一応、素人向けのページとして、頚の横を蒸しタオルなどで温めると症状が改善することを述べておきます。

  耳鳴、難聴、眩暈の治療ですが、最近は専門の治療書も出ているようです。
 しかし内弟子も、北京堂式治療をサンザンぱら見ているのに、翳風への刺鍼で寸六を使うなど、勘違いをしている面があるので、五大疾患のほかにも特別に治療法を公開することにしました。
 五大疾患は、運動疾患なので小鍼刀理論を使い、論理的に話を進めることができるし、なぜ治癒しなかったのか検討もできますが、耳鳴や難聴は内耳疾患なので小鍼刀理論が使用できず、現代の中医鍼灸の理論によって解説するしかありません。つまり治療について説明できないので掲載しなかった面もあります。
 ただ最近では、どういうわけか北京堂に難聴治療や耳鳴り治療の予約が多くかかり、そんなに必要とされているのならば、北京堂式難聴治療の方法と、中国医学に乗っ取った説明しようかというわけです。
 まず、下の図が北京堂式の難聴治療です。

 恐いですね。恐ろしいですね。こんなに沢山、鍼が刺さっています。
 北京堂式の難聴治療は、翳風がメインのはずなのに、翳風だけでなく、頚の横にまで多くの鍼が刺さっています。
 この治療では主に低音域の難聴が改善されますが、高音域には変化がないようです。そしてヘルペスなどによるウイルス性難聴には、時間が経過すると効果がないようです。

 どうして、このような難聴治療を考えついたかですが、もともと昔、私は中国人と結婚していまして、彼女が「難聴には翳風だ」と言ってました。
 なぜ「難聴には翳風」なのか? その理由を考えてみました。
 まず現代医学では、難聴に対して星状神経節の神経ブロックをします。そうすると脳の血流が改善され、メニエル症候群が治る場合もあるそうです。
 次に五十肩をしたとき、中国のムチウチ症に関する本を見ました。椎骨動脈が衝撃で折れ曲がると、そこの血流が障害され、脳が虚血状態となるので、首を回したときに眩暈がすると書かれていました。
 ということは脳に血が流れなくなると、眩暈がする。長期で血流が悪くなれば、神経が圧迫されて興奮し、耳鳴が発生するのではないか?  それが続いて神経の働きが悪くなれば、難聴になるのではないか?  だから中医学では、昔から「耳鳴を放置すると難聴になる」と言われるのではなかろうか?
 さて、ここからが中医理論による難聴治療の根拠です。「北京堂は中医理論か!」 と、いまさら驚かれる人もあるかと思いますが、私も昔は北京中医の末席を汚していた一人です。キチンとティッシュで拭いておきましたが。どうも肛門の締まりが悪いもので、席を汚すことが多かったのです。私の汚していた席も、今は別の留学生が腰掛けていることでしょう。

 元嫁が言った「翳風は難聴に効く」。そしてムチウチ症の椎骨動脈障害。またメニエル病の星状神経節ブロック。この3つを総合して「難聴には椎骨動脈の通りを良くしてやれば、脳の血液供給が改善され、難聴が改善されることが期待できるのではないか」というアホな考えに辿り着きました。

 これを中医学的に考えてみますと「腎は耳に開竅する」といいます。そして腎は髄を管理するので、脳髄は腎と密接な繋がりがあるのです。
 つまり中医学によれば、脳を栄養すれば、その竅である耳は健康になる。
 脳の栄養を考えてみますと、まず頚動脈と椎骨動脈があります。しかし頚動脈は太い血管であり、頚の筋肉は縦に、血管も縦に走っているので、それが障害されることは、まず有り得ないでしょう。そこで椎骨動脈に目を付けます。
 ここで頚動脈に目を付ければ、人迎刺鍼とかで頚動脈を刺激し、脳血流を改善しようという発想になります。
 しかし北京堂は、前述した3つから椎骨動脈に目を付けました。それに椎骨動脈は、耳のすぐ傍らを通っているので、耳に最も血液供給をしているのではないかと思うからです。
 そして難聴患者の翳風へ刺鍼してみると、奥で硬くなっています。これだけ硬ければ、椎骨動脈が圧迫され、北京堂の「踏んづけた水道ホースからは水が流れない」理論に基づき(私が今、思いつきました)、翳風の奥で筋肉が椎骨動脈を圧迫し、耳周りの血流が悪くなるために耳鳴が始まり、さらに難聴へと進化してゆくと考えました。
 そこで最初は、翳風だけに刺鍼していました。しかし、それでは耳が聞こえるようになる人もあれば、聞こえないままの人もある。例えば2図の人。某学校の教師で、オルゴール療法とか、難聴体操のビデオとかを試して効果のなかった人。最初の3回で、耳が結構聞こえるようになったので、「もう簡単でいいだろう」と、うつ伏せで両側一度に刺鍼しました。すると「少し耳が聞こえにくくなってきたようです」とのこと。(まあ、いいだ ろう。やはり両側一度に翳風へ刺鍼できれば、一時間の治療で済むし)。そう思って、う つ伏せの治療を2回続けた。すると翌日に電話がかかってきて「また前のように耳鳴りが激しく、人の喋っていることが聞こえません」との苦情。「判りました。それでは時間がかかりますが、以前のように片側ずつの治療に切り替えます」と返事した。
 この人は、最初は何かを尋ねても返事をしてくれなかったので、かなり重症と思って片側ずつ、翳風だけではなく椎骨動脈を緩めるため、中斜角筋,前斜角筋,後斜角筋も刺鍼した(図2)。しかし片側ずつでは時間がかかるため、うつ伏せで翳風へ刺入することにした。すると横向きでは中斜角筋,前斜角筋,後斜角筋へ万遍なく刺入できていたのに、うつ伏せでは後斜角筋にしか刺入できない。それで脳血流が悪くなって、症状が復活してきたのではないかと思いました。
 やはり写真のようなスタイルに治療を戻すと、一発で効果が現れました。
 この方法は、椎骨動脈の通りを良くして、耳周囲の血液供給を増やし、耳の障害が解消されることを期待するので、神経そのものが破壊されたり、死んでしまったものには効果がありません。ですから北京堂式の治療は、もし回復する余地があれば3回ぐらいで効果が現れ始めますが、ダメな場合は全く効果がなく、変化しません。それで治らなかった場合でも、坐骨神経痛のように「MRIでもして、確認してください」のような適切なアドバイスができないのです。
 北京堂式の難聴治療は、大きな音を聞いたために難聴になったとか、徐々に難聴になったとか、老人性の難聴には効果があります。しかし鼓膜が破れたり、キヌ骨やツチ骨の損傷など伝導系の難聴、そしてヘルペスウイルスによって神経が破壊された難聴には、あまり効果がありません。それに何十年も難聴が続いている場合も、元に戻らなくなっているケースがあり、治療しても治らなかったりします。
 それと内弟子が勘違いしていましたが、翳風へは2寸の鍼を刺入することです。なぜなら2寸ぐらいの鍼でないと、椎骨動脈周辺まで刺入できないからです。椎骨動脈の周囲を緩めるために脳血流が改善されるのであり、そこまで達しない鍼では椎骨動脈の圧迫が除けず、効果がありません。
 これは内弟子が「ほんとうに翳風で、難聴が治るのですか?」と聞いてきたことから判ったのです。写真を見ていると、私が何寸の鍼を翳風へ刺入しているのか判りません。彼は、ただ翳風へ刺入しさえすれば難聴が改善されるのだと思い、実際に試してみたけど効果がありませんでした。それは寸六の鍼を刺入したために椎骨動脈の周辺まで到達せず、脳血流が改善されなかったため難聴の治療効果がなかったのです。椎骨動脈の圧迫を除いて脳血流を改善するという中医理論を知らなかったため、浅すぎる鍼をしたから治らなかったのです。
 彼が「腎は耳に開竅する」とか「腎は髄を養う」、「通じれば痛まず」という中医原則を知っていれば、ただ翳風へ刺鍼するだけでなく、「これは椎骨動脈の血流を改善することで、脳髄を栄養しているのだな」ということに思い至り、寸六の鍼では到達しないことに気付いたと思います。
 図では、翳風や斜角筋などの椎骨動脈周囲だけでなく、後頚部にも刺入されています。中医学的に言えば、「腎と膀胱は表裏」であり、「陰病は陽を行き、陽病は陰を行く」という原則があります。つまり陰臓である腎の病は、陽腑である膀胱経で治療する。そして頚の横は、手足の少陽が通る経絡ですが、少陽経は耳に入っています。
 これを現代中医的に解説しますと、確かに頚の横についている斜角筋群は椎骨動脈を直接圧迫しているのだが、その斜角筋群を制御している神経は頚から出ているのであり、後頚部の筋肉の中を通過している。だから斜角筋だけ緩めて後頚部を治療しなければ、後頚部の筋肉に神経が圧迫され、緩んでいた斜角筋も硬くなってしまう。だから斜角筋群だけでなく後頚部の筋肉にも刺鍼していますが、それを中医学では「表裏」と簡単な言葉でまとめています。
 こうした解説により、北京堂式治療は、中医学的な治療であることが、ご理解いただけたでしょうか?
 ただ治療を見ただけでは、この内弟子のように意味がありません。しかし「椎骨動脈を緩めて脳血流を改善する」という原則を知っていれば、鍼尖が何に達していなければならないか判るので、治療を見てもマネができるのです。
 ただし、この治療は危険が伴います。だから初心者はマネしてはいけません。北京堂式治療ではなく、ほかの方法で耳鳴や難聴を治療してください。
 それは翳風の下には椎骨動脈が通っており、それを鍼で傷付ければ動脈に傷が付き、そこから血栓が発達して、それが切れて脳に詰まり、脳梗塞を起こす可能性があるからです。それだけではなく、太い鍼を使って乱暴に刺入すれば、方向によっては脳へ入る可能性すらあります。そうした危険を避けるには、鍼尖で動脈を見分ける感覚が必要です。自分の鍼尖が触れているのは、脳硬膜なのか、それとも椎骨動脈なのか判断できなければなりません。もし両者ならば、それ以上は刺入できません。方向を変えるとかしなければ危険です。これは硬さで判断します。判断できない人は、やってはなりません。それと翳風の深部には顔面神経が通っていますし、その奥には三叉神経が出るので、刺鍼すると顔が痺れることがあります。
 北京堂式難聴治療は、脳硬膜を刺激する治療法でもなければ、椎骨動脈から瀉血する治療法でもないからです。ただ椎骨動脈の周囲を緩めるだけです。だから脳硬膜にも椎骨動脈にも刺入しません。付近に入れるだけなのです。そうしたことには動脈や硬膜を破らない力加減、そして危険なものに当たったら鍼尖を移動させる手段、何に当たっているか判断する能力などが必要で、それを自分だけで独学することは難しいかもしれません。
 もっとも、そういう能力が備わっている人ならば、いまさら北京堂が難聴治療を公開するまでもなく、自分で治療法を開発しているでしょうけれど。
 ですから本治療には経験が必要となるので、鍼灸師の卵や学生は真似てはいけません。
 じゃあ「真似られない治療法を公開して、おまえは何をやっとるんじゃ」と言われるかもしれませんが、本治療を実践している北京堂系列の鍼灸師さんへ、その中医理論的な根拠、北京堂の難聴治療は、なぜこんな治療なのかなど、詳しいことを教えるために公開したものです。それに最近、やっと校正が終わって暇になったので、この機会に弟子の疑問に詳しく答えようと思ったから。どうして今のような治療法になったか知りたいでしょ?
 ま、とりあえず北京堂の耳鳴り治療の簡単な紹介でした。これを見て賢明な人は、これは耳の治療ではなく、脳の血流を改善しているだけだと気が付くのです。そのため初期の難聴や耳鳴りには効果がありますが、何十年も熟成した耳鳴りには効果がなかったりしますし、ある程度ボケが治ったり、また翳風は昔から顎関節症のツボなので、顎関節症が治ったりもします。昔は、翳風は口に五百円玉を数枚咬ませて、口を開かせて刺鍼すると書かれていましたが、それでは口が怠くなるので、そこまでする必要はないと思います。
                          ホーム