺症治療を打開する研究に有効で簡便な方法を提供した。このようなメスと鍼が融合した武器が、臨床治療で優れたそして安全で確実な作用を発揮するには、小鍼刀の製造技術がこうした要求を満たさなければならない。
ここに治療で必要な小鍼刀のいくつかのモデルを紹介する。同業のみなさんが研究し、絶えず改良されることを願う。
われわれが治療で使うのは、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型の3種類である。Ⅰ型は長さによって4種類あり、それぞれⅠ-1、Ⅰ-2、Ⅰ-3、Ⅰ-4としている。それぞれの形状と効能は以下に述べる(模式図を付ける)。
Ⅰ-1号小鍼刀は全長15cm、鍼柄の長さ2cm、鍼体の長さ12cm、鍼尖の長さ1cmで、鍼柄は平たい瓢箪形をしている。鍼体は直径1mmの円柱形、鍼尖はクサビ形で、先端は平たくなって刃がついている。刃の横幅は0.8mm、刃先は水平のものと斜めになったものの2種類があり、治療によって使い分ける。また刃先と鍼柄は同じ方向で平らになっており、鍼を刺入したあとで鍼柄の平らな面を見れば、刃先の平らな面を知ることができる。Ⅰ型小鍼刀は4種類あるが、みんな同じ作りで、鍼体の長さが違うだけである。Ⅰ-2の鍼体の長さは9cm、Ⅰ-3の鍼体の長さは7cm、Ⅰ-4の鍼体の長さは4cmである。次に図を示す(30図)。

↓ φ1↓ ↑
0.8 10 01R×79cr 6 8
↑ ↑ ↓
|10| 70 | 20 |
+-+-----------------------+-----+
| 100 |
+-------------------------------+
30図 Ⅰ-3小鍼刀モデル(単位mm)

Ⅰ型の小鍼刀は、いろいろな軟部組織を弛緩させたり、骨棘を削ったり、瘢痕を削った
りする。
Ⅱ型の小鍼刀は、全長12.5cm、鍼柄の長さ2.5cm、鍼体の長さ9cm、鍼尖
の長さ1cm、鍼柄はてっぺんが平らな瓢箪形で、鍼体は直径3mmの円柱形、鍼尖はクサビ形で末端に扁平な刃があり、刃先の横幅は0.8mmである。刃先と鍼柄の平面も同じ方向であり、刃先は平らである(31図)。
φ3↓
10 01R×79cr 12
↑ 0.8

|10|
+-+
| 25 | 100 |
+----+---------------------------+

31図 Ⅱ号小鍼刀のモデル

Ⅱ型小鍼刀は小さな骨の変形癒合に穴 Ⅰ------ Ⅰ-4
を穿って骨を切るときに使う。
Ⅲ型小鍼刀の全長は15cm、鍼柄の Ⅰ---------- Ⅰ-3
長さ3cm、鍼体長さ11cm、鍼尖の
長さ1cmで構造はⅡ型の小鍼刀と同じ Ⅰ------------- Ⅰ-2
である。
Ⅲ型小鍼刀は大きな骨の変形癒合に穴 Ⅰ---------------Ⅰ-1
を穿って骨を切るときに使う。
北京人民手術器械廠が作ったⅢ型6種 Ⅱ Ⅱ
類の小鍼刀Ⅰ-1、Ⅰ-2、Ⅰ-3、Ⅰ
-4、Ⅱ、Ⅲが右である(32図)。 Ⅲ Ⅲ

32図 3型6種の小鍼刀
中篇 各 論

小鍼刀の具体的な臨床応用には、だいたい二つの状況がある。一つは小鍼刀療法のみを使って治癒する疾患である。もう一つは小鍼刀療法と他の治療法を組み合わせて治癒できる疾患であるが、小鍼刀療法が治療において中心となるものである。小鍼刀以外の非手術方法を使わなくては治癒できない疾患、たとえば陳旧性の骨折変形癒合のような、小鍼刀を使って筋肉や靭帯を弛緩させ、癒着を切り離し、仮骨に穴を穿つなど、整骨治療に新たな方法が加わることによって治癒できる疾患などは、ほかの方法では治癒できない。
慢性軟部組織損傷疾患は範囲が広く、筋肉損傷(筋腱の損傷を含む)、靭帯損傷、筋肉腱膜損傷、筋膜損傷、滑液包損傷、腱鞘損傷、そして軟部組織損傷によって続発する関節損傷疾患など。そうした疾患は数十種にのぼり、それらを一つ一つ解説してゆけば膨大なものになる。それを簡単にするため、ここに人体の上から下の順序で、中心的な疾患から数十種を選び、6つの部分に分けて解説する。読者が一を聞いて十を知り、これを知って別の疾患も類推できるよう願う。数百種の疾患治療も、これらとほぼ同じである。

第九章 頚部

一、後頚靭帯の損傷
概説
後頚靭帯の損傷は、下を向いて仕事をする人達に多い蓄積性疲労によって起こった損傷である。急性外傷によって起こったものは少ない(33図と34図)。


後縦靭帯
--椎骨動脈 | 後環椎後頭膜
後頚靭帯----- | |

---後頚靭帯
棘間靭帯----- 黄色靭帯------
--前縦靭帯

--椎間関節 椎間板- ---棘間靭帯
第7頚椎----- ---棘突起
椎体--

33図 後頚靭帯 34図 後頚靭帯矢状切断面

局部解剖

後頚靭帯は頚椎棘突起全部から起こり、外後頭隆起と外後頭稜に止まり、三角形の弾力線維膜からできている。両側には頭板状筋や頚板状筋などがあり、多くの筋肉が後頚靭帯に付着する。その主な働きは頚が前に過度に曲がらないように支えることであるが、頭を左右に回したり後ろに伸ばしたり、他の筋肉によって後頚靭帯は引っ張られるため、極めて損傷しやすい。靭帯上に石灰化した部分があることが多い。
病因と病理
頭部の過度の前曲、高い枕を使っている、仰向けで寝たり下を向いて仕事を続けたりすると、後頚靭帯が過労となって損傷する。
後頚靭帯が損傷される部分は下位頚椎の付着部であり、外後頭隆起の下縁付着部や、後頚靭帯両側の筋肉付着部である。たびかさなる牽引性損傷により、その部分の靭帯が変性したり硬くなったり、石灰化している場合もあり、親指で触診すると弾発音がする。
急性の急激な力によって損傷された場合は、後頚靭帯に裂傷を負ったり変性している可能性がある。
症状
後頚部に怠くて腫れぼったい不快感があり、長時間テレビを見られない。長くなれば後頚部が怠くなったり腫れぼったくなったり、痛くなって耐えられない。また長時間下を向いた仕事はできない。眠るときも後頚部に不快感があり、寝返りばかりして眠れないこともある。
また後頚靭帯を損傷すると、一部の頚椎に位置異常が起こるので、現れる症状もさらに複雑になる。
また後頚靭帯に石灰化があっても、特別な症状のないものもある。またいかなる症状も現れないものもある。
診断
1.後頚部が痛くて不快なもの。
2.長期にわたって下を向いて仕事をしていたり、高い枕を使っていたなど過労歴があったり、頚部を過度に前に曲げたり、過度に回したりなどの外傷歴がある。
3.後頚靭帯の分布区域や付着部に圧痛点がある。
4.過度に前に曲げたり、後ろに反らせると後頚部に激しい痛みが起こる。
治療
①頚部を前屈する。
②もっとも敏感な圧痛点を捜す。
③小鍼刀の刃を、頚椎棘突起の頂点を結んだ線と平行にし、小鍼刀を頚部の皮膚平面と90度で垂直に刺入して、頚椎棘突起の頂上(下端)まで到達させる。棘突起の頂部(上端)までは達しなくてよい。後頚靭帯で数回ほど切開剥離したあと、2回ほど刃の側面で横に揺らしながら切れ目を広げる。病巣が外後頭隆起の下縁にあれば、小鍼刀の刃先の方向は替えず、鍼体を後頭骨下縁の骨平面と90度で垂直に刺入し、切開剥離したあと2回ほど刃の側面で横に揺らしながら切れ目を広げればよい(35図)。痛みが消えなければ、5日後に再治療する。
注意事項
①後頚靭帯上段の治療では消毒はもちろん、髪の生え際から刺入するので、その部分の
髪の毛を剃っておけば感染を防げる。
②後頭隆起の下縁に刺入するときは、鍼体と刺
入部分の骨平面が垂直になるように刺入する。そ
うしないと鍼が環椎付近や環椎後頭関節に入るの
で危険である。
症例
後頚靭帯 戴××、女、35歳:沐陽県東風印刷工場校正
グループ職工。頚部の痛みが2年以上続き、鍼灸
や理学療法をしてみたが効果がなかった。78年
35図 後頚靭帯の操作位置 2月にわれわれの骨科で診察した。診断は後頚靭
帯の損傷。後骨隆起下縁や第5頚椎頂部などに圧
痛がある。この2ケ所を同時に小鍼刀治療をおこなう。その晩に眠るとき、とても心地好く、翌日には症状がすべてなくなった。仕事を替えるように申し付け、一年後に調査すると、あれからずーっと調子がよく、少しも不快感がない。

二、胸鎖乳突筋筋腱炎
概説
この疾患は非常に多いが、ほとんど寝違いと診断されている。睡眠中に身体を起こしたときに発病する。寝違いは大ざっぱな診断で、どの筋炎であっても頚が痛ければ寝違いである。胸鎖乳突筋筋腱炎は寝違いに含まれる疾患の一つである。中医では風寒が筋肉を侵襲して頚項がこわばったと考える。また現代医学では筋腱の無菌性炎症と考える。しかしその実体は過労である。なぜ眠って起きたときに発病するのか?
疲労は筋腱を慢性損傷させるので、筋腱は絶えず修復される。昼間は頭部を頻繁に動かしているので筋腱は絶えず運動しており、血液循環はよくて代謝も速い。しかし睡眠中は頭部の動きは停止し、筋腱の血流が悪くなり、代謝が緩慢になる。加えて睡眠中の姿勢が悪かったりすると、胸鎖乳突筋の牽引損傷はひどくなる。また頚部が冷えれば筋腱は寒冷
刺激に遭い、血行はさらに悪くなって損傷した筋
腱の、壊死した細胞や滲出物が代謝されず、浮腫
が起こる(腫れる)。そして末梢神経を刺激して
発病する。
-----胸鎖乳突筋 現象面では新たに起こった疾患だが、実際には蓄
積性疲労によって起こった持病が触発されただけ
である。だから小鍼刀はこうした疾患に対しては
っきりした効果がある。
局部解剖
鎖骨-- 胸鎖乳突筋は胸骨体と鎖骨胸骨端から起こり、
乳様突起と後頭骨上項線に止まっている。その作
用は一側が収縮すれば頭を対側に回し、両側が収
縮すれば頭は後ろに倒れる。胸郭を引き上げて深
36図 胸鎖乳突筋の解剖位置 呼吸を助け、副神経と頚神経叢筋枝(C2、C3)
に支配される(36図)。
病理病因
いつも頚をねじるような動きをしている人、あるいは急に頭をねじったり、睡眠中の姿勢が悪かったり、頚を斜めにねじったりして胸鎖乳突筋を引っ張って損傷し、胸鎖乳突筋筋腱炎の蓄積性損傷を起こしたものである。
筋腱が疲労したあと、冷えたり再び引っ張ったりすると、局部の代謝障害によって浮腫が起こり、代謝物が蓄積すると筋腱を刺激して筋腱部に痛みが起こったり、痙攣する。
症状
ふつう睡眠から覚めて身体を動かしたときに突然発病し、頚をねじったりするときに制限されて回らず、こわばった感じがする。注意しないと頭をひねったときに頚に痙攣性の痛みが起こる。
診断
1.はっきりした外傷歴はないが、日頃から頭をひねったり頭を挙げたり、あるいは急に過度に頚をひねったり持ち上げるなどの疲労歴がある。
2.頚部の回転が制限され、頚が硬直している。
3.受動運動で頭を回したり、頚を伸ばしたりさせると、胸鎖乳突筋に痛みが起こったり痙攣する。
4.胸鎖乳突筋の付着部にはっきりした圧痛がある。
治療
①一側だけの疾患では、一側の乳様突起と上項線下縁の間、そして同側の胸骨体と鎖骨の胸骨端を治療する。両側ならば両側の乳様突起および後頭骨上項線下縁、そして胸骨体の両側と両側の鎖骨胸骨端に治療する。
②小鍼刀が骨膜に達すればよい。鍼体と施術部の骨面が90度となるよう垂直に刺入する。刃先の側面を胸鎖乳突筋の走行方向と平行に刺入し、まず縦に2~3回動かして剥離した後、2回ほど刃の側面で横に揺らしながら切れ目を広げたら抜鍼する。
症例
姜××、男、42歳:淮陰ロープ製造工場工員。79年2月に起床すると、頚部が動かせないと感じた。某病院で按摩してもらったが、逆に痛みがひどくなり、すぐに鍼灸治療を2日受け、少し軽くなった。しかし頚はやはり自由に動かせず、回せない。3月8日小鍼刀療法を受けにきて、右胸鎖乳突筋の筋腱炎と診断された。筋腱の両端部に一度治療すると、すぐに頭を動かせるようになり、3日後に治癒した。80年5月に再調査したが、ずーっと好調で不快感はない。

三、肩甲挙筋損傷
概説
肩甲挙筋のほとんどは急激な動作によって損傷される。たとえば上肢を急に過度伸展させ、肩甲骨を挙げて内上方にひねろうとすると、肩甲挙筋は急に命令を受けて突然強烈に収縮する。だが肩甲骨には他の組織も付着しており、多数が肩甲挙筋の急激な動きにシンクロナイズできず、肩甲挙筋だけが収縮して肩甲骨脊柱縁の内上角にある肩甲挙筋付着部が損傷される。起点が損傷されることも多いが、すべて頚の上部の4つの頚椎横突起部分である。
この疾患は大変多いものの、大部分は頚部損傷とか背痛、肩甲骨痛などとあいまいに診断されている。また頚椎症と肩関節周囲炎部分的痛みと診断されている患者もある。
局部解剖
肩甲挙筋は上部4つの頚椎横突起の後結節から起こり、肩甲骨脊柱縁の内側角上部に止まっている。作用は肩甲骨を引き挙げること、および肩甲骨を内上方に伸展させることである(37図と38図)

--板状筋


----肩甲挙筋 ---肩甲挙筋


小菱形筋--- -------小菱形筋



大菱形筋---
-------大菱形筋


37図 肩甲挙筋と菱形筋の位置 38図 肩甲挙筋と菱形筋の解剖位置

病因と病理
特殊な状況により、肩甲骨をすばやく上に引き挙げて、内上方に回さなければならないとき、肩甲挙筋は急激に収縮するが、肩甲骨に付く大多数は共同歩調が取れず(肩甲骨は異なる方向からの多くの筋肉によって制約されているため)、停止したものを肩甲挙筋だけで引き挙げることになって損傷する。
この筋肉の損傷はほとんどが筋腱部分にあるが、それは肩甲挙筋が付着している部分である。仕事や休憩に影響する。
急性期には肩甲骨内側縁の上部に腫れぼったい痛みがある。また頚部の上段が痛むこともあり、触られると嫌がる。安静と自己制動によっていくらか緩解し、慢性症状が残る。
症状
慢性期の症状は長引いて治りにくい。この疾患のほとんどは一側で、両側同時に発病しているものは少ない。上肢の伸展が制限され、肩甲骨内側上端が痛む。手を背中に回して痒いところを掻けなかったり、頚部の動きが制限される。頚上段一側に痛みがあり、体幹上段を伸ばそうとしない。
眠るときは健側を下にし、寝返りをするのが困難である。昼間は患側の肩を荷物を担いでいるように持ち挙げる。
診断
1.突発的な損傷歴がある。
2.肩甲骨内側縁上部と肩甲骨上角に圧痛があり、1~2ケ所ほど圧痛点がある。
3.上から4つまでの頚椎横突起に圧痛点がある。
4.上肢を伸展し、肩甲骨を挙上したり内転させたりしようとすると、激しい痛みが起こったり、その動作ができなかったりする。
治療
慢性期は小鍼刀療法の適応症である。圧痛点を捜し、肩甲骨辺縁から刺入するならば、鍼体と背中の平面を90度にして垂直で刺入する(伏臥位や座位では少し前に身体を曲げる)、刃先が肋骨面に達する深さに、刃の方向と肩甲挙筋の縦軸方向を平行にして刺入する。まず縦に切り離したあと、鍼体を斜めに傾けて肩甲骨平面と130度、背面と50度の角度となるようにする。刃先を肩甲骨辺縁の骨平面で縦方向に1~2回切開剥離したら抜鍼する。
刺入点は上の頚椎横突起である。患者を座位にして頭を低くさせ、横突起の先端部から切皮して横突起先端の骨面まで刺入し、刃を頚椎の縦軸方向と平行にして、まず縦に切って剥離し、次に刃の側面で横に揺らしながら切れ目を広げる。刃先は最初から最後まで横突起先端部の骨面上で動かす。
注意事項
小鍼刀は必ず肋骨面から上で動かすようにし(肩甲挙筋の止点を治療)、肋骨の間で動かしてはならない。肩甲挙筋の起点を治療するときは、必ず頚椎横突起の骨面で動かす。切皮したあと、ゆっくりと探りながら刺入し、目くらめっぽうで乱暴に別の部位に刺入してはならない。頚部は神経や血管が極めて多く、生命の中枢なので、そうした組織を傷付けないように細心の注意が必要である。
症例
王××、男、沐陽県組織部幹部。67年の文革期間に造反派が、彼に噴気式飛機や雁別翅(両腕を後ろに挙げさせられるかっこう)をさせ、彼はできるかぎり抵抗した。その晩から背中の右側が痛くなって眠れなくなり、漢方薬を飲んだり膏薬を貼ってよくなった。しかし右側の痛みは完全になくなったわけではなく、気候によって痛みがひどくなる。その後、十数年もいろいろな治療をしてみたが、結局治らなかった。81年にわれわれの骨科て診察し、右側の肩甲挙筋損傷と診断した。小鍼刀で右肩甲骨内側縁と上角に、3刀ほど一回治療すると症状はなくなり、2年後に調査するとまったく不快感はなかった。

四、頭板状筋損傷
概説
頭板状筋は第7頚椎の部分、止点では後頭骨上項線の部分が損傷されやすい。天秤棒を担いだりする人が、しばしばこれを患うが、天秤棒を担ぐと頭板状筋が緊張して牽引状態が続くからである。第7頚椎の付着部は損傷により器質化して瘢痕が増殖し、第7頚椎の部分が円く盛り上がる。これを天秤コブと中国では呼んでいる。この疾患に対して以前は有効な治療法がなかったが、小鍼刀は優れた治療効果がある
局部解剖
頭板状筋は胸椎の上部と第7頚椎の棘突起と後頚靭帯から起こり、後頭骨の上項線に止
まる。その作用は一側が収縮すれば頭を同側
に回し、両側同時に収縮すれば頭を仰向けに
する(39図)。
病因と病理
----頭板状筋 頭板状筋の上面に僧帽筋があり、下面には
菱形筋がある。頭部を仰向けにする主要な筋
肉の一つである。まさらに第7頚椎の部分は
頚と胸の境界であり、頭頚部が運動するとき
は第1胸椎を支点としているが、第1胸椎自
体の動きは少ない。頭頚部を頻繁に大きく動
かすため、第7頚椎に応力が集中する。その
ため日常の動きでも頭板状筋の第7頚椎付着
部は極めて損傷しやすい。
頭板状筋の付着部が損傷されても、頭頚部
39図 頭板状筋の解剖位置 にある他の筋肉によって、頭部は無理に左右
に回されたり後ろに倒されたりするので、損
傷した頭板状筋は安静に休めて修復されることがない。たとえ損傷した筋腱部が痛みを防ぐために制動状態となっても、筋腹部はやはり常に運動させられる。頭板状筋が一度損傷されると、それの修復と損傷の継続の二つのプロセスが同時におこなわれ、それによって瘢痕組織が大きく厚くなる。
症状
後頭縁の上項線の一側あるいは両側が痛み、または第7頚椎棘突起に痛みがあり、頭を回したり後ろに倒したりの動作が制限され、後頚部が硬い棒で支えられているような感じがあり、温湿布をすると後頚部が弛緩して頭が回る角度は大きくなるものの、付着部の痛みは残る。気候の変化によって不快感がひどくなる。
診断
1.外傷や疲労損傷歴がある。
2.第7頚椎棘突起や後頭骨上項線の一側や両側に圧痛がある。
3.手で後頚部を押し、頚部を下に圧して頭を低くさせる。そして患者に頭をもち挙げるように抵抗させると、痛みがひどくなる。
治療
①刺入部位を捜す。痛みや圧痛が第7頚椎にあれば、刃を頚椎の縦軸と平行に刺入する。第7頚椎棘突起の両側に達する深さに刺入して、鍼体と背中平面が90~80度の角度となるようにする。施術ではうつ伏せになるが、座位でもよい。患者をきちんと椅子に腰掛けさせて頭を低くさせ、上と同じ角度で刺入する。まず棘突起先端部の両側縁を頭板状筋の走行に沿って縦に剥離し、さらに棘突起の両側を数回ほど刃の側面で横に揺らしながら切れ目を広げたら抜鍼する。
②痛みや圧痛点が後頭骨上項線の一側か両側にあれば、同側か両側を治療する。鍼体と骨面の角度を90度にし、骨面まで刺入したら縦に剥離し、そして刃の側面で横に揺らしながら切れ目を広げたら抜鍼する。
注意事項
1.第7頚椎の部分は、棘突起の両側以上に深く刺入し過ぎてはならない。棘突起の根部以上に深く刺入すれば神経を傷付けたり、椎骨内部に入ったりするので危険である。
2.後頭骨上項線の部分では、刺入するとき小さな神経や血管を避けるようにする。
症例
陳××、女、39歳:靴の修理工。沐城東関居委会在住。第7頚椎の部分が痛みだして3年になる。ふだんは頭を低くできるが挙げられない。いろいろ治療をしたが効果がなかった。1980年2月に我々の骨科に来院した。頭板状筋疲労損傷と診断し、第7頚椎に小鍼刀で2回治療すると治った。1年後に再調査したが、まったく症状はなかった。

五、環椎後頭筋膜攣縮型頚椎症
概説
環椎後頭筋膜の攣縮により頚椎椎骨動脈の圧迫症が引き起こされることについて、以前では述べた人がいなかった。しかし臨床治療では、こうした疾患は決して少なくない。この疾病は長期にわたって下を向いて仕事をしたため環椎後頭筋膜が過労のため変性し、弾力性が失われて拘縮して後頭骨を牽引し、環椎と後頭骨との間隙が狭くなって椎骨動脈が圧迫され、さらに小後頭神経と大後頭神経が引っ張られるために目まいや後頭部に頑固な痛みが起こる。
局部解剖
環椎後頭筋膜は項筋膜の一部分である。項筋膜と頚筋膜の浅層と深層はつながっている。その上縁は後頭骨上項線の上下縁から起こり、下部は環椎後縁と項靭帯、そして前斜角筋と中斜角筋、肩甲挙筋の被膜などに付着して、背筋腱膜とつながっている(40図と41図)。




----後環椎後頭膜
環椎後頭背側筋膜----
----環椎

椎骨動脈-- --椎骨動脈





40図 環椎後頭筋膜の矢状切断面 41図 環椎後頭筋膜背面図

病因と病理
椎骨動脈は、第6頚椎横突起から上の椎骨動脈孔を上行し、第6から第2頚椎横突起上の椎骨動脈孔を貫き、環椎の後外両側を巡って環椎から頭蓋底に入るが、環椎の椎弓上面には2本の椎骨動脈溝があり、そこから椎骨動脈は頭蓋底に入る。
正常な状態では、大後頭孔の後側辺縁と環椎間には1つの間隙があるので、環椎椎骨動脈溝の中で椎骨動脈はゆったりしている。環椎後頭筋膜が疲労したり損傷したため変性が起こって攣縮すると、この間隙が狭くなって椎骨動脈は圧迫され、大脳の血液供給量に影響して難治性の目まいとなり、目がかすむなどの症状が起こる。
症状
椎骨動脈が圧迫されたり歪められたりして血流量が減少し、椎骨動脈型の頚椎症状が起こる。また大後頭神経と小後頭神経が筋膜を貫通しているため、筋膜が拘縮変性すると圧迫されて引っ張られ、後頭隆起部分に頑固な痛みや痺れが起こる。
この疾患は脊髄や神経根にあまり影響を及ぼさないので、ふつうは脊髄や神経根の圧迫症状は起こらない。
診断
1.後頭隆起の頑固な痛みや痺れ。椎骨動脈圧迫症状がある。
2.頚椎のX線正位写真には診断価値はなく、側位写真で環椎と後頭骨の間隙前縁が少し広がっている。
3.結核や腫瘍、およびそのほかの感染性の疾患を除いておく。
治療
1.小鍼刀治療
患者を椅子に真っ直腰掛けさせ、頭を後ろに倒させて軸椎棘突起と後頭隆起が接触する部分を刺入点とする。そして患者を腰掛けさせたまま頭を低くさせ、術者は刃で刺入点を按圧したあと、鍼体を刺入部の骨平面と垂直にして刺入する。刃先の線は頚椎棘突起の頂点を結ぶ線と平行に刺入する。刺入したら刃をグルッと回し、刃の線を頚椎棘突起の頂点を結ぶ線と垂直にし、横に3~5回ほど払う。
2.手法治療
患者をベッドにうつ伏せに寝かせ、下顎とベッドの端を揃えさせる。助手は両腕で患者の背部を押さえ、両手を患者の肩部に置く。術者はベッド縁に小さな枕をあてがって患者の頭をやや持ち上げさせ、下顎をベッドの縁の小さい枕に乗せさせて、術者は左手で患者の下顎を支え、右手を患者の後頭隆起に置き、患者の頭頂を下の方に後頭隆起を下に圧迫する。こうして助手と頚後部位を互いに引っ張り合う。術者はしっかり患者の下顎を支えて下に行かないようにし、術者は右手で下に押して引っ張る。1~2分したら右手に急に強い力を入れて、後頭隆起を1~2回弾圧する。
3.厚紙固定
まず用意した厚紙をガーゼで包み、患者の頚部に巻いて包帯で固定する。
患者に頭を回さないように、また寝るときは枕を使わず、昼間や夜間にかかわらず頭を真っ直にしているように申し渡す。15日で固定したものをはずし、頭を自由に動かしてもよい。
4.薬物治療
処方
当帰尾10g、桃仁10g、紅花10g、製乳香6g、製没薬6g、桂枝10g、川 8g、紫丹参10g。これを煎じて飲むが、服用するときは少量の焼酎を加える。
加減法
頭がフラフラするときは白芍10g、杭菊花10gを加える。
目がぼやければ杭菊花10g、草决明10g、密蒙花10gを加える。
筋肉が痛ければ防風10g、製川烏頭6g、製草烏頭6gを加える。
上肢が痺れるものは防風10g、製川烏頭6g、製草烏頭6g、羌活10g、秦 10g、絡石藤10g、銀花藤30gを加える。
吐きたくとも吐けないものには党参10g、柿蒂10g、生姜10g、川黄連10gを加える。
心拍が遅いものには肉桂2g、製附片10g、党参10gを加える。
心拍が速いものには製茯神10g、麦冬10g、柏子仁10g、連心10gを加える。
胸悶して不快なものは広木香10g、枳殻10g、川朴10gを加える。
身体が痩せて虚弱だったり、気虚血虚なら桃仁と乳香、没薬を取り除いて、替わりに党参10g、炙黄耆10gを加える。
5.ふつう健康回復のための治療は必要ない。
注意事項
鍼刀は絶対に下に滑らせてはならない。環椎後頭関節腔に刺入すれば、脊髄を損傷するので注意する。

第十章 肩背部

六、肩関節周囲炎
概説
この疾患は高齢の婦女に多く、青壮年の男子では少ない。徐々に発病する。この疾患の発生メカニズムについては、いろいろと論争されているが、馮天有先生は、肩部筋肉群の解剖位置に微妙な変化が起こるために発生し、6つの疼痛点が現れるとしている。過去の一般の医学文献には、すべて肩部にある軟部組織の退行性変性であるとし、また寒湿を受けたりして、肩関節にある関節包や関節周囲に、広範囲で慢性の無菌性炎症が発生し、軟部組織が広範囲に癒着して肩関節の動きが制限されるとしてあり、フリーズショルダーなどと呼ばれる。
この二つの観点はどちらも正しいが、それぞれが別の観点に立っているだけである。軟部組織の広範な癒着により、筋肉が動態平衡を失っているが、これが一つの軟部組織に内在する位置の問題である。馮天有先生が編み出した治療手法は、以前の治療手法よりも効果があるが、それはこうした手法が癒着を剥がすからだ。しかし馮天有先生の指摘する6つの疼痛点は、肩関節周囲炎の範囲を大きく外れてしまっている。たとえば肩甲骨の脊柱縁の3つの疼痛点などは、ほぼ肩甲挙筋や菱形筋の慢性損傷による癒着点である。
この疾患に対して過去にはホットパック、神経ブロック、鍼灸、吸玉、湿布薬、漢方薬の内服、按摩など、いろいろな治療があったが、近年は推拿科で 動手法が発明された。これはチオペンタールナトリウム静脈内麻酔をしておいて、術者が癒着部分を動かして無理やり引き剥がす。術後はベッドに寝て安静にするが、関節周囲は極度に腫れて痛む。腫れがひいたら肩関節の練功療法(太極拳などの運動療法)を併用して治療する。ほとんどの患者に効果があるが、この方法は健康な組織も損傷し、関節にシクシクした不快感が残る。
局部解剖
肩関節周辺には筋肉が多く、二層に分かれている。前面には上腕二頭筋があり、その長
頭は結節間溝の中を通って肩関節窩の上縁
肩峰 鎖骨 に止まり、短頭は烏口突起に止まる。肩甲
小鍼刀 棘上筋 下筋は上腕骨小結節に止まる。上面の棘上
筋は上腕骨大結節最上の小さな面に止まる
肩峰下滑液包 。後上方の棘下筋は上腕骨大結節中部の小
さな面に止まる。後方の小円筋は上腕骨大
結節の最下面の平面に止まる。棘上筋と肩
三角筋 肩甲骨 峰の間には肩峰下滑液包がある。関節包と
三角筋の間には三角筋下滑液包がある。外
層の三角筋は、鎖骨の外側前縁 、肩峰先
上腕骨 端と外側縁、そして肩甲棘から起こり、肩
関節の上、前、後そして外面を被っている
関節包 。下に向かうほど小さくなり、1つの腱に
なって上腕骨の三角筋粗面に止まっている
。棘上筋、棘下筋、小円筋と肩甲下筋は一
緒になって回旋筋腱板を作っている(42
42図 肩関節冠状断面図 図と43図)。
病因病理
肩峰下滑液包 肩関節周囲炎の病因病理
烏口肩峰靭帯 肩峰 は様々であるが、軟部組織
損傷の面から論じれば、発
烏口突起 棘上筋腱 病すると炎症性の滲出が始
上腕二頭筋長頭筋腱 まり、細胞が壊死して軟部
棘下筋腱 組織の瘢痕が増殖して癒着
肩甲下筋腱 する。これがおもな病理変
小円筋腱 化である。しかし病因は、
過去の中医の経脈が空虚に
なって外邪が侵入したとす
関節包 る考えも、ある程度理屈が
通っていて「五十肩」と呼
関節窩縁 ぶ。では大多数がどうして
50歳前後で経脈が空虚と
43図 肩関節横断面図 なって発病するのか?60
歳や70歳の経脈は空虚で
ないのか?30歳や40歳では外邪が侵入できないのか?どうしても五十肩になるのか?現代医学の関係する理論および私の数十年にわたる臨床観察によると、肩関節周囲炎の本質は内分泌の乱れである。こうした内分泌の変化は50歳ぐらいで始まるが、この段階を越えれば内分泌は正常に回復するので、治療しなくても数年のちには全快する。だから肩関節周囲炎の予後は良好だが、極めて少数だが後遺症が残る。われわれの肩関節周囲炎治療の研究は、患者の苦痛を取り除き、回復を早めることである。この病気は病歴が長く、苦痛が大きいので、長期にわたって生活や仕事に影響を及ぼす。われわれは小鍼刀と手法を使って、ただちに苦痛を取り去り、さらに漢方薬を使って内分泌を調整することによって、根源から治療をする。肩関節周囲炎という治療に手を焼く普通の疾患は、すばやく徹底的に治療される。
症状
患者は肩の痛みを訴え、クシで髪がとかせなかったり、ひどいものは肩がいかなる動きも制限され、服を着るのに極端に不便である。また夜間に痛みがひどくなって目が覚め、肩関節周囲に圧痛がある。特に烏口腕筋と上腕二頭筋短頭が付着する烏口突起、棘上筋の停止部、肩峰下、棘下筋と小円筋の停止部にはっきりした圧痛がある。
診断
1.患者の多くは40歳以上で、特に婦女に多い。
2.肩部の痛みは、一般に長期間続き、徐々に進行する。
3.ほとんどは外傷歴がない(外傷歴のあるものの多くは肩部の筋肉の陳旧性損傷)。
4.肩を動かすとき、はっきりした筋肉痙攣が現れるが、特に肩を外転や外旋し、伸展したときの痛みが最もはっきりしている。
治療
烏口突起の烏口腕筋と上腕二頭筋短頭付着部、棘上筋の停止部、肩峰下、棘下筋と小円筋の停止部に小鍼刀を当て、それぞれに切開剥離法か縦行疏通剥離法をし、肩峰下滑液包には通透剥離法をおこなう。肩関節周囲に、ほかにもはっきりした疼痛点があれば、その疼痛点にも小鍼刀操作をする。炎症性の滲出がひどいものは、プレドニゾロン25mgにプロカイン120mgを加えたもので関節周囲をブロックし、術後は熱い酢で患部の肩をくゆらせて洗い、漢方薬局方五枳殻に製乳香、製没薬、炒苡米などを加えて服用する。5日あと、まだ治っていなかったら再び治療する。ふつう1~5回の治療すれば治癒する。
手法を併用すると、さらに優れた効果がある。小鍼刀治療が終わった後、患者を治療ベッドに仰向けに寝かせ、患肢を外転させて術者は患側に立ち、助手に患肢を支えさせ、患者には力を抜くように言う。術者の片手で三角筋を背中側に推し、もう一方の手の親指で大胸筋腱に沿って上腕骨に付着するところから上に掴み挙げ、大胸筋と小胸筋をそれぞれ引き剥がす。そのあと大胸筋(つまり腋窩前縁)を肩峰方向に推す。次に患者をうつ伏せにして、助手にやはり患肢を持たせ、術者は片手で三角筋を胸側に推し、棘上筋、棘下筋、大円筋、小円筋が上腕骨大結節に付着する部分をもう一方の手の親指で引き剥がす。このように、それぞれの筋腱が離れるように按摩しなければならない。こうすると患肢の外側挙上が最初より30~50度ほど多くなる。それから術者が両手で患肢を支えて、患者にできるだけ外転挙上するように言い、それが最大限に達して、それ以上挙がらなくなったら術者は両手で強く患肢を上に跳ね挙げる。跳ね挙げるのは一瞬(0.5秒ぐらい)で患者が反応したときには手法を終えている。患者が跳ね挙げられるのを知っていると、痛みを恐れるあまり肩を緊張させるので、跳ね挙げようとしてもうまくゆかず、また正常な組織を傷付けやすい。
肩関節周囲炎患者に、上に述べたような小鍼刀治療と手法治療をすれば、すぐに160度ぐらいは挙がるようになる。
こうした損傷させない治療では、すべての手法が軟部組織を傷付けることがない。小鍼刀でひどい癒着部分を引き剥がして緩め、三角筋の深部にある腱膜と棘上筋、棘下筋、大胸筋、大小円筋が肩部に止まる部分の癒着を按摩手法によって引き剥がし、最後に弾圧手法で最後に残った癒着部分(関節包内の癒着)を引き剥がす。
小鍼刀と手法治療を併用すると、患者の痛みはほぼなくなり、患肢の動きもほぼ正常になる。
しかし身体の内分泌の調節と治療効果を安定させる意味で、次のような漢方薬を5剤服用する。
処方
当帰10g、炒白芍10g、党参10g、川 8g、桔梗10g、白 10g、川朴10g、雲茯苓10g、法夏10g、乾姜10g、桂枝10g、麻黄10g、蒼朮10g、枳殻10g、陳皮10g、紅花10g、銀花30g、大貝母10g、炒苡仁25g、防風10g。
症例
張××、女、45歳、湯澗郷三合村農民。
右肩関節周囲炎になって7カ月あまり。いろいろな治療法を試みたが、あまり効果がない。今月から痛みがひどくなり、右上肢の外転、内転、挙上など、すべての動作が制限されて機能が失われた。すこし触れると患肢に激しい痛みが起こる。1978年3月20日に小鍼刀治療を始め、漢方薬局方五枳散に白芥子、炒苡米、防風、羌活、製乳香と製没薬を加え、5日に1回治療する。5回治療して15服の薬を飲むと完治した。

七、棘上筋損傷
概説
この筋肉はきわめて損傷されやすい。転んだり、重いものをもったり、また肉体労働などで損傷されやすい。損傷されるのは、ほとんどがこの筋肉の起点であるが、筋腱のところも筋腹の部分も損傷される。止点が損傷されると、上腕骨の大結節部分で三角筋の深部にあるので、肩関節周囲炎と誤診されることが多い。筋腹が損傷されると、あいまいに肩凝りと診断され、中医では 風散寒の薬物で治療する。棘上窩の起点が損傷されると、ほとんどが背痛と診断される。棘上筋の支配神経は肩甲上神経である。肩甲上神経は腕神経叢の鎖骨上枝であり、頚椎5と6の脊髄神経に支配されている。そのため頚椎5と6の脊髄神経が圧迫されれば、棘上筋が痛んで不快となる。
以上のように棘上筋損傷に対する診断は混乱があり、まともな治療はおこなわれない。たとえ明確な診断であっても、瘢痕癒着がひどければ、普通の治療では効果が現れない。
局部解剖
棘上筋は棘上窩から起こって上腕骨の大結節に停止しており、上肢を外転する(44図と45図)。
肩甲下血管神経
肩甲挙筋
棘上筋 棘上筋
肩甲下血管神経 三角筋
棘下筋 小鍼刀施術部

小円筋 棘下筋
大円筋 上腕三頭筋長頭

小円筋

44図 肩部背側筋群解剖図 45図 棘上筋棘下筋小円筋の解剖位置

病因病理
棘上筋損傷のほとんどは、上肢を急に強く外転することによって起こる。ひどいものは棘上筋が断裂する。損傷して日が経つうちに瘢痕癒着となり、上肢の外転動作により瘢痕部分が牽引されて急性の痛みが起こる。
診断
①外傷歴がある。
②棘上筋の両端筋腱部分や筋腹に圧痛点がある。
③患者が患側の上肢を外転すると、圧痛点の痛みが増加する。
見分け方と診断
棘上筋損傷は誤診されやすいので、見分け方が重要となる。
①棘上筋筋炎との見分け方。
a.棘上筋筋炎の痛みと圧痛も棘上筋にあるが外傷歴はなく、冷やしたり湿気に当るなどによって発生する。
b.患者が患側の上肢を外転すると、痛みが棘上筋に放散する。棘上筋損傷のような、はっきりした痛みはない。以上の2点で棘上筋筋炎と見分けられる。
②肩関節周囲炎との見分け方。
a.肩関節周囲炎の発病年齢は、一般に50歳前後であるが、棘上筋損傷は成人ならばいかなる年齢でも発生する。
b.肩関節周囲炎には外傷歴はない。
c.肩関節周囲炎の肩部の疼痛点は1つだけではないが、棘上筋が損傷された場合の肩部での疼痛点は、上腕骨大結節のところに1つだけある。
d.肩関節周囲炎では関節自体の動きがいくらか制限される。棘上筋損傷では肩関節自体の機能には全く影響せず、可動範囲も制限されない。
以上の4点が肩関節周囲炎との違いである。
③神経根型頚椎症との見分け方。
a.神経根型頚椎症の痛みは痺れが多く、しかもそれが上肢に向かって放散し、指まで達する。棘上筋損傷の痛みは肩部のみで、痺れることはほとんどない。
b.棘上筋損傷では棘上筋の走行部分に、はっきりした疼痛点がある。神経根型頚椎症では棘上筋の走行部分に、はっきりした疼痛点がなく、患者の主訴も頚から肩にかけて、肩から腕にかけて疼痛区域が広がり、固まり状や線状に分布している。
c.棘上筋には、はっきりした外傷歴がある。神経根型頚椎症の多くは、はっきりした外傷歴がない。
d.神経根型では頚椎棘突起の傍らに、はっきりした圧痛点があることが多い。棘上筋損傷では、頚椎棘突起の傍らに圧痛点がないことが多い。
治療
小鍼刀治療は、陳旧性の棘上筋損傷に適用できる。損傷してから1カ月すると陳旧性となる。時間が過ぎるにつれて治療効果もはっきりする。
患側の上肢を90度に外転し、刺入点を選ぶ。棘上筋が上腕骨大結節に止まっている圧痛点部分に、刃を棘上筋の縦軸と平行に刺入し(上腕骨大結節の部位は肩関節外側縁、後上方)、骨面に到達させる。鍼体と上肢を135度の角度にし、まず縦に上下させて剥離し、次に横に揺らして広げる。
病変が棘上窩にあれば、患者を座位にして少し腰を屈めさせ、両手は太腿の上に自然に垂らして、小鍼刀と背中平面が90度の角度となるようにし、刃を棘上筋線維の走行と平行にして骨面まで刺入する。まず縦行剥離(縦に上下する剥離)、それから横行剥離(横に揺らして広げる)する。疼痛点が大きければ、刃をいったん皮下まで引き上げ、鍼体と背中を45度の角度にし、筋肉線維に沿って垂直方向に5mm移動させ、再び骨面まで刺入する。まず縦に、次に横に動かして抜鍼する。そしてしばらく鍼孔を圧迫し、無菌ガーゼで被ってバンソコウで留める。
症例
喬××、男、28歳:南京孝陵衛建築隊臨時工。肩部の疼痛が1年余り続き、仕事ができない。漢方薬や鍼灸、按摩などをおこなったが、どれも効果がなかった。1983年10月4日、骨科で診察し、棘上筋損傷と診断された。小鍼刀治療を1回受けると、痛みがなくなり、15日安静にしてから職場に行くように申し渡した。患者は7日休んだだけで出勤し、ふつうに仕事して何も不快感はない。

八、棘下筋損傷
概説
棘下筋の損傷も多い。この筋肉損傷の特徴は、起点に多いことである。慢性期の疼痛は非常にひどく、患者は棘下窩に激しい痛みを訴える。こうした激痛に一般的な治療をしても効果がなく、ひどければモルヒネや杜冷丁〒を打っても一時だけ緩解するだけである。以前にはこうした患者には、死ぬまで有効な治療法がなかった。小鍼刀は、こうした疾患にもはっきりした効果がある。
局部解剖
棘下筋は棘下窩から起こり、上腕骨大結節に止まっている。作用は上肢の内転と外旋である。この筋肉の支配神経も肩甲上神経であり、肩甲上神経が棘下窩で終わって止まっている(45図参照)。
病因と病理
棘下筋の多くは上肢を急に外転したり内旋して損傷するが、起始部の損傷が停止部の損傷より多い。起始部の損傷の初期では、棘下窩に電気ショックのような痛みが起こって肩峰の前方にまで及ぶ。停止部が損傷すれば、上腕骨の大結節に痛みがあり、また疼痛点の下側1cm前後のところにはっきりした圧痛点が現れる。この疼痛点は棘下筋腱下滑液包炎で筋腱損傷の原因ではないが、ときには2つの疼痛点があいまいではっきりせず、分けることが難しい。
腱下滑液包も、大多数は損傷されているので一緒に治療する。
棘下筋の起始部の損傷は、慢性期の痛みが激しい。その理由は2つある。
①肩甲上神経は棘下窩で終わっているため、棘下筋の起始部は神経終末が多く、敏感である。
②棘下筋の起始部の損傷は重症である。日が経つにつれて瘢痕癒着がひどくなり、神経終末の圧迫もますますひどくなる。
症状
損傷の初期では、棘下窩および上腕骨大結節の部分にはっきりした脹痛(腫れぼったい痛み)があり、上肢を自由に動かさない。損傷して日が経てば棘下窩に痛みだけでなく痺れ感も現れ、局部の皮膚感覚が減退するものも現れ、腫れぼったい感覚は少なくなって、肩甲骨を引き上げる動作を頻繁にするようになり、上肢の動きは制限される。たまたま不注意で患側の上肢を動かしたとき、棘下筋に痙攣性の痛みが起こることがある。棘下筋の起始部が損傷されれば、棘下窩に激しく耐え難い痛みが常に起こり、患者は医者にその部分の筋肉を取ってくれと訴える。
診断
①外傷歴がある。
②棘下窩と上腕骨大結節の部分に疼痛と圧痛がある。
③患者の上肢を内転位で外旋させると痛みがひどくなったり、この動きが全くできなかったりする。
治療
①痛みが棘下窩にあれば、患者を正座させて腰を屈め、両肘を両膝に乗せて支えさせ、棘下窩から2~3点を取る。刃と棘下筋筋線維を平行にして骨面に到達させる。このとき鍼体と肩甲骨平面が垂直になるように刺入する。まず縦に切って剥離させ、次に横に揺らして広げる。癒着がひどければ、それに合わせて切開剥離する。癒着が広範囲にわたるものは、通透剥離をおこなう。
②上腕骨大結節の棘下筋停止部が痛むようであれば、患者をまっすぐ腰掛けさせて少し背を屈めさせ、両腕の肘を胸の前にある机に自然に乗せ、肩部後上方にある圧痛点から2つを選んで刺入点とする。2つの刺入点は筋線維の走向に沿って縦に並び、2点の間隔は1cm以内で、1点は筋腱上、もう1点は棘下筋腱下滑液包である。刃を棘下筋線維の走向と平行に、鍼体と上腕が135度の角度となるように刺入する。上点で縦行剥離してから横行剥離をおこない、下点では切開剥離をおこなう。
筋腱部のみが損傷され、腱下滑液包が損傷されていなければ圧痛点は限局され、下点は取らなくてよい。
症例
傳××、男、40歳:沐陽機械廠木工。初めて家を建てたとき、棟上げするときに痛めた。同時は痛みで仕事を続けられず、すぐ膏薬を貼って跌打丸(捻挫薬)を飲み、十日あまり安静にし、良くなったと思ったので再び仕事を続けた。3日働くと痛みが再びひどくなり、仕事を休まされて3カ月マッサージ治療を続けたが効果がなかった。また最近になって痛みがひどくなり、夜は眠ることができない。1980年5月13日に骨科に治療にきた。棘下筋損傷と診断する。棘下窩に激しい痛みがあり、触るとひどく痛む。またロープ状に腫れたものがいくつか触知できる。小鍼刀を棘下窩に3回刺入して操作すると、その夜から穏やかに眠れるようになった。5日後に調べると、本人は治ったようだという。しかし棘下窩に、まだ少し圧痛があったので、帰ってから上肢の外転や挙上、伸展などの機能訓練をおこなうように申し付ける。1年後に患者を再調査すると、上肢の運動を10日おこなってから出勤したが、現在に至ってもいかなる痛みも不快感もない。

九、菱形筋損傷
概説
この疾患は青壮年に多く、また普通にみられる疾患である。ほとんど大ざっぱに背痛としているが、背痛の原因は非常に多く、病因も複雑である。菱形筋損傷は背痛のなかの一つに過ぎない。
局部解剖
大菱形筋と小菱形筋は肩甲挙筋の下方に位置しており、同じ層にある。小菱形筋は狭い帯状で、下位2つの頚椎棘突起から起こって肩甲骨脊柱縁の上部に付着する。大菱形筋の上方にあって大菱形筋との間は、薄い疎性結合組織によって隔てられている。大菱形筋は
薄くて広い菱形をしており、上位4つの胸椎
頚板状筋 棘突起から起こって外下方に向かい、肩甲骨
脊柱縁のほとんど全体に付着している。大菱
肩甲挙筋 形筋と小菱形筋は肩甲骨の内転と回旋、そし
て肩甲骨を引き上げて中線に近づけることで
ある。
棘上筋 病因と病理
肋骨との癒着部分 この疾患のほとんどは上肢で強く物を投げた
棘下筋 り、転んだり、あるいは上肢を急に後下方に
力を入れて動かしたりしたために起こった急
菱形筋 性損傷で、治療しなかったり治療が適切でな
いと、日が経つうちに本疾患が発生する。菱
形筋は上腕部を内屈する筋肉で、肋骨と隣り
腰方形筋 合っていて、急性損傷によって出血すると日
が経つにつれて瘢痕癒着が起こる。傷が肋骨
46図 菱形筋解剖図 の上だったりすれば、肋骨と癒着して菱形筋
の伸縮機能に影響して発病する。上肢を動かすとき癒着部分が引っ張られて新たな損傷を招き、急性の痛みが現れる(46図)。
症状
この疾患は菱形筋の急性損傷症状が治まって、相当長い時間が経ってから発病する(これは腰背四肢などの軟部組織癒着によって起こる難治性疼痛点に共通する特徴である)。急性発作のときは、上背脊柱と肩甲骨内縁の間にはっきりした疼痛点が現れ、ときには局部が腫れたり、上背が重く感じられたり、背中に重いものを背負っているように感じ、ひどいものは痛くて眠れなかったり、寝返りが打てなかったりする。歩くときは患側の肩部を下げ、疼痛点に激痛が起こるのを恐れ、患側で物をもったり自由に動かしたりしない。
診断
1.菱形筋の損傷歴がある。
2.患側の上肢を持って前上方に挙上すると、痛みがひどくなる。
3.疼痛点と圧痛点が、第5胸椎と肩甲骨下端をつないだ線より上にあり、大多数は肩甲骨の内側縁にある。
治療
患者を椅子の上に、まっすぐ腰掛けさせ、患側の上肢を自然に胸の前に置き、やや健側に向けて正確な疼痛点を捜す。そして菱形筋上に横行剥離法をおこなう。腫脹のひどいものは操作が終わってから、25m のプレドニゾロンに120mgのプロカインを加えた薬物で、患部をブロックしてもよい。患部に腫脹のないものはブロックの必要はない。5日過ぎても治らなければ、もう一度治療をおこなうが、一般に3回以内て治癒する。
注意事項
小鍼刀操作では肋間に刺入してはならない。肋骨上で操作することによって肋間神経や胸膜を傷付けないようにする。一般に疼痛点は肋間にはなく、癒着は肋骨部分にある。
症例
徐××、男、42歳:沐陽県工商局幹部。
患者の主訴では、1971年に文革で頭を地面に抑えつけられ、腰を90度に曲げさせられた。彼は強く抵抗して人と揉み合い、背中に痛みを感じた。夜になって寝ようとすると寝返りが打てない。消炎活血の漢方薬を10日あまり飲んで背中の痛みはなくなった。数カ月すると上背右側の肩甲骨内縁が痛みだし、次に痛みが起こったときに治療して緩解した。7~8年間は症状がひどくなったり軽くなったりを繰り返していたが、1979年4月9日から痛みが激しくなり、眠ることもできず仕事もできなくなった。背中が重くて引きつるような痛みがある。某医院で鍼灸、理学療法、按摩、7日間の漢方薬服用などをしたが少しも効果がなく、われわれの科に診察にきた。検査すると菱形筋が損傷されており、1979年4月20日から小鍼刀治療を始めた。局部に腫脹があったので、25mlのプレドニゾロンに120mgのプロカインを加えて局部をブロックすると、すぐに軽くなった。5日後に検査すると、まだ少し痛みがあったので、再び治療すると治癒した。4カ月の追跡調査では、まったく不快感がない。

十、三角筋滑液包炎
概説
三角筋滑液包は、外傷や使い過ぎによって発病する。肩関節周囲炎も三角筋滑液包を障害するので、臨床では三角筋滑液包炎を肩関節周囲炎と誤診することがしばしばある。この滑液包は三角筋の深部にあって疼痛点が深いため、患者の主訴はあいまいで、触診してもはっきりしない。そこで肩峰下滑液包炎と誤診されるものもあるが、それらは別物である。三角筋滑液包が分泌する滑液は、おもに三角筋の下面に供給されており、棘上筋表面の棘上筋筋膜、そして棘下筋と小円筋表面の棘下筋筋膜と小円筋筋膜に行き渡って、三角筋と、その下にある筋肉の腱が摩擦により損傷されないように防いでいる。
三角筋滑液包が外傷によって損傷されると病変が起こり、こうした筋肉の筋膜は潤滑液を失ってしまい、肩部にひどい不快感が起こる。そして筋肉の動きもぎこちなくなってしまう。
三角筋滑液包炎は、以前は多くが誤診され無視されてきた。たとえはっきり診断されたとしても、有効な治療法がなかった。プレドニゾロンを使ってブロックしても一時的な効果しかなく、数日すると病状は元に戻ってしまう。
局部解剖
三角筋滑液包は、三角筋と肩関節の間にある滑液包の一つで、この滑液包と肩峰下滑液
包が通じていることもある(47図)。
病因と病理
三角筋滑液包が損傷されると(外傷や
--烏口腕筋滑液包 使い過ぎに係わらず)、滑液包壁の膜性
通路が修復による瘢痕組織によって塞が
三角筋下滑液包- れ、滑液包内の滑液が排出できなくなっ
て滑液包が腫れ、怠い、腫れぼったい、
--肩甲下筋腱滑液包 痛いなどの感じが起こる。滑液が供給さ
れなくなるので、棘上筋、棘下筋、小円
筋などの筋膜は潤滑液に潤されない。そ
して肩部の筋肉はスムーズに動けなくな
り、重怠い不快感がある。
47図 三角筋滑液包解剖図 症状
三角筋滑液包炎の患者は、みな肩部の
怠い痛みを訴える。上肢の挙上外転ができず、日が経つにつれて上肢を動かしたとき、患者は肩部に摩擦音や弾発音が聞こえるように感じる。
診断
①外傷歴や過労歴がある。
②肩峰下滑液包下縁、肩関節下縁に摩擦音や弾発音がある。
③肩関節下縁三角筋の中上部が少し盛り上がり、皮膚がツルツルしている。
④患者の上肢を外転挙上させると、肩部の痛みがひどくなったり、あるいは患者がこうした動作を拒絶する。
以上の4点をもとに診断する。
治療
患者をまっすぐ腰掛けさせ、患側の下肢を自然に垂らして前腕は同側の太腿の上に乗せる。肩関節の外側下縁、盛り上がってツルツルしたところから刺入する。刃を三角筋の線維の走向に平行に、2cmぐらいの深さに刺入する。骨面まで刺入してはならない。棘上筋や棘下筋の腱膜縁を縦に2~3点切開して抜鍼する。そのあと無菌ガーゼを被せ、盛り上がった部分が平らに戻るか、少し凹む程度に鍼孔を指で圧迫する。
治療すると大部分が、すぐに上肢がスムーズに動くようになったと感じ、肩部を心地好く感じる。ふつう1回で治癒する。
症例
査××、女、34歳:沐陽木綿紡績工場、紡績工。右肩部の痛みが2年以上続き、紡績の仕事ができないので仕事を替わった。いろいろと治療もし、ブロック注射も30回以上受けたが良くならなかった。1979年11月3日に骨科にきた。三角筋滑液包炎と診断し、小鍼刀で1回治療をおこなった。同時は笑いながら右腕を160度に挙げてみせ、嬉しそうに「2年間も頚より腕を挙げられなかった」と言った。1年後の再調査では、不快感はまったくない。

十一、上腕二頭筋短頭筋腱炎
概説
この疾患は臨床で最も多い。上腕二頭筋は上肢を屈する筋肉である。上肢を頻繁に屈伸したり回外するために損傷する。人の上肢は屈伸と前腕の回外の動作をすることが最も多いため、発病率はとても高い。この疾患も肩関節周囲炎と誤診しやすい。
この疾患にプレドニゾロンブロックをすると効果があるが、効果が長続きしない。
局部解剖
上腕二頭筋短頭は、肩甲骨の烏口突起先端部から起こり、烏口腕筋の上面、小胸筋の外
側にあって、上腕骨の下 のところ
烏口突起 で上腕二頭筋の長頭と融合する。
おもな機能は肘を屈する、そして
上腕二頭筋短頭 前腕を強力に回外する筋肉で、肩関
節と同時に、上肢を屈曲と内転させ
る(48図)。
病因と病理
三角筋 肩甲下筋 上腕二頭筋短頭と烏口腕筋の起始
上腕二頭筋長頭 部の腱は隣り合って並んでいるが、
上腕二頭筋短頭と烏口腕筋の働きと
運動方向はシンクロナイズされてお
らず、一致するものではない。烏口
腕筋は内転、屈した腕を前に出し、
上腕二頭筋は肘を屈する、前腕を回
上腕二頭筋 外する。だから烏口腕筋腱と常に交
錯して摩擦損傷を起こす。急に肘を
曲げたり、前腕を回外するなどの動
48図 上腕二頭筋短頭の解剖図 きをしても筋腱を損傷しやすい。
また烏口突起滑液包と上腕二頭筋滑液包に病変が起こって閉塞し、烏口腕筋と上腕二頭筋短頭が潤滑液を失えば、上腕二頭筋短頭は摩擦損傷によって発病する。上腕二頭筋短頭が損傷したり疲労損傷すると、局部に瘢痕癒着が起こって、局部の血液循環や体液の新陳代謝が障害され、筋腱部に変性が起こる。
診断
①疲労損傷歴ある。外傷歴は必ずしもあるとは限らない。
②上肢の伸展、背中を触る、腕の挙上などが制限される。
③烏口突起のところに疼痛や圧痛がある。
④肩関節周囲炎および他の軟部組織損傷疾患と鑑別する。見分けるのは難しくない。
治療
①患者を仰向けに寝かせ、患側の上肢と体幹が30度の夾角となるようにする。
②烏口突起を触知する。圧痛点の多くは烏口突起下縁にあり、そこが刺入点となる。
③刃を上腕二頭筋短頭の走向と平行に、骨面まで刺入する。まず縦行剥離したあと横行剥離する。瘢痕がひどければ、切開剥離を2回おこなってもよい。
注意事項
刺入する位置は正確にする。正確でなければ、よくて治療効果がない、悪ければ周囲の血管や神経を損傷する。
症例
曹××、女、52歳:沐陽県胡集公社人。発病してから1年余り。現地の医者が五十肩と診断して、鍼灸や漢方薬で治療したが効果がなかった。1977年4月13日に骨科にきた。上腕に頭筋短頭筋腱炎と診断した。1回の小鍼刀治療で治癒した。2年後に追跡調査すると、ずーっと快適で少しも不快感はない。

十二、上腕二頭筋長頭腱鞘炎
概説
上腕二頭筋長頭腱鞘炎は、臨床でよくお目にかかる。患側で物を下げたり外転などに影響する。緩慢に発病するが、みな摩擦損傷によるもので、長引いて治りにくい。以前は非手術療法では効果が現れにくかったので、上腕二頭筋長頭筋腱の結節間溝を切断し、その
遠端を上腕二頭筋短頭と縫合して上腕二頭筋
長頭の結節間溝内での摩擦をなくし、症状を
消そうとする手術がおこなわれた。しかし手
上腕二頭筋長頭腱 術した患肢に元のような力はなかった。
局部解剖
上腕二頭筋長頭は肩甲骨の関節上結節が起
始部で、細くて長い腱があり、腱鞘に包まれ
て肩関節と上腕骨の結節間溝を通る。上肢を
動かすと長頭筋腱は腱鞘内を上下に滑る(4
9図)。
病因と病理
49図 上腕二頭筋長頭解剖位置図 上肢を動かすとき上腕二頭筋長頭は腱鞘内を上下するほか、外転や内転では横方向に移動する。しかし腱鞘が上腕骨結節間溝に固定されているので両側にある上腕骨結節の骨隆起によって阻止され、上腕二頭筋長頭はその位置に固定される。そのため横向きの応力損傷と摩擦損傷を常に受けやすい。上腕二頭筋長頭腱鞘炎は慢性損傷性疾患の一つである。上肢を頻繁に動かして急性発作を起こし、炎症反応が発生する。
慢性損傷によって腱鞘壁の臓側板は瘢痕が肥厚し、筋腱自体も損傷変性して腱鞘が狭なり、腱鞘内での動きが制限されて発病する。急性損傷でも本疾患は起こり、急性期が終わると慢性疾患となる。
症状
上腕二頭筋長頭腱鞘炎の初期では、患肢を動かすとき、肩の前面内下方で肩峰の下約3cmぐらい、上腕骨結節間溝に当るところがシクシク痛んで不快感がある。長引くと症状が徐々にひどくなり、痛みがはっきりして上肢に運動制限が起こり、患肢でものを持ったり、外転したり、内旋したときに痛みがひどくなり、局部が少し腫れることもある。
診断
1.使い過ぎや外傷歴がある。
2.肩前の内下方3cmぐらいのところに疼痛や圧痛がある。
3.肘関節を屈曲させ、外旋や内旋すると痛みがひどくなる。
4.そのほかの疾患を排除する。
以上の4つに基づいて診断を確定する。
治療
①小鍼刀は圧痛点に垂直に刺入する。刃の向きは上腕二頭筋長頭と平行に刺入して、骨面まで到達させ、まず縦行剥離、そして横行剥離をする。頑丈な結節であれば切開剥離する。
②患者の肘を屈曲させ、術者が患肢の上部を持って対抗して引っ張ると、患肢は引っ張られて真っ直になる。
注意事項
刺入部の血管や神経を損傷しないように注意する。
第十一章 上肢部

十三、上腕骨外側上顆炎
概説
この疾患も肉体労働者やスポーツ選手には多い。以前には無菌性炎症によって引き起こされる、上腕骨外側上顆および周辺の疼痛症候群とされていた。以前の治療家は推拿療法(按摩)や鍼灸療法で本疾患を治療し、漢方薬も 寒散結、活血痛絡、舒筋消腫、止痛など、いろいろ使われた。現代医学でも局部のブロック注射を3週間に1回おこなうとか、副木や石膏で3~4週間固定する。しかし治療が長くかかりすぎ、きわめて再発しやすいのと、重症で治りにくい症例では、非手術的治療法は効果がない。そこで近年では上海の某医院で手術療法の一種が発明された。それは上腕骨外側上顆にある手根伸筋腱を切断して剥離手術をおこない、治癒率を向上させた。小鍼刀を使うことにより、前人の経験をまとめて治療を大幅に簡略化し、この疾患の病理に新しい見解が生まれ、優れた効果があげられるようになった。
局部解剖
上腕骨下端外側の隆起した部分が外側上顆で、腕橈骨筋や伸筋の腱が起こっている。
病因と病理
この疾患は前腕をしょっちゅう回して、肘を屈伸したりする仕事や運動をしている人に起こりやすい。ほとんどは蓄積性疲労損傷によって、手根伸筋、総指伸筋、回外筋付着部の筋腱内部に軽度の亀裂や軽微な出血が起こって器質化し、自己修復の過程で瘢痕となって癒着が発生し、その部分の神経や血管束を圧迫して痛むものである(50図)。
馮天有先生は触診し、患部の上腕骨外側
上顆に尖ったものがあるのを発見したが、
----腕橈骨筋 その塊りこそが瘢痕だった。こうした瘢痕
上腕骨外側上顆 と癒着により局部の血液循環が障害され、
/ 患部の血管神経束が圧迫され、筋肉の機能
肘頭-- ---総指伸筋 を妨害し、前腕部の機能障害が発生する。
-橈骨手根伸筋 罹患した患者は、上肢を無理に使って生活
するので局部の筋腱の亀裂がひどくなり、
その部分と繋がりのある神経枝を引っ張っ
て、そこと関連した筋肉を痙攣させて痛み
が起こり、それが前腕や肩前部まで及ぶ。
症状
一般に緩慢に発病し、急性損傷によって
発病したものは少ない。
50図 上腕骨外側上顆周辺の筋肉組織結合 発病すると痛みは肩前と前腕に及び、局
部が軽度に腫脹する。はっきり腫脹しない
こともあるが、前腕を動かした後に痛みがひどくなり、握り拳を作ったり前腕をひねる動作ができず、握る力も弱く、ひどいものは手に握ったものが落ちる。

診断
1.一般にはっきりした外傷歴はないが、前腕をしょっちゅう使う仕事など過労歴がある。
2.肘関節の動きは正常だが回旋運動が制限され、上腕骨外側上顆に、はっきりした圧痛がある。
3.ミルテストが陽性。
治療
肘を90度に曲げて治療机の上に乗せて上腕骨外側上顆を消毒したあと、小鍼刀の刃を手根伸筋筋線維の走向と平行にして上腕骨外側上顆の皮膚に刺入する。鍼体と机を垂直にして、まず縦行疏通剥離法をしてから切開剥離法をする。尖ったものが平らになったら、鍼体と机を45度の角度にして、横形 剥法を使って刃先を骨面に密着させ、骨突起周囲の軟部組織を引き剥がす。さらに手根伸筋や総指伸筋、回外筋腱を疏通させて抜鍼する。そのあと鍼孔をしばらく圧迫して出血を止める。さらに25mlのプレドニゾロンに120mgのプロカインを混合したものを上腕骨外側上顆周囲にブロック注射すると治療効果が高まる。炎症性滲出による腫脹がはっきりしていなければブロック注射の必要はない。
5日過ぎても治らなければ、再び治療をおこなう。一般に1回治療すれば治り、多くとも3回を超えることはない。
症例
胡××、女、38歳:沐陽東関、綿打ち工場職工。右上腕骨外側上顆炎。9カ月あまり鍼灸したり漢方薬を飲んだりしたが効果がなく、ますますひどくなってきたので本科に治療にきた。右腕の機能は喪失し、患肢は細くなっている。局部は腫れて少し患肢に当っても耐えがたい痛みが起こる。1978年4月21日、最初の小鍼刀治療をおこない、25mlのプレドニゾロンに120mgのプロカイン混合液を局部に注入してブロックした。すぐに患肢は軽くなり、少しだが動かせるようになった。5日後に再び検査すると治っていた。1年後に再調査したが、ずーっと調子がよくて少しも不快感はなく、筋肉も健側と同じように回復していた。

十四、橈上腕関節滑液包炎
概説
この疾患は上腕骨外側上顆炎や橈上腕関節疾患と誤診されやすく、鍼治療、理学療法、ブロック療法があるが、あまり効果がない。
この疾患の大部分は疲労損傷によって滑液包が閉塞し、長引いて治りにくい。小鍼刀治療は、本疾患に対して優れた効果がある。
局部解剖
橈上腕関節滑液包とは上腕二頭筋腱下包である。上腕二頭筋腱と橈骨粗面前部の間に位置し、腕橈骨筋の深部内側面、円回内筋の外側側面下縁にある。長橈側手根伸筋の縁側面にあって肘を90度に屈曲すると、ほぼ曲池穴の位置にある(51図と52図)。
この滑液包が分泌する滑液は、おもに周辺の数本の筋腱に供給される。
病因と病理
肘関節は、もっとも頻繁に動かす関節で、屈伸や回内や回外などでは、みな橈上腕関節
と、この滑液包周辺の数本
の筋腱が加わっている。だ
尺側上腕二頭筋溝 から、この滑液包が摩擦損
傷される機会はとても多い
上腕骨三頭筋側頭 。この滑液包が損傷される
たびに修復され、修復の過
上腕二頭筋 程で滑液を外に排出する通
路が塞がれ、滑液包が閉塞
上腕二頭筋線維腱膜 内側上腕筋間中隔 して膨張し、腫れぼったく
痛むようになる。
上腕二頭筋腱 上腕筋 症状
肘関節に怠くて腫れぼっ
内側上顆 たい不快感があり、肘関節
を動かすときに影響する。
患者は常に自分で肘関節に
腕橈骨筋 受動運動をさせている。こ
円回内筋 の疾患は夜間や安静時に痛
長橈側手根伸筋 みがひどくなり、夜間は痛
橈側手根屈筋 みで眠れず、上肢をどのよ
短橈側手根伸筋 うな位置にしても痛みが軽
長掌筋 減しない。
診断
尺側手根屈筋 ①上肢をまっすぐ伸ばし
たときの疼痛点は掌側肘関
節の外側、尺沢穴付近にあ
浅指屈筋 り、肘を屈したときは曲池
穴付近にある。上腕骨外側
上顆前内側、橈骨小頭の後
内側にある。
②上肢をまっすぐ伸ばし
たとき、肘関節の掌側、橈
短母指外転筋 骨粗面に、はっきりした圧
短掌筋 痛がある。
手掌腱膜 ③そのほかの部分には圧
痛がなく、肘関節の機能も
浅横中手靭帯 正常である。
治療
線維鞘 患者を診察するとき、肘
を曲げると曲池穴の痛みを
51図 上腕二頭筋腱深部の橈上腕関節滑液包 訴える。患肢を伸ばして橈
骨粗面を指で押すと、はっきりした圧痛点
がある。
上腕三頭筋腱下包 治療は肘を伸ばして小鍼刀を刺入する。
上肢をまっすぐに伸ばして治療台の上に水
平に乗せ、術者は左手の親指を橈骨粗面に
肘頭腱内嚢 置き、腕橈骨筋を外側に向けて引き剥し、
また腕橈骨筋内側縁に沿わせて深く押す。
刃を術者の親指の爪に沿わせて皮下に刺入
肘頭皮下滑液包 すれば橈上腕関節滑液包に達するが、引き
続き骨面まで到達させる。そして術者は左
手親指を少し持ち上げるが、やはり腕橈骨
筋は外側に推し続けて施術する。2~3回
切開剥離したら抜鍼してよい。そのあと鍼
骨間肘包 孔に無菌ガーゼを被せ、術者の左手親指で
上腕二頭筋橈骨包 鍼孔を圧迫しながら、右手で患者の手を持
って肘関節を1~2回屈伸させたら治療を
終える(参考に27図を見る)。
52図 肘関節矢状断面 注意事項
①この疾患は外側の曲池穴から刺入してはならない。曲池穴から刺入すれば損傷させやすく、滑液包にも当りにくい。
②刺入するときは必ず腕橈骨筋を外側に引き剥がし、親指で強く押す。そうしなければ重要な神経や血管を避けられない。
症例
張××、女、31歳:沐陽トラックター工員。1979年3月に肘が怠く痛み、治療を始めた。湿布薬を貼ったりブロック注射をしたり、按摩をしたが効果がなく、逆にひどくなっていった。この半年では痛みのため夜も眠れず我慢できない。7月8日に骨科で診察し、橈上腕関節滑液包炎と診断された。1回の小鍼刀治療によって痛みは半減し、3日後の再診では、全く痛みがなくなっていた。8カ月後に再調査したが、いかなる不快感もなかった。

十五、上腕骨内側上顆炎
概説
上腕骨内側上顆炎は、損傷や使い過ぎによって起こる上腕骨内側上顆とその周囲軟部組織の疼痛である。
局部解剖
総屈筋腱と円回内筋は上腕骨内側上顆に付着しており、上腕骨内側上顆後部内側の上溝内には尺骨神経が通っている(53図)。
病因と病理
急に引っ張られたり蓄積性の疲労によって、上腕骨内側上顆の総屈筋腱と円回内筋腱の
起始部が断裂し、出血や滲出が起こる。長
期にわたって字を書いたりして上腕骨内側
内側上顆 上顆が圧迫されると、血液が不足して修復
/ の過程で瘢痕癒着が発生し、筋腱が攣縮し
て難治性の痛みが起こる。また尺骨神経の
皮枝が圧迫されても痛みが発生する。
\ 症状
総屈筋腱 肘の内側が痛み、痛みが軽かったりひど
くなったりする。急性発作時には患肢で重
量物を下げたりタオルを絞ったりできず、
前腕を回内したり肘を曲げるなどで痛みが
腕橈骨筋 ひどくなり、日常生活や身の回りのことに
大きな影響を与える。
診断
1.青壮年に多く、肘部損傷や慢性損傷
歴がある。
2.上腕骨内側上顆に痛みや圧痛がある
。また上腕骨内側上顆の部分に大豆ぐらい
の硬い結節が触知できることもある。
53図 上腕骨内側上顆周囲の筋肉組織構造 3.屈筋と円回内筋に抵抗を加えると痛
む。
治療
圧痛点を小鍼刀の刺入点とし、刃を屈筋の線維走向と平行に刺入する。鍼体を刺入点の骨面と垂直に刺入し、骨面まで達したら縦行剥離、次に横行剥離をする。瘢痕結節があれば切開剥離をする。
注意事項
内側の尺骨神経を損傷しないように注意する。

十六、橈骨茎状突起部の狭窄性腱鞘炎
概説
狭窄性腱鞘炎とは、指、足の裏、手首、踝などのならどこでも発生するが、橈骨茎状突起に炎症が起こることが最も多い。腱鞘炎のなかでも狭窄性腱鞘炎は最も治りにくく、ふつうの保存療法では効果がない。治療では、この疾患に対する発病メカニズムをはっきりさせ、小鍼刀を使えば簡単で速効性がある。
局部解剖
橈骨下端外側面のザラザラしたところを遠側に伸ばしたところが茎状突起である。橈骨茎状突起基底部の少し上方には、腕橈骨筋が付着し、茎状突起の末端には橈側側副靭帯が付着している。橈骨茎状突起の外側には一本の溝があって、長母指外転筋腱と短母指伸筋腱は、この溝の外面にある骨線維性腱鞘をともに通過して親指に達し、伸筋支帯は橈骨下端の外側縁と橈骨茎状突起に付着している。
病因と病理
橈骨下端の手頚の茎状突起に腱鞘があり、腱鞘内を長母指外転筋と短母指伸筋が一緒に通過して母指背側に入る。腱の通る溝が浅くて狭く、底面は平らでなく、さらに伸筋支帯で被われている。
そのため2つの腱は密着して1つの頑丈な腱鞘内を通ることになるので、持続的に親指を外転させていると、筋腱が狭い腱鞘内で絶えず動いて摩擦し、蓄積性損傷を起こして腱鞘組織の線維が軽く裂けたり、破裂したり、軽度の出血や浮腫が発生し、浮腫が吸収されたり修復の過程で、腱鞘内壁の瘢痕が絶えず肥厚して狭くなり、2つの筋腱を圧迫したり癒着させたりする。
腱鞘内層に絶えず瘢痕ができるため、条件さえあれば腱鞘内の筋腱に癒着が発生し、筋肉は圧迫されて機能障害が起こる。そのうえ親指を無理に外転させたり内転させると、筋腱や腱鞘内壁が裂け、長母指外転筋腱と短母指伸筋腱に痙攣や疼痛、局部の腫れ、機能障害などが発生する。
症状
緩慢に発病し、橈骨茎状突起周囲に痛みがあり、局部が腫れたり、はっきりした腫脹がなかったり、小さな瘤が出っ張ったりし、親指の動きが制限され、手首に力が入らなくなったり運動制限があったりして、痛みが手指や前腕に放散する。
診断
1.橈骨茎状突起に、はっきりした圧痛がある。
2.患側の親指を内転屈曲して掌のひらに置いて拳を握らせ、さらに手首を尺側に曲げると、橈骨茎状突起に激しい痛みが起こる。
治療
患者に拳を握らせて治療机の前に立たせ、手首の下に脈を診るときに使う小さな枕を置き、橈骨茎状突起から最も過敏な圧痛点を選んで消毒したら、小鍼刀の刃を橈骨動脈と平行に刺入し、腱鞘内で縦行剥離する。病状のひどいものは腱鞘を刺し貫いて骨面に接触させ、刃を傾けて腱鞘を骨面から剥離させるように跳ね上げてから抜鍼する。そのあとアルコール綿花を使って血が止まるまで、しばらく鍼孔を押さえる(54図)。

伸筋支帯


---小鍼刀の切り口


| 短母指伸筋
| | 橈骨茎状突起の腱鞘
短母指伸筋 |
長母指外転筋

54図 橈骨茎状突起狭窄性腱鞘の小鍼刀操作の図示

腫れのひどいものには25mgのプレドニゾロンに80mgのプロカイン混合液を、治療後1回ブロック注射する。軽症のものには必要ない。
1回で治らなかったら5日後に再度治療する。一般に3回以内で治癒する。
以前には本疾患に対して、鍼灸、理学療法、薬物療法や漢方薬など、さまざまな治療法があったが、比較的効果的な治療法は酢酸ヒドロコルチゾン25mgに1%プロカイン2ml加えて、7日に1回、4回を1クールとしてブロック注射をおこなう方法である。1~2クール治療すれば効果があるが再発しやすく、重症のものや難治のものは、この方法でも効果がない。極端な方法は手術して鞘膜部分を切除する。
注意事項
小鍼刀で剥離するときは、橈骨動脈や橈骨神経枝を傷付けないように注意する。
症例
袁××、女、59歳:職工。沐城鎮・東風居委会・東風街2号在住。左橈骨茎状突起狭窄性腱鞘炎となって3カ月あまり。鍼灸や理学療法、漢方薬や按摩など、いろいろ治療したが効果がなかった。4月6日に骨科で診察した。患部は腫脹し、はっきりした圧痛があり、患側の親指を内転屈曲させて手掌に置き、拳を握らせてから手首を尺側に曲げると橈骨茎状突起に激しい痛みが発生する。すぐに小鍼刀治療をおこない、25m のプレドニゾロンに120mgのプロカイン混合液で局部ブロックをした。5日後に再検査すると症状は消失し、4カ月後にも追跡調査したが普通に仕事しており、全く不快感はなかった。

十七、手根管症候群
概説
手首の使い過ぎや損傷によって手根管が狭窄し、難治性の症状が現れたものである。手掌が痺れ、手首が痛み、出関節と手指の屈伸が制限される。以前は鍼灸、電気治療、漢方薬に浸すなどの治療法があったが、あまり効果がなかった。保存療法で効果がない場合、外科では横走手根靭帯の切開弛緩術をおこなったが、癒着したり腕関節に力が入らなくなったりした。
小鍼刀療法には優れた治療効果がある。
局部解剖
手根管は手首の掌側面にあり、背面は手掌面手根溝により、手掌面は横走手根靭帯によ
り構成された弾力性の少ない狭い管で、その中には
正中神経、浅指屈筋、深指屈筋、長母指屈筋など、
9本の筋腱が通っている。それぞれの筋腱は縦束繊
維束に取り巻かれ、血液供給と滑り機能を保障され
ている(55図)。
病因と病理
--横走手根靭帯 横走手根靭帯は厚くて硬く、幅約2.5cmで弾
力性がない。損傷すると瘢痕拘縮し、手根管を狭く
すると同時に、縦束線維束にも瘢痕拘縮が起こるの
で、場合によっては横走手根靭帯と筋腱が癒着し、
55図 手根管の手掌面 筋腱と神経を圧迫して引きつけ、局部の血行障害を
起こして複数の筋肉や正中神経を引っ張り、運動制限させる。
症状
腕関節の掌側に怠い、腫れぼったい、痛み、こわばり、手掌の痺れなどがある。腕関節と手指の屈伸が制限される。
診断
①手首の損傷歴や疲労歴がある。
②手首の掌側で少し尺側によったところに圧痛があり、腕関節がこわばっている。
③腕関節を背屈すると局部が痛み、手掌の痺れがひどくなる。
治療
①手掌面を上にして、手首を治療台に乗せ、腕関節部の下に脈を診る枕を置いて腕関節を背屈させる。
②患者に力を込めて拳を握らせ、掌側に手首を屈すると、腕関節部掌側に3本の筋が浮き出る。真ん中は長掌筋腱、橈側のは橈側手根屈筋腱、尺側のは尺側手根屈筋腱である。
③定点:遠位腕関節横紋にある尺側手根屈筋腱内側縁を1つの刺入点とし、尺側手根屈筋の内側縁に沿って遠端に2.5cmほど移動したところを次の刺入点する。遠位腕関節横紋の橈側手根屈筋腱内側縁を1つの刺入点とし、さらに橈側手根屈筋腱を遠端に2.5cmほど移動させたところに、次の刺入点を取る(56図)。
④この4点から、それぞれ刺入する。刃は常
に筋腱と平行にして、鍼体と腕関節平面が垂直
横走手根靭帯 となるように5mmほど刺入し、両側の手根屈
長掌筋腱 | 筋腱内側縁に沿わせて横走手根靭帯を、それぞ
| | れ2~3mm切開する。それと同時に、刃を手
| | 根屈筋腱内側縁に沿わせて平行にし、中央に向
| | けて数回そっと推す。その目的は手根屈筋腱と
横走手根靭帯の癒着を剥がすためである。
正中神経--- ⑤操作が終わったら鍼孔にガーゼを被せ、患
者の手を持って腕関節を3~5回屈伸させる。
注意事項
①必ず尺側と橈側の2つの筋腱の内側縁から
刺入しなければならない。だから2つの筋腱の
56図 手根管症候群の刺入図 外側縁は、尺骨動脈と橈骨動脈、そして神経の
走行部位となる。筋腱の内側縁に、ぴったり密
着させる。中央に向けると正中神経に当る。
②横走手根靭帯を切断するときは、常に患者に鍼感を尋ねる。もし痺れや触電感があったら、すぐには先を移動させる。
症例
薛××、女、48歳:清江化工工場の機械組立て工。手根管症候群となってから5年。いろいろ尋ね歩いたが、効果がなかった。上海の某医院で手術を勧められたが、カタワになるのが恐くて治療しなかった。1979年11月17日に骨科にきた。1回ほど小鍼刀治療をして、三七錠を5日間飲んでから再診に来た。再診に来たとき、患者は手首に軽い腫れぼったさがあるだけで、他の症状は全部なくなったという。帰ってから温めた酢に患部を5回ほど浸すように申し付ける。1年2カ月後に再調査すると、10日後には症状が総べて消え、現在に至ってもいかなる不快感もない。

十八、尺骨肘頭滑液包炎
概説
尺骨肘頭滑液包炎は後肘滑液包炎とも呼ばれ、坑夫に多く発生するので中国では「坑夫肘」と呼ばれている。本疾患になると患肢の機能がひどく制限され、特に屈伸するときに肘頭が激しく痛む。ルーチンな治療、薬物治療などでは効果が余りなく、以前には手術がしばしば用いられ、局部麻酔をして手術により切除していたが、ほとんどの患者は肘関節の屈伸が悪くなった。
局部解剖
尺骨肘頭滑液包は、3つの滑液包がある。①肘頭皮下滑液包:尺骨肘頭と皮膚の間にある。②肘頭腱内包:上腕三頭筋腱内の滑液包。③上腕三頭筋下包:上腕骨と尺骨肘頭の間にある。③は②の深部、②は③の外部、①は更に浅層にあり、②と③は遠位の皮下にある(52図参照)。
病因と病理
正常ならば、肘頭皮下滑液包、肘頭腱内包、上腕三頭筋下包が上腕三頭筋や関係する筋膜を潤す。急性では肘頭の打ち身などで滑液包を損傷し、滑液包の滲出が増え、局部が腫れて痛む。自己修復されて滑液包に瘢痕ができて閉塞され、滑液包が正常に滑液を分泌して周囲の活動性組織を潤すことができずに腫れて痛み、肘関節の動きが制限される。蓄積性損傷は肘で支える仕事をしている人に多く、肘部が長期にわたり負担がかかるため摩擦損傷し、滑液包壁が肥厚して線維化し、局部が少し腫れて皮下に摩擦感があったり、塊りのような硬い結節を触知できる。
症状
患側の肘頭が痛み、屈伸するとひどくなる。局部が少し腫脹し、腫れぼったく、患肢をまっすぐ伸ばせないが、少し曲げた状態で物を持てる。
診断
①外傷歴や疲労歴がある。
②肘頭が痛み、屈伸がしにくい。
③肘関節の背面に嚢胞状に腫れた物があり、軟らかくて少し動くようで、ドクドク脈打つような感じがし、少し圧痛がある。
④上腕三頭筋腱炎と区別しなければならない。上腕三頭筋腱炎も肘頭部が痛むが、膨張感や脈打つような感じはなく、嚢胞状の腫れ物がなく、上腕三頭筋に抵抗を加えると陽性である。尺骨肘頭骨折と区別する。尺骨肘頭骨折は、はっきりした外傷歴があり、ひどく痛んで圧痛がはっきりしており、骨摩擦音があってX線検査で診断できる。
治療
①患肢を45度に屈する。
②疼痛点が皮下の少し遠位にあれば、肘頭腱内包なので疼痛点を刺入とする。鍼体を尺骨平面と垂直にして、刃を上腕三頭筋の線維走行と並行に刺入し、骨平面まで達したら2~3回縦行剥離し、さらに横行剥離して抜鍼する。そして無菌ガーゼを被せたら親指の腹で鍼孔をしばらく圧迫すると同時に、患肢を持って1~2回屈伸させる。
③疼痛点が肘頭尖端部の関節の間隙にあれば、表層の肘頭腱内包か深層の上腕三頭筋下包である。疼痛点から刺入する。鍼体を皮膚と垂直にして、やや近位に傾けて、刃を上腕三頭筋線維の走向と平行に刺入する。深いものは肘頭尖端部の骨平面に到達させるが、浅いものは骨面までは刺入しない。2~3回切開剥離したあと抜鍼し、無菌ガーゼを被せて親指の腹でしばらく鍼孔を圧迫し、患肢を1~2回屈伸させる。
注意事項
肘関節包に刺入してはならない。また内側の尺骨神経を傷付けてもいけない。尺骨神経は、滑液包内側と内側上顆の間にある尺骨神経溝を通る。

十九、指屈筋腱腱鞘炎
概説
指を頻繁に屈伸するため、指屈筋腱と腱鞘の摩擦損傷によって発病する特に多い疾患である。親指と人差指の腱鞘炎がもっとも多い。また手指掌側の指関節横紋部分には皮下組織がないため、皮膚と腱鞘が直接隣り合っている。だから外傷が直接腱鞘に及んで腱鞘炎となる。そうした原因で指屈筋腱腱鞘炎の発病部位は、ほとんどが手指の掌側指関節横紋の部分である。
この疾患に対して整形外科では腱鞘を緩める手術をする。一般に保存療法では効果が得られにくい。小鍼刀を使えば簡単で安全に治療でき、しかも効き目が速い。
局部解剖
指屈筋腱腱鞘は浅指屈筋腱と深指屈筋腱を包んでおり、外層の腱線維鞘と内層の滑液鞘からできている。腱線維鞘は掌側の深筋膜が肥厚してできた管で、指骨関節包の両側に付着し、筋腱の固定と潤滑作用がある。筋腱滑液鞘は二層からなる管状の筋腱の滑液鞘で、臓側板と壁側層に分けられる。臓側板で筋腱を包み込み、壁側層は線維鞘の内側面に貼り着いている。滑液包は筋腱を保護し、摩擦をなくして潤滑作用がある。
病因と病理
指屈筋腱腱鞘の変性拘縮は摩擦損傷によって起こったものであり、炎症性変化も続発性なので原因ではない。使い過ぎにより損傷され、腱鞘が修復されて瘢痕ができ、さらに損傷後は分泌物が減少して摩擦損傷に拍車がかかる。
症状
患指の屈伸が制限されるが、ほとんどは掌側で、指関節横紋が痛んだり腫れたりして箸を持ったりボタンを止めたりしにくい。長引けば患者の多くは指関節の弾発音を訴える。圧痛点にヒモ状や塊り状の硬結を触知できる。
診断
①手指の損傷や使い痛みがある。
②手指掌側面の指関節横紋に、痛みや圧痛がある。
③手指の屈伸障害がある。
治療
①患側の手掌面を上にして治療台に乗せ、患指掌側の指関節横紋を触って硬結や圧痛があれば、そこから刺入する。
②鍼体を手掌面と垂直に、刃を指屈筋腱と平行に刺入して骨面に到達させる。
③まず切開剥離をおこない、さらに縦行剥離あるいは横行剥離をする。硬結があれば切開する。操作が終わったら指を2~3回屈伸させる。
注意事項
刺入点のほとんどは手指掌側面の指関節横紋の中点である。刃を指骨の両側に移動させてもよいが、手指両側面の軟部組織に刺入してはならない。手指の重要な神経や血管の多くは手指の両側を通っているため、それを傷付けないようにする。
症例
秦××、女、46歳:沐陽章集公社章集大隊人。患者の右手指に指屈筋腱腱鞘炎が起こってから5年になる。いろいろ治療したが効果がなかった。1980年1月21日に骨科に来た。検査すると右親指掌側の中手指節関節横紋に、圧痛と大豆の花弁の 位の大きさの結節があった。親指は半分曲げたような状態になっている。小鍼刀治療を5日に1回おこない、3回の治療で治癒した。1年半後に再調査すると、親指はスムーズに屈伸できるようになり、何も不快感はない。

二十、手背伸筋腱腱鞘炎
概説
手首の後ろに6個の骨線維管があるが、それが手背伸筋腱腱鞘である。6つの腱鞘は、どれでも腱鞘炎を起こすが、長母指外転筋と短母指伸筋の腱鞘炎、総指伸筋と示指伸筋の腱鞘炎がもっとも多い。
局部解剖
伸筋支帯は肥厚した深筋膜からできており、両側は橈骨と尺骨、そして手根骨に付着し
ており、靭帯の深部から5個の筋
指伸筋腱--- 膜隙が出て、橈骨と尺骨の下端背
側面骨面上に止まる。手首の後ろ
には6個の骨線維管があり、前腕
尺骨--- から来た12本の筋腱を6つに分
--手背伸筋腱鞘 けて滑液鞘で包み込み、その6個
の管を通って手背と手指に達して
伸筋支帯- いる(57図)。
手背伸筋腱鞘--- 手背の橈側から尺側まで、各管
の中を通る筋腱の順序は次のよう
になる。①長母指外転筋腱と短母
指伸筋腱。②長橈側手根伸筋と短
橈側手根伸筋。③長母指伸筋腱。
④総指伸筋腱と示指伸筋腱。⑤小
指伸筋腱。⑥尺側手根伸筋腱。
病因と病理
57図 手背伸筋腱鞘解剖位置図 手背伸筋群の腱は、すべて腕関節背部に並び、手首を伸ばしたり指を伸ばすような複雑な動きを担っている。しかし、これらの腱鞘は狭い腕関節背部に押し込められているので、小さな空間しか占められない。また、これら腱鞘の深部は腕関節部の骨組織なので弾力性がなく、腱鞘周囲は硬くて窮屈である。さらに手首の背屈運動が頻繁におこなわれるため、生理構造からも、こうした腱には摩擦損傷がおきやすい。
手背伸筋腱鞘炎は、疲労性の摩擦損傷のほかに、急性損傷も起こる。こうした骨性線維管が一度損傷されると瘢痕癒着となり、拘縮して管腔を狭くするので症状が現れる。
症状
腕関節背側の一部に怠い、腫れぼったい、痛みなどがあり、手掌を背屈すると局部に運動制限があったり、腕関節背部に大豆ぐらいの結節がある。
診断
①腕関節部に疲労歴や損傷歴がある。
②腕関節背側に怠さ、腫れぼったさ、痛みなどがある。
③腕関節背側の一部に、はっきりした圧痛点があったり、スジ状の腫脹があったり、硬結があったりする。
④患者が腕関節を背屈したとき、腕関節に運動制限がある。
⑤患者によっては、腕関節部の皮下にはっきりした腫脹がある。
上の症状に基づいて、橈側から尺側に腕関節背側の伸筋腱を並べれば、どの腱鞘に病変があるのか判る。腱鞘の走行方向は筋腱の走行方向と一致しているので、それに基づいて刃の方向を決めて治療する。
治療
①腕関節掌側を下に向け、治療台に手を乗せる。手首の下には脈を診る枕を挟み、腕関節を掌屈させる。
②もっとも圧痛のはっきりしたところか腫れたところ、あるいは硬結部分に刺入する。刃は筋腱の走行と平行に刺入する。
③鍼体が腕関節平面と垂直になるよう刺入し、骨面まで到達させる。
④まず縦行剥離したあとで、横行剥離する。硬結があれば切開剥離し、硬結があったら縦に切開する。
注意事項
①長橈側手根伸筋や短橈側手根伸筋の腱鞘炎の治療では、橈骨神経の枝を傷付けないよう注意する。尺側手根伸筋腱腱鞘炎の治療では、尺骨神経手背枝を傷付けないよう注意する。
②切皮のとき鍼尖を筋腱に密着させる。そうしないと腱鞘炎を治療できない。
症例
尤××、男、22歳:沐城西関居委会在住。右側手首の背側が痛み出して1年あまり。腕関節の背部中央に大豆ぐらいの硬結が1つある。主訴:1年前に同級生と腕相撲し、手を組み合ったときに捻挫して、痛みは今でも続いている。右手で重いものを持てず、湿布薬を貼ったり鍼灸をしたが効果がなかった。1981年3月11日、骨科で診察し、総指伸筋腱の腱鞘炎と診断した。1回の小鍼刀治療で治癒した。1年後に再調査したが、手首の動きは正常で、少しも不快感がない。
第十二章 腰臀部

二十一、腰部棘上靭帯の損傷
概説
腰部棘上靭帯の損傷は、大変多い。背骨を曲げる動きにより、疲労したり損傷する。なかでも腰部の棘上靭帯は疲労したり損傷しやすいので、腰部を中心に解説する。急な外相によっても棘上靭帯は損傷される。損傷して間のないものには適切な手法を使って治療すれば効果があるが、陳旧性の慢性損傷には小鍼刀の効果がよい。
局部解剖
棘上靭帯は細くて長い靭帯で、第7頚椎棘突起から起こり、棘突起尖端部に沿って下に
行き、仙骨稜に止まっている。この靭帯は脊柱が
過度に前屈しないよう制限している(58図)。
--棘上靭帯 この靭帯は上位6つの頚椎以外は、すべての椎
体の棘突起に付着している。
病因と病理
背骨は頻繁に湾曲運動しているが、過度に前屈
すると棘上靭帯が引っ張られて、負担がかかる。
脊柱を前屈させた人体を湾曲した物体と見做すな
--棘間靭帯 らば、棘上靭帯は湾曲した物体の凸面で、腹部は
湾曲した物体の凹面となるが、そのとき凸面では
--棘突起 引っ張り応力が最大となり、凹面では圧応力が最
| 大となる。そのため棘上靭帯は脊柱を過度に前屈
椎弓板 したときに牽引損傷されやすい。また脊柱の屈曲
位で急に縦軸方向の打撃を受けても棘上靭帯は損
傷され、脊柱の屈曲も急激におこなえば棘上靭帯
58図 棘上靭帯と棘間靭帯の位置 が損傷される。
棘上靭帯は、棘突起尖端部の上下縁を損傷されることが多い。
損傷して日が経つうちに棘上靭帯の棘突起尖端部の上下縁が瘢痕拘縮し、治りにくい痛みが発生する。
棘上靭帯損傷による圧痛点は非常に敏感である。
症状
①損傷歴がある。
②拾いもの試験(ピックアップテスト)が陽性である。
③腰椎棘突起上に疼痛点や圧痛点があり、それが棘突起尖端部の上下縁にあって、疼痛点は浅表の皮下にある。
治療
①患者をベッドにうつ伏せにする。
②圧痛点からもっとも近い棘突起の尖端から刺入する。刃を脊柱の縦軸と平行にし、鍼体と背面が垂直に刺入して、棘突起尖端部の骨面まで到達させる。
③疼痛点が刺入点である棘突起の上縁にあれば、鍼体と下段の脊柱が45度の角度となるように鍼体を傾ける。疼痛が刺入点の棘突起下縁にあれば、鍼体と脊柱上段が45度の角度になるようにして、さらに4mmぐらい斜刺で刺入する。まず縦行剥離したあと、脊柱の縦軸に沿わせて鍼体を移動させ、鍼体が元の位置と90度の角度をなすように、反対方向に移動させる。こうして上段の脊柱と下段の脊柱を、棘突起の上角と下角が刃と45度の角度となるように移動させる。そして棘突起尖端部の上下角の骨面を縦行剥離し、次に1~2回横行剥離する。もし頑丈な硬結があれば縦行切開して抜鍼する。
注意事項
両棘突起間に刺入すると健康な組織を傷付けるので、必ず棘突起の尖端から刺入する。
症例
馮××、女、33歳:沐陽顔集郷人。棘上靭帯を損傷して2年あまり。述べるところによると、重量物を担いだときに損傷した。当時は腰部正中の皮下を刃物で切られるような痛みがあり、その晩は痛くて寝返りもできない。10日あまり漢方薬を飲んだり湿布をして緩解した。この1年あまり痛みがひどくなり、いろいろ治療したが効果がなかった。1978年6月6日骨科に来院。第1腰椎棘上靭帯損傷と診断され、1回の小鍼刀治療で治癒する。1年6カ月追跡調査しているが、普段は正常で少しの不快感もない。しかし気候が変わるとき、患部にわずかな怠さがある。

二十二、棘間靭帯損傷
概説
この靭帯は背骨を回すときに保護する。
この靭帯の損傷は棘上靭帯の損傷より少ないが、背骨を急に過度にひねったときに損傷しやすい。臨床では棘上靭帯損傷と混同しやすい。
局部解剖
棘間靭帯は隣り合った二つの椎体骨の棘突起間に位置し、前方は黄色靭帯につながっており、後ろは棘上靭帯に移行する。腰椎部の棘間靭帯は幅広くて厚く、正方形である(58図)。
病因と病理
棘間靭帯は脊柱の急で過度な回転により引っ張られて損傷する。損傷すると棘突起間がシクシク不快に痛み、患者は身体を回すことを恐れるようになる。身を翻すときは、常に両足を移動させて背骨は回さないようにする。腰を屈める動作がやや制限され、直立や腰掛けたり横になったりでは余り影響がない。そのため靭帯を捻挫しても、ほとんどの患者は軽く考え、しばらく安静にしていれば良くなると思っている。だから本疾患患者のほとんどは慢性の患者である。損傷して日が経つうちに、棘間靭帯は瘢痕拘縮し、症状は日増しにひどくなり、痛みが耐えられなくなって診察にくる。
棘間靭帯の拘縮によって上下の棘突起が引っ張られて間隔の狭くなったものを吻合性棘突起〒と呼び、上下椎体の力学状態に一列の変化が起こって、複雑な症状が発生する。
症状
脊柱棘突起間に深在性の脹痛があり、患者は背骨をひねるような動作をしない。寝るときは脊柱を真っ直にした側臥位になる。歩くときは背骨を硬直させる。
診断
①背骨を捻挫するなどの外傷歴がある。
②棘突起間に深在性の脹痛があるが、圧痛ははっきりしない。
③脊柱を少し屈め、回すと痛みがひどくなる。
治療
①患者を側臥位にしてベッドに寝かせ、脊柱をやや屈曲させる。
②患者が痛みを訴える棘突起の間隙に刺入する。
③刃を脊柱の縦軸と平行にし、1cmぐらい刺入して、刃が強靭なものに当って患者も怠さを訴えたら、それが病巣である。まず1~2回縦行剥離し、次に鍼体が脊柱の縦軸と30度の角度をなすように傾け、上下の棘突起の上下縁を棘突起の矢状面に沿って上下に2~3回縦行剥離したら抜鍼する。
注意事項
深く刺入し過ぎてはならない。黄色靭帯を貫けば脊髄を損傷する。
症例
黄××、男、51歳:沐陽公路管理所技術者。2年前に腰部を捻挫した。当時は腰椎間を針で刺すような痛みがあった。1週間ほどベッドで安静にし、2瓶の三七錠を飲んだら緩解した。この1年ぐらいで腰が痛くなり、日に日にひどくなる。某病院に1カ月入院して、穴位注射や漢方薬、薬物治療などをして症状は緩解し、退院して5日すると痛みが再びぶり返し、1979年3月14日に骨科に来た。第1第2腰椎の棘間靭帯損傷と診断された。1回小鍼刀治療をすると、その場で腰部が軽くなり、動けるようになった。5日に再診すると症状が全くなくなっていた。1年4カ月後に再調査すると、治癒してから腰痛になったことはないと言っていた。

二十三、外腹斜筋損傷
概説
外腹斜筋を損傷する部分は、停止部となる腸骨稜前部が多い。身体を屈曲させて脊柱を回旋するとき、急に回旋動作をしたり過度な回旋動作をすることで損傷する。起始部の痛むときは脇痛と診断されることが多く、停止部が損傷されていれば腰筋損傷といい加減な診断をされることが多い。
急性と慢性損傷があるが、小鍼刀は慢性損傷に適している。
局部解剖
外腹斜筋は下位8本の肋骨外面から起こり、腸骨稜の前部に止まっている。また腱膜は白線に止まって鼠径靭帯を作っている。作用は前屈と側屈、そして脊柱の回旋である(59図と60図)。
病因と病理
外腹斜筋を損傷する患者は多いが、ほとんどは肋骨痛や腰筋損傷と診断され、正確に診断されているものはほとんどいない。外腹斜筋は体幹を安定させたり回旋させる。そのため疲労損傷したり外傷しやすい。前屈して回旋動作をするときに損傷することが多いが、その動きでは応力が肋骨部の起始部と停止部の腸骨稜前部辺縁に集中するからである。急




外腹斜筋--
外腹斜筋--
--外腹斜筋 外腹斜筋--
内腹斜筋-- -外腹斜筋腱膜



59図 外腹斜筋背面 60図 外腹斜筋側面と前面

性損傷でははっきりした痛みや腫脹がある。安静と簡単な治療で緩解するが、だんだんと慢性化する。起停止部(骨との付着部)の損傷によって内出血して器質化し、瘢痕となって、場合によっては筋肉を攣縮させ、特殊な症状が現れる。
症状
起始部を損傷されると肋骨の痛みを訴えるものが多く、停止部を損傷されると腰の側面
の痛みを訴え、腰の動きがしにくくなる。
一側の外腹斜筋損傷では、患者は側屈して少し反ったような姿勢となり、両側が損傷されると肋骨が下降して腰を少し前に突き出すような姿勢になる。
診断
①腰部を屈曲位にし、背骨をひねったことがある。
②下位8本の肋骨で、外腹斜筋の起始部が痛んだり、圧痛があったり、あるいは腸骨稜前部の停止部に痛みや圧痛がある。
③側屈位で、患者の背骨をひねるような動作をさせると、痛みがひどくなる。
治療
①起始部:圧痛点付近の肋骨面(一般に圧痛点は肋骨面上にある)を刺入点とする。刃を外腹斜筋線維の走行と平行に当てて刺入し、縦行剥離したあと横行剥離し、抜鍼する。
②停止部:患側が上になるように患者を側臥位にする。下になる腿は曲げて、上の腿は伸ばし、腸骨稜前部の疼痛点から刺入する。刃を外腹斜筋の線維走行と平行に刺入し、鍼体と身体の矢状面を垂直にして5mmぐらい刺入する。そのあと鍼体を身体の縦軸に沿わせて斜めにし、身体の縦軸上段と30度の角度となるようにし、腸骨稜前部に2~3回縦行剥離をおこない、次に横行剥離を2~3回したあと抜鍼する。
注意事項
①起始部では、肋骨の間隙に刺入してはならない。胸膜を突き破る恐れがあるので、常に肋骨面上で小鍼刀を操作するようにする。
②停止部に刺入するときは刺入深度を把握する。刃が腸骨稜前部の骨面に接触したら、鍼を動かして探り、反応点(患者が怠い腫れぼったさを感じるところ)を捜し当てたら剥離操作をする。
症例
桂××、男、42歳:淮陰県人武部幹部。外腹斜筋を損傷して3年。ひどい痛みが始まると息もできない。按摩治療をしているが、軽くなったりひどくなったりで長いこと治らない。この半年は頻繁に痛くなり、仕事を続けるのも難しい。1978に骨科に来て診察し、2回の小鍼刀治療で治癒した。1年8カ月後に再調査したが、少しも不快感はない。

二十四、腰肋靭帯損傷
概説
この靭帯は腰部を頻繁に屈伸運動することによって起こる疲労損傷や、急に腰部に大重量の負荷がかかって損傷する。この靭帯が損傷されると、腰背筋筋膜炎など、いい加減な診断をされることが多い。そうなると適切な治療がなされず、治らない。
局部解剖
腰背筋膜は腰部の深筋膜であり、3層に分かれている。浅層は厚くて、広背筋と下後鋸筋の深部側面、腸骨筋の表面に位置し、上は頚部の深筋膜とつながり、下は腸骨稜と仙骨外側に付着している。中層は腸骨筋と腰方形筋の間に位置し、腱膜状で白く光沢がある。腸骨筋の外側縁と浅層の筋膜は癒合して腹筋起始部の腱膜を構成している。中層筋膜の上部で、特に厚い部分を腰肋靭帯と呼ぶが、この靭帯の上は12肋骨の背側下縁に止まり、下は腸骨稜に付着し、内側は腰椎の横突起に付着している。この靭帯は腰部の両側に1本ずつあり、人が直立の姿勢を維持する上で重要な役割を果たしている。腰背筋膜損傷の中で、もっとも多いのは腰肋靭帯を損傷したものである(61図と62図)。



腰肋靭帯 腰肋靭帯-------




腰背筋膜中層-----


腰背筋膜浅層


61図 腰背筋膜浅層 62図 腰肋靭帯後面図

症状
腰背部が痛んで、腰部に運動制限があり、腰部が硬直している。両側が損傷されていれば、患者はアヒル歩行をし、腰を温めて冷やさないようにする。歩くときは両手を腰に当てて支えるが、重傷のものは歩行困難となる。自分で靴や靴下が履けず、腰を前屈しようとしない。
診断
①疲労損傷などの外傷歴がある。
②第5腰椎横突起外側縁の腸骨稜か、第12肋骨下縁の第1腰椎横突起外側に疼痛と圧痛がある。
③拾い物テストが陽性。
治療
①患者をうつ伏せに治療ベッドに寝かせる。
②腸骨稜か、第12肋骨の圧痛点上から刺入する。
③第12肋骨の圧痛点上縁から刺入する。刃が腰椎縦軸と15度の角度となるようにして骨面まで刺入したあと、刃先を12肋骨の下に移動させ、さらに1~2mm刺入して、刃の方向に沿わせて2~3回縦行剥離をする。刃の向きを変えず、鍼体を下に傾斜させて肋骨平面と150度の角度にし、12肋骨下縁の骨面上で、まず1~2回縦行剥離し、さらに1~2回横行剥離したら抜鍼する。
④腸骨稜の圧痛点に刺入する。鍼体が腸骨面と垂直になるように、刃と腰椎の縦軸方向が15度の角度をなすように刺入し、骨面まで達したら鍼体が腸骨と60度の角度になるように傾けるが、このときも刃の向きは変えない。腸骨稜上縁に刺入したら、さらに3mmほど刺入し、2~3回縦行剥離したあと鍼体を傾けるが、やはり刃の向きは変えない。腸骨稜と150度の角度となるようにして、骨面上を2~3回縦行剥離し、さらに2~3回横行剥離したら抜鍼する。
注意事項
①この靭帯は第12肋骨の下縁と腸骨稜の上縁に付着しているので、小鍼刀操作では、必ず12肋骨の下縁骨面上と腸骨稜上縁の骨面上を剥離しなければならない。そうしないと効果がない。
②深度に注意して、くれぐれも腹腔内には刺入しないようにする。
症例
馬××、女、40歳:沐陽城南居委会在住。腰背痛となって4年余り。常に医者通いしている。神経ブロックは60回以上、漢方薬を飲んだり、薬物治療を受けたり、鍼灸をしたり、理学療法をしたが効果がない。治療の苦しみを舐め尽くした。1979年1月10日に骨科に来た。腰肋靭帯損傷と診断し、1回の小鍼刀治療で治癒した。2年ほどして再調査すると、20日余り休んだのち、普通に仕事に行き、何の不快感もない。

二十五、第3腰椎横突起症候群
概説
第3腰椎横突起症候群は、よく見かける腰痛の一つである。普通の治療では効果がなく、治療の難しい疾病の一つである。この疾患の発病メカニズムは、以前には複雑だと考えられてきたが、小鍼刀療法を使うことによって、この疾患の病理に新たな検討と認識が加わり、治療においても優れた効果が得られるようになった。
局部解剖
第3腰椎横突起には、大小さまざまな筋肉が付着している。隣り合う横突起間には横突間筋、横突起尖端と棘突起の間には横突棘筋、横突起前側には大腰筋と腰方形筋、横突起背側には仙棘筋があり、腰背筋膜の中層も横突起に付着している(63図と64図)。



第3腰椎横突起--

---癒着部位 --癒着個所



---仙棘筋






63図 第3腰椎横突起症候群の病理解剖 64図 第3腰椎横突起の背面図

腰椎の横突起の中でも、第3腰椎横突起は最長で、動く幅も大きく、最大の力で引っ張られるので、損傷する機会も多い。
病因と病理
第3腰椎横突起は、ほかの腰椎横突起よりも長く、腰椎の中段に位置して腰の安定と平衡作用を強化している。こうした生理的特徴のため、腰部を屈伸運動させたとき横突起尖端部の軟部組織を摩擦損傷する機会も多く、腰を屈伸させる動作を長く続け過ぎると第3腰椎横突起尖端部と腰背深筋膜や仙棘筋が摩擦し、損傷されて症状が現れる。
第3腰椎横突起尖端部と筋肉が摩擦損傷し、毛細血管から出血したり筋肉線維の断裂が起こり、それが自己修復される過程で筋肉に瘢痕ができ、第3腰椎横突起の尖端部と癒着すると腰背筋膜や仙棘筋の動きが制限され、腰部の屈伸が制限される。力を入れて腰を屈めたり作業をすると、深筋膜と仙棘筋が引っ張られるが、さらに進むと損傷されて局部に出血や充血、浮腫などが起こって、ひどい場合は急性症状が現れる。休憩すると充血や浮腫は吸収されて症状も幾らか緩解するが、ひどく癒着していれば悪循環する。この疾患の患者で根本的な治療がされていないものは(癒着を剥離したり第3腰椎横突起を切除するなど)、症状が徐々にひどくなっている。第3腰椎横突起尖端部により牽引摩擦損傷を受けて擦れる筋肉肉部分は、第3腰椎横突起尖端部と接触する運動範囲内で1本の線となるなので、癒着は必ず腰椎横突起尖端部分に発生する。癒着してしまえば疼痛点は第3腰椎横突起尖端部分に固定され、第3腰椎横突起症候群となる。
症状
腰部中段の一側か両側が痛み、腰背をまっすぐ伸ばしたままで、腰を屈めたり長いこと腰掛けたり、立ち続けたりできず、ひどいものは歩行困難となる。立っているときは常に両手を腰に当てて支え、安静にしたりいろいろと治療すると緩解する。しかし腰を動かす仕事が過ぎると、すぐに痛みがひどくなる。ひどいものは身の回りのこともできず、寝返りもできない。軽症ならば腰を屈められず、長く立っていられない。気候変化によって痛みがひどくなることもある。
診断
①外傷あるいは疲労損傷歴がある。
②第3腰椎横突起尖端部の一側あるいは両側に敏感な圧痛点がある。
③拾いものテストが陽性。
治療
発作期と緩解期には小鍼刀治療をする。消毒したあと第3腰椎横突起尖端部(つまり圧痛点)から、刃を身体の縦軸に平行に刺入し、刃先が骨面に接触したら横行剥離操作をおこない、筋肉と骨尖端が緩く動くようになり、離れたように感じたら抜鍼して消毒綿花でしばらく鍼孔を押さえる。場合によっては炎症を抑えるため、25m のプレドニゾロンに120mgのプロカインで剥離部分をブロックする。ふつう1回の治療で治癒するが、もし1回で完全に治癒せず、痛みが残っているようならば5日後にもう1回治療するが、多くても3回を超えない(65図)。

第3腰椎
大腰筋 | 癒着部分
腰方形筋 | |
| | |
| |

||
|| | |
|| 仙棘筋 |
腰背筋膜 |小鍼刀

65図 第3腰椎横突起症候群の小鍼刀操作の刺入図

注意事項
1.小鍼刀を腹腔内に刺入してはならない。それには触診して位置をはっきり定めておき、刺入部位を横突起尖端部の骨平面から離さないようにすれば問題ない。
2.症状の軽いものはブロック注射をしなくてよい。治療効果は信頼性がある。
3.患者に治療して2~5日までは腰や背を屈伸しないように申し付け、再度の癒着を予防する。
症例
路××、男、30歳:沐陽金物会社営業員。第3腰椎横突起症候群となって8年。いろいろと治療したが治ることはなく、一年中、痛み止めを飲んだり湿布している。痛みが起こると座ることもできず、ベッドから起き上がったり寝返りもできず、何十日も仕事にいかれない。1977年11月10日、1回の小鍼刀治療をおこなった。薬物はまったく使っていないが、すぐに腰をのばして歩けるようになり、1回の治療で治癒した。1年半後に再調査したが、不快感はまったくない。

二十六、仙棘筋下段損傷
概説
仙棘筋下段が損傷すると、ほとんどは腰筋損傷と大ざっぱな名前が付けられる。もちろん仙棘筋下段の損傷は腰筋損傷の一部ではあるが、さまざまな多くの腰部軟部組織疾患もすべて腰筋損傷とされており、腰筋損傷による腰痛は医者の頭痛の種である。以前には腰筋損傷に対する病因や病理についての深い科学知識が不足していたため、細かく突っ込んだ研究がされていなかった。腰筋損傷とはあいまいな病名なので、いい加減な治療しかされず、効果もなかった。小鍼刀療法の理論体系による腰筋損傷に関する研究がなされ、病因と病理変化に関して新たな認識が生まれ、具体的な軟部組織の細かい部分まで分析されるようになった。そのため複雑な難病に小鍼刀療法を応用することによって、迅速な効果が得られるようになり、簡単で治りやすい疾患となった。
局部解剖
仙棘筋は腰部でも強力な脊柱起立筋であり、仙骨背部と腸骨後部から起こって、その線維は上に向かって3列に分かれている。外側列は肋骨に止まり、腸肋筋と呼ばれる。中間列は横突起に付着し、上は側頭骨の乳様突起に達しており、最長筋と呼ばれる。内側列は棘突起に付着し、棘筋と呼ばれる。この筋肉の作用は背骨を反らせることで、頚、胸そし
て腰部の脊髄神経後枝に支配されている。
仙棘筋下段とは仙棘筋の腰仙部を指す。仙棘
筋は腰仙部を損傷されることがもっとも多い
頚腸肋筋--- ため、別に解説する。
仙棘筋の腰仙部分で、もっとも損傷が多い部
棘筋--- 分は腰椎横突起と仙骨背面、そして腸骨後部
である(66図)。
胸最長筋--- 仙棘筋下段は人体の腰仙部にあり、脊柱を
屈伸したり側弯するときに使う部分で、そう
胸腸肋筋--- した運動により、もっとも応力が集中する部
分である。損傷には蓄積性の疲労損傷と急激
な力による牽引損傷の二つがある。前者は過
度な牽引を続けているため、ゆっくり起こっ
外腹斜筋--- --外腹斜筋 た損傷で、筋線維や筋腱が近くの骨突起によ
って擦られて徐々に損傷されたものである。
腰腸肋筋--- 急激な力で腰を過度に前屈したり、身体を屈
曲位から無理にまっすぐ伸ばそうとしたり、
66図 腸骨筋背面図 また急に阻止されて、筋肉が強烈に収縮し、
仙棘筋の筋線維や筋腱を急に断裂して損傷させる。こうした急性や慢性の損傷は自己修復され、その過程で筋肉が瘢痕となり、周囲の組織や器官(筋膜や骨突起、人体など)と癒着して、局部の血液循環や水液代謝を障害し、周囲の組織との動態バランスを破壊する。こうした状態で腰部の屈伸や側屈が制限され、無理やり動かせば損傷はさらに進む。そのため痛みを繰り返しながら、徐々にひどくなってゆく。
症状
腰仙部に痛みがあり、腰を屈めるのが困難で、長いこと腰掛けたり立っていることができず、背骨をやや前屈した姿勢で長いこと作業できない。患者は手や机の角を腰仙部で痛む部分に当てて押さえたがる。重症のものは寝たり起きたりが困難で、身の回りのことも一人ではできない。
診断
①腰仙部に疲労損傷歴や、急激な力による損傷歴がある。
②仙骨背側や腸骨背部の仙棘筋付着部に、痛みや圧痛点がある。
③腰椎横突起尖端部や棘突起下縁に、疼痛や圧痛がある。第3腰椎横突起を除く。第3腰椎横突起尖端部の損傷は、もっとも多いため別に解説する。だが第3腰椎横突起症候群も仙棘筋下段損傷の一つである。
④拾い物テストが陽性。
⑤患者の腰を屈めさせると、上に述べた疼痛点の痛みがはっきりと増加する。
治療
①患者をベッドにうつ伏せにし、リラックスさせて筋肉を緩める。
②仙骨や腸骨部の圧痛点に刺入する。刃を仙棘筋線維の縦軸と平行に刺入し、骨面に達したら縦行剥離をおこない、次に横行剥離をしたら抜鍼する。
③腰椎横突起部で、圧痛がある横突起尖端部に切皮し、刃を仙棘筋線維の縦軸と平行に刺入して、横突起尖端部の骨面まで達したら1~2回縦行剥離し、さらに横行剥離する。刃先が横突起の頂端に達したら横突起頂端の骨面下に沿って剥がし、筋肉と筋膜を横突起尖端部の骨平面と横突起頂端の骨平面から掬い上げて剥がす。横突起尖端部の骨面に堅い結節があれば、縦行切開をして抜鍼する。
④棘突起下縁に疼痛点があれば、棘突起頂端骨面の下縁から切皮し、棘突起頂端平面の下5mmぐらいの深さに達したら1~2回縦行剥離したあと、鍼体を脊柱の縦軸に沿わせて傾け、下段脊柱の縦軸と30度の角度となるようにして、棘突起下の骨面上を縦行剥離し、さらに横行剥離してから抜鍼する。
注意事項
1.横突起上から刺入するときには、必ず横突起尖端部の骨平面上から刺入して、腹腔に入らないようにする。
2.棘突起下縁で操作するときは深すぎないようにする。深すぎれば健康な組織を傷付ける恐れがある。
症例
盛××、男、32歳:沐陽トラックター工場の工員。3年前、重量物を持ち上げて運んだため腰を損傷した。その晩は寝返りが打てず、腰が痛かった。安静にして10日あまり治療して好転したが、のちになって痛みが繰り返し、段々とひどくなった。いったん痛みが始まると身の回りのこともできない。1980年3月21日に骨科に、患者が3人かがりでリヤカーに乗せられて運ばれてきて、降りるのも難しかった。腰部に引きつったような痛みを訴える。仙棘筋が仙骨と腸骨に付着する部分が損傷されていると診断した。1回の小鍼刀治療で3回刺鍼すると、症状がまったくなくなって腰は自由に曲げられるようになった。しかし患者は徹底的に治療して欲しいと訴え、次の治療を要求した。そこで再び治療をおこない、帰ってから腰筋を鍛えれば、もう治療の必要はないと説得した。1年後に再調査すると、治癒してから少しの不快感もないという。

二十七、下後鋸筋損傷
概説
身体を動かしたり激しい運動したり、あるいは急に身体をひねったり腰を屈めたり、また不自然な動きをすると呼吸が突然乱れて、下後鋸筋を損傷する。損傷すると肋骨が痛んで呼吸がしにくい。これを中国では岔気(脇腹痛)と呼んでいる。損傷して間のないものは按摩などの手法治療で効果があり、古いものは小鍼刀治療で効果がある。
局部解剖
下後鋸筋は下位2つの胸椎と上位2つの腰椎棘突起から起こり、下位4本の肋骨の外側面に止まっている。この筋肉は肋骨を引き下げて呼気を助け、肋間神経に支配されている(67のA図とB図)。




下後鋸筋-----
前鋸筋--- ----仙棘筋

下後鋸筋-- 内腹斜筋---
--下後鋸筋
中臀筋---
広背筋---
--内腹斜筋
外腹斜筋-- 67図 下後鋸筋の解剖位置B図

下後鋸筋は腰部の上段と下4本の肋骨の外
側面にあり、呼気のとき肋骨を引き下げる運
動をおこなう。下4本の肋骨と脊柱との夾角
を脊椎肋骨角と呼ぶ。正常ならば下4本の肋
骨と脊柱の夾角(下側の脊柱肋骨角)は90
67図 下後鋸筋の解剖位置A図 度以下で70度前後である。また下後鋸筋の
起点は下2つの胸椎と上2つの腰椎棘突起に
付着し、下4本の肋骨外側面に止まっているが、下後鋸筋と脊柱下段の夾角は90度以上で120度前後である。そして肋骨との夾角は90度近い。そのため下後鋸筋が筋肉の縦軸に沿って収縮すれば、肋骨を引き下げることができる。肋骨が下降すれば胸郭は上昇収縮する。胸郭が収縮すると胸腔が小さくなって空気が出る。正常ならば下後鋸筋は呼吸に伴って規則的に収縮と拡張を繰り返す。
病因と病理
身体のいろいろな動きや急な動きによって正常な呼吸リズムが乱されたり、下後鋸筋は4本の筋束に分かれて4本の肋骨に止まっているが、急に収縮信号が変わると4本の筋束が一斉に収縮できず、その瞬間の「横断面」上で4本の筋束が伸縮するときに1本か2本の筋束が揃わないとする。1本や2本の筋束のみ収縮して、ほかの筋束は拡張したままだと、その筋肉は単独で収縮して引っ張るために牽引損傷が発生する。また1本や2本の筋束が弛緩状態なら、ほかの3本や2本の筋束が屈曲したり折れ曲がったり、位置がずれたりする。損傷して間がないものは手法治療によって症状が緩解するが、ほとんどは慢性の痛みとなる。後者のように屈曲したり折れ曲がったり、位置がずれたものは、手法治療によって元の位置に戻せば完全に治る。小鍼刀は慢性期の治療に効果がある。
症状
急性損傷では肋骨部が痛み、ときには痛みがひどくて深呼吸ができず、強迫性呼吸切迫となり、上半身が患側に側弯して反り、寝返りができない。慢性期では患側の肋骨外側に痛みがある。第1種の筋腱断裂型では、疼痛点が下後鋸筋の停止部にあることが多く、下4本の肋骨外側部が痛む。慢性期の痛みは起こったり治まったりし、肺活量が必要な仕事や運動をしたがらない。第2種の屈曲巻折移位型のように位置がズレたものは、慢性期の疼痛点が下後鋸筋中段の4本の筋束帯上にあることが多いが、損傷してすぐにきちんとした治療をしないと症状がひどくなり、正常な呼吸運動に影響し、ひどくなったり軽くなったりし、ひどいときは呼吸困難を感じ、強迫性呼吸切迫となる。疼痛点ではヒモ状に腫れた物が触知できる。
診断
①急に肋骨の外側が痛くなったことがある。
②下の2つの胸椎と上2つの腰椎から下位4本の肋骨外側面までの範囲が痛かったり、はっきりした圧痛点がある。
③呼気時に、疼痛点の痛みがひどくなる。
治療
①患側を上に、健側を下にして患者を側臥位でベッドに寝かせ、患側の上肢は胸の前に置く。
②第1種の筋腱断裂型では、疼痛点が下後鋸筋の停止部や下位4本の肋骨外側にある。圧痛点から筋線維の縦軸に沿わせ、刃と患部の肋骨が垂直となるように刺入して肋骨面まで達したら縦行剥離したあと横行剥離し、抜鍼する。
③第2種の屈曲巻折移位型では、疼痛点が下後鋸筋の中段にある。刃を下後鋸筋の縦軸と平行に圧痛点から刺入し、肋骨面に達したら縦行剥離し、さらに横行剥離して筋肉を肋骨面から掘り起こす。もし腫脹や硬結があれば縦行切開して抜鍼する。鍼孔を消毒ガーゼで被ったあと、術者は親指を下後鋸筋線維に向け、下後鋸筋の罹患した筋束帯を垂直方向に推して筋束を元の位置に戻す。
注意事項
①刺入するときは必ず肋骨面上にもっとも近い圧痛点に刺入し、剥離操作のときも刃が肋骨面と肋骨の上下縁で操作するようにして、肋間神経を損傷させないようにする。
②胸腔内に刺入してはならないことは言うまでもない。
症例
鄭××、38歳:沐陽綿紡績工場の工員。半年前に重いものを家の梁の鉤に引っ掛けようとしたが、引っ掛ける前に鉤がはずれた。慌てて支えたときに左外側の肋骨に刺すような痛みを感じた。午後になると痛みがひどくなって深呼吸ができず、夜も眠れず寝返りができない。翌日すぐに病院に治療に行き、半月休んで症状が緩解したので仕事に行くようになった。この2カ月で痛みがぶり返し、鍼灸や神経ブロック、漢方薬や薬物治療をしたが効果がなかった。1980年8月9日に骨科に来院し、下後鋸筋中段の巻折移位型損傷と診断された。小鍼刀で癒着を剥がしたあと、手法を使って筋束帯を元の位置に戻すと、すぐに症状は消えた。10カ月後に再調査したが、少しも不快感はなかった。

二十八、中臀筋損傷
概説
中臀筋損傷にも急性と慢性がある。急性損傷では局部にはっきりした腫痛があり、複雑な症状がないが、極めて少数は損傷がひどく、内出血が多くて血腫が大きく、付近の神経や血管に影響し、臀部の痺れや冷えなどの症状がある。慢性のものは腫脹がはっきりしないが症状は複雑で、局部の痛みや痺れのほか、坐骨神経の痛みも起こり、歩く動きが制限される。損傷が梨状筋に及んでいることが多く、それが診断を更に難しくし、見落とされたり誤診されているものが極めて多い。慢性中臀筋損傷の発病率は、骨科疾患の中でも比較的多いが、ほとんどは診断がはっきりせず、梨状筋損傷と誤診されるか坐骨神経痛とあいまいに診断される。
はっきり診断されたものでも完治は難しく、不治の病とされている。
局部解剖
中臀筋は腸骨翼外面の下臀筋線と後臀筋線の間から起こり、大転子尖端の外側面に止まっている。股関節を外転したり、前屈内旋や伸展旋をおこなう。
中臀筋は臀部中層の筋肉である。
臀部中層の筋肉は、上から下に中臀筋、梨状筋、内閉鎖筋、大腿方形筋と並んでいる。梨状筋と中臀筋は隣り合い、梨状筋は大坐骨切痕と仙骨の前面から起こって大転子の上縁(大転子の尖端部)に止まり、停止部で中臀筋と緊密に隣り合っている。また梨状筋は大坐骨孔から出ることにより大坐骨孔を上下の孔に分けているが、この2つの孔は骨盤内の神経や血管が臀部や下肢に行くために必ず通らなければならない門戸である。そのため中臀筋に病変が起これば、必ず梨状筋および関連する神経や血管に影響する。中臀筋は上臀皮神経に支配される。
中臀筋が損傷されると複雑な症状が現れるが、それは中臀筋の解剖的な位置と関係がある(68図)。
病因と病理
中臀筋の損傷は、ほとんどが急激に激しく大腿を外転したためであり、大腿を屈曲したり、内転、伸展外旋運動のときに損傷することは少ない。
損傷して日が経つうちに、中臀筋に瘢痕ができて癒着し、拘縮して付近の軟部組織と癒着する(ほとんどは筋肉腱膜損傷による拘縮と癒着)。もし中臀筋と他の軟部組織が隣り合っている部分で両方が損傷すれば、多くは中臀筋と軟部組織が癒着する。こうした状況は少なくない。
中臀筋が瘢痕癒着すると、それ自体が運動制限されることは当然だが、周囲の軟部組織を圧迫したり摩擦して軟部組織の症状も引き起こす。
たとえば梨状筋が圧迫されたり引っ張られると、梨状筋症候群と似た症状が起こり、梨状筋で分けられた上下の孔を通る神経や血管が圧迫されたり牽引されると、下肢に痛みや痺れ、冷えなどの症状が現れる。
症状
中臀筋損傷では、中臀筋損傷が波及している範囲と病理変化によって、単純型、臀梨総
合型、混合型の3つの型に分けられる。
①単純型:中臀筋のみが損傷されており、ほかの軟部組織には波及していない。そのため中臀筋だけに1~2個の疼痛点や圧痛点があり、関連痛は起こらない。患者が訴える疼痛点も限局されて明らかであり、下肢に軽い痛みや痺れ感があったりする。
②臀梨総合型:中臀筋に疼痛点があり、圧痛が梨状筋に波及しているので、梨状筋緊張テストをすると中臀筋の痛みがひどくなり、梨状筋にも圧痛点がある。しかしどちらもひどくない。疼痛点の範囲が大きくてはっきりせず、下肢痛があったりする。
③混合型:中臀筋本体に疼痛点や圧痛があるが、梨状筋にも疼痛と圧痛がある。中臀筋と梨状筋を圧すると、坐骨神経幹に沿って下肢に関連痛や痺れが引き起こされる。患者は歩いたり立っていると痛みや痺れが起こると訴え、下肢が冷たかったりする。
診断
①損傷歴がある。
②中臀筋が付着する部分に痛みや圧痛があるが、梨状筋には圧痛がない。患側の下肢に軽い痛みや痺れがあったりする。患者の下肢を外転運動すると、疼痛点の痛みがひどくなるものを中臀筋損傷の単純型とする。
③中臀筋が付着する部分に疼痛や圧痛があるが、その位置は下側に片寄っている。さらに梨状筋の表面投影区(梨状筋の表面投影区とは、殿裂上端と患側の上後腸骨棘をつないだ線の中点と、同側の大腿骨大転子を結ぶ線。それが梨状筋が表面に投影された部分である)にも疼痛や圧痛があって、疼痛点と中臀筋上の疼痛点が隣り合い、かつ2つの疼痛点がはっきり分けられず1つにつながっていて、梨状筋緊張テストで疼痛点部分の痛みがひどくなり、下肢の痛みや痺れた不快感がはっきりしないものは、中臀筋損傷型の臀梨総合型である。
④中臀筋が付着する部分に疼痛や圧痛があり、坐骨神経幹に沿って下肢にも痛みや痺れた不快感が及ぶ。梨状筋の表面投影区が痛み、梨状筋緊張テストをすると、坐骨神経幹に沿って下肢の痛みや痺れがひどくなったりする。患者は歩いたり立っていると、下肢の痛みを感じる。これが中臀筋損傷の混合型である。
治療
①患側を上に、健側を下にして患者を横向けにベッドに寝かせ、健側の足をまっすぐに伸ばして、患側の膝は曲げる。
②単純型:単純型の損傷部分では、ほとんどが中臀筋の起始部にある。圧痛点から刺入し、刃を中臀筋線維の走行方向と平行に刺入し、骨面まで達したら縦行剥離し、次に横行剥離する。鍼体と腸骨面は垂直にする。
③臀梨総合型:まず中臀筋の疼痛点に小鍼刀を刺入して、 と同じ操作をする。また梨状筋の圧痛点からも切皮して、梨状筋の筋腹に刺入する。刃の方向は梨状筋の走行方向と平行に刺入し、鍼体と臀部平面は垂直にする。梨状筋の縦軸に沿って刺入したら、縦行剥離をしたあと1~2回切開剥離をし、抜鍼する。
④混合型:最初の治療は と同じである。次の治療は、中臀筋と梨状筋との圧痛点の間に刺入する。2つの疼痛点をつなぐ中点から刺入し、刃は中臀筋の筋線維方向と平行にして骨面まで到達したら、2~3回縦行剥離して抜鍼する。そのあともう一度梨状筋緊張テストをおこなう。
注意事項
①梨状筋上、そして中臀筋と梨状筋の疼痛点をつないだ中点に刺入するときは、四歩規程に従って刺入しなければならない。切皮したあとは探りながら刺入し、触電感や痺れ、刺痛感があったら、すぐに鍼体を少し引き上げ、鍼尖方向を変えてから刺入を続ける。患者が怠さや腫れぼったい感じを訴えた部分で剥離をする。剥離操作の途中で、触電感や痺れ感が現れたら、ただちに剥離操作を止め、鍼尖の位置を少し移動させたのち、治療を続ける。このように感覚に注意して、坐骨神経や別の神経を損傷しないようにする。
②剥離操作をおこなっているときに、坐骨神経幹に痺れや触電感が現れたら、刃先が坐骨神経と接触している。坐骨神経幹に怠い腫れぼったさが起こったときは、坐骨神経と癒着している筋肉や筋膜を切り離しているときなので気にする必要はない。操作を続ける。
症例
劉×、男、24歳:沐陽ゼネラル機械工場工員。1年前、ボールを打ったときに損傷した。当時は右側臀部に火で焼かれるような痛みを感じ、走ったり跳んだりする力がなくなったので、すぐに退場した。その晩は右臀部に耐え難い痛みがあり、三七錠を飲んで痛みを止め、それを続けて3日目に病院に行った。X線検査をしたが骨には異常がなく、安静にして2ケ月治療していたら症状が緩解した。しかし右臀部には常に不快感があり、また下肢にも徐々に不快感が起こってきた。半年後には、長いこと歩いたり立っていたりすると右足が痛むようになり、この2カ月は右臀と下肢の痛みが日増しにひどくなる。動くこともできにくく、いろいろと治療してみたが効果がなかった。ある病院では椎間板ヘルニアと診断され、ある病院では梨状筋損傷、また結核や腫瘍の疑いもあると言われた。1980年2月23日に骨科に来院し、中臀筋損傷の混合型と診断した。1回の小鍼刀治療で2ケ所を刺入した。治療後に梨状筋緊張テストをすると、患者は引き裂くような痛みを訴える。15分すると患者は右足の痛みがかなり良くなったというので、家に帰ったら山七錠を飲んで、あまり歩かないようにし、ベッドでは足をまっすぐにして高く挙げたり、外転運動をするように申し渡す。5日後の再診時には、痛みは完全になくなっていた。ただ臀部に軽い不快感が残るだけである。帰ったら三七錠を10日続けて飲むよう申し渡す。
1年3カ月後の再調査では、治療して1週間たったら不快感がまったくなくなった。2週間ほど安静にしたのち出社した。現在でも不快感がないので、また球場でスポーツをしている。

二十九、腰臀部の慢性筋肉損傷
概説
腰臀部の慢性筋肉損傷は、複数グループの筋肉が損傷されているもので、症状が複雑で治りにくい腰腿痛疾患となったものである。以前は、こうした疾病に対しては効果的な治療措置がなかった。上海の某医院で大松解手術が試みられ、本疾患にも一定の効果があったが、手術による損傷が大きく後遺症も多いので、学術界では長年にわたって論争され、また多くの専門家は支持していない。
この疾患は病状が複雑で症状もひどく、苦痛も大きい。患者は苦痛のために身体障害者のようになるが助けようがない。その意義からすれば大松解手術も方法の一つと言える。現在は本疾患についての病因や病理が深く細かく研究され、小鍼刀を使って各筋肉グループの病変部に、急所をついた非観血的手術治療をおこなえば、松解(緩める)目的は達成でき、また健康な組織も損傷することなく、後遺症もない。さらに極めて速い治療効果があり、治癒率は90%以上、有効率は100%に達する。
本疾患で損傷される筋肉グループには、次の3つがある。
①大腰筋、腰方形筋。②中臀筋、梨状筋、大腿方形筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、上双子筋、下双子筋。③半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋。我々は本疾患で①を腰グループと呼び、②グループを臀グループと呼び、③を大腿グループと呼んでいる。腰臀グループの筋肉は、すべて中層から深層の筋肉だが、本疾患でもっとも多い病変部位も、この2つの筋肉群である。
局部解剖
腰グループ:大腰筋、腰方形筋。
このグループの2つの筋肉は、腰椎の前面と側面に位置している。
大腰筋:腰椎の前面腹側にあって、第12胸椎と腰椎側面の横突起根部から起こり、その筋線維は下外方に走って、鼠径靭帯の深部を経て大腿骨小転子に止まる。この筋肉の
作用は骨盤に脊柱を屈曲したり股関節の外転す
ることで、神経は腰の2、3、4から出てい
-----腰方形筋 る(69図)。
大腰筋を被っている前部の筋膜を腰筋膜と
大腰筋--- 呼び、その内縁は脊柱に止まり、外縁は腰方
形筋筋膜とつながっている。
腰方形筋:平べったい四角形で、第12肋
-----腸腰靭帯 骨と腸骨稜の間に位置し、腸腰靭帯と腸骨稜
の後部から起こる。そして第12肋骨の内側
腸骨筋-- 1/2の下縁、第12胸椎の椎体そして腰椎1、
2、3、4の横突起尖端部に停止する。この
筋肉は12胸および1、2、3腰神経に支配
されている。この筋肉の作用は、一側が収縮
69図 大腰筋と腰方形筋の透視図 すれば腰椎を側屈させ、両側が収縮すれば第
12肋骨を引き下げる(70図)。
腰神経叢は、1、2、3、4腰神経の前枝
---第12肋骨 からできているが、12胸神経前枝の少量の
神経線維も参与している。その起始部は大腰
筋に被われており、その分枝には腸骨下腹神
----腰方形筋 経、腸骨鼠径神経、大腿神経、大腿外側皮神
経そして閉鎖神経などがある。
だから大腰筋と腰方形筋が損傷されると、
下肢や腰神経叢にまで障害がおよび、そうし
腸腰靭帯--- た神経の分布範囲に関連痛が起こる。
臀グループの筋肉は、臀部の中層と深層の
筋肉だから、臀部の中層グループと深層グル
ープに分けられる。
70図 腰方形筋の前面図 中層グループ:中臀筋、梨状筋、内閉鎖筋
、大腿方形筋(68図参照)。
中臀筋:前文で述べたので略す。
梨状筋:大坐骨切痕および仙骨前面から起こり、大腿骨大転子上縁に止まっている。作用は、股関節の外旋および股関節を屈曲して外転する。仙骨神経叢の分枝(S1~S2)
  が支配する。
内閉鎖筋:閉鎖膜および寛骨骨盤面から起こり、
小臀筋--- 大腿骨大転子内側面に止まる。作用は股関節を外旋
させる。仙骨神経叢分枝(L1~S2)が支配する。
上双子筋--- 大腿方形筋:坐骨結節の外面から起こり、大腿骨
大転子と大腿方形筋線に止まる。作用は股関節の外
下双子筋--- 旋で、仙骨神経叢分枝(L5~S1)に支配される。
外閉鎖筋--- 深層グループ:小臀筋、外閉鎖筋、上双子筋、下
双子筋(71図)。
小臀筋:下殿筋線および寛骨臼より上の腸骨背面
から起こり、大転子の前縁に止まる。作用は股関節
の外転と、わずかな内旋。上臀神経(L4~S2)
71図 臀部深層の筋肉解剖位置 に支配される。
外閉鎖筋:閉鎖孔外面と閉鎖膜の外側面から起こり、大転子の前縁に止まる。作用は股関節を外旋させたり、わずかに内転する。仙骨神経叢の分枝(L5~S1)に支配される。
上双子筋:坐骨棘外面から起こり、内閉鎖筋腱と一緒に大転子に止まっている。作用は股関節の外旋で、仙骨神経叢の分枝に支配される。
下双子筋:坐骨結節に起こり、内閉鎖筋腱とともに大転子に止まっている。作用は、股関節の外旋で、仙骨神経叢の分枝に支配されている。
大腿グループ:半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋。
半腱様筋:坐骨結節から起こり、脛骨粗面の内下方および下腿の深筋膜に止まる。その作用は、股関節を伸展したり、膝を半屈曲状態で下腿をわずかに内旋する。坐骨神経(L4~S2)に支配される。
半膜様筋:坐骨結節から起こり、脛骨内側顆の内後面に止まる。作用は、股関節の伸展や、膝を半屈曲状態で股関節をわずかに内旋する。坐骨神経に支配される(72図、73図、76図)。

----梨状筋
---内閉鎖筋 大腿直筋-- -----縫工筋

坐骨結節----- ---大転子
--大腿方形筋 -----薄筋
半腱様筋----- 内側広筋----
大腿二頭筋長頭---- ----半膜様筋
薄筋------ ---大臀筋
(切断反転) ----半腱様筋


大内転筋-------

---坐骨神経
半膜様筋----- ----腓腹筋


72図 半腱様筋と半膜様筋上段解剖図 73図 半腱膜様筋と半膜様筋の下段解剖図

大腿二頭筋:坐骨結節および大腿骨稜粗線の外側唇から起こり、腓骨頭に止まる。作用
は、股関節の
伸展、膝を半
------腸脛靭帯 屈曲状態にし
て少し外旋さ
----外側広筋 せる。坐骨神
--大腿二頭筋 経に支配され
る(74図と
75図)。
大腿二頭筋---- 本疾患の腰グ
ループの筋肉
(大腰筋と腰
腓骨頭------ 方形筋)は腰
神経叢が始ま
74図 大腿二頭筋下段の解剖位置 75図 大腿二頭筋 る部分と深い

つながりがある。そのため損傷すれば下肢前内側や他の分布区域に痛みや痺れを起こす。
本疾患の臀部の中層と深層のグループは、どちらも仙骨神経叢に支配されているので、損傷すれば臀部や下肢の後側や外側に痛みや痺れが起こる。
本疾患の大腿グループの筋肉は、坐骨神経と密接に関係しているので、損傷すると坐骨神経支配区に痛みや痺れが起こりやすい(下の表を参照)。

+腸骨下腹神経 +筋枝--腹筋支配
|(T12~L1)|皮枝--外側皮枝と前側皮枝に分かれ、大腿外上側面と
| + 耻骨結合付近の皮膚を支配
| +筋枝--腹筋支配 +腰神経叢|腸骨鼠径神経|皮枝--前陰嚢神経と呼び、大腿上内側面の陰茎と陰嚢の
脊|(起始部| (L1) + 皮膚(女性では恥丘と大陰唇の皮膚)を支配
髄|は大腰筋| +筋枝--外精索神経となって精巣挙筋と肉膜を支配
神|に被われ|陰部大腿神経|皮枝-腰鼠径神経となって大腿前面、鼠径靭帯下方の一
経|る)T12|(L1~L2)+ 部及び陰唇の皮膚を支配
⌒|L1~L4|大腿外側皮神経--大腿外側面の皮膚を支配
腰|(前枝)|(L2~L3)+筋枝--大腿前面の筋肉グループを支配
仙| | 大腿神経 |皮枝--前皮枝(L2~L3)と呼び、大腿前面の皮膚を支
段| |(L1~L2)| 支配する。もう1枝を伏在神経と呼び、下腿の内
と| | + 側面と足の内側縁の皮膚を支配
胸| +閉鎖神経 +筋枝-大腿の内転筋グループと外閉鎖筋を支配
十| (L2~L4)+皮枝-大腿内側面中部の皮膚と股関節を支配
二| +筋枝--梨状筋(S2~S3)、内閉鎖筋(L5~S1)、大腿方形筋(L5
| | ~S1)
| |上殿神経(L4~S1)中臀筋、小臀筋、大腿筋膜張筋を支配
+仙骨神経|下殿神経(L5~S2)大臀筋を支配
叢 |陰部神経(S1~S4)+筋枝--会陰筋
(L4、5 | +皮枝--会陰部と外生殖器の皮膚を支配
S1~S5|後大腿皮神経(S1~S2)大腿後面の皮膚を支配
CO1) | +筋枝--下腿後面の筋グループと足底筋を支配
| |皮枝--内側腓腹皮神経となり総腓腹神経と吻
| +脛骨神経 | 合して腓腹神経を形成し、下腿後面お
| |(L4~S2)+ よび外側縁の皮膚を支配
+坐骨神経| +筋枝--下腿前面の筋肉グループと外側の筋肉
| | グループを支配
| |皮枝--外側腓腹皮神経となり、下腿の前面と
+総腓骨神経 | 外側面の皮膚と足背の皮膚を支配。ま
(L4~S2)| た腓腹の神経は内側腓腹皮神経と吻合
+ して腓腹神経となる。

表から判るように、腰グループと臀グループ、大腿グループの3グループの筋肉が損傷されると、非常に広い範囲の神経支配区が影響される。そのため腰臀部の筋肉の慢性損傷では複雑で入り混じった症状が現れる。また筋肉グループが損傷されると、付近の動脈に影響を与え、筋肉の萎縮や局部が冷たくなるなどの症状も起こる。だからここで簡単に、いくつかの筋肉グループを通る動脈についても簡単に復習する必要がある。
腰臀部の筋肉群に血液供給しているのは、肋間動脈と腰動脈の後枝である。臀筋の動脈は浅枝と深枝に分けられ、浅枝は大臀筋と中臀筋の間を通って大臀筋に血液を供給し、深枝は中臀筋と小臀筋の間を通って、この両筋に血液供給するとともに関節枝を出し、股関節、下臀動脈、下臀静脈、内陰部動脈を栄養しているが、これらの動脈はすべて梨状筋下孔を通る。大腿グループの筋肉には、外側大腿回旋動脈とその分枝が通っている。だからこれらの筋肉が損傷されれば、局部の血行障害が起きる。
本疾患3グループの筋肉を同時に損傷したり、2グループを損傷したり、また1グループのみ、あるいは1グループのいくつかが相次いで損傷したりなどがある。あるグループの1~2筋が損傷しているだけで、ほかの筋肉グループに損傷がなければ、腰臀部の慢性筋肉損傷と言えないので、別の章を設けて単独に解説する。
3グループの筋肉群を同時に損傷することは滅多にないが、相次いで損傷したものはよく見られる。3グループすべてを損傷したものは多くないが、2グループの損傷は多い。本疾患では、いろいろと治療をしても効果がなく、また損傷したばかりのものは症状が単純なため患者も医師も軽視する。ただ一般的な損傷の処置をするだけで、長いこと治癒せず、症状が段々とひどくなって複雑になったとき初めて真剣に考えて治療を始める。そのため我々が目にするのは、慢性化してしまった筋肉グループの損傷ばかりなので、腰臀部の慢性筋肉損傷と名付けた。
病因と病理
いくつかの筋肉グループが損傷して日が経つうち、瘢痕や癒着が起こって変性し、付近の神経や血管を圧迫したり牽引するため、損傷した筋肉の痛みや腫脹のほか、そこを通過する神経およびその神経支配区域に痛みや痺れ、知覚障害などを起こし、通過する血管をねじ曲げ、狭くしたり通らなくさせるため、その血管から血液を供給されている筋肉に痛みが起こったり萎縮したり、無力となったりする。
さらに損傷された軟部組織が癒着して臀部と下肢の運動範囲が制限され、無理に動かすと癒着した部分が引っ張られ、さらに損傷が進んで癒着や瘢痕がひどくなり、症状は日に日にひどくなって激しく痛むようになり、歩けなくなったり身の回りのことが自分でできなくなったりする。
症状
本疾患の症状は極めて複雑で、3つの筋肉グループの組み合わせにの違いよって7つの型に分けられる。
1.3グループ総合型:a.腰椎の傍ら2cmの場所に、深在性の怠くて腫れぼったい痛みがある。十二肋骨下縁の近くで脊柱の傍らが痛む、第5腰椎横突起から腸骨稜の後上縁が痛む、腸骨翼の後外側に痛み、梨状筋の表面投影区に痛み、臀部の中下部に深在性の痛み、大腿後外側の痛み。b.臀部、大腿の外側面、前面、後面そして内側中部の皮膚、会陰部と外生殖器の皮膚から下腿後面と足外側縁に皮膚麻痺感がある。c.臀部と大腿の後外側部から下腿外側や足の小指が痺れる。性機能が低下し、ひどいものはインポになる。下肢に力が入らず、ひどいものは歩けなくなる。d.臀部および下肢の筋肉が萎縮し、局部の皮膚温が低下して、アヒル様歩行となる。患側下肢の挙上が制限され、膝関節がまっすぐに伸びない。e.末期には頑固で激しい痛みが起こる。入睡困難で、家族に腰や尻、大腿部を叩かせたり、踏ませたりする。末期になれば、いかなる痛み止めを使っても静かに眠ることができなくなり、激しい痛みのため死んだほうがましだと思うようになる。
2.腰臀総合型:3グループ総合型と同じ症状だが、大腿の後側や外側に圧痛がない。
3.臀大腿総合型:大腿の前面、内側、下腿の内側、足の内側縁には症状が出ないが、そのほかは3グループ総合型と同じ。
4.腰大腿総合型:臀部には症状がなく、大腿の後側や外側の痛みに限局されており、下腿外側と足の外側の症状も軽い。そのほかは3グループ総合型と同じ。
5.単純腰型:臀部、大腿の後側や外側、下腿外側、足外側には症状がなく、大腿の屈伸機能も正常に近い。ほかは3グループ総合型と同じ。
6.単純臀型:腰部、大腿、下腿、足内側に症状がなく、そのほかの症状は3グループ総合型に近い。
7.単純大腿型:大腿の後側や外側の痛みがはっきりしており、下腿外側、足外側の症状が軽い。そのほかは単純臀型と同じ。
診断
1.3グループ総合型:①第12肋骨下縁近くの脊柱背側が痛むとともに圧痛がある。腰椎の2cmぐらい横に深在性の疼痛があるが、圧痛ははっきりしない。あるいは第5腰椎横突起から腸骨稜までの痛みを訴える。臀部の上中下の部位に深在性の疼痛があり、強く押すと圧痛があって、坐骨神経幹に沿った腫れぼったい痛みや痺れ感がある。大腿後側が痛み、圧痛もある。こうした圧痛点では塊り状やヒモ状の硬結を触知できる。②患者に側屈してもらうと腰部の痛みがひどくなり、患側の下肢を伸展、外転、外旋あるいは膝を屈すると臀部の痛みがひどくなったり、そうした動きができない。③椎間板ヘルニアおよび腰椎や股関節の骨性損傷を排除する。④X線検査:腰椎に軽い側弯があるが、ひどくはない。骨盤は健側に傾斜していることが多い。⑤ほかの症状を総合すれば断定できる。
2.腰臀総合型:この型は大腿の後側や外側には圧痛がなく、患者もその部分の痛みを訴える。この型は症状を3グループ総合型の診断基準に照らし合わせれば診断できる。
3.臀大腿総合型:この型は腰部に痛みや圧痛がない。3グループ総合型の診断基準に照らし合わせ、本型の症状を当てはめれば診断できる。
4.腰大腿総合型:臀部に痛みや圧痛はない。3グループ総合型の診断基準に照らし合わせ、本型の症状を当てはめれば診断できる。
5.単純腰型:臀部、大腿の後側や外側には痛みや圧痛がない。3グループ総合型の診断基準に照らし合わせ、本型の症状を当てはめれば診断できる。
6.単純臀型:腰部と大腿の後側、外側に痛みや圧痛がない。3グループ総合型の診断基準に照らし合わせ、本型の症状を当てはめれば診断できる。
7.単純大腿型:腰部と臀部に痛みや圧痛がない。3グループ総合型の診断基準に照らし合わせ、本型の症状を当てはめれば診断できる。
治療 3グループ総合型の治療
①腰グループの筋肉を損傷した場合の治療。
第12肋骨の疼痛点に印を付け、まず肋骨下の傍らで印にもっとも近い部分から鍼と肋骨が70度の角度になるように刺入して骨面まで到達させる。鍼尖が肋骨面に達したら、刃先を肋骨下縁の疼痛点に滑らせる。刃の方向は変えず、鍼体を傾けて背中平面と15度の角度になるようにし、肋骨下の側面を縦行剥離したあと横行剥離して抜鍼する。
腰椎横突起尖端部の深在性疼痛点に刺入する。刃を脊柱の縦軸と平行にして刺入し、横突起尖端部の骨平面に達したら、刃と横突起の縦軸近端が135度の角度となるように回し、刃先を横突起尖端部の下角に移動させたら、刃の方向に沿わせて鍼体を傾け、腰平面で腸骨稜方向と30度の角度となるようにし、縦行剥離したあと横行剥離して抜鍼する。
腸骨の圧痛点に、刃が脊柱の縦軸と45度の角度となるように、鍼体と腸骨面が垂直になるように刺入し、腸骨面に達したら縦行剥離したあと横行剥離して抜鍼する。
②臀グループの筋肉を損傷した場合の治療。
上部の操作方法は、中臀筋損傷の操作方法と同じ。
中部の操作方法は、患者は健側を下に患側を上にして側臥位でベッドに横たわり、健側の足をまっすぐに伸ばし、患側の足は屈曲させる。身体を少し前に傾斜させて膝をベッドに着け、正確に圧痛点を捜す。それが梨状筋の圧痛点なので、そこから刺入する。刃は梨状筋の縦軸に平行で、鍼体は臀部平面に垂直にして切皮したら、探りながら刺入する。患者が触電感や刺痛感を訴えたら、鍼尖をすぐに少し引き上げ、1~2mmずらして刺入を続ける。患者が怠さや腫れぼったさを感じたときは、すでに梨状筋の病巣部に達しているので、縦行剥離したあと横行剥離し、硬結があれば切開剥離する。剥離操作をおこなうときは、ときどき鍼感や患者の言うことに注意し、痺れや触電感があれば、すぐに鍼尖をわずかに引き上げ、1~2mm移動した位置で再び刺入し、剥離操作をおこなう。
下部での患者の体位も上と同じであるが、健側の下肢を屈曲させて患側の下肢を伸直させる。臀の下部に深在する圧痛点は、内閉鎖筋、外閉鎖筋、上双子筋、下双子筋の病変部位である。この4つの筋肉は、深い場所にあって小さく、互いにつながっているので、どの筋肉が損傷されていると区別できない。だから圧痛点のはっきりしているところから刺入する。刃を坐骨神経の走行方向と平行にして、切皮したら中部と同じように探りながら深く刺入する。患者が怠さや腫れぼったさを訴えたら刺入を止めるが、そこは10cmぐらいの深さである。そこで鍼を回して刃の方向を下肢の縦軸とほとんど直角になるように変える。刃の方向に沿って縦行剥離したあと横行剥離し、硬結があれば切開剥離する。
大腿の後側や外側の圧痛点が刺入点である。患者をうつ伏せに寝かせ、刃は大腿の縦軸とほぼ平行にし、鍼体と施術部の大腿平面をほとんど垂直にして大腿骨面に達するまで刺入する。この場合の刺入は四歩規程の刺入法にしたがい、坐骨神経や外側大腿回旋動脈を損傷しないようにする。縦行剥離したあと横行剥離し、硬結があれば縦行切開して抜鍼する。
そのほかの6つの型も3グループ総合型の各部(腰部、臀部、大腿部)での操作法と同じなので省略する。
本疾患では辛抱強く治療を続けなければならない。腰部や大腿部の病変ならば1~2回の施術で治癒するが、臀部の深層になると深部であるため、1回で正確に病巣部に刺入することが難しく、何回も治療しなければならない。ただし治療のたびに刺入点を少し移動させ、同じ場所で何度も操作を繰り返すことがないようにする。何回も治療しなければならない原因は、いくつもの筋肉が損傷されている状態では1ケ所だけ治療しても完治しないので、何回も治療して複数筋肉の配列と疼痛点に基づいて治療してゆく。
つぎに本疾患では広範囲にわたって損傷されており、腰部、臀部、大腿部に1回だけ治療すれば治るというものではないので、いくつかのグループや期間に分けて治療するしかない。
一般に本疾患では5~6回治療しなければならず、刺入点は15ケ所前後、毎回2~3ケ所の刺入点を取って治療する。
注意事項
臀部に治療するときは、焦ったり急いではならない。必ず感覚を尋ねながら、ゆっくりと探りながら刺入し、触電感や痺れがあれば、すぐに少し引き上げて方向を変える。
症例
周××、男、46歳:安徽渦陽県銀行幹部。慢性の腰臀部筋肉損傷となって15年。部隊で施工しているときに損傷し、治らないので転職した。部隊にいるときは、解放軍の各医院をわたり歩いた。転職したあとも北京、上海、広州など各地に行って病院を尋ねた。上海の某医院では、あなたの病気は治すところがないので、もしよかったら我々が大松解手術をやってあげるがどうか?と持ちかけられた。患者は恐ろしくて手術しなかった。1982年4月に骨科に来院し、腰臀部の慢性筋肉損傷3グループ総合型と診断され、21日間入院した。1回目の小鍼刀治療では、臀部の2ケ所の疼痛点と腰部の1ケ所の疼痛点に施術し、その晩から眠れるようになった。以前には夜になると奥さんに木の棒で患側臀部を押してもらうと、2~3時間ほど眠られるような状態だった。そうしないと1時間も寝ていることができない。
全部で5回、13点に施術し、症状はすべてなくなった。1週間観察したところ状態が好転し、山に登ったり走れるようになり、不快感もないので退院した。この数年は、彼の田舎から毎年、患者を我々のところに連れて来るようになった。この数年来ずーっと調子がよく、少しの不快感もない。

三十、腸腰靭帯の損傷
概説
腸腰靭帯損傷は割りに多いが、診断がはっきりしないため誤診されている。
腸腰靭帯は厚くて強靭なため、強くて激しい力を受けても完全に断裂紙豊島うことはなく、局部の損傷のみに留まる。それは第4と第5腰椎を安定させる強力な組織で、それによって腸骨と第4と第5腰椎の連結をさらにしっかりしたものにしている。第4と第5腰椎は体幹の応力を受ける重要な部分で、腰を伸ばしたり屈したり、側弯したりするとき、腸腰靭帯に負担がかかるので損傷することが多い。
腸腰靭帯は第4と第5腰椎横突起と腸骨稜の内側の間に位置し、骨組織によって隔てられている。そのため損傷しても痛みが深いところにあるので触れられず、診断や治療が難しい。そのため損傷しても治癒するものは少なく、長年にわたって治らなかったり、自己代償修復によって自然に治ったりする。
局部解剖
腸腰靭帯は厚くて強靭な三角形の靭帯で、第4と第5腰椎横突起から起こって、腸骨稜の内唇後半に放射状に止まり、仙棘筋の深面に位置する。腸腰靭帯は骨盤面の腰方形筋が厚くなった部分に被われ、その内側は横突間靭帯と後仙腸靭帯が一緒になっている。腸腰靭帯は体の重量による剪断力に抵抗する。L5 は腸骨稜の水平面より下にあるので、この靭帯はL5の回転を制限するとともに、L5が仙骨上を前に滑らないようにしている(77図と78図)。

腸腰靭帯 腸腰靭帯
| |
| |


----腸腰腹側靭帯








77図 腸腰靭帯の背面図 78図 腸腰靭帯の前面図

病因と病理
腸腰靭帯を損傷する主な原因は、腰を過度に前屈したり回したり、側弯させたりして起こる。急性の損傷が多いが、すべて重いものを背負ったまま腰を過度に前屈したり、ひねったり、側屈したため急性損傷したものである。はっきりした痛みは一側に多く、両側とも痛むことは少ない。安静にしたり治療すると好転するが、そのあと慢性の鈍痛が残り、作業すると痛みがひどくなり、休むと好転する。慢性の疲労損傷は長期にわたって腰を屈める作業をする人に多く、ほとんどが両側同時に発病し、一側のみ発病することは少ない。
腸腰靭帯損傷の中で、慢性期の主な病理変化は、損傷した後自己修復の過程で拘縮し、L4とL5のバランス作用が失われ、腰部が硬直したものである。
症状
第5腰椎の両側、あるいは一側に深在性の痛みがある。患者は疼痛部を指し示すことはできるが、はっきりと特定できない。腰を屈伸したり側屈したり、ねじる運動が制限される。重量物を運ぶときに激痛がおきやすい。
診断
①腰部の外傷歴や疲労損傷歴がある。
②第4腰椎と第5腰椎の外側縁から腸骨稜との間の部分に、深在性の圧痛がある。
③患者を腰掛けさせて患側を後ろにひねると、腸腰靭帯の痛みがひどくなる。
④ほかの疾患を排除する。
治療
①疼痛点がL4とL5横突起の傍らにあれば、第4と第5腰椎横突起を確かめて、横突起尖端の骨平面から刺入する。刃を仙棘筋と平行に、鍼体と背平面が垂直になるよう刺入し、刃先が横突起骨平面に達したら、鍼を90度以上回して横突起の縦軸方向と平行にして刃先を横突起尖端部に滑らせて移動させ、鍼体を横突起の縦軸線に沿わせて外側に向けて傾斜させ、鍼体と腰の外側平面が30度になったら、縦行剥離したあと横行剥離し、刃を90度回して1~2回切開剥離してから抜鍼する。無菌ガーゼで鍼孔を被ったら、片方の手を患側の腸骨稜に当てて、患者を健側に向けて2~3回過度に側屈させればよい。
②疼痛点が腸骨稜にあれば、疼痛点に近い腸骨辺縁を刺入点とし、刃を刺入点と第5腰椎横突起つなぐセント平行に、鍼体と刺入部の皮膚平面が垂直になるように刺入して骨面に達したら、刃先を腸骨辺縁の内唇に滑らせる。そして鍼体を波の方向に沿わせて第5腰椎横突起の方向に傾け、鍼体と内側の皮膚平面が15度の角度をなすようにし、刃先を腸骨辺縁の内唇の骨面にぴったりと被い、縦行剥離したあと横行剥離し、刃を90度回して2~3回切開剥離したら抜鍼する。無菌ガーゼで鍼孔を被ったら、片方の手を患側の腸骨稜に当て、患者を健側に向けて2~3回過度に側屈させればよい。
注意事項
ここに刺入して切開したり剥離操作をするときには、刃を常に横突起と腸骨辺縁にある骨組織上で操作するように注意する。骨から離れて深部に刺入すれば、重要な神経や血管を損傷する。
第十三章 下肢部

三十一、膝関節内側側副靭帯の損傷

概説
この疾患は、内側側副靭帯をぶつけたり、圧迫されたり、牽引されたり、あるいは様々な外傷(多くは下腿の外翻による損傷)などによって、部分的な亀裂、軽度な内出血、腫脹などの急性損傷が起こり、すぐにきちんとした治療をしなかったために、年月が経て大腿骨の内側顆から脛骨内側顆にかけて頑固な痛みが残ったものである。赤くなったり、腫れたり、熱をもったりなどの症状がはっきりせず、リューマチと診断されることが多いが、外傷によるものと診断されることもある。適当な治療法がなく、慢性化して治らなくなり、患肢の機能障害がひどく、外側側副靭帯も障害されているものも多い。

膝蓋骨
脛骨 癒着個所
大腿骨



膝関節内側側副靭帯

腓骨

79図 膝関節内側側副靭帯の解剖位置

A B



後上斜部--------

前縦部-------
-----内側側副靭帯(切断)
後下斜部--------




80図 膝の内側面の安定構造

局部解剖
内側側副靭帯は扁平で広い三角形をしており、関節包線維層の厚い部分となっている。内側側副靭帯は浅層と深層の二つの層に分けられる。深層は大腿骨内側上顆から起こって脛骨幹の内面と関節の辺縁に止まり、内面と外側半月板がぴったりとつながっている。内側側副靭帯の浅層は長くて、大腿骨内側上顆の頂部にある内転筋結節付近から起こり、脛骨上端の内面で脛骨関節面から2~4cm離れたところに止まっている。前部の線維は、縦行して下に向かっているので前縦部と呼ぶ(79図と80図)。
病因と病理
本疾患は、膝関節の内側側副靭帯が急性損傷されたものの、完全に断裂したわけではなく、適切な治療がおこなわれないため、日が経つうちに発病したものである。
靭帯を損傷し、修復される過程で、靭帯と大腿骨内側顆や脛骨内側顆が瘢痕癒着を起こし、靭帯の局部の弾力性を低下させて自由で滑らかな動きができなくなり、膝の機能を障害したものである。無理に歩いたり、膝を無理に動かしたときに瘢痕部分が引っ張られ、それによって新たな損傷が起こって症状がひどくなる。
症状
膝の内側の痛みは、動いた後でひどくなり、患側の足をまっすぐ伸ばせず、ビッコで歩き、ひどければ歩くこともできないし、大腿骨の内側顆や脛骨の内側顆に、小さな皮下結節が触知できることが多い。
診断
主訴をもとに診断すれば容易である。
①程度は違えども外傷歴があり、特に下腿を外翻捻挫したものに多い。
②病歴が長く、長引いているものほど診断の意義が大きい。
③大腿骨の内顆と脛骨の内顆に、はっきりした圧痛点がある。
④外転ストレステストが陽性。
治療
内側側副靭帯上から圧痛点を捜して局部を消毒したら、小鍼刀の刃と靭帯の縦軸が平行となるように刺入し、刃先が骨面に接触したら剥離操作をする。靭帯付着部では縦行疏通剥離方を使う。付着部でなければ横行 剥離を使って、靭帯を骨面上から刃の側面で跳ね挙げる。抜鍼したら鍼孔をしばらく圧迫する。5日しても治らなければ再び治療する。普通2~3回で治る。膝関節外側の側副靭帯損傷の後遺症に対しても、同様な治療をする。
症例
範××、男、60歳:沐陽県多管局幹部。右大体骨の内側顆炎となって8年。いろいろな場所で様々な治療を試みたが効果がなく、長期にわたり跛行しながら歩いている。1978年4月28日に骨科で診察し、2回の小鍼刀治療をおこなう。1回目の治療で膝が伸ばせるようになり、痛みがかなりなくなって、とても軽くなったように感じる。2回目の治療のあとでは少し不快感がある程度になった。1年後に再調査すると、普通に歩いており、まったく不快感はなくなっていた。

三十二、膝蓋靭帯損傷
概説
膝蓋靭帯の損傷も多く、来院する患者のほとんどが慢性である。急性の軽いときには患者が軽く考えて治療しない。急性の軽いときはひどい症状がなく、重傷のものでも膝蓋靭帯が切断されていることはなく、脛骨結節のところから裂離しているだけである。それは膝蓋靭帯が厚くて頑丈なためである。きわめて少数には鉄器などで切断されたものもあるが、ほとんどの患者は慢性である。そのため本疾患は通常の治療ではあまり効果がなく、また再発しやすい。
局部解剖
膝蓋靭帯は大腿四頭筋が延長された筋膜で、膝蓋骨上面から膝蓋下縁が収縮して膝蓋靭帯となり、脛骨粗面に止まっている。この靭帯は厚くて頑丈で、膝関節包の前面に位置する。その作用は大腿四頭筋が収縮するときに、強く引っ張られて膝関節を伸直させる(81図と82図)。


外側側副靭帯- -----膝蓋上包
--内側膝蓋支帯
外側膝蓋支帯-- 大腿骨--- ------膝蓋骨
-内側側副靭帯
膝蓋下脂肪パッド-- ----膝蓋前腱下包
----膝蓋靭帯 ----膝蓋前皮下包
腓骨小頭前靭帯-
--膝蓋下脂肪パッド
-------
下腿骨間膜---- ------膝蓋靭帯
------膝蓋嚢
-------
----膝蓋下皮下包
---脛骨粗面皮下包
81図 膝蓋靭帯解剖位置 -----脛骨

病因と病理
急激に膝を伸ばしたり、急に大腿四図筋
を収縮させると膝蓋靭帯を引っ張って損傷 82図 脂肪パッドと膝蓋靭帯損傷の刺入
する。また外力によって膝関節の屈曲を強
制されても、引っ張られて損傷する。しかし膝蓋靭帯は厚くて頑丈なので、切れることはない。引っ張られて捻挫すると膝蓋靭帯の脛骨粗面付着部の線維が抜去したり裂離し、少量の出血が慢性的に繰り返され、長引けば器質化して瘢痕となり、局部の血行や新陳代謝が障害され、頑固で慢性の痛みとなる。
症状
膝蓋靭帯の付着部、脛骨粗面が痛み、膝関節をまっすぐ伸ばしにくく、跛行する。階段は上がれるが、降りにくい。
診断
①外傷歴がある。
②膝蓋靭帯の付着部、脛骨粗面に痛みや圧痛がある。
③大腿四頭筋が収縮すると痛む。
治療
患者を仰向けに寝かせ、膝を曲げて足の裏がベッドに着くように置き、膝蓋靭帯付着部の圧痛点から刺入する。刃は膝蓋靭帯の縦軸と平行に、鍼体と膝蓋靭帯平面が垂直になるように刺入して、骨面まで達したら縦行剥離し、さらに横行剥離する。硬結があれば縦行切開する。普通1~2回で治癒する。
注意事項
必ず脛骨粗面の膝蓋靭帯付着部を刺入点とする。そうでないと効果がない。
症例
席××、男、37歳:沐陽胡集郷の幹部。2年前に水路をまたいだとき転び、左腿が曲がった。すぐに左膝の下に引き裂かれるような痛みが起こり、家に帰って休んでいたら痛みが激しくなって、まっすぐに伸ばせなくなり、湿布薬を貼って安静にしていたらよくなった。しかし時折シクシク痛む。この1年、膝下の痛みが段々とひどくなり、跛行するようになった。ブロック注射したり、漢方薬を飲んだり、鍼灸をしたり、理学療法をしたが効果がなかった。1979年11月28日に骨科で診察した。左の膝蓋靭帯損傷と診断して、1回の小鍼刀治療で治癒した。2年後に再調査すると、治ってから少しの不快感もなくなったという話である。

三十三、膝蓋下脂肪パッド損傷
概説
この疾患は膝蓋下脂肪パッド炎とも呼ばれ、緩慢に発病し、ほとんどが疲労損傷によるもので、急性の外傷によるものは少ない。緩慢に発病して、慢性化して治りにくく、症状が徐々に重くなる。以前には炎症が強調され、疲労損傷や内部軟部組織変性については、あまり認識されておらず、ブロック注射を主とする保存療法がされていた。そのため再発を繰り返し、治りにくかった。
局部解剖
膝蓋下脂肪は、膝蓋靭帯と膝関節包との滑膜の間にある、三角形の脂肪組織である。膝
蓋靭帯の摩擦を減少させ、膝関節を安定させる作用
がある(83図)。
本疾患は、慢性化していて治りにくいが、小鍼刀
は効果がある。
病因と病理
本疾患は多くが緩慢に発病するが、膝関節を頻繁
に屈伸させるために摩擦損傷を起こしたもので、損 ---脂肪パッド
傷したあと脂肪パッドが充血して変性し、摩擦を吸
収する作用を失わせるが、瘢痕は逆に摩擦を大きく
して膝蓋靭帯の運動を制限し、それによって痛みと 83 図膝蓋下脂肪の矢状切断面
運動制限を引き起こす。
症状
1.膝関節の損傷歴がある。
2.膝蓋下脂肪の部分が痛み、圧痛もある。
3.患者に膝関節を屈曲させ、すばやく関節を伸ばすように言うと、その動きができないうえ、膝蓋骨下の痛みがひどくなる。
治療
患者を仰向けにベッドに寝かせ、膝関節を屈曲させて、足底をベッドにくっつける。
膝蓋骨の下縁と脛骨粗面の間にある圧痛点から切皮し、刃の向きを膝蓋靭帯の縦軸と平行にして、鍼体と膝蓋靭帯平面が垂直になるように刺入して、膝蓋靭帯の下方に達したら縦行剥離し、そのあと刃先を膝蓋靭帯内面の脂肪パッド上面に引き上げ、刃の方向をそのままにして靭帯平面と鍼体が15度の角度をなすように刃の垂直方向に沿わせて傾け、膝蓋靭帯と脂肪パッドの間に通透剥離をしながら、鍼体を刃の方向に沿わせて揺り動かして膝蓋靭帯と脂肪パッドを引き剥がす。そのあと再び鍼体を膝蓋靭帯平面と15度の角度となるように反対側に倒し、同じ操作をおこなう。膝蓋靭帯と脂肪パッドの、もう一方の側も、このように剥離したら抜鍼する。
注意事項
刺入深度を把握する。鍼尖が膝蓋靭帯を通過したら、そこが脂肪パッドなので切開剥離をおこなう。5mmぐらいの深さのところである。膝関節の滑膜や軟骨を損傷しないように、脂肪パッドは貫かないようにする。
症例
喬××、男、48歳:体育コーチ、沐陽体育委員のコーチ。1年前に膝下が痛みだし、ブロック注射、漢方薬、関節炎の治療をしたが効果がなかった。1978年1月21日に骨科に来院し、膝蓋下脂肪パッド炎と診断され、1回の小鍼刀治療で治癒した。2年後に再調査すると、治ってから半月で仕事ができるようになり、現在でも不快感はないといっている。

三十四、膝蓋下滑液包炎
概説
本疾患は青壮年の肉体労働者やスポーツ選手に多い。ほとんどは膝関節を繰り返し、頻繁に屈伸させたために起こり、緩慢に発病して、はっきりした外傷歴もない。
局部解剖
膝蓋下滑液包には3つある。(1)深膝蓋下包:膝蓋靭帯と脛骨前面で、膝蓋下脂肪パッドの下極の間に位置する。(2)膝蓋下皮下包:膝蓋靭帯と皮膚の間で、脛骨粗面の上縁に位置する。(3)脛骨粗面皮下包:脛骨粗面と皮膚の間に位置する(82図)。
この3つの滑液包は、すべて膝蓋靭帯の停止部付近にあるので、診断するときに混同しやすい。すべて膝蓋下滑液包炎と呼んでいるが、正確に診断するには、それぞれの解剖位置をはっきりさせ、混同しないようにする。混同すると誤診や誤治をして治らない。
病因と病理
3つの滑液包は、位置が違っても損傷されるメカニズムは同じようなもので、長期にわたって頻繁に膝の屈伸を繰り返すことによって起こる。長期にわたって膝を屈伸させたため膝蓋靭帯と脛骨上端が摩擦され、それによって滑液包に慢性損傷が起こり、滑液包壁が肥厚して線維化して閉塞し、滑液が排出できなくなって滑液包が膨張し、膝蓋靭帯と脛骨上端は滑液に潤されないので腫れぼったさや不快感が起こり、膝関節の屈伸ができなくなる。本疾患に対して非手術療法をしても効果が上がらないので、ふつうは局部麻酔して切除手術をする。しかし手術のあと膝蓋靭帯と脛骨上端が滑液で潤されないために潤滑さを失い、また手術によって瘢痕組織が残りやすいため膝関節に後遺症が残ることが多い。
症状
膝蓋の下がシクシク痛み、膝関節の屈伸が滑らかさを欠く。一般に階段を下りにくい。患側の下肢をまっすぐ伸ばそうとせず、歩くときは軽い跛行となる。下肢を屈伸させると痛みがひどくなる。また健側と較べると膝蓋靭帯停止部が少し隆起している。
診断
①長期にわたって膝を屈伸させた損傷歴がある。
②脛骨粗面か、その少し上縁が痛み、軽い圧痛がある。
③膝蓋靭帯の下方が隆起し、脈打つような感じがある。
治療
患者は仰臥位で膝関節を90度に曲げ、足底をベッドにくっつけて横になる。
①疼痛点と膨隆部が、脛骨粗面上縁の膝蓋靭帯深部にあれば深膝蓋下包炎である。刃と膝蓋靭帯が平行になるよう、鍼体と膝蓋靭帯上側平面が約70度の角度となるようにして疼痛点から刺入し、骨平面に達したら2~3回切開剥離操作をして抜鍼し、無菌ガーゼを被せたら親指で鍼孔をしばらく圧し、膝を1~2回ほど屈伸させて膨隆部が平坦になればよい。
②疼痛点と膨隆部が、脛骨粗面のやや上部の皮下にあれば、膝蓋下皮下包炎である。鍼体と刺入部の皮膚が垂直になるようにして、刃と膝蓋靭帯を平行に疼痛点に刺入し、膝蓋靭帯付着部に達したら2~3回ほど切開剥離して抜鍼する。骨面まで刺入しなくてよい。そのあとで無菌ガーゼを被せたら、親指で鍼孔をしばらく押さえ、膨隆部が平らになればよい。
③疼痛点と膨隆部が脛骨粗面の皮下にあれば、脛骨粗面皮下包炎である。鍼体と刺入部の皮膚を垂直に、刃と膝蓋靭帯が平行になるように疼痛点から刺入し、2~3回ほど切開剥離したら抜鍼する。無菌ガーゼを鍼孔に被せたら、親指でしばらく圧迫し、膨隆部が平坦になればよい。
注意事項
この部分は安全であるが、正確に滑液包に刺入しなければならない。うまく当れば1回の治療で治る。

三十五、足根管症候群
概説
本疾患は老人の発病が多い。高齢になれば靭帯の弾力が低下することと、また何度も足関節を捻挫しても発病しやすいが、それは足根管の位置と構造に関係がある。本疾患はリューマチ性関節炎や末梢神経炎と誤診されやすい。また正確に診断されても漢方薬や薬物治療では効果があまりない。最近は整形外科での手術治療がおこなわれる。支帯の一部を切除して後脛骨神経の圧迫を緩めれば優れた効果があるが、手術が痛く、また軽い不快感が残る場合もある。
局部解剖
足根管は内踝の下側にある狭い骨性の通路で、表面は分裂靭帯で被われており、これを屈筋支帯とも呼ぶ。下面の踵骨内側面は扁形の管腔があり、中間には後脛骨動脈と後脛骨神経があり、長母指屈筋、長指屈筋が通る。分裂靭帯が損傷されて拘縮すれば、管腔は更に狭くなる(84図)。
病因と病理
発病原因は2つある。1つ目は、日頃は
あまり足首を運動させないのに、急に運動
量を増やした。2番目は足関節を何度も捻
挫したことである。足根管内の筋腱が摩擦
損傷されて、筋腱に部分的な亀裂が入った -----分裂靭帯
り、慢性的に少量の出血、浮腫が起こり、
日に日に器質化し、増殖や肥厚したものが
瘢痕である。足根管内の物体の体積も、そ
のために増大する。
中足骨は骨性の線維管で伸縮性に乏しい
ため、筋腱が太くなったからといって膨張 84図 足根管の解剖位置
するわけではない。足根管内部で狭くなる
ため管内の圧力が高くなり、後脛骨神経が圧迫されて症状が現れる。
症状
初期では、たくさん歩いたり、長く立っていたり、疲れたりすると内踝の後部に不快感が現れ、休めると改善する。日が経つうちに踵骨内側と足底に、痺れや蟻が這うような感じが起こる。重症のものは足趾の皮膚が乾燥してテカテカになり、毛が脱落して足の内側の筋肉が萎縮し、ビッコになる。
診断
1.痛みや痺れが、踵骨の内側と足底に限局されている。
2.内踝の後方を叩打すると、足を鍼で刺すような感覚がひどくなる。
3.足部を極度に背屈させると、症状がひどくなる。
治療
ベッドに患側を下にして、病巣部の内踝が上を向くように側臥位でベッドに寝かせ、砂袋を足首に敷いて安定させる。内踝の後下縁と踵骨の最後縁を結ぶ直線と、内踝前縁と踵骨底内側最前縁を結ぶ直線、この2本の直線の中間が分裂靭帯である。2本の直線上の分裂靭帯付着部内側に、それぞれ4つの刺入点を取り、各部分で屈筋支帯を切断する。さらに支帯の両端を靭帯の内縁に沿わせて通透剥離し、そのあと足に力を入れて数回背屈させる。治療して24時間したら暖めた酢で患側の足を洗うが、これは1日2回おこなう。治療後に25mlのプレドニゾロンに120mgのプロカインを加えたもので、分裂靭帯の両端にブロック注射をしてもよい。5日過ぎても治らなければ、更に治療をして回復を待つ。普通は1~2回で症状が大幅に軽くなるが、足底には軽い不快感が残る。それは神経が長いこと圧迫され続けていたため、すぐには完全に回復しないからである。患者に足関節を屈伸させて鍛えるようにさせれば、後遺症は自然になくなり、再発の恐れもなくなる(85図)。
注意事項
小鍼刀治療のとき、必ず分裂靭帯
の両端で治療するようにし、絶対に 後脛骨筋腱----- ---後脛骨動脈
後脛骨神経や後脛骨動脈を傷付けな
いようにする。 長指屈筋腱------- ---後脛骨神経
症例
李××、女、48歳:沐城総合七 --長母指屈筋腱
工場工員。1年以上前に右足首を捻
挫したことがある。治療して症状は ----分裂靭帯
なくなったが、この数カ月は足の裏
が痺れ、足関節が痛みだし、内側が
特にひどく、歩いたあと痛みがひど | |
くなる。いろいろと治療したが効果 | |
がなかった。分裂靭帯部分を叩くと | 切開剥離個所
足の裏全体の痺れるような痛みが針 部分的に分裂靭帯を切断した部分
で刺すような痛みに変わり、極度に
背屈しても痛みがひどくなる。足根 85図 足根管症候群の小鍼刀操作
管症候群と診断し、1978年4月
15日に小鍼刀治療をしたあと、足根管内に25mlのプレドニゾロンに120mgのプロカインを加えたものでブロック注射すると、すぐに軽くなったように感じた。5日あとで再検査すると、症状は大幅に軽減し、わずかな不快感が残るのみだった。再び治療をおこない、治ったあと足首の屈伸運動を欠かさないように申し付けた。1年後の追跡調査では、まったく不快感がない。

三十六、踵骨の骨棘
概説
踵骨の骨棘は、かなり多い疾患であるが、治療学上では難病である。以前は長いこと歩いたり、長時間立っているために骨棘ができると考えられ、保存治療をおこなって患者に余り歩いたり立ったりしないように勧告していた。軟らかなスポンジをカカトの下に敷いたり、痛みの激しいものにはブロック注射をしていたが、あまり効果がない。中医では拳で叩いたり、木槌で叩いたりして、効果を収めることもあるが長続きしない。近年は骨棘剤を長期間内服したりするが解決しない。以前には手術によって骨棘を切除したが、やはり根治できなかった。
局部解剖
踵骨は最大の足根骨で、不規則な長方形をしており、全部は小さくて狭く、後部は大きくて広い。下には踵骨結節がある。踵骨結節には足底靭帯(長足底靭帯とも呼ぶ)があって、前方にある第1~5指骨とつながっており、足底筋膜と一緒に足底弓を維持している(86図と87図)。


+---重力線
脛骨-- |

距骨 |
船状骨 | |
-----足底筋膜 内側楔状骨 | | |
第1中足骨| |
||
指骨 |



| --踵骨
| | | |
| | | |
87図足底筋膜解剖図 | 第5中足骨| |
| 立方骨 |
病因と病理 横弓 縦足弓
踵骨の骨棘はどうして発生する
のか?臨床で見かける骨棘は、大 86図 踵骨骨棘の側面図
きくても症状が現れないが、小さ
くともはっきりした症状があることがある。我々は本疾
患を長期にわたって観察したところ、骨棘のできた踵骨
の足は、足底弓が健側より湾曲が深くなっており、また
骨棘は長足底靭帯と足底筋膜が踵骨結節に着いている付
着部にできていることが判った(88図)。
長足底靭帯と足底筋膜の後端は、どちらも踵骨結節の
上下縁に付着し、そして踵骨結節の骨棘は、すべて足趾 足底筋膜
の方に向かって生えている。それから判るように、骨棘
ができる原因は、長足底靭帯と足底筋膜の攣縮である。
長足底靭帯と足底筋膜が攣縮して、踵骨の付着部が常に
持続的に引っ張られ、靭帯と筋膜の線維が絶えず裂傷を
負うため、その部分を強化して切れないように身体が付
着部を石灰化して骨化し、骨棘が形成される。そこで我 足底の骨棘
々は、すべての筋肉や靭帯の付着部に骨棘ができる原理
は、持続的な牽引損傷であると結論付ける。 88図 踵骨の骨棘形成力学図
症状
足跟部が痛み、歩くと好転する。朝起きたときや休んだ後で再び歩き始めると痛みがひどい。朝起きた後で、1~2時間の準備運動をしなければ歩けない患者もある。
診断
1.足跟部が痛み、踵骨結節にはっきりした圧痛がある。
2.患側の足底弓が深くなり、長足底靭帯と足底筋膜(患側の足底をまっすぐ伸ばしたとき)が、足底弓で弓の弦のように、はっきりと触ることができる。
3.X線検査:患側の踵骨結節に、クチバシ状の骨棘ができている。
治療
患者をベッドにうつ伏せにし、足関節の前縁に枕を置き、足跟を上に向けて、足は枕で安定させる。圧痛がもっともはっきりしているところが骨棘の尖端部なので(X線写真を参照する)、そこに刺入する。刃を足の縦軸と垂直にし、鍼体と足底の後ろ平面が60度の角度となるようにして骨棘の尖端部に刺入したら、横行切開剥離を3~4回おこなって抜鍼する。
鍼孔に無菌ガーゼを被せたら、術者は手で患側の足を過度に背屈させると同時に、足底弓の弦のようになった長足底靭帯と足底筋膜を、もう片方の手の親指で足背方向に押しやる。これを2~3回おこなえばよい(89図)。
注意事項
切開剥離する位置は、必ず骨棘尖端部でな
くてはならない。尖った骨棘尖端部を擦って
丸めればよく、骨棘本体を削り取ってしまう
必要はない。この治療では、骨棘を擦り落と
すのではなく、骨棘があっても症状がなく、
機能に影響を与えないようにするのが目的で
ある。
症例 -------------------
姚××、女、49歳:沐陽県医院の医者。
患者が骨棘ができて3年あまり。長いこと治 89図 踵骨骨棘の小鍼刀抜鍼後の手法
らず、朝起きると歩けず、症状は段々とひど
くなる。1979年5月10日に骨科で診察し、1回の小鍼刀治療で治癒した。2年後に再調査すると、治ってから現在まで足跟部に、なんの不快感もない。

三十四、膝蓋骨軟化症
概説
膝蓋骨軟化症も、治療学上の難問である。
この問題は難題であるが、その理由は本疾患の病因と病理がはっきり判っていないからである。以前には、内分泌学説、軟骨栄養障害学説、軟骨溶解学説など、いくつもの理論があった。私は、こうした学説は本疾患の中心となっている病因を捕らえていないと考えている。最近では機械刺激学説がいわれ、以前よりはいくらか発展し、本質に近づいたようだが、やはり中心となっている原因ではない。我々は、まず膝蓋骨の解剖学的特徴から見てみよう。
局部解剖
膝蓋骨は全身でもっとも大きな種子骨で逆三角形をしており、上部が広くて膝蓋骨底となり、下部は尖った膝蓋骨尖となっている。膝蓋骨尖は膝蓋靭帯と膝蓋下脂肪パッドを包み込んでいる。膝蓋骨底は大腿直筋腱と外側広筋腱が付着し、内側広筋の線維と腱膜は膝蓋骨の内側に付着し、外側膝蓋支帯は膝蓋骨の外側縁に付着して、膝関節包を構成している。前面はザラザラしていて骨膜がなく大腿四頭筋の内面に包まれており、膝蓋骨の血管孔は主に膝蓋骨前面の上部と下部の 内に分布する。後面での血管孔の多くは関節面上縁付近の骨面上に並んでいる。膝蓋骨後面が関節面であり、1本の縦走稜によって膝蓋骨を内と外の2つの部分に分けられ、さらに上、中、下3つの小関節面に分けられる。内側の3つの関節面の最内側には、もう1つ縦行する関節面があるので、全体で2上、2中、2下、1縦の7つの関節面に分けられる。膝蓋骨後面の関節軟骨は、厚さ0.7mmに達する。7つの関節面によって、それぞれ異なる屈伸運動ができる。膝を伸ばしたときは上部のみが大腿骨と接し、わずかに膝を曲げると中部が接し、大きく屈すると下部が接し、膝を完全に屈したときに膝蓋骨の最内側面が大腿骨顆間窩内縁の月状面と接する。大腿四頭筋腱は3層に分けられる。浅層は大腿直筋腱で、膝蓋骨底の前縁に付着しており、その線維の大部分は膝蓋骨前面のザラザラした面を多い、下に伸びて膝蓋靭帯となっている。中層には内側広筋と外側広筋があり、それらの筋腱も膝蓋骨底で大腿直筋平面の下にある。外側広筋腱は膝蓋骨外側縁の上 に止まっている。内側広筋腱は膝蓋骨内縁のさらに下まであり、内縁の上約 を占める。大腿直筋腱付着部以降は下に向かう線維が加わって、脛骨の内側顆と外側顆に達し、内側膝蓋支帯と外側膝蓋支帯になっている。深層は中間広筋腱が、膝蓋骨底のさらに後ろの平面に付着している。
このような構造により、大腿四頭筋は膝蓋骨を安定させる動力の一部となっているが、なかでも内側広筋はもっとも重要である。それは膝蓋骨の上縁と内縁の上 に付着しているため、それが収縮すると膝蓋骨を上内方に引っ張る作用をする。それは内転筋の一つと見なすことができ、膝蓋骨の脱臼を防ぐ重要な作用をしている。膝蓋関節面の縦走稜と大腿骨の凹型滑車面が対応して、膝蓋骨が左右にズレないようになっている(90図、91図、92図、93図)。
病因と病理
膝関節の運動には、常に膝蓋骨が係わっている。膝蓋骨の上下7つの小関節面が大腿骨の関節面と吻合しているが、膝蓋骨周辺にある軟部組織の一部が損傷されると、攣縮したり弛緩して、膝蓋骨の関節面がズレる。つまり膝蓋骨周辺の軟部組織が一ケ所でも拘縮したり弛緩すれば膝蓋関節が噛み合わなくなり、さらに膝蓋骨下面の各小関節面の辺縁には縦走稜の盛り上がりがあるので、関節の凹凸が合わなくなれば縦走稜と大腿骨面がこすれあって関節軟骨を損傷し、軟骨の関節面はザラザラしてくる。
また膝蓋骨は種子骨で、それが安定して軌道上を動くには周囲の軟部組織のバランスが保たれていなければならない。軟部組織に病変が起きれば膝蓋骨も軌道を逸れてしまう。
そのほか膝蓋骨が軌道から離れることによって、大腿骨の関節面との間に摩擦や衝突が起こり、関節周囲の滑液包にも続発的に損傷し、また脂肪パッドにも充血や肥厚が発生して、膝蓋関節面と周囲の軟部組織の滑液も十分に供給されなくなる。膝蓋骨周囲の軟部組


----中間広筋
中間広筋---
----大腿直筋
--内側広筋腱膜 外側広筋- ---大腿直筋
外側広筋腱膜--
------膝蓋骨 内側広筋---
--内側膝蓋支帯
外側膝蓋支帯--
----膝蓋靭帯
外側側副靭帯-- --内側側副靭帯 ---膝蓋骨

腓骨------ -----脛骨



90図 膝蓋骨軟部組織の安定構造 正面 91図 膝蓋骨軟部組織の安定構造内部

腸脛靭帯------ -----大腿四頭筋------

外側膝蓋大腿靭帯------- ---------内側膝蓋大腿靭帯

外側半月膝蓋靭帯-------- ---------内側側副靭帯

外側側副靭帯-------- ---------内側半月膝蓋靭帯

外側面 内側面
中間広筋 大腿直筋

関節包 ----------関節包
膝蓋底
外側膝蓋大腿靭帯 ---内側膝蓋大腿靭帯
---外側広筋 内側広筋
外側半月膝蓋靭帯-- ---内側半月膝蓋靭帯
腸脛靭帯------ ---膝蓋靭帯

外側縁 膝蓋靭帯 関節包 内側縁
膝蓋尖
92図 膝蓋骨の正常な力学状態と微細な解剖構造

関節包------
-------大腿骨顆間窩の内縁月形面

------------膝蓋下滑膜ヒダ

翼状ヒダ--------- --------翼状ヒダ
------------膝蓋靭帯

膝蓋骨の7つの小関節面------
------内側広筋
外側広筋---------
大腿直筋腱---------

93図 膝蓋大腿関節面の構造

織に滑液が十分に供給されず、スムーズに動かせなくなる。
膝蓋骨周辺の軟部組織が損傷されると、それ自体にも痛みが起こったり動きがぎこちなくなったりする。
このように滑液の供給が欠乏し、微小循環が障害されると、膝蓋軟骨が栄養されなくなり、さらに摩擦と衝突による損傷が加わって、退行変化が起こって軟化する。
以上の病機を分析して判るように、膝蓋骨軟化症の原因は膝蓋軟骨の問題ではなく、周囲の軟部組織が損傷することによって起こったものである。
症状
1.膝関節が痛み、階段の上り下りや、半分うずくまったときに痛みがひどくなる。
2.「ロックサイン」が起こる。ときには軽く動かしただけで、膝蓋骨下からはっきりと軋轢音が聞こえる。これが「解錠」で、膝蓋軟骨面が損傷してデコボコになり、大腿骨の関節面にピッタリ填まらなくなったために起こるものである。
3.ときには膝折れ現象が起こる。
診断
1.外傷歴や疲労歴がある。
2.膝蓋骨を上下に動かしたとき痛みがひどくなり、しゃがむと痛みがひどくなる。
3.膝蓋骨を圧迫して動かすと、クリック音や痛みが起こる。
4.膝蓋下脂肪パッドに圧痛がある。
5.「膝折れ」や「ロックサイン」などの症状が現れる。
6.X線写真は、膝蓋骨の脱カルシウムと萎縮を示している。
鑑別診断
1.膝蓋靭帯上端の慢性損傷:膝蓋骨下極部の疼痛。膝蓋骨と膝蓋靭帯が交わる部分をケガや疲労により損傷したもので、局部の圧痛がはっきりしており、大腿四頭筋抵抗テストが陽性。
2.膝蓋下脂肪パッド炎:病変部は膝蓋下脂肪パッドにある。ケガや疲労で損傷し、寒湿が侵襲するなどの刺激により痛む。またほかの膝関節組織が損傷されても発生する。手で膝蓋骨を下方に推し、もう一方の手で膝蓋骨の下縁を圧迫すれば痛みが起こる。
3.半月板損傷:半月板損傷と膝蓋骨軟化症にはロックサイン現象があって、どちらもクリック音が聞こえる。しかし前者は真性で、後者は仮性である。他の検査方法と組み合わせれば、区別は簡単である。
4.骨性関節炎:老人に多く、膝を一定範囲で屈伸したときに痛みが起こり、屈伸がしにくくて、しゃがむことができないなどの症状がある。X線検査では、骨がスカスカになって関節の間隙が狭く、軟骨下の骨質が硬化し、関節の辺縁に骨増殖があるなどの特徴がある。また膝蓋骨軟化症は青壮年に多く、痛みは膝蓋大腿関節面と膝蓋骨周囲に限局され、半分しゃがみこんだ姿勢で痛みがひどくなる。
治療
1.膝蓋骨周囲の疼痛点と圧痛点がすべて軟部組織が損傷されている病巣部なので、小鍼刀の治療ポイントとなる。それには次のような部位が多い。
膝蓋前皮下包:膝蓋骨の下半分に位置し、膝蓋靭帯から上の皮膚の間にある。ここに疼痛や圧痛があれば、膝蓋前皮下包が損傷されている。小鍼刀を使って、この滑液包を切開剥離してやればよい。
内側膝蓋支帯と外側膝蓋支帯:疼痛点は膝蓋骨の両側辺縁にある。切開松解術(弛緩させる)をする。
本疾患では、多ければ膝蓋骨の周囲に12ケ所もの疼痛点があるが、すべて小鍼刀を使えば消える。
2.手法治療
(1)患者を仰向けに寝かせ、患肢をまっすぐに伸ばし、術者は指を広げて膝蓋骨を掴み、力を入れて上下に(肢体の縦軸に沿って)膝蓋骨を滑らせる。このようにして関節包や靭帯をマッサージし、弛緩させる。
(2)術者は片手で患肢の足関節上縁を掴み、患者の股関節と膝を屈する。もう一方の手の親指を膝蓋骨上縁に当てて支え、患肢をまっすぐ伸ばさせると同時に親指に力を込めて下に向けて膝蓋骨を推す。このとき力の方向は、真下と斜め下方である。
(3)膝関節の屈伸障害があるものに対しては、過度に膝関節を屈伸させて安定させる方法を使い、屈伸させた位置で30秒停止させる。
3.薬物治療
煎じ薬を使って浸す。毎日1服使い、2回に分けて温浴させる。
処方
透骨草10g、仙霊脾10g、桑枝10g、威霊仙10g、茜草根10g、紅花10g、防風10g、蒼朮10g、海桐皮10g。
これを煎じて患部を浸す。
4.リハビリ治療
患者は自分で毎日、大腿四頭筋を100回収縮させる。まっすぐ腿を挙げる運動を100回すればよい。
術者は毎日1回、膝蓋骨周囲の軟部組織にマッサージする。1回で膝蓋骨全体を3回持ち上げ、2日に1回は過度に屈伸させる手法を使う。10回を1クールとし、1~2クール続ければ治癒する。
注意事項
1.鍼の方向に注意して、関節内に入って関節面を損傷することのないようにする。
2.刃の方向は組織線維の走向と一致しなければならない。

三十八、膝関節の外傷性滑膜炎
概説
本疾患は膝関節腔内に水が溜るもので、膝関節滲出性関節炎とも呼ぶ。
本疾患に対して、いろいろな治療法がされたが、あまり効果がなかった。長年にわたって模索したところ小鍼刀と漢方薬を併用し、ほかの補助治療を組み合わせるとまずまずの効果があった。
局部解剖
膝関節包は大きくて緩い、4つの面からできている。前壁は大腿四頭筋腱と膝蓋骨と膝蓋靭帯である。外側壁の上縁は大腿骨外側顆関節面の辺縁上方、下縁は脛骨外側上顆の関節面に付着する。内側壁の上縁は大腿骨内側顆関節面の辺縁上方、下縁は脛骨内側上顆の関節面下縁に付着する。後壁はもっとも短く、上縁は大腿骨顆間線、下縁は脛骨顆間窩の後縁に付着する。関節包の滑膜層面積は線維層よりも遥かに大きいため、関節包の滑膜層はシワになってヒダになったり、線維層の薄い部分が突出して滑液包になっている。
関節包の滑膜層は、膝蓋骨下方の両側から後ろに行って関節腔内に入り込み、一対の滑膜ヒダとなっているが、これを翼状ヒダと呼ぶ。両側の翼状ヒダは上に行くにしたがって一緒になって1本の帯状のヒダとなり、関節腔を斜めに走って大腿骨顆間窩の前縁に達しているが、これを膝蓋滑膜ヒダと呼ぶ。翼状ヒダと膝蓋滑膜ヒダの間には脂肪が挟まれている。膝蓋骨と大腿骨顆下部、脛骨顆前上縁そして膝蓋靭帯の間を満たしている脂肪組織を膝蓋下脂肪パッドと呼び、滑膜以外の大腿骨、膝蓋骨、脛骨の間隙を埋めている。
膝蓋靭帯は膝関節の前部にあり、大腿四頭筋の延長部分である。上は膝蓋骨尖と膝蓋関節の下方から起こり、脛骨粗面に止まる(93図)。
病因と病理
膝関節滑膜は関節の中では、もっとも面積が広い滑膜で、膝関節包の内壁全体を広く被っている。膝が損傷したり手術刺激、そして蓄積性損傷などにより滑膜が刺激されたり損傷すると、滑膜が充血したり滲出が起こって大量の滑液が溜る。滲出物が増えると関節内圧が昂まり、リンパの還流を障害して悪循環に陥る。また水が溜った状態が長引けば線維素が沈殿して線維性の器質化が起き、関節滑膜は長期にわたる慢性的な刺激により徐々に厚くなり、癒着を引き起こして関節の動きに影響を与え、大腿四頭筋が萎縮することもあって関節はさらに不安定になる。
こうした疾患の主な病因も、やはり軟部組織の損傷である。以前の人々は滑膜の損傷にのみ注目して、滑膜損傷を起こす原因のほうは無視し、膝関節包の滑液には注目しても、滑液がなぜ排出されないのかという理由はおろそかにしていた。
滑膜炎は、膝関節の軟部組織が損傷されるために関節が安定性を失い、滑膜が常に摩擦されるために損傷して起こったものである。そのなかでも膝蓋下脂肪パッドを損傷すると滑液の排出と吸収に影響を与える。滑液が大量に滲出するのは、滑膜の防御システムの一種である。このように滲出が多くて排出吸収が少なければ、滲出してきた滑液が溜って水腫となる。水腫は日が経つうちに変性して滑膜を蝕む。膝から水を抜いたとき黒褐色の液体をしばしば見るが、それが変性した滑液で、体外に排出されなければならないものである。そうでないと滑膜がさらにひどく破壊され、さらに吸収されにくくなる。
膝蓋下脂肪パッドは翼上ヒダと膝蓋滑膜ヒダの間にあるが、膝蓋下脂肪パッドが損傷されると2つのヒダにも累が及ぶため、そこの水液代謝通路が塞がれる。
これが滑液が貯溜する原因である。
症状
罹患した膝関節が膨隆して張り、歩き辛くなったり歩けなかったり、膝の屈伸が自由にできなくなり、無理に曲げると脹痛が起きる。
診断
1.外傷歴や疲労損傷歴がある。
2.膝関節が腫れ、両膝眼がなくなっていたり盛り上がったりしている。
3.膝蓋骨跳動テストが陽性。
4.屈伸が困難。
5.X線検査では、膝関節に骨増殖や骨損傷などがない。
鑑別
1.膝関節血腫:膝関節血腫は損傷するとすぐに起こり、また損傷面が大きくて負傷もひどく、局部の痛みも激しい。圧すると堅く、関節の運動障害もはっきりしており、穿刺すると血の混じった液体が抽出される。
2.外傷性滑液包炎:本疾患では1つの滑液包を損傷したものが多い。滲出や腫脹、疼痛があり、膝関節周囲の限局された症状が多い。外傷性滑膜炎は膝関節全体が腫れ、膝蓋骨跳動テストが陽性となる。
治療
1.小鍼刀治療
小鍼刀治療をする前に、厳格な無菌状態で関節内に溜った液体を抜き取り(膝蓋骨中段両側の関節間隙から穿刺する)、25m のプレドニゾロンに2%プロカイン120mgを混合したものを注入し、そのあと小鍼刀治療をおこなう。
(1)患者を仰向けに寝かせ、膝を90度に曲げ、足底をベッドにぴったりくっつける。膝蓋靭帯の両側中段から、それぞれ1点(圧痛があったりする)選び、小鍼刀の刃を膝蓋靭帯の縦軸と平行にして、鍼体と膝蓋靭帯平面が垂直になるよう刺入し、1cmぐらいの深さのところで1~2回切開剥離して、引き続き刺入する。関節腔前縁に鍼尖が達して堅い軟部組織に当ったら切開して弛緩させる。もし堅くなければ関節包に刺して鍼孔を開ければよい。
(2)鍼尖が関節腔に入ったら小鍼刀を皮下に引き上げ、こんどは膝蓋靭帯と斜めに、鍼体が膝蓋靭帯平面に対し70度の角度となるようにして膝蓋下脂肪パッドに刺入し、関節腔の外側辺縁に到達させる。刺入の過程で堅いシコリに当ったら、すべて切開する。
2.手法治療
小鍼刀治療のあと患肢をまっすぐ伸ばし、2人で太腿の付け根と足首の上縁をそれぞれ持って、互いに5分ほど引っ張りあう。
3.副木の固定
(1)手法による牽引が終わったら、膝蓋上包と両膝眼にガーゼ座布団を敷き、2本の包帯を使って副木の両端を臀溝の下側と足関節の上側に固定し、そのあと包帯を膝蓋上包と両膝眼のところで副木に巻き付け、ガーゼ座布団を膝蓋上包と両膝眼にきつく固定する。
副木の真ん中に結んだ2本の包帯は24時間したら取り除き、今度は1本の包帯で副木の中段を脛骨結節下縁に固定する。
3日後に、関節腔内に液が溜っており量が多かったら、再び前の方法で溜っている水を抜き取り、圧迫して固定するが、やはり24時間したらはずす。水を抜くのは3回までで、いつも抜くのはよくない。ふつう1回抜き取れば溜るようなことはない。
副木は28日後に取る。
4.薬物治療
最初は水が再び溜らないように制御するため、通絡滲湿と利水清熱を主とする。
処方
黄柏10g、紅花10g、沢瀉10g、絡石藤10g、絲瓜絡10g、雲苓10g、炒苡仁20g、川 痺20g。
この処方を毎日1服、関節に水が溜らなくなるまで服用する。
関節に水が溜らなくなることが治療のポイントだが、ふつう2~3週間かかる。ただし滑膜が修復されることも重要である。水が溜らなくなったら次の漢方薬を飲む。これは補脾利湿、活絡、流利関節を主とした方法である。
処方
党参10g、炙黄耆20g、亀板膠10g、炒白朮10g、炒苡仁20g、油松節10
g、紅花10g、川 痺10g、全甘草6g。
この処方を全快するまで、毎日1服飲み続ける。
5.手法治療
(1) 法を始める。足関節から脛骨結節までを下から上におこなう。大腿上段から膝蓋上包上縁まで、上から下におこなう 法とは、両手を握って拳を作り、それぞれ大腿と下腿の筋肉組織はゴロゴロと転がすようにマッサージする対向輾圧手法を使い、凹んだところは単向 法をする。毎回3遍マッサージする。
(2)水が吸収されたら餐法を使う。つまり5本の指を少し曲げて揃え、梅花鍼のような形にし、鳥がつつくように大腿と下腿の筋肉を上から下に3~5遍叩打する。
6.健康回復治療
(1)自分で大腿四頭筋を収縮させる訓練をおこなう。治療する前は屈伸運動をしてはならない。ふつう30~50日で治癒する。
(2)自分で、足をまっすぐに伸ばして持ち上げる訓練をする。
(3)半年内は運動量の大きいスポーツや仕事をしてはいけない。
注意事項
無菌操作をおこない、関節腔内が感染しないようにする。
第十四章 骨折の変形癒合

骨折して変形癒合していても、症状がなければ治療の必要はないが、肢体の痺れや機能障害のあるものは治療の必要があり、まず軟部組織から治療する。大部分の患者は軟部組織を損傷したあと適切な治療をしないために症状が起こったものだが、一部には変形癒合した骨組織のために症状が起きている。それに対しては骨折による変形癒合を矯正しなければどうしようもない。
一般には切開手術をおこない、変形癒合した部分を切断してから正しい位置に戻す。中医では骨幹の骨折変形癒合に対して、三角木を癒合部分に当てて折り、正しい位置に戻していた。これらの原理に基づいて大型の小鍼刀を鑿として使い、変形癒合した部分を切開せずに数ケ所ほど孔を穿け、手法を使って軽く切断する。こうすれば切開手術の苦痛はなく、正常部分を切断することも避けられ、必要な部分を正確に折ることができて、骨を折った部分の周辺組織にも損傷を与えることなく、形態学的な完全性を損なうことなく、切断された骨の修復と癒合にも有利である。
小鍼刀はこうした疾患の治療において、非観血的切断に伴う問題点を解決し、軟部組織の緊張を解すことができる。そうした処置をおこない、そのうえで正確な手法で整復して固定すればよい。

三十九、中手骨の変形癒合

概説
中手骨の変形癒合は、機能障害や筋肉の萎縮、痛みや痺れを起こすが、軟部組織を治療しても治癒しないものが小鍼刀接骨の適応症となる。
中手骨の変形癒合は、さまざまな症状を作り出すが、変形癒合の違いによって症状も異なる。
1.掌側に15度以上折れ曲がっているものは(第2~5中手骨)拳を握れず、掌側が痛むものが多い。第1中手骨ならば親指の掌屈が制限される。
2.手背に15度以上折れ曲がっているものは、手をまっすぐ伸ばせず、半分握っているように変形する。
3.切断部分が重なり合って二重変形となったものは、中手骨が短くなって手を握れず、指を対立することができず、中手骨頭が手背側に陥凹する。また二重変形は近位尺側変位と近位橈側変位に分けられるが、それは中手骨での切断部位の違いと骨折の形状の違いによって決定される。二重変形した遠位の変位方向と近位の変位方向は、相反する(94図)。
4.回転変形癒合は極めて少ない。
局部解剖
第3中手骨を例にとると、中手骨の掌側面には指屈筋腱があり、手背には指伸筋腱があって、両側には骨間筋と神経、血管がある。中手骨の骨幹が骨折すると屈筋や骨間筋の作用により、多くは手背側に曲がる。














第2、第3中手骨変形癒合のX線写真 小鍼刀非観血的切断をしたあとのX線写真
94図
病因と病理
中手骨の変形癒合により、癒合する過程で血腫による器質化が軟部組織空隙の占有と癒着を引き起こし、周囲の軟部組織を圧迫したり牽引するため、いろいろな軟部組織の機能障害が発生する。圧迫されたり引っ張られた筋腱によって屈伸が制限され、また圧迫されたり引っ張られた筋肉の拘縮器質化により、血管を圧迫したり引っ張ったりし、血液供給障害が発生する。神経が圧迫されたり引っ張られれば、痛み、痺れ、知覚障害が起きる。中手骨が変形癒合したもののうち少数には、中手骨が短くなって手掌全体の完全構造が壊される。隣り合う骨関節力学も変化して、手掌の運動機能が障害される。
症状
手を開いたり握ったりする機能が障害され、外観でも手掌部に陥凹や隆起、短縮や硬直などの変形がある。
手のさまざまな部分に筋肉萎縮や関節の硬直、指の皮膚温低下や拘縮、頑固な痺れなどがある。
診断と治療の指標
中手骨を骨折して3カ月以上になるもの。
X線写真:癒合部分が折れ曲がったり、変位や二重変形があり、仮骨ができて包み込んでいたり、骨小柱が元の骨折線を通っている。
骨折部分が固定していて、偽関節になっていない。
筋肉の拘縮、痛みや痺れ、関節の硬直があって、屈伸障害のあるもの。
治療
患側腕神経叢のブロック麻酔をする。
常規どおり消毒と滅菌をする。
患者を手術ベッドに仰向けに寝かせ、患側の上肢を80度角に外転させ、手掌面を下に向け、手は治療ベッドに置く。
X線写真および触診に基づき、骨折した断面上に刺入するが、Ⅱ号小鍼刀の刃と中手骨の縦軸は平行、鍼体を手掌面と垂直にして、皮下に刺入したら骨面まで到達させる。
骨面に達したら、刃を切断面の中央で(角形成変形)、あるいは仮骨に包まれている骨端の間で90度回し、元の骨折線と刃が重なるように合わせ(角形成変形)、あるいは隣り合う両切断面の縫合線と刃が重なるように合わせる(二重変形)。
鍼体と手掌面が垂直かわずかに斜めになるようにする(骨折の変形状態によって定める)。つねに刃を切断する平面内に置く。
手術用の金槌で、小鍼刀の鍼柄を叩く。刃が骨の反対側表面に達したら、Ⅱ号小鍼刀を刺入点の骨平面まで後退させ、今度は切断する平面と45度の角度になるように鍼体の方向を変え、再び鍼柄を金槌で叩く。刃が反対側の骨表面まで到達したら、再び小鍼を骨の刺入点まで引き戻す。これと反対側方向に45度の角度に鍼体を傾け、また穿刺する。こうして1つの刺入点から合谷刺のように3つの方向に穿刺する。つまり骨の内部にはニワトリの足先のように45度ずつ分かれて3つのトンネルが掘られているので、手で簡単に折れる。そのためちょうど変形癒合した骨折部分を切断できる(29図参照)。
手法によって変形を矯正する。そのとき軟部組織に引っ張られて変形の整復が難しいものは、状況に応じて 号小鍼刀を使って少量の軟部組織を剥離したり切断し、不要な力が加わらないように緩めてから整復すればよい。
整復したあとの固定には2つの方法がある。1つはあらかじめ整形副木を手掌と手背に当てがい、切断した中手骨を軽く拳を握った状態にして包帯を巻く。もう1つは固定金具で固定する方法である。
ふつう60日ぐらいで固定器具をはずし、手を屈伸させてリハビリをおこなう。治療で抗炎症薬や漢方薬を補助として使ってもよい。
注意事項
中手骨の変形癒合は、以前では固まってしまったものは治らないとされてきた。それは手掌部が腱鞘や腱膜で被われていることや、神経や血管が緻密に分布しているため、手術して骨を切って、再度の整復をやり直すことを専門家が勧めなかったからである。手術しても機能回復は見込めず、筋肉や靭帯、腱鞘や腱膜の瘢痕癒着がさらにひどくなり、機能がもっと悪くなる恐れがあり、慎重に手術しなければ神経を切ってしまい、指が完全に機能しなくなってしまうと考えられていた。
小鍼刀治療の刺入点は手掌背側で、刃は中手骨の縦軸と平行に刺入するので、絶対に安全である。
症例
平××、男、40歳:南京鉄道局 東機務段幹部。1978年7月に、公務によって右手の第3と第4中手骨を骨折し、治療したが変形癒合した。第3中手骨の近位は尺側に50度変位して、遠位は二重変形となる。第4中手骨の近位は橈側に15度変位して、遠位は二重変形となる。右手で握ったりつまむことはできず、ベルトがはめられず、ボタンもはめられないので、日常生活に支障をきたしている。数年来つねに様々な治療をして症状が改善されるよう期待したが、どれも効果がなかった。1982年9月18日に小鍼刀を使って非観血的截骨と軟部組織弛緩治療をし、整形アルミ板で固定して59日目に取り、順序どおり手の屈伸リハビリをおこなう。90日目のX線検査で、骨折部分は全部すでに新しく癒合しており、第3中手骨の近位は5度ほど尺側に変位しているものの、二重変形は矯正され、第4中手骨の橈側変位と二重
変形はすべて矯正されて治っていた(95
図)。半年後に再調査すると、とうに職場
復帰しており、右手でどんなことでもおこ
なえ、機能も正常で、現場では笛を吹いて
見せてくれた。患者は組立て工をしており、
ロープを使って25kgの重量物を釣り下
げ、右手にロープの端を握って続けて十数
回引き上げて見せてくれた。






95図 新しく整復癒合したあとのX線写真

四十、上腕骨幹の変形癒合
概説
上腕骨幹の骨折変形癒合は少なくない。ほとんどは、対位不良と角形成変形で、二重変形は少ない。骨折の近位は尺側か橈側に向かって変位しているが、骨折部分の違いによって異なる。側方変位が小さな角形成変形癒合では、青少年ならば骨の再構築によって日が経つうちに矯正されるが、これも対位が最小でも1/2以上あって可能であり、1/3以下ならば再構築されても矯正されることは難しく、1/4や1/5では不可能である。そして成人でも中高年になると再構築の能力が極めて悪く、ほとんど自然に治ることはないので、治療によって矯正しなければならない。
小鍼刀治療は上腕骨幹骨折の変形癒合に作用し、非観血的切断と軟部組織の弛緩といった問題を解決するだけであるが、その一点が骨折の再癒合と機能回復にとって大変重要である。
局部解剖
上腕骨は上肢の骨でも、もっとも太くて長い管状骨である。前外側で上腕骨中部の上部外側および大結節稜の遠端には三角筋が付着している。また同一水平面上の内側には烏口腕筋が付着している。上腕骨後面である三角筋粗面後方には、内上斜めから外下に向かう橈骨神経溝がある。上腕骨幹には、前に述べた2つの筋肉が付着するところと橈骨神経溝が隆起したり凹んだりしている以外は滑らかで、筋肉が広範囲に付着している。前のは上腕二頭筋で、後ろのは上腕三頭筋である。
尺骨神経と正中神経、橈骨神経は、上腕動脈とともに尺側上腕二頭筋溝を行き、続いて尺骨神経は後ろに回って、肘頭と上腕骨の上顆間を通って前腕に至る。橈骨神経は橈骨神経溝内を通って、上腕骨の下1/3のところから上腕骨の後方に行き、上腕骨外側上顆の上方で、外側の筋間中隔を貫いて腕橈骨筋と上腕筋の間に至る。
病因と病理
上腕骨幹骨折の変形癒合は、治療しなかったり固定が不適当なため発生する。適切な固定がされていなければ、たとえきちんと整復されていたも再びズレてしまい、ズレたときにすぐ戻しておかないために骨折面周囲の血腫が急速に器質化し、変形したまま固定される。日が経つうちに仮骨ができて変形したまま永久的に固定されてしまう。変形癒合した上腕骨の上下段は、もともとの正常な解剖位置から離脱しているため、それに付着する筋肉や靭帯、腱膜が牽引されたり圧迫を受けて屈曲拘縮したり、周囲の神経や血管も引っ張られて慢性損傷が起こったり、圧迫されて折れ曲がり、塞がれたりする。また上腕骨の変形癒合によって上腕骨の力学線が変化し、両端にある肩関節と肘関節の位置関係が変化して、いろいろな複雑な症状を引き起こす(10図を参照)。
症状
上腕部に局部的疼痛や痺れがあり、前腕の筋肉が萎縮したり痺れ、局部の皮膚温が低下したり、上肢が無力になったり、肘関節の痛み、肩や肘関節を動かしたときに弾発音がする。上肢は完全に伸ばせないことが多い。
診断と治療する指標
1.上腕骨幹を骨折して3カ月以上になる。
2.骨折部分に偽関節がなく、上腕骨を縦軸から叩いても叩打痛がない。
3.X線写真:骨折部分に仮骨ができており、2つの切断面が側方変位(対位が1/2以下)と角形成変形がある。
4.症状があって、軟部組織に対して治療しても効果のなかったもの。
治療
1.腕神経叢をブロック麻酔する。
2.患者を仰向けにベッドに寝かせ、患側の上肢を45度に外転させて治療台の上に置き、手掌面を上に向ける。
3.消毒して滅菌し、穴のあいた布を被せる。
4.Ⅲ号小鍼刀を変形癒合のある皮膚に当てる。刃を上腕二頭筋線維の走向と平行に当て、鍼体は治療ケ所の骨面と垂直にして、四歩規程によって刺入する。
5.刃が骨面に当ったら、小鍼刀を90度回転させて刃が癒合線と重なるようにし、金槌で軽く鍼柄を叩く。刃が反対側の骨表面に達したら、小鍼刀を引き上げて刃を元の骨面に戻し、今度は鍼体を30度に倒して鍼柄を金槌で叩く。再び反対側の骨表面まで刃が達したら、小鍼刀を刺入した骨面まで引き上げ、反対側に鍼体を30度に倒して鍼柄を金槌で叩く。こうして真ん中、両側と30度の角度で、それぞれ3本のトンネルができたら抜鍼する。そして手法を使って軽く折るが、もし折れなかったら再びⅢ号小鍼刀を仮骨の部分に当て、別な場所から30度の角度で、それぞれ3つのトンネルを作る。こうして癒合面に全部で6つのトンネルを穿けたら、手法を使って簡単に切断できる。
6.さらにⅠ号小鍼刀を使って、仮骨周囲の軟部組織を弛緩させる。
7.手法を使って整復する。
8.固定する。上腕骨幹の骨折が側方変位しているため、骨幹がわずかに回転転位している。外固定器を使って調節し、上腕骨幹を正常な力学状態に固定し、両端のナットをきつく締めて切断面をきっちり合わせる。患者には毎日、手をニギニギさせる訓練をする。
9.70日したら外固定器をはずし、順序どおりリハビリをおこなう。
注意事項
上腕骨幹に非観血的截骨術をおこなうとき、刺入時に重要に神経や血管を避けるように注意する。橈骨神経溝では特に注意を払わなければならない。四歩規程で刺入し、刃先が骨面に当ったら、どんなときでも刃先を骨面にぴったりくっつけて動かさなければならない。刃先が反対側の骨表面に達したら、それ以上刺入してはならない。刺入すると反対側の神経や血管を損傷する。
症例
方××、男、48歳:沐陽銭集郷 建築管理局左官。1979年に施工して転び、右上腕骨幹の中段を骨折した。地方の医者が治療して変形癒合となり、近位は外旋して橈側に転位し、遠位はない旋して尺側に転位している。周囲は仮骨で被われて機能障害を起こし、右上肢は痛くて痺れ、仕事ができない。1982年3月15日に小鍼刀截骨術を受け、整復しなおして外固定器で固定した。66日後に固定をはずし、リハビリを続けた。2年後に再調査すると、治ってから3カ月後に新たに出勤し、日常は何の不快感もないが、長雨が続くと折れたところに怠さを感じるが、仕事には影響ないという。現在に至るまでずーっと正常に出勤している。
下篇 付けたし

小鍼刀療法は新しい方法である。物事は常に前進し、絶えず発展する。だから小鍼刀療法も、ここで述べた水準で留まるはずがない。
思考を打破するため、次の2つの章で筆者の見解にもとづいて、小鍼刀療法の未来を話してみる。

第十五章 小鍼刀の治療学上の適用価値

読者によっては小鍼刀などはメスと鍼を結合させた小さな道具に過ぎず、大きなことができるはずもなく、現実には使い物にならないと思っておられるかもしれない。数千年にわたって使われてきた刺鍼療法の鍼だって小さな鍼に過ぎず、現代の治療機器と比べても取るに足らない小さな器具に過ぎないが、その刺鍼療法の効果は何人と言えども認めざるを得ない。小鍼刀は刺鍼治療で使われている毫鍼の尖端に小さな刃を付け加えただけのものだが、それによって刺鍼療法に新たな治療領域が開け、数千年に及ぶ刺鍼療法と現代科学に基づいた手術療法が一体化し、一部の疾病に統一された治療ができるようになった。中西医合作というのなら、これが本当の合作と言えよう。我々の輪唱経験によると、小鍼刀は、そのユニークな特徴のほか、刺鍼と同じ作用があり、陰陽を調節して、痙攣を鎮めて痛みを止める。研究期間が少ないため、こうした分野は深く研究されていない。
現在は小鍼刀療法の非観血的治療内容に対し、つまり適応症の範囲についての研究は、遥かに不足している。本文では慢性軟部組織損傷と骨折の変形癒合分野での小鍼刀治療を紹介しているに過ぎない。小鍼刀の応用範囲は、こんなものではない(十六章参照)。ただそうした分野で、すでに示されたユニークな優越性を述べているだけである。その特長をはっきりさせるため、次にそれぞれを解説する。

一、速効性がある。
小鍼刀療法は、ある種の慢性軟部組織損傷疾患に対して、どうしてたちどころに効果が現れるのか?それは現代科学の知識を方法を借りて、疾病の根源を明らかにし、病変部位を捜すからである。切開手術のようにじかに見ることはできないが、人体の解剖構造を熟知していれば、小鍼刀操作における抵抗状態によって病変状況が手に取るように分かる。小鍼刀療法で即効があるといっても、それは現代科学の知識に助けられ、間違いなく病変部位に施術して病因を消滅させるからで、目標性が強い。

二、方法が簡単である。
方法が簡単なことには2つの面がある。1つには器具が簡単なこと。たった1本の小鍼刀だけ使うので、刺鍼治療と同じで複雑な設備がいらない。次に治療方法が簡単で、診断は明確、複雑な操作は必要ない。慢性軟部組織損傷と骨折の変形癒合について見ても、たった8つの方法があるだけである。疾患に適した方法を1~2つ選び、操作時間は2分以内。ただ1点だけはっきりさせる必要がある。それは方法は簡単だが、逆に術者には多方面にわたる知識が求められることだ。それぞれの疾患について必要な知識は本文中に述べてある。

三、苦痛が少なくて経済的。
小鍼刀療法と刺鍼療法は、ほとんど同じである。正確に位置を定め、すばやく切皮し、刺入したら病巣に施術する。健康な組織は、ほとんど傷付けない。病巣部分は知覚が鈍くなっていることが多いので、小鍼刀治療の刺激は刺鍼による強刺激よりも耐えやすい。だから怠さや腫れぼったさ、力が抜けるような感じがあっても患者は自由に談笑でき、激しく耐え難い痛みはない。
安いという意味ははっきりしている。治療時間が極めて短く、油や電気を消費することもなく、複雑な機械も使わず、使う薬物は極端に少ない。すこしもお金が掛かるところはない。

四、複雑な症状を簡単に治す。
過去には長い治療期間が必要で、何種類もの薬物を併用したり、高名な外科医でなければ手術できなかったような疾病が、小鍼刀によって簡単に緩められ、剥離させたり削ったりできるようになり、1~2分で問題を解決できるようになった。

五、不治の病が治るようになった。
不治の病を深く研究してみると、その中にいろいろな問題点が存在していた。その主な問題点を捜しだし、それを解決できるような方法を見つけ出すことによって、不治の病が治せるようになった。
小鍼刀は、いくつかの不治の病を治る病へと変えてきたが、それができる理由をまとめると次の2つとなる。
1.おもな問題点を把握して、疾病を引き起こす根本的な病理と病因を研究した。
2.その問題を解決できる適切な方法を使った。

六、小鍼刀は普遍性があり、ほとんどの閉鎖性手術と刺鍼療法に適応できる。
小鍼刀の設計原理は第八章に詳しく述べた。その普遍性は、硬度と弾力性を兼ね備え、鍼体が円柱形で刃には方向があり、細いけれど回したり、刺したり、弾いたり、押したり引っ張ったりできることによってもたらされる。ここで言っておくべきことは、その刃渡りは円柱形である鍼体の直径よりも短く、刃渡りは0.8mmだが、鍼体の直径は1号鍼で1mmである。
こうした構造は非観血的施術をするうえで、より深く刺入でき、また鍼体の両側にある神経や血管、そのほかの健康な軟部組織を傷付けない。そのために様々な切開や剥離、削り取り操作ができる。もし刃渡りが鍼体直径より長かったり同じ長さだったりすれば、このようなことはできない。この鍼の両側に刃を付けたり、三 鍼のように3方向に刃を付けたらどうかと提案した人がある。こうした提案は好意によるものではあるが、熟慮を欠いたものと言わざるを得ない。両側や3辺に刃を付ければ、刺入するうえで健全な組織を傷付けたり危険性が増すだけで、有効性はまったく向上しない。
私の十数年におよぶ臨床治療と、全中国の数千名にわたる医療関係者の応用により、非観血的療法の比較的理想的な小型器具であることが実証された。もちろん小鍼刀は改良の余地はないと言っているのではなく、順調な施術ができるように、また無益な損傷や面倒が最小限に抑えられるような方向に改良されるべきで、豊富な臨床経験を蓄積したうえでおこなわれなければならないことは、次の十六章でも述べる。
小鍼刀は刺鍼療法においても優れた効果がある。それはメスのようでメスでなく、鍼である。刃の幅が直径より短い、つまり尖端が細くなっているから毫鍼と同じように穴位に刺入できる。そしてメスとしての作用も発揮できるので、穴位を剥離したり切開すれば経気はただちに通り、経気の鬱結が解消される。穴位に対する刺激も大きいが、治療時間は極めて少なく、患者は耐えることができ、問題はすぐに解決する。
小鍼刀の特殊構造によって普遍性がもたらされ、多くの閉鎖性手術や刺鍼治療に適応できる。
第十六章 小鍼刀療法の更なる研究と進歩

本章で述べる内容は、すべて筆者が小鍼刀療法を応用できると考える分野である。これは作者が相当考えて結論付けた、かなり現実的な可能性である。科学上に打破されてきた多くの重大な出来事は、すべて客観的事実と一致するロジックにより推理され、できあがっている。まず仮説を打ち立て、仮説の方法に沿って大胆な実験をし、初めて成功する。弁証唯物主義はロジックと一致する仮説であり、また科学研究に欠かすことのできない内容である。また臨床治療によって有効性が証明された小鍼刀療法は、5~6年にわたって広く使われており、中国全土の多くの医療関係者と専門家の努力の下に、たくさんの仮説を現実のものとし、びっくりするような成功を収めている。
我々は次のような分野にも小鍼刀が応用できると考えているが、そうした分野については時間や条件の制約があって、筆者はまだ深く研究していない。いくつかの着想をみなさんと一緒に検討してみたいと思う。

一、整形外科
現在で小鍼刀治療を使っている疾患のいくつかには、整形外科の手術基準がある。小鍼刀は整形外科の分野で、もっと使うことができないだろうか?可能性はとても高いと思う。たとえば正中神経と尺骨神経の分枝の切断手術などなど、現在でも小鍼刀を使って治療でき、また整形外科の手術に伴う苦痛を避けることができる。いろいろな軟部組織や骨の弛緩術、形成術、切除術、融合術、移植術、関節形成術、固定術、筋膜剥離術、短縮術、伸長術などの分野で、いくつかは小鍼刀だけで解決でき、またあるものは小鍼刀と手術を併用しなければならないかもしれないが、それぞれの問題を解決することで、手術による創傷面積を大幅に縮小でき、苦痛を少なめて速く回復させることができると考える。私は、そうした分野で具体的な研究が真面目におこなわれるならば、実現できることと思っている。整形外科の専門の方々が私達とともに、そうした分野で研究され、人々の苦痛を減少させるように一緒に奮闘努力していただくことを希望します。

二、刺鍼療法
小鍼刀の治療原理の中でも述べたことだが、小鍼刀とは刺鍼療法を変革して進化させたものである。小鍼刀には痙攣を鎮めて痛みを止め、陰陽を調整する作用がある。この2つの作用は、我々が臨床治療の中でも体験している。ある部分の筋肉を剥離すると、思いがけず別の疾患も治癒する。たとえば前脛骨筋と脛骨の癒着した部分を剥離すると、患者の持病だった慢性で難治性の嘔吐が治ってしまう。また腓腹筋と腓骨の癒着を剥離すると、患者を十数年悩ませていた慢性腸炎が思い掛けず治ってしまう。またあるものは剥離すると風邪による心窩部の痛みまで治ってしまう。小鍼刀療法は体表筋肉に対して鎮痙止痛の作用があるばかりでなく、内臓に対しても鎮痙止痛の作用を及ぼす。
そうしたことから小鍼刀療法が刺鍼療法として使えるというのは、根拠のないことではない。小鍼刀と鍼灸理論を組み合わせれば、以前に刺鍼だけでは治癒しなかった疾病でも治療できるようになる。

小鍼刀で癒着を剥離すると、いくつかの内科疾患が治癒するという事実は、神経の反応系統の作用を表している。そのため小鍼刀を刺鍼分野に使えば、中医の経絡学説と現代医学の神経反応系統を有機的に結び付け、中西結合の刺鍼理論が生まれるであろうし、それは刺鍼の臨床応用の価値を大きく高めることになる。そこで志のある鍼灸家先生がたが一緒に共同研究され、すみやかに成果を上げられることを希望する。

三、小鍼刀療法の中国での五年間の発展
小鍼刀療法は1987年に全中国へ推奨されてから、現在までで5年経過しており、学習に参加した各科の医療関係者は1127人になる。その間に各科専門の治療家達は、小鍼刀療法の基礎理論をそれぞれの科で応用し、驚くような成功を収めた。例えば皮膚科疾患、内科疾患、婦人科疾患、外科疾患、三叉神経痛、片頭痛、魚の目、小児の斜頚、関節内骨折などの治療において、大きな成功を収めた。詳しい状況は、本書付録の資料部分に参考として載せてある。
短い数年間であったが、小鍼刀療法は整骨分野だけでなく、ほかの医学分野の応用に対しても、大きな展望が開けている。私は本書を出版した後、小鍼刀療法がほかの医学分野でも専門書となって使われ、次々としっゅぱんされることを信じている。

四、小鍼刀の異なったモデル
現在に使われている小鍼刀には3種類の小鍼刀がある。その応用分野が拡大されるに伴って、さらに種類を増やさなければならない。
小鍼刀療法の基本原理に基づき、これを異なる分野に応用するためには、各分野の特色に基づいて小鍼刀の形式を変えなくてはならない。小鍼刀は刺鍼や整形外科分野で応用できるだけでなく、ほかの多くの医療分野にも応用できる可能性があるが、それは更なる検討が待たれる問題である。そうした分野に進出すれば、それにあった形式の小鍼刀が作られ、治療に使われることであろう。


1979年 初稿
1986年 南京にて第2稿
1991年春 金陵中医骨傷科医院にて第3稿

付録

付録1
全国第2回小鍼刀学術交流会上での中国中医研究院骨傷所事務室主任副研究員、董福慧博士の小鍼刀療法に関する全国普及状況の報告

小鍼刀療法の普及状況に関する報告
代表の皆様、専門の皆様、政府首脳の皆様:
小鍼刀療法が世に出て16年になります。正式に中国全土に普及が推し進められて5年もの時間が経過し、中国全土と国際世界に大きな影響を与えています。
小鍼刀療法は、最初の形成、大量の臨床研究、理論の深化と中国全土への推奨という4つの段階を経過しています。
小鍼刀療法は、中医の整体観と西洋医学の解剖、そして生物力学を基礎にして誕生しました。既存の治療法では根治できなかった多くの慢性軟部組織の疾患に対し、いろいろな学説が誕生しましたが、どれもその病理現象を完全に説明することはできませんでした。朱漢章医師は小鍼刀を製作し、癒着の治療に用いて始めての成功を収め、そのなかに存在する法則を見つけ出しました。仮に朱漢章医師に中医の整体観と弁証思想がなく、そして地道な解剖の基礎知識がなければ、こうした試みはおこなわれることはなく、また既製概念を打破して最終的に新しい理論体系へと拡大できることはなかったでしょう。彼は自作した小鍼刀を絶えず改良し、臨床治療に使って理論においても研究と探求を深め、それによって皆さんが知っている小鍼刀療法が誕生しました。小鍼刀療法の誕生は、新しい診断と治療思想が誕生したと言ってもいいでしょう。
朱漢章医師は、小鍼刀療法を使って多くの慢性軟部組織損傷患者を治療し、確実な効果を上げ、特にテニス肘、肩関節周囲炎、第3腰椎横突起症候群などで目覚ましい成果を上げました。数々の症例を治療するうち、筋膜や腱膜など軟部組織の癒着がもっとも重要な病因であることを朱漢章医師は発見しました。こうした疾病を生体の動態を観察することによって、動態平衡理論(動態バランス理論)を考え出しました。それは軟部組織が一定の運動範囲を動くとき、癒着があれば本来の運動範囲が制限され、周囲の軟部組織を引っ張って症状が起こるというもので、こうした状態を動態平衡の失調と名付けました。こうした生体に対する全面的な観察によって、慢性軟部組織損傷疾患の根本的病理メカニズムが明確にされました。そして基本的に健全な組織を傷付けない小鍼刀によって、癒着部分を特定の操作によって切り離し、それを病因が治療された基準として考え、多くの疾病が根治しました。
動態と静態のバランスを考えた見解により、骨棘と骨増殖性関節炎の発生メカニズムを生物力学の面から説明できるようになりました。力学的分野から治療をおこない、小鍼刀やほかの方法を併用してバランスを調整し、以前には考えられなかったような効果を収めました。骨棘や膝蓋骨軟化などの治療においても、その理論が正しかったことが証明されました。その論文は中国生物力学大会でも注目され、慢性軟部組織損傷治療に対する朱漢章医師の小鍼刀療法は、国際社会においてもユーレカ賞とジュンカン勲章個人賞を授賞して、世界の医療関係者の賞賛を受けました。
理論的も徐々に成熟して多くの患者が治療され、さらに中国全土から世界に向かって普及させなければなりません。そのため朱漢章医師は、中国に13期小鍼刀療法学習クラスを開設し、この新しい理論と新技術を無償で提供しようとしました。13期学習クラスにおいて、直接1,127名を養成しましたが、その中で副主任医師以上は301名、主任医師は394名、医師および他の職業のものは419名でした。その参加者は台湾省とチベットを除き、29の省市と自治区に渡ります。4年あまりで彼の受講生のところに来た患者は92万人以上になり、何をしても治らなかった多くの難治疾患が小鍼刀によって不思議なほど治癒し、かなりの受講生が故郷で名医とされています。小鍼刀療法による慢性軟部組織損傷疾患に対する治癒率は81%に達し、好転率17%、有効率は98%にも達します。ただし貴州省の労改局病院が1990年8月に貴州省衛生庁に向けてまとめた報告書では、小鍼刀療法を使った患者は16,120名で、治癒率は73.2%、好転率25%、有効率は98.2%でした。中国全土の受講生が優れた効果を上げたため、各地の新聞は小鍼刀療法の効果について多くの報道をおこない、省や市が全国ネットの刊行物を使って報道したものは292篇、テレビ放映46回、その見出しは「神刀、水を得た鯉」「小鍼刀が小さな医院で発揮した偉大な効果」「いま科学は認識された」というものです。そうしたことから小鍼刀療法は中国全土の人民の健康に、際立った貢献をしていることが見て取れます。
小鍼刀療法は慢性軟部組織損傷や骨棘などの疾病に限らず、頚椎症(ムチウチ症や頚肩腕症候群)、腰椎疾患、片頭痛など多くの疾患の病因や病理にも新しい考えを生み出しました。何万例もの臨床例で、卓越した治療効果を上げています。
小鍼刀療法は非観血的治療の一つです。外科の発達史上、手術治療ができるようになったのは医療革命の一つですが、切開手術からほとんど損傷を与えない非観血的治療が生まれたことも、また医療革命の一つと言えます。小鍼刀療法という非観血的治療は、多くの患者で腹を切り開かれる苦痛から解放し、また病苦も取り除いて、非観血的治療に喜ばしい展望を開きました。小鍼刀療法の発展と成熟には、各分野の専門家や多くの医療従事者が一緒になって努力することと絶え間ない探求が必要で、さらに多くの人材や物力を投入することが必要です。我々は社会の各界の皆様に、この事業に関心と支持を訴えたいと思います。
今日の小鍼刀療法学術交流大会は沈陽で開催し、450篇の論文が発表され、3百名あまりの代表が参加されました。中国の著名な中医骨傷科の専門家である尚天裕教授に「鍼刀結合新療法、伝統医術現代化」という題目を特別に書いていただきました。まさに伝統医学を現代化することによって小鍼刀療法という成果が生まれました。伝統医学の現代化は中国医学の発展にするうえで必然的な道であります。小鍼刀療法は中国人に民族としての自信を取り戻させ、我々のたゆまぬ努力と研賛によって、世界の人類に貢献することになるでしょう。

中国小鍼刀療法専業委員会付き理事長 董福慧
付録2

貴州省労改局病院が貴州省衛生庁に当てた小鍼刀治療の状況報告

省労改局病院の『小鍼刀療法』医療に関する状況報告

省衛生庁殿
我々の労改局センター病院は1984年に市郊外から貴陽市太慈橋鳳凰路に移転しました。病院全体で258名が勤務しており、その中で衛生技術員は192名、高級技術員は13名、中級技術員は60名で、医療業務は内科、外科、産婦人科、小児科、中医科、眼科、耳鼻咽喉科、口腔科、新鍼皮膚科、職業病科、会計科があり、外来部と入院部があって200床のベッドがあります。
1990年、わが院では小鍼刀療法を正式に掲げ、各種軟部組織損傷および各種骨増殖疾患を治療したところ効果が非常に優れ、患者にも好評を博しています。患者から3枚のペナントが送られ、礼状は17通、治療を受けたいという遠来の患者から73通の手紙が届き、省や市のテレビ局やラジオ局の記者が何度も取材に訪れ、わが院の小鍼刀治療の状況がテレビやラジオで何回も放映されました。最近では貴州新聞画報社が再三にわたって訪れて写真報道をおこない、多くの患者の注目を集めました。小鍼刀療法の事業をさらに進めるため、我々は特に小鍼刀療法の治療状況を省衛生庁に次のように報告いたします。
1.組織構造および技術人員構造
指導者構造:指導者グループは、業務副院長1名、医務所主任1名、主治医師1名から構成され、小鍼刀症例の仕分け作業および適応症の選択をおこない、難病症例については組織で分析討論し、小鍼刀治療グループに対して業務指導をおこないます。
技術構造:小鍼刀治療グループは主治医師2名、医師2名、看護婦2名で構成されています。主治医師の田景涛は1987年に小鍼刀療法の創始者である朱漢章教授について養成され、現在までの臨床歴は3年になります。治療グループは主として外来患者と入院患者の日常治療に携わっています。
2.小鍼刀科の治療状況
小鍼刀科は30床のベッドがあり、治療は病棟治療室と外来治療室の2つに分かれています。この3年に治療した患者は万の数に上り、台湾、ホンコン、マカオなどからも患者がやってきて、また安徽省や浙江省、僻地の山区からもやってきますが、ほとんどの患者は本省および付近の省市からやってきます。患者の年齢は18~78歳、男性が少し女性より多く、頚椎と腰椎の骨増殖患者が多数を占めています。16,120例の患者を治療した結果を分析すると、治癒率は73.2%、好転25%、無効1.8%でした。16,120例患者に小鍼刀治療をした治療効果の統計を次に掲載します。
3.小鍼刀の治療効果を分析
次の表の数値を分析すると、小鍼刀療法は臨床治療の中でも優れた治療手段であり、独創的な治療法で、その治療効果は確実であることが判ります。とりわけ肩関節周囲炎(五十肩)や腱鞘炎、上腕骨上顆炎そして数々の急性や急性の腰腿痛(坐骨神経痛)、踵骨の骨棘などに優れた効果があります。はっきりした治療効果があり、長年にわたって治療してきた不治の苦痛を解決できます。しかし別の面からデータを分析すると、我々に次のような問題を提起しています。頚椎や腰椎の骨増殖患者の患者が多く、54%を占めていますが、小鍼刀治療による治癒率は59~60%しかなく、かなりの患者は難治か再発率が高い。そのため我々は頚椎と腰椎増殖疾患に対して、さらに精力を注ぎ克服しなければなりません。前段の治療で学んだ経験と教訓をもとに技術指導を強化し、技術の質を向上させ、小鍼刀療法を新しい技術段階に推し進めなければなりません。我々は省や市の各級指導部門のご指導とご援助を切望いたします。

1989~1990年までの16,120例の小鍼刀治療効果の分析表
+---+--------+------+------+-----+----+
|疾 患| 性 別 | 治 癒 | 好 転 | 無 効 | その他|
| +--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|分類 |男性|女性|総計|人数| % |人数| % |人数| % |人数| % |
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|腰椎骨増殖 |2641|2343|4984|2841| 59%|1186| 23.8%| 847| 17%|10|0.2%|
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|頚椎骨増殖 |1755|1558|3313|1987| 60%| 160| 35%| 149|4.5%|17|0.5%|
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|膝関節骨増殖|1026| 910|1936|1216| 62.8%| 600| 31%| 77| 4%|43|2.2%|
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|肩関節周囲炎|1019| 917|1936|1878| 97%| 39| 2%| 19| 1%|/| / |
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|踰骨の骨棘 | 322| 286| 608| 584| 96%| 15| 2.5%| 9|1.5%|/| / |
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|腱 鞘 炎 | 118| 106| 224| 222| 99%| 1| 0.5%| 1|0.5%|/| /|
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|上腕骨上顆炎| 137| 123| 260| 251| 96.5%| 7| 3%| 2|0.5%|/| / |
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|急慢性腰腿痛| 337| 745|1584|1582| 96.5%| 31| 2%| 10|0.5%|15| 1%|
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+
|そのほか疾患| 686| 589|1275| 405| 31.8%| 742| 58.2%| 114| 9%|14| 1%|
+---+--+--+--+--+---+--+---+--+--+-+--+

貴州省労改局センター病院
(もと省公安病院)
1990年8月5日
付録3

江蘇省衛生庁の小鍼刀療法に関する鑑定書



蘇衛鑑(84)第七号



付録4

小鍼刀療法が第37回国際ユーレカ科学技術博覧会で金賞を授賞した賞状。







朱漢章が小鍼刀療法を研究し、第37回国際ユーレカ科学技術博覧会で授賞した「ジュンカン」勲章の証書。


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