本書の内容紹介

本書は運動麻痺の鍼灸治療の専門書である。運動麻痺となる原因分類、疾病の診断、中医による辨証および常用経穴、鍼灸治療と処方原則を紹介してある。片麻痺、対麻痺、四肢麻痺、単麻痺、限局性の麻痺、小児の脳性麻痺、ヒステリー性の麻痺や顔面麻痺などの症状と鍼灸治療の方法に重点を置いて解説し、治療効果に対する客観的な評価を加え、さらに典型的な症例について分析と筋力検査法などを付記している。中医や医師、鍼灸師、理学療法士、さらに学生などの参考となるようにした。
前書き

運動麻痺はよく見られる神経系統の病気の一つであり、随意運動をおこなう筋力が減退して喪失されることを特徴とする。いろいろな原因で起こる片麻痺、対麻痺、四肢麻痺、単麻痺および限局性の麻痺は、患者の生活や労働能力に影響し、身体障害を起こしたり、生命の危険に及ぶことすらある。特に脳出血や外傷性の麻痺、そして小児の脳性麻痺が突出している。
各種運動麻痺の鍼灸治療は、麻痺した肢体の運動筋力を回復させるだけでなく、患者の体質を改善して、関連した症状や徴候を緩解し、患者の機能や健康水準を高める面で重要な影響を及ぼす。臨床に当って適切な鍼灸治療の方法を選んで、それぞれの運動麻痺を治療すれば、はっきりした効果がある。
大量の臨床報告によって鍼灸治療は、脳血管障害による運動麻痺、外傷性の運動麻痺、小児の脳性麻痺、小児麻痺の後遺症およびヒステリー性の運動麻痺に対して有効であることが証明されている。注目すべきは、顔面神経麻痺によって起こった顔面部の表情筋の運動麻痺は、上に述べた各種肢体の運動麻痺とは異なるが、鍼灸治療は効果があるため、本書でも取り上げる。
本書は運動麻痺について病因の分類、病気の診断、辨証による分型、常用経穴、鍼灸治療と処方原則のほか、それぞれの運動麻痺の特徴と鍼灸治療の処方(取穴、操作、治療日数を含む)を紹介する。そして運動麻痺鍼灸治療の治療効果に対して、客観的な評価を加えた。
本書は中国国内での臨床資料を全面的に収録し、編者個人の治療経験と結び付けて、系統的に整理し、運動麻痺鍼灸治療の現状を重点的に紹介した。読者は本書によって、各種運動麻痺の鍼灸治療の方法に対して認識を深められると信ずる。編者の能力のため、不適当なところがあると思いますので、ご教授をお願いしたい。
編者 1993年2月
運動麻痺の病因分類と診断

運動麻痺は随意運動する筋力が減退したりなくなったりするもので、前者は軽い麻痺あるいは不完全麻痺で、後者は完全麻痺である。
運動神経系統は上運動神経元、下運動神経元、錐体外路系および小脳系統である。錐体束や周囲運動神経元が損傷されると、運動麻痺が起こる。
随意運動は、上下の運動神経元の神経系統のほか、正常な筋肉と神経と筋肉の伝達機能が協力しなければできない。だから神経と筋肉の伝達障害や筋肉の病変によっても運動麻痺は起こる。
そのため運動麻痺は、上運動神経元性、下運動神経性、神経筋肉の伝達障害性、筋源性の四つに分類される。また運動麻痺の起こった肢体の部分によって片麻痺、四肢麻痺、対麻痺、交叉性上下肢麻痺、単麻痺、限局性麻痺に分けられる。さらに麻痺となった肢体筋肉の張力と筋力の変化に基づいて、痙攣性の運動麻痺と弛緩性の運動麻痺に分かれる。

一、運動麻痺の病因分類

(一)片麻痺
1.大脳の病変
血管性:脳出血、脳血栓形成、脳栓塞、クモ膜下腔出血、脳血管の奇形、脈なし病、大脳動脈輪閉塞。
腫瘍性:脳腫瘍。
感染性:ビールス性脳炎、日本脳炎、急性ビマン性髄膜炎、脳膜炎、脳膿瘍など。
外傷性:脳挫傷。
先天性:脳性小児麻痺など。
髄鞘脱落性:多発性硬化症。
その他:癲癇発作後の麻痺、片側顔面筋萎縮症、ヒステリー。
2.脊髄の病変
脊髄の外傷や脊髄高位の頚部腫瘍

(二)交叉性麻痺
脳幹の病変、脳底動脈の血液供給不足や血栓形成(血管性)、脳幹の腫瘍(腫瘍性)、脳幹脳炎など。また前脊髄動脈傍中央枝の閉塞や外傷によっても起こる。

(三)四肢麻痺
1.大脳の病変
血管性:両側の脳血管障害、脳底動脈の血栓形成、脳室の出血、橋の出血など。
腫瘍性:脳腫。
感染性:脳炎。
そして外傷性、先天性、髄鞘脱落性など。

2.脊髄の病変
血管性:前脊髄動脈の血栓形成、脊髄出血、脊髄血管の奇形。
腫瘍性:頚髄腫瘍など。
感染性:急性の上昇性脊髄炎、脊髄クモ膜炎、脊髄硬膜外膿腫。
外傷性:頚椎間盤ヘルニア、頚椎の外傷、頚髄の外傷。
先天性:脊髄空洞症など。
髄鞘脱落性:視神経脊髄炎。
3.前角細胞の病変
急性灰白髄炎、進行性脊髄性筋萎縮症、筋萎縮側索硬化症。
4.周囲神経の病変
多発性神経根炎、鉛中毒など。
5.筋肉の病変
筋ジストロフィー、多発性筋炎、家族性周期性麻痺など。
6.神経筋肉伝達障害
重症筋無力症など。

(四)対麻痺
1.大脳の病変
血管性:上矢状洞血栓形成。
腫瘍性:大脳矢状洞傍腫瘍。
2.脊髄の病変
血管性:前脊髄動脈の血栓形成、脊髄出血など。
腫瘍性:胸、腰区の脊髄腫瘍。
感染性:横断脊髄炎、脊髄クモ膜炎。
外傷性:脊柱の外傷、椎間盤ヘルニアなど。
髄鞘脱落性:刺神経脊髄炎。
3.前角細胞の病変
急性灰白髄炎。
4.筋肉病

(五)単麻痺
1.大脳の病変
前大脳動脈の血栓形成、大脳の腫瘍。
2.脊髄の病変
脊髄腫瘍、脊髄空洞症。
3.前角細胞の病変
急性灰白髄炎、進行性筋萎縮症、筋萎縮側索硬化症。
4.周囲神経性
頚肋、神経叢の病変。
5.筋肉病

(六)限局性の麻痺
1.周囲神経の病変
神経繊維腫、椎間盤ヘルニア、単一神経の病変(橈骨神経、正中神経、尺骨神経、大腿神経、腓骨神経、脛骨神経、坐骨神経、臀神経)。
2.筋肉病。

二、運動麻痺の臨床分類

臨床症状によって運動麻痺を分類すると、次の四つに分けられる。

(一)上運動神経元性の運動麻痺
大脳皮質から脊髄前角細胞や、脳幹の運動神経前核までが損傷されると、上運動神経元性麻痺が起こる。その特徴は以下のものである。
1.運動筋肉の麻痺。麻痺の範囲は片麻痺、四肢麻痺、対麻痺あるいは単麻痺だが、一群の筋肉が麻痺するのではなく、随意運動がなくなる。しかし患者がクシャミや咳嗽、あくびや健側の肢体を運動させたとき、麻痺した肢体にも不随意な筋肉の収縮や連合運動が起こる。
2.筋の張力が強まり、痙性麻痺となる。
3.腱反射が亢進し、クローヌスがある。
4.病理反射が現れる。
5.筋萎縮や電気変性反応はない。

(二)下運動神経元性の運動麻痺
脊髄前角運動細胞や脳幹運動神経核から、神経と筋肉の接合部までが損傷を受ければ、下運動神経元性麻痺が起こる。
1.運動筋肉の麻痺、随意や不随意の動作がなくなる。麻痺の範囲は対麻痺、四肢あるいは一群の筋肉麻痺となる。
2.筋の張力は減弱し、弛緩性の麻痺となる。
3.腱反射は減弱するか消失する。
4.病理反射はない。
5.筋が萎縮し、電気変性反応があり、筋肉に繊維束性の収縮がある。
6.筋の無力と萎縮が神経の分布と一致する。
7.筋電図に繊維電位、巨大スパイク電位が現れる。

(三)神経筋肉伝達障害による麻痺
1.横紋筋が疲労しやすく、休憩したり抗コリンエステラーゼを与えると、ある程度回復する。
2.症状は緩解したり再発したりする。
3.筋電図は、一定時間は強く収縮するが、振幅は徐々に弱まる。

(四)筋源性麻痺
1.筋肉は無力となるか、強直する。
2.筋肉は萎縮するか、仮性肥大する。
3.筋肉の疼痛がある。
4.無力、萎縮、疼痛が神経の分布に沿って起こらず、近端の損傷がひどい。
5.筋の張力と腱反射は正常より弱く、知覚障害は伴わない。
6.血清クレアチン−ホスフォキナーゼ、SGOT、アルドラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼなどの値が、病気の進行期には明らかに上昇する。
7.筋電図は低電圧で、多相運動単位となる。
8.筋肉の生検では、筋繊維の横紋が溶解し、ミオプラズマに空泡が形成され、間質中に多量の脂肪の沈着があるなど。

三、上下運動神経元性麻痺の部位診断

(一)上運動神経元性麻痺の部位診断
1.大脳皮質:一般に病巣と対側の下肢、上肢、あるいは上肢と顔面部に影響を受け、病変部が広ければ片麻痺となる。失語や失認、失行、失書、失読などの行為障害を伴う。
2.内包:病巣の対側に完全麻痺と中枢性の顔面麻痺が起こり、半身の知覚障害があったり対側の同名半盲となったりし、視床に影響すれば麻痺肢体の自発性疼痛が現れ、やはり行為障害を伴う。
3.脳幹:交叉性の麻痺が起こり、病巣側脳神経損傷と対側の肢体麻痺、あるいは小脳症候群を伴ったりする。
4.錐体交叉:同側下肢と対側上肢の肢体交叉麻痺。
5.脊髄:横断損傷では四肢の麻痺か対麻痺となり、病変水平面から下のさまざまな知覚障害と大小便排泄の機能障害が起こる。半横断損傷では同側の上下肢麻痺か下肢麻痺、深部感覚の減退や消失、対側の上下肢か下肢の浅部知覚の喪失が起こり、大小便の機能障害が起こる。通常は脳神経症状はない。

(二)下運動神経元性麻痺の部位診断
1.前角細胞:筋肉が萎縮して無力となるが、手掌部の小筋肉に多く見られる。また下肢の筋肉や背筋、呼吸筋にも影響が及ぶ。筋肉に繊維束収縮があり、知覚障害はなく、腱反射は減弱し、病理反射はない。
2.神経根:ほとんどは多発性で、特に運動神経根が障害されるものが多く、多発性神経根炎などは典型である。対称性に肢体が無力となり、腱反射は減弱するか消失し、しばらくして筋萎縮が現れ、知覚障害はなく、脊髄液検査では細胞蛋白の分離現象がみられ、神経の伝達速度が遅くなる。
3.脊髄神経の病変:それぞれ一本の脊髄神経の分布する筋肉と皮膚感覚障害に基づいて部位が定まる。限局性の筋力減退、筋肉萎縮と皮膚感覚の障害、対応する筋腱の反射喪失、自律神経機能の障害などがあり、電気変性反応、筋電図に筋繊維の細動が現れる。
4.神経叢の病変:大部分は多脊髄神経の病変であり、上肢は腕神経叢の病変、下肢は仙骨神経叢の病変が多い。
5.単神経の病変:上肢は腋窩神経、筋皮神経、橈骨神経、尺骨神経、正中神経。下肢は閉鎖神経、大腿神経、総腓骨神経、脛骨神経などに障害に対応して症状が現れる。
6.末梢神経の病変:四肢末端が無力、筋萎縮、手袋麻痺や靴下麻痺などの知覚障害、損傷部分の腱反射が減弱したり消失する。皮膚の栄養障害がある。

運動麻痺の中医辨証

現在の運動麻痺とは、随意運動する筋力の減弱や消失である。歴代の中医書籍では「半身不随」の言葉で運動麻痺を語り、「痿躄」や「 」と呼ばれるものが現在の四肢麻痺や単麻痺、対麻痺などにあたる。
運動麻痺の鍼灸治療では、今までに述べた麻痺の病因分類と、疾病の診断で特定した部位に基づいて取穴処方をするだけでなく、症状や患者の体質などの具体的状態を考慮し、辨証して分型治療をする。

一、半身不随(片麻痺)

半身不随とは、左側あるいは右側の上下肢の麻痺で、随意運動ができないものである。『内経』では「偏枯」と呼ぶ。『金匱要略』には「風による病気で、半身不随となる」、『諸病源候論」で「風半身不随候」、「風偏枯候」、「偏風候」などとしているものは半身不随の症状である。半身不随は顔面麻痺や失語を伴い、風が巻き起こるように急に発生し、中風病に多く見られるので、歴代の医者は「中風」の中で取り上げていた。症状は、
経絡に風邪が入ったもの:急に昏倒し、半身不随や皮膚の痺れが起こり、口眼歪斜や言葉がうまく出ない、あるいは発熱悪寒、頭痛、身痛、肢体の引きつりがあり、舌苔は白膩で浮滑脈。
肝陽が風を起こした:頭痛して目まいし、耳鳴りがあり目がかすみ、イライラして怒りっぽく、顔が紅潮して目も赤い。情緒が急に激しく変化して意識不明となり、半身不随や言葉がうまく出ない、舌のこわばり、口眼歪斜が起こる。舌質は紅で、弦数脈。
痰火が内部を閉塞した:急に卒倒し、意識がはっきりせず、半身不随、口眼歪斜、両手を堅く握り締める、痰涎が壅盛、歯を食い締め、顔が紅潮して目が赤く、喉から痰の音が聞こえ、喘いで呼吸が速くてもがく。舌質は紅で、舌苔は黄膩、弦滑で数脈。
痰湿が内部を閉塞した:卒倒し、嗜眠や昏睡状態となり、半身不随、意識の混濁、痰涎が壅盛、両手で拳を作る、歯を食い締める、静かに動かない、顔が白くて口唇が紫、口眼歪斜、手足が冷たい。舌苔は白滑膩、沈滑脈か緩脈。
陽気の虚脱:卒倒し、半身不随、意識不明、目を閉じて口を開く、手を放り出して失禁する、イビキをかいて呼吸は弱く、手足は冷たく、顔面蒼白、額から冷や汗が流れ、舌は萎縮して淡く白、脈は沈細微。覚醒した後で半身不随がある。
陰が脱けて陽が浮いてきた:卒倒して意識が混濁し、半身不随、口眼歪斜があり、これも目を閉じて口を開け、手を放り投げて失禁し、イビキをかいて呼吸は弱く、手足は冷たくなるが顔面の頬は赤くなり、舌は縮んで赤くなり、脈は沈細で絶えようとする。これも覚醒したあと半身不随が残る。
気虚血 :半身不随、顔面蒼白、痩せていて汗が出、片身は細り、皮膚の感覚が鈍ったり、手足がむくんだり、筋脈が引きつり、上肢が屈曲し、下肢は伸直する。上下肢を強制的に屈伸させると痛んだり、あるいは片身の疼痛する。舌は淡くて白いか黒っぽく 斑がある。脈は弦細か渋、結。
肝腎の虧虚:患者の多くは高齢のため力が衰え、耳鳴りがして健忘があり、目まいがして目がかすみ、うまく喋れず、ぼんやりした表情で、気が狂っているようだったり馬鹿のようだったりする。徐々に半身不随となるが、その前に肢体の感覚が鈍くなる。舌は淡いか嫩紅、脈は細弱で沈。
半身不随は、中風の他では嬰子の出産による外傷や、頭蓋骨の外傷などでも現れる。半身不随の鍼灸治療のほとんどは、 の中風で「経絡に中った」ものに主として使っているが、臨床では の肝陽化風、 の湿痰内閉、 の痰火内閉、 の気虚血 、 の肝腎虧虚なども主な適応症である。

二、四肢麻痺、単麻痺

麻痺は「攤緩」とも呼び、肢体の力が抜けて無力となり、筋肉が利かず、随意運動ができない症状を指す。『聖済総録』には「攤とは怠けて縮まなくなるもの、緩とはコントロールが利かなくて動かないものである。だから症状として四肢を挙げられず、筋脈や関節が無力となり、ごまかしようのないものを攤と呼ぶ。四肢を挙げたり動かせるが、関節の力が弱く、道具に頼らないと動かせないものを緩と呼ぶ。あるいは左を攤とし、右を緩とする』とある。
『素問』は「痿躄」について記載したうえに、五臓痿と脈痿、筋痿、肉痿、骨痿などの病名を挙げて症状を紹介し、肢体の弛緩、筋肉の引きつり、筋肉は感覚が鈍くなり、腰背が上がらないなどの症状を列挙している。『霊枢・熱病』に「 の病は、身体に痛みはなく、四肢が利かず、頭がおかしいがひどくはなく、言葉が少し喋れるものは治療できる。ひどいものは喋れないが、これは治療できない」とあるが、現在の四肢麻痺である。『証治準縄』は「痿とは手足が軟らかく無力で、百節が弛緩して縮まないもの」と記載し、痿証は、肢体の随意運動が減弱したり消失する症状のあるもので、「攤 」や「 曳」なども同じようなものである。このように以前の医者は「痿証」の記載で、四肢麻痺や単麻痺などの症状を解説している。その証候は次のものである。
肺の熱が津を傷付けた:外感発熱期や発熱した後、手足が弱々しく無力となり、手で物を持てず、足で支えられなくなる。下肢に多く現れ、ひどい場合は運動麻痺となって利かなくなり筋肉が徐々に萎縮する。落ち着かず喉が渇き、むせて咳をするが痰は少なく、手足の真ん中が熱っぽく、喉がイガイガして口唇が乾燥し、小便は少なくて赤っぽく発熱する。舌質は紅で舌苔は黄、細数脈。
湿熱に浸淫された:手足や両足が弱々しくなって力が入らず、重くて感覚が鈍り、皮膚も感じない。ひどければ筋肉が緩んで縮まず、運動麻痺となって筋肉は萎縮する。胸の不快感がして食欲がなく、口が乾燥して苦く粘っこい。小便は赤っぽくて出にくく少なかったり微熱がある。舌苔は黄膩、脈は濡数か滑数。
寒湿による浸淫:手足が重くて動きにくく、運動麻痺となって利かなくなる。顔が腫れて黒っぽくなったり浮腫が現れ、胸の不快感があって食欲がなく、悪心嘔吐し、腰背が重く痛み、足背が少し腫れたり、皮膚の感覚が鈍ったりする。舌は膨れて歯印があり、舌苔は白膩、滑緩脈。
脾胃の気虚:手足や下肢が徐々に力が入らなくなって無力となり、ひどければ伸びきって縮まず、筋肉が萎縮する。元気がなくて疲れやすく、少食で下痢し、頭がフラつき手足が怠く、顔色は白くて艶がない。舌は淡くて舌苔は薄く、脈は細弱で無力。
腎陽の虧虚:手足が弱々しくて麻痺し、顔は青白く、手足は冷たく、足背が腫脹し、腰や膝が痛くて力が入らない。倦怠感があって力がなく、目まいや耳鳴りがし、インポや遺精がある。舌は淡い白、沈細脈。
血が絡脈を塞いだ:多くは外傷の後で下半身や手足の運動麻痺となり、肢体が痺れて感覚がなく、痛みや痒みが判らない。大小便を失禁したり出なくなったりし、引き続いて皮膚がカサカサになり、筋肉が萎縮して手足は温かくなく、胸腰や皮膚に刺痛がある。舌質は青紫か 斑があり、細渋脈。
肝腎の陰虚:病気の進行が遅く、徐々に上肢や下肢が弱くなって利かなくなり、腰背が怠くなり力が入らず挙がらず、体形は痩せている。肢体の感覚が鈍く、筋脈は引きつり、頭がフラつき耳鳴りし、両目がぼんやりする。潮熱が出たり寝汗(盗汗)があり、頬が紅色で、喉がイガイガして口が乾燥する。舌は紅で水分がなく、弦細数脈。
肝気鬱滞と血虚:患者は悩んだり感傷的になったり、悲しんでよく泣いたり、激怒すると急に肢体の運動麻痺が起こり、病歴が長いのに筋肉は衰えたり萎縮せず、皮膚は潤っている。両脇の脹れぼったい痛み、ゲップして食欲がない、口が苦いなどの症状がある。舌は淡くて紅で、細弦脈。
肢体の運動麻痺は、筋肉が弛緩して縮まず、筋肉が萎縮するのが特徴であり、四肢や単肢、両腕や両足に起こる。鍼灸治療は、 の肺熱傷津、 の湿熱浸淫、 の寒湿浸淫、 の 血阻絡、 の肝鬱血虚などが適応証である。そのほかの証では、薬物治療を併用する必要があり、総合治療をおこなう。

運動麻痺の常用穴

経穴は鍼灸治療の刺激点である。麻痺鍼灸の常用穴は、十四経脈の経穴や経外奇穴、阿是穴などであるが、ここで紹介するのは十四経脈の経穴と経外奇穴の一部である。記載の順序は、麻痺治療鍼灸の特徴に基づき、頭面項頚部穴、背部穴、胸腹部穴、上肢穴と下肢穴からいくつかを紹介する。

一、頭面項頚部
(一)頭部髪際区
1.百会:頭頂正中線と両耳の先端を結ぶ交点。主治:中風の半身不随、頭蓋骨外傷の後遺症、小児の脳性麻痺、ヒステリーによる運動麻痺など。刺鍼法:沿皮刺で0.5〜1.5寸。直刺で0.1〜0.2寸。督脈。
2.通天:百会穴の前1寸の横1.5寸のところ。主治:中風の半身不随などの脳障害による運動麻痺。刺鍼法:沿皮刺0.5〜1寸、直刺0.1〜0.2寸。足の太陽脈。
3.頭維:額角髪際にあり、前髪際の正中から4.5寸の部位。主治:顔面神経麻痺、片頭痛など。刺鍼法:沿皮刺0.5〜1.5寸。足の陽明脈。
4.前頂:百会穴の前1.5寸の部位。主治:中風の半身不随、小児の脳性麻痺など。刺鍼法:沿皮刺0.5〜1.5寸。督脈。
5.後頂:百会穴の後1.5寸。主治:前頂穴と同じ。刺鍼法:前頂穴と同じ。督脈。
6.四神総:百会穴の前後、左右各1寸の部位で四穴。主治:小児の脳性麻痺、日本脳炎の後遺症など。刺鍼法:鍼尖を百会穴に向けて0.5〜1寸沿皮刺する。経外奇穴。
7.曲鬢:耳前の髪際中の少し後ろ。耳郭根部と眉尻の線上。主治:中風の運動麻痺。刺鍼法:斜刺で1〜1.5寸。足の少陽脈。
8.懸釐:頭維穴から曲鬢穴までを四等分し、下から一等分目。主治、刺鍼法は曲鬢と同じ。足の少陽脈。
9.絡却:通天穴の後ろ1.5寸のところ。主治、刺鍼法は通天と同じ。足の太陽脈。
10.神庭:頭部正中線で髪際を0.5寸入るところ。主治:中風の半身不随など。刺鍼法:沿皮刺で0.5〜1寸。督脈。
11.風府:正中線で、うなじの後髪際から1寸上がるところ。外後頭隆起直上の陥凹。主治:中風の半身不随、昏睡、ヒステリー性の運動麻痺、小児の脳性麻痺、日本脳炎の後遺症。刺鍼法:直刺で0.5〜1寸。深刺は慎重におこなう。督脈。
12. 門:後髪際の上0.5寸。第1、第2頚椎棘突起の間隙。主治:風府と同じ。刺鍼法:直刺で0.5〜1寸。督脈。
13.風池:外後頭隆起直下の陥凹と乳様突起の間で、僧帽筋と胸鎖乳突筋の間に取穴する。主治:中風の半身不随、小児の脳性麻痺、日本脳炎の後遺症など。刺鍼法:直刺(耳垂と水平か、少し下に向けて)1〜1.5寸。足の少陽脈。
14.正営:頭臨泣(陽白穴の直上、神庭穴と頭維穴の間で、髪際を0.5寸入ったところ)の直上3寸。主治:中風の半身不随。刺鍼法:沿皮刺で1寸。足の少陽脈。
15.承霊:正営穴の後ろ1.5寸。主治と刺鍼法は正営と同じ。足の少陽脈。
頭部髪際部の経穴は、脳障害による運動麻痺(中風の半身不随、小児の脳性麻痺、日本脳炎の後遺症など)治療の重要な刺鍼部位であり、頭穴の透刺法(頭皮鍼)のほかに、穴位注射や棒灸を使った温和灸もする。百会、前頂、後頂、絡却、通天、正営、承霊、神庭などの頭頂部や頭額部の経穴への鍼灸は、中風による半身不随に優れた効果があることが臨床研究によって実証されており、後頭部への鍼灸効果と明らかに違いがある。 門や風府に刺鍼し、さらに他の経穴を組み合わせて中風の半身不随をしたものの治療効果は、 門や風府を加えなかったものよりも優れていた。頭部髪際区の経穴は、さらに対麻痺やヒステリー性の対麻痺なども治療できる。
(二)項頚部
1.扶突:喉頭隆起の横3寸、人迎穴の外側で、胸鎖乳突筋後縁のところ。主治:腕神経叢障害、橈骨神経障害など。刺鍼法:直刺0.5〜1寸。手の陽明脈。
2.頚臂:鎖骨の内から と外から の交点の上1寸。胸鎖乳突筋鎖骨頭後縁の部分。主治:腕神経叢炎、上肢の麻痺。刺鍼法:水平方向に0.5〜0.8寸直刺。経外奇穴。
(三)額面部
1.人中:人中溝の上から と下から の交点。主治:中風の半身不随、ヒステリー性の運動麻痺など。刺鍼法:鼻中隔方向に、下から上に向けて0.3寸ぐらい直刺。督脈。
2.兌端:上唇中央の先端。主治:中枢性の顔面神経麻痺。刺鍼法:斜刺で0.2〜0.3寸。督脈。
3.金津、玉液:舌小帯両側の静脈上。舌を巻いて取穴する(左が金津、右が玉液)。主治:中風の失語、片麻痺の握力減弱など。刺鍼法:毫鍼で点刺出血させる。経外奇穴。
4.海泉:舌小帯中央。主治:中風の片麻痺の握力減弱。毫鍼で点刺出血。経外奇穴。
5.廉泉:喉頭隆起の上方、舌骨下縁の陥凹部。主治:中風で舌がこわばった失語。刺鍼法:舌根部に向けて1寸の深さに斜刺。任脈。
6.承漿:下顎部正中線で、下唇の縁の下方の陥凹部。主治:顔面神経麻痺、中風の半身不随。刺鍼法:斜刺0.3〜0.5寸。任脈。
7.陽白:目を正視させ、瞳孔の直上で眉の上1寸。主治:顔面麻痺、眼瞼下垂。刺鍼法:沿皮刺1寸。足の少陽脈。
8.地倉:口角の外側0.4寸。主治:顔面神経麻痺。刺鍼法:沿皮刺で1.5寸ぐらい。足の陽明脈。
9.頬車:下顎角の前上方一横指。力を入れて噛むと、咬筋が隆起するところ。主治や刺鍼法は地倉と同じ。足の陽明脈。
10.下関:口を閉じ、頬骨弓と下顎切痕でできる陥凹部。主治:顔面麻痺。刺鍼法:下に向けて斜刺で1.5寸。足の陽明脈。
11.四白:目を正視し、瞳孔の直下1寸。ちょうど眼窩下孔部にあたる。主治:顔面麻痺。刺鍼法:沿皮刺1寸。足の陽明脈。
12.迎香:鼻翼の傍ら0.5寸。鼻唇溝の中。主治:顔面麻痺。刺鍼法:直刺で0.5寸。手の陽明脈。
13.翳風:耳垂の後ろ、乳様突起と顎角の間の陥凹。主治:顔面麻痺、耳鳴りや耳聾など。刺鍼法:直刺0.5〜1寸。手の少陽脈。
14.太陽:眉梢(眉毛のしっぽ)と外眼角(目尻)の中間から、後ろに約1寸の陥凹。主治:顔面麻痺、頭痛。刺鍼法:沿皮刺1〜2寸。経外奇穴。
15.攅竹:眉頭で眉毛内縁の端。眼窩上切痕のところ。主治:顔面麻痺。刺鍼法:沿皮刺1〜1.5寸。足の太陽脈。
16.絲竹空:眉梢の外側の陥凹。主治:顔面麻痺。刺鍼法:沿皮刺1〜1.5寸。手の少陽脈。
17.顴 :頬骨下縁の中央。迎香穴と水平。眼外角(目尻)の直下。主治:顔面麻痺。刺鍼法:斜刺1〜1.5寸。手の太陽脈。
18.完骨:乳様突起の後下方の陥凹。風府穴と水平。主治:顔面麻痺、耳聾耳鳴り。刺鍼法:斜刺0.5〜1寸。足の少陽脈。
額面部の経穴のほとんどは顔面神経麻痺の治療に使う。人中は脳卒中の意識不明のときに使う。金津、玉液、海泉は舌下の点刺の手法を使い、中風の失語症や舌がこわばって喋りにくいものに使うほか、中風の半身不随や握力が減弱したものに対しても、指の屈伸機能を回復させる作用がある。

二、背部
背部穴は、うなじ、胸、腰、仙椎の両側を含み、督脈と足の太陽脈の経穴、そして経外奇穴である。
1.夾脊穴:第1頚椎から第5腰椎までで、棘突起の傍ら0.5寸のところ(腰椎では傍ら1寸との説もあり)。左右それぞれ一穴。主治:各種の運動麻痺を治療する。神経と分節に基づいて、関係する夾脊穴を使う。例えば上肢の運動麻痺では頚椎と胸椎にある夾脊穴、下肢の運動麻痺では背部の下位と腰部の夾脊穴、対麻痺では損傷部分と平面になるような夾脊穴を使うようにする。刺鍼法:やや内側に、椎間孔を向けて直刺する。頚と胸では1〜1.5寸。背部の下位から腰部は2〜2.5寸。鍼感は両側か四肢に向かって放散するとよい。経外奇穴。
2.大椎:正中で、第7頚椎と第1胸椎棘突起間。主治:中風の半身不随や対麻痺などで起こった上肢の麻痺。刺鍼法:少し上に向けて1〜1.5寸斜刺。督脈。
3.陶道:第1胸椎と第2胸椎棘突起の間。主治と刺鍼法は大椎穴と同じ。督脈。
4.身柱:第3胸椎と第4胸椎棘突起の間。主治:対麻痺を主とする上肢の麻痺。刺鍼法:鍼尖を少し上に向けて0.7〜1寸に斜刺。督脈。
5.神道:第5胸椎と第6胸椎棘突起の間。主治:対麻痺。刺鍼法:斜刺で0.5〜1寸。督脈。
6.至陽:第7胸椎と第8胸椎棘突起の間。主治と刺鍼法は神道と同じ。督脈。
7.筋縮:第9胸椎と第10胸椎棘突起の間。主治と刺鍼法は神道と同じ。督脈。
8.脊中:第11胸椎と第12胸椎棘突起の間。主治と刺鍼法は神道と同じ。督脈。
9.懸枢:第1腰椎と第2腰椎棘突起の間。主治:対麻痺を主とする下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1寸ぐらい。督脈。
10.命門:第2腰椎と第3腰椎棘突起の間。主治:中風や対麻痺などで起こる下肢の麻痺。刺鍼法:鍼尖を少し上に向けて1.5寸ぐらいに直刺する。督脈。
11.腰陽関:第4腰椎と第1仙椎棘突起の間。主治と刺鍼法は命門と同じ。督脈。
12.長強:尾骨先端と肛門の間。主治:小児麻痺の後遺症。刺鍼法:0.5〜1寸直刺するか、長鍼で命門に向けて沿皮刺で透刺する(背三鍼)。督脈。
13.八 :上、次、中、下 で、左右に全部で8穴。合わせて八 と呼ぶ。上 は第1後仙骨孔の中、次 は第2後仙骨穴の中、中 は第3後仙骨穴の中、下 は第4後仙骨穴の中。主治:下肢の麻痺、大小便の機能障害。刺鍼法:直刺1〜1.5寸。足の太陽脈。
14.大腸兪:第4腰椎棘突起の傍ら1.5寸。主治:対麻痺など。刺鍼法:1〜2寸直刺して背筋に刺鍼するか、長鍼で3〜3.5寸直刺して大腰筋に刺鍼する。足の太陽脈。
15.腎兪:第2腰椎棘突起の傍ら1.5寸のところ。主治:片麻痺や対麻痺などによる下肢の麻痺。刺鍼法:やや斜めに脊柱に向けて1.5〜2寸に直刺する。足の太陽脈。
16.胃兪:第12胸椎棘突起の傍ら1.5寸のところ。主治:運動麻痺の患者で、消化器疾患を伴うもの。刺鍼法:直刺1寸。足の太陽脈。
17.脾兪:第11胸椎棘突起の傍ら1.5寸。主治と刺法は胃兪と同じ。足の太陽脈。
18.肝兪:第9胸椎棘突起の傍ら1.5寸のところ。主治:運動麻痺患者で、肝腎不足の症状があるものに腎兪と一緒に使う。刺鍼法:直刺0.5〜1寸。足の太陽脈。
背部を使った運動麻痺の鍼灸治療は、督脈と夾脊穴を主とする。対麻痺患者では特に重要である。八 穴は中極や関元、気海などと組み合わせ、大小便の排泄障害を治療する。腎兪、肝兪、脾兪、胃兪などは、運動麻痺に辨証配穴を組み合わせ、体質を改善するときに使う。特に注目するべきは、背部は督脈と足の太陽脈が順行している部位なので、梅花鍼を使って叩刺すれば、運動麻痺に有効な補助治療となる。

三、胸腹部
1.中 :前正中線で、臍の上4寸のところ。主治:腹筋の麻痺、脾胃不和で胃腸の調子が悪いもの。刺鍼法:直刺1〜2寸。任脈。
2.天枢:臍の傍ら2寸。主治:腹筋の麻痺、脾胃不和、大便の不調。刺鍼法:直刺1〜2寸。足の陽明脈。
3.気海:前正中線上、臍下1.5寸。主治:腹筋麻痺、大小便の不調、中風の虚脱証(意識不明)など。鍼灸法:1〜2寸斜刺。灸は3〜7壮、棒灸は10〜20分。任脈。
4.関元:前正中線上で、臍下3寸。主治と鍼灸法は気海と同じ。任脈。
5.中極:前正中線上、臍下4寸。主治:腹筋の麻痺、小便の不調。刺鍼法:排尿してから1〜2寸直刺。任脈。
上に述べた経穴は一般に対症療法として使う。督脈穴や背兪穴と組み合わせてもよく、全身の調整をして、麻痺患者の体質を改善する。

四、上肢
(一)手の三陽経穴(経外奇穴を含む)
1.肩 :三角筋上部の中点。肩峰と上腕骨大結節の間。肩を水平に挙げ、肩の前に現れる陥凹。主治:上肢の麻痺、肩部の痛み、肩関節の障害。刺鍼法:直刺1.5〜2.5寸。手の陽明脈。
2.肩 :肩峰の突出した後端下方の陥凹。主治や刺鍼法は肩 と同じ。手の少陽脈。
3.肩貞:腕を垂らして腋を合わせ、腋窩横紋の後端から上1寸。主治は肩 と同じ。刺鍼法:直刺1.5〜2寸。手の太陽脈。
4.臂臑:腕を垂らして肘を曲げたとき、三角筋の停止部より少し前。主治:上肢の麻痺、肩から腕の痛み。刺鍼法:直刺で1寸か、上腕骨の前縁、後縁に向けて1〜1.5寸透刺する。手の陽明脈。
5.曲池:肘を直角に曲げ、肘窩横紋の橈側端と上腕骨外側上顆との中点。主治:上肢の麻痺、肘関節の障害。刺鍼法:直刺1.5〜2.5寸。手の陽明脈。
6.手の三里:曲池穴の下2寸。主治は曲池と同じ。刺鍼法:直刺1〜2寸。手の陽明脈。
7.鷹上:上腕骨で、尺骨肘頭の上4寸。主治:上肢の麻痺、肘関節障害。刺鍼法:直刺か斜刺で1.5寸。経外奇穴。
8.天井:肘を曲げたとき、肘尖の上方1寸ぐらいに現れる陥凹。主治は鷹上と同じ。刺鍼法:直刺0.5〜1寸。手の少陽脈。
9.外関:手の背側で腕関節横紋の上2寸。尺骨と橈骨の間。主治:上肢の麻痺。刺鍼法:直刺1〜1.5寸。手の少陽脈。
10.合谷:親指と人差指を伸ばしたとき、第1と第2中手骨の中点に当る。やや人差指側に取る。主治:上肢麻痺、指の痙攣、顔面麻痺。刺鍼法:直刺か斜刺で1〜1.5寸。手の陽明脈。
11.八邪:軽く拳を握ったときの、手背の中手骨頭の間。左右で全部で8穴。主治:上肢の麻痺、指の引きつり。刺鍼法:中手骨方向に直刺で1寸。経外奇穴。
(二)手の三陰経穴(経外奇穴を含む)
1.極泉:手を挙げて腋を開いたとき、液窩の中央で液窩動脈の内側。主治:中風の半身不随、上肢の麻痺。刺鍼法:直刺1〜1.5寸。手の少陰脈。
2.尺沢:肘窩横紋のところ。手のひらを上に向け、肘を少し屈して上腕二頭筋腱の外側。主治:上肢の麻痺、肘関節障害。刺鍼法:直刺1寸。手の太陰脈。
3.曲沢:肘窩横紋のところ。手のひらを上に向け、肘を少し屈して上腕二頭筋腱の内側。主治と刺鍼法は尺沢と同じ。手の厥陰脈。
4.臂中:腕関節横紋と肘窩横紋をつなぐ線の中点で、尺骨と橈骨の間。主治:上肢の麻痺。刺鍼法:直刺1〜1.5寸。経外奇穴。
5.内関:手のひらを上に向けて腕を伸ばし、腕関節横紋正中の直上2寸。二つの筋の間。主治:中風の半身不随。刺鍼法:直刺1〜1.5寸。手の厥陰脈。
6.大陵:手のひらを上に向け、腕関節横紋の正中で二つの筋の間。主治:上肢麻痺、手首や指関節の障害。刺鍼法:直刺0.3〜0.5寸。手の厥陰脈。
上肢の経穴は運動麻痺に使うが、一般に陽経の経穴を主とするので「痿証の治療は陽明のみを取る」という。最近では陰経と陽経の経穴を交互に使ったり、運動麻痺が弛緩性か強縮性かによって陽経を取ったり、陰経を取ったりするようになった。臨床治療では、健側に刺鍼したあとで患側に刺鍼するが、これは古代の「巨刺」が発展した方法である。複数の経脈から複数を取穴するときは、体幹から末端、つまり上から下の順序で鍼灸し、同時に主穴と配穴に分けなければならない。取穴は正確適切に、大関節付近や鍼感のはっきりしたものを中心とする。

五、下肢
臀部の経穴を含む。
(一)足の三陽経穴(経外奇穴を含む)
1.環跳:大腿骨大転子の最高点と、仙骨裂孔(尾骨)をつなぐ線の、外側から と内側から の交点。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺2〜3寸。足の少陽脈。
2.髀関:股関節を屈し、上前腸骨棘の直下で、会陰と水平なところ。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺で1.5寸か斜刺で3寸。足の陽明脈。
3.秩辺:第4仙骨棘突起の傍ら3寸のところ。主治:下肢の運動麻痺。刺鍼法:直刺2〜3寸。足の太陽脈。
4.風市:大腿外側の中線で、膝蓋骨上縁から上に7寸。または直立して手を下に垂らしたとき、中指の先端が当る部分。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1.5〜2.5寸。足の少陽脈。
5.伏兎:膝蓋骨外側上縁の直上6寸。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1.5〜2.5寸。足の陽明脈。
6.殷門:臀溝の中央が承扶穴。その直下6寸。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺2〜3寸。足の太陽脈。
7.梁丘:膝蓋骨外側上縁から直上6寸。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1〜1.5寸。足の陽明脈。
8.四強:膝蓋骨上縁の中点から直上4寸。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1.5〜2.5寸。経外奇穴。
9.委中:膝窩横紋の中央。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺0.5〜1寸。足の太陽脈。
10.足三里:外膝眼の下3寸で、脛骨の外側一横指のところ。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1〜2寸。足の陽明脈。
11.陽陵泉:膝を屈し、腓骨頭の前下方の陥凹。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1〜2寸。足の少陽脈。
12.承山:うつ伏せになって、力を入れて爪先を伸ばしてカカトを挙げたとき、委中と足跟の中点で、二つの腓腹筋によって人の字形が現れて凹むところ。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1〜2寸。足の太陽脈。
13.糾内翻:承山穴の外側1寸。主治:下肢の麻痺、足の内翻。刺鍼法:直刺で1〜2寸。経外奇穴。
14.糾外翻:承山穴の内側1寸。主治:下肢の麻痺、足の外翻。刺鍼法:直刺で1〜2寸。経外奇穴。
15.懸鐘:足の外果の上3寸で、腓骨後縁と長腓骨筋腱の間。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1〜2寸。足の少陽脈。
16.解谿:足関節の前の横紋の中点で、二つの筋腱の中。外果の尖ったところと同じ高さの部分を取る。主治:下肢の麻痺、足の下垂。刺鍼法:0.5寸。足の陽明脈。
17.足起:内果と外果を結んだ線の、中点の上1.5寸。脛骨外縁のところ。主治は解谿穴と同じ。直刺1寸。経外奇穴。
18.申脈:外果下縁の陥凹。主治:下肢の麻痺、足の内翻。刺鍼法:斜刺で0.5寸。足の太陽脈。
19.丘墟:外果の前下方の陥凹。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺1寸。足の少陽脈。
20.内庭:第2、第3趾の接合部で、ミズカキの縫い目ところ。主治:顔面麻痺。刺鍼法:上に向けて0.5寸斜刺する。足の陽明脈。
21.八風:足の五趾が分かれるミズカキの縫い目のところ。左右で八穴。主治:下肢の麻痺、末梢神経炎。刺鍼法:斜刺0.5〜1寸。経外奇穴。
(二)足の三陰経穴(経外奇穴を含む)
1.曲泉:膝を屈し、膝の内側の横紋の端で陥凹するところ。主治:下肢の麻痺、膝関節障害。刺鍼法:直刺1寸。足の厥陰脈。
2.血海:膝を屈して、膝蓋骨の内側上縁の上2寸。大腿四頭筋の内側縁。主治や刺鍼法は曲泉と同じ。足の太陰脈。
3.陰陵泉:脛骨内側顆の下縁、脛骨後縁と腓腹筋の間の陥凹。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺で1〜2寸。足の太陰脈。
4.三陰交:内果の尖った部分から直上3寸で、脛骨後縁。主治:中風の半身不随。刺鍼法:直刺1.5〜2寸。足の太陰脈。
5.商丘:内果の前下方の陥凹。主治:下肢の麻痺、足の下垂。刺鍼法:直刺で0.5寸。足の太陰脈。
6.太谿:内果の尖端とアキレス腱をつないだ中点。主治:下肢の麻痺。刺鍼法:直刺0.5〜1寸。足の少陰脈。
7.照海:内果の尖ったところから直下1寸。主治:下肢の麻痺、足の外翻。刺鍼法:直刺0.5〜1寸。足の少陰脈。
8.湧泉:足の裏の中心で、前 と後ろ の交点。主治:ヒステリー性の運動麻痺。刺鍼法:直刺0.5〜1寸。足の少陰脈。
9.太衝:第1、第2趾の分かれるミズカキの、縫い目の上1.5〜2寸のところ。主治:顔面麻痺、末梢神経炎。刺鍼法:斜刺1〜1.5寸。足の厥陰脈。
下肢の取穴と処方原則は、上肢の経穴と同じ。

運動麻痺鍼灸の治療方法

運動麻痺に対する鍼灸の治療方法には毫鍼、巨鍼、芒鍼、頭鍼、眼鍼、耳鍼、皮膚鍼、灸、吸い玉、電気鍼、穴位注射などの方法があるが、体表の経穴を刺激して経絡を流通させ、気血を調和させて陰陽バランスを回復させて治療する。

一、毫鍼療法
毫鍼を使って経穴に刺鍼し、一定の操作をおこなって営衛気血を通調させ、臓腑経絡の働きを調整して治療する方法である。これは運動麻痺に最も多く使われている鍼灸治療の方法である。
1.鍼
毫鍼は鍼尖、鍼体、鍼柄、鍼根、鍼尾の五つの部分からできている。その規格は鍼体の長さと直径で分けられている。運動麻痺の治療に使われている中国の毫鍼は、一般に鍼体が1〜3寸:25mm〜75mm、直径26〜30号:0.45mm〜0.32mmのものが多く使われている。しかし5分:15mmの毫鍼や3寸以上の鍼も使う。また直径が0.5〜1mmの毫鍼を使って経穴に刺鍼する人もあり、刺激量が強いので粗鍼と呼ぶ。
2.操作方法
切皮:片方の手で切皮する方法と、両手を使って切皮する方法がある。運動麻痺の刺鍼治療は、すばやく切皮して局部に痛みを感じさせないようにしなければならない。短い毫鍼ならば片手で切皮してもよいが、長い毫鍼は両手を協力させて切皮する必要がある。
刺入角度と方向:刺入角度には直刺、斜刺、沿皮刺の三種類があるが、経穴の状況や治療の必要に合わせて使い分ける。刺鍼方向は一般に経脈の循行方向や経穴部分、刺入しなければならない病巣部などに基づいて決める。運動麻痺の刺鍼治療では、透穴法を使う必要がある。これは、ある経穴から別の経穴に透刺するもので、刺激量を増やして鍼感を強くし、必要な治療作用を生み出す。
刺鍼深度:一般に鍼感が得られ、重要な組織や器官を傷付けない深さが原則である。各経穴の標準的な深さや、患者の具体的状態に基づいて決定する。運動麻痺の刺鍼治療では、風府、 門などの督脈経穴など、本書の処方通りに操作しなければならない。
運鍼:運動麻痺の刺鍼操作は、一般に捻転法と提挿法を主とするが、両方を組み合わせて操作する場合もある。捻転法と旋捻法の違い、雀啄法と提挿法の違いは以下である。
捻転法:親指の腹と、人差指の第2関節の側面で鍼柄を擦り合わせるもので、指先の腹同士で鍼柄を擦り合わせる旋捻法と少し違う。
提挿法:雀啄法は鍼尖を上下に細かく振動させるだけで、鍼尖は同じ位置にある。提挿法は鍼尖が上下に移動する。そのため雀啄と提挿を区別している。雀啄は振動法である。
虚実に基づいて、刺鍼の補瀉を使うときも、捻転補瀉と提挿補瀉を主とする。
捻転補瀉の操作では、親指を前に推し、人差指を後ろに引くときに力を込めると補。親指を後ろに引き、人差指を前に推すときに力を込めるものを瀉としている。
提挿補瀉の操作は、強く鍼を押し込み、軽く鍼を引き上げるのが補。強く引き上げ、軽く押し込むのが瀉である。捻転、提挿を問わず、動かす範囲や速さは、具体的な状況に基づいて決定する。
置鍼:運動麻痺の刺鍼治療は、一般に刺鍼して気が得られたら置鍼し、置鍼の間は間欠的に運鍼する。置鍼の時間は一般に15〜30分で足りるが、何時間も置鍼することもある。
抜鍼:まず左手で鍼の傍らの皮膚を押さえ、右手で鍼柄を持って、鍼を軽くひねったあと抜鍼する。そのあと虚実に基づいて、補ならすぐに鍼孔を押さえ、瀉では鍼孔をそのままにしておく。
3.臨床応用
各種運動麻痺に対して本法は使える。運動麻痺でよく使われる各種毫鍼の操作法と特殊刺法は、刺激を強くして鍼感の伝達範囲を拡大する。例えば、
健側穴の巨刺法:中風の半身不随患者では、先に健側の肢体の対応部分に刺鍼し、そのあとで患肢に刺鍼する。30例の中風患者を同じ条件のもとで、健側の経穴と患側の経穴に刺鍼して観察した。その結果、巨刺は麻痺した肢体の爪皺微小循環を改善し、明らかに患側に刺鍼したグループより優れていた〔針刺研究 :40,1990〕。同様に、巨刺は病巣の脳の血流も改善したが、これも麻痺した肢体に刺鍼したものよりも優れていた〔山東中医学院報 :47,1989〕。
一穴多鍼法:環跳や足三里のような下肢の経穴は、3〜4寸の毫鍼を使って、まず一本刺入して気を得られたら、刺鍼してある経穴に更に別の鍼をもう一本刺入し、両手で上下捻転を1〜2分おこなったあと、順次抜鍼する。また一穴に、同時に何本も比較的長い毫鍼を刺入し、同時に提挿捻転することもある。一般に片麻痺や対麻痺に使う。
透穴鍼刺法:比較的長めの毫鍼を皮膚に入れたあと、別の経穴に向かって刺入する方法である。一本の毫鍼で複数の経穴に刺鍼できるので、鍼感を増強する。各種の肢体麻痺や顔面麻痺に使われ、手足の筋肉の厚い部分から取穴して、組織の間隙に沿わせて斜刺や直刺をする。頭面部の経穴では沿皮刺を使った透刺法をする。
このほか意識を呼び覚ます、醒神開竅法などもあるが、本書の関係する部分を参照されたい。
4.注意事項
刺鍼する前に必ず楽な姿勢をとらせる。運鍼や置鍼の間、患者は勝手に動いてはならない。
刺鍼する前に、毫鍼を厳しくチェックし、弯鍼や折鍼などがないように防止する。
鍼の刺激量は人によって異なる。鍼感を強調し過ぎて患者に不必要な苦痛を与え、患者に治療を拒否されることのないようにする。
虚弱体質や老人、鍼を恐がるものや初めて治療を受ける患者では、なるべく臥位にさせ、刺激量を小さくし、置鍼の間は患者の表情を観察して暈鍼が起こらないようにする。

二、頭鍼療法
頭鍼療法は頭皮鍼療法とも呼び、毫鍼を頭部髪際区の経穴に刺鍼し、全身の疾患を治療する。頭皮鍼療法は、中枢神経系統の疾患に常用される刺鍼方法で、中風の半身不随、対麻痺、小児の脳性麻痺、頭蓋骨の外傷による後遺症、日本脳炎の後遺症などの麻痺に対して、優れた効果がある。
1.頭鍼の穴名基準治療線
頭部の経穴の特徴と実際の頭鍼治療を結び付け、経脈と経穴、頭穴透刺の原則に基づいて、頭皮鍼の穴名標準化方案を制定した。それは頭鍼で14本の標準治療線がある。
額中線:前額部の正中線で、前髪際の上下0.5寸ずつ。神庭穴から下に向けて1寸刺入する。督脈。主治:意識病、頭面の五官病。
額旁1線:額中線の外側で内眼角の直上、髪際の上下0.5寸ずつで、眉衝穴から下に向けて1寸刺入する。足の太陽脈。主治:心、肺など上焦の病証。
額旁2線:額旁1線の外側、瞳孔の直上で、髪際の上下0.5寸ずつで、頭臨泣から下に向けて1寸刺入する。足の少陽脈。主治:脾胃、肝胆など中焦の病証。
額旁3線:額旁2線の外側で、頭維穴の内側0.75寸の点から下に向けて1寸刺入する。足の少陽脈と足の陽明脈。主治:腎、膀胱など下焦の病証。
頂中線:頭頂部の正中線上、百会穴から前頂に向けて1.5寸刺入する。督脈。主治:高血圧症、中風の半身不随、下肢の痺れや痛み、皮質性の多尿、脱肛など。
頂顳前斜線:頭頂部の側面で、前神総(習慣で前頂穴を取る)から懸釐穴までの斜線。督脈、足の太陽脈、足の少陽脈の三経脈を貫く。麻痺で運動障害のあるものを主とし、上 は下肢麻痺の治療、中 は上肢の麻痺、下 は中枢性の顔面麻痺、運動性失語症などを治療する。
頂顳后斜線:頭頂部の側面で、百会穴から曲鬢穴に走る斜線。督脈、足の太陽脈、足の少陽脈の三本の経脈を貫いている。麻痺で知覚障害のあるものを主とし、上 は下肢の知覚異常、中 は上肢の知覚異常、下 は頭面部の知覚異常を治療する。
頂旁1線:頂中線の外側で、頂中線と0.5寸離れた平行線。通天穴から承光穴まで。足の太陽脈。主治:下肢の麻痺と腰、大腿、足の病症。
頂旁2線:頂旁1線の外側、頂正中線と2.25寸離れた平行線で、正営穴から承霊穴まで。足の少陽脈。主治:上肢の麻痺と、肩、上腕、手の病症。
顳前線:側頭部、頷厭穴から懸釐穴までをつなぐ線。足の少陽脈。主治:片頭痛、運動性失語症。
顳后線:側頭部、率谷穴から曲鬢穴までをつなぐ線。足の少陽脈。主治:片頭痛、目まい、耳鳴り、耳聾など。
枕上正中線:後頭部の正中で、強間穴から脳戸穴までの線。督脈。主治:眼病、腰背痛など。
枕上旁線:枕上正中線の外側0.5寸で、枕上正中線の平行な直線。足の太陽脈。主治は枕上正中線と同じ。
枕下旁線:玉枕穴から天柱穴まで。足の少陽脈。主治:後頭痛、平衡感覚の障害。
2.操作方法
切皮:一般に28〜30号、1〜1.5寸の毫鍼を使い、すばやく沿皮刺で頭の皮下下に刺入し、鍼体が帽状腱膜の下層に達したら運鍼する。毫鍼は1寸ぐらい刺入する。
快速捻転法:術者の肩、肘、手首を固定し、人差指を半屈曲状態にして、親指の第1節の掌側面と、人差指の橈側面で鍼柄を挟み、人差指の掌側の関節を、すばやく連続で屈伸させ、鍼体を左右に旋捻させる。回転速度は毎分200回前後。
抽気法と進気法:小刻みな提挿を主とする。
抽気法は、鍼体が帽状腱膜下層に入り、1寸ぐらい刺入したら、親指と人差指で強く鍼柄を挟み、急に力を外に向けてすばやく鍼体を三回引っ張るが、一回に1分以上引き出さないようにする。その後ゆっくりと鍼を内部に向けて元の位置まで推し戻す。
進気法は、鍼体が帽状腱膜下層に入り、1寸ぐらい刺入したら、親指と人差指で強く鍼柄を挟み、急に力を内に向けてすばやく鍼体を三回推し込むが、一回に1分以上押し込まないようにする。その後ゆっくりと鍼を外に向けて元の位置まで引き上げる。抽気法は瀉法で、進気法は補法である。
徐疾補瀉法:徐疾補法は、ゆっくりと帽状腱膜の下層に1〜1.5寸刺入し、1分ほど強く穴位を圧迫した後10分置鍼し、捻鍼を繰り返した後すばやく抜鍼する。徐疾瀉法は、すばやく帽状腱膜の下層に1〜1.5寸刺入したあと10分置鍼し、ゆっくりと鍼を引き上げ、鍼孔の皮膚が盛り上がるような形で抜鍼する。
振動術:帽状腱膜の下層に1〜1.5寸刺入し、しばらく置鍼したら鍼体を 引き出しあと、軽い旋捻と提挿でかすかに鍼体を9回振動させる。このように9回振動を繰り返したあと抜鍼する。
置鍼:頭皮鍼の置鍼では適当に時間を延ばすので、一般に2時間だが、24時間に及ぶこともある。置鍼の間、患者は随意運動と機能訓練をおこなう。置鍼の間2〜3回、間欠的に運鍼をおこなう。
抜鍼:普通の毫鍼と同じだが、必ず鍼孔を圧迫しないと出血する。
3.臨床応用
頭鍼は、脳卒中(中風)による片麻痺、小児の脳性麻痺、日本脳炎などの脳炎の後遺症や対麻痺に対して常用されている治療法である。脳障害による麻痺は、抽気法や進気法、快速捻転法、徐疾補瀉法などが常用される。実際に徐疾補瀉手法で治療した人があり、虚証には補法、実証には瀉法を使い、快速捻転手法を使った方が効果が優れていた〔四川中医 :44,1989〕。対麻痺に対しては頭皮鍼の振動術を使うと、脳の機能と患肢の血流変化の改善に有効である。
4.注意事項
小児の閉じていない大泉門や、頭皮にひどい感染があったり傷があったりすれば刺鍼しない。妊婦も避ける。

三、眼鍼療法
眼鍼療法とは、眼窩周辺の穴区に刺鍼する方法で、片麻痺に有効として現在使われている治療法の一つである。
1.眼窩周辺の穴区
両目を正視し、瞳孔の中心から目の内眦(目頭)に至る水平線を引き、さらに瞳孔の中心から水平線と垂直な線を上下に引くと、眼は四つの部分に区分けされる。さらにそれを二等分すると、下の図のように全部で8つの眼窩周辺の穴区ができる。
左目は陽に属し、陽は陰から生ま
右 左 れる。左目の8個の眼窩周囲の穴区
| | は時計周りに並んでいるが、左右の
7 6|5 4 8 1|2 3 各穴区が代表する臓腑は同じで1区
−−−−+−−−− −−−−+−−−− は肺と大腸、2区は腎と膀胱、3区
8 1|2 3 7 6|5 4 は上焦、4区は肝胆、5区は中焦、
| | 6区は心と小腸、7区は脾と胃、8
区は下焦となっている。それぞれの
眼鍼 穴区図 穴区は眼窩の外にあり、眼玉と一横
指離れている。8個の穴区は眼窩の
周りを一周し、上は眉毛の下際、下は眼窩の縁から2分ほどのところである。
2.操作方法
患者に自然に目を閉じさせ、左手の親指と人差指で眼球を固定し、皮膚をピンと張らせて、右手に32号0.5寸の毫鍼を持って、軽く皮下に刺入する。だいたい横刺(平刺)か斜刺にするが、熟練したものは直刺でもよい。ただし所定の穴区をはみ出さないないよう注意する。運鍼の必要はない。刺鍼しても気を得られないものは、鍼を少し引き上げ、方向を変えて刺入する。気を得られたら15〜30分置鍼する。
3.臨床応用
中風の半身不随が主であるが、顔面麻痺にも使える。置鍼の間は肢体を運動させる。
4.注意事項
刺鍼方向と深度、操作に注意し、眼球を刺さないようにする。抜鍼の前後では鍼孔を押さえ、ゆっくりと抜鍼する。

四、耳鍼療法
毫鍼、皮内鍼、灸、レーザーなどの器具を使って、耳郭にある穴位を刺激して治療する方法である。耳鍼療法を運動麻痺治療に使うときは、毫鍼による刺鍼と王不留行の種による耳穴圧迫法を使う。
1.毫鍼刺鍼
耳穴をマニュアル通り消毒し28号か30号、0.5〜1寸の毫鍼をすばやく刺入し、軟骨に刺さる程度、1〜2分直刺する。捻転して着替えられたら、15〜30分置鍼し、その間1〜2回運鍼する。抜鍼するときは消毒綿花で鍼孔を圧迫し、出血を防止する。
2.耳穴圧丸法
直径5mmぐらいのバンソコウの中央に王不留行の種(ベヤリングでもよい)を乗せて耳穴に貼り付け、毎日患者にその上をマッサージさせる。2〜3日に一回貼り替える。
3.臨床応用
耳鍼療法は、さまざまな運動麻痺に使える。ふつうは毫鍼や頭鍼などの補助治療として使われるに過ぎないが、運動麻痺の治療に単独で使われることもある。中風による半身不随患者は、神門、肝、腎、皮質下、脳幹および耳の後面で対応した耳穴を取る。指圧すると、下肢に怠い痺れ、重さ、引きつけなどの感覚が起こる部分があるので、そこに刺鍼すれば効果がよい。一般に発病から3ケ月以内のものに、こうした感覚が多く現れる。そのため耳穴の指圧は中風の半身不随治療だけでなく、予後を予測できる。

五、巨鍼と芒鍼
巨鍼は太くて長い、ステンレス製の毫鍼で、芒鍼は長い毫鍼である。どちらも運動麻痺に透穴して使う。
1.巨鍼療法
直径0.5〜1mmで、鍼体が三寸以上のものを巨鍼と呼ぶ。経穴を消毒し、術者は両手で鍼を持つ。左手の親指と人差指で鍼体の下端、鍼尖から0.5〜1寸離れたところをつまみ、右手で鍼柄を持つ。そして一気に力を入れて迅速に切皮し、皮膚を貫いたら必要な角度に向けて刺入し、目的の部位に到達させる。手法の強さは患者の感受性に基づいて決定する。抜鍼はゆっくりとおこない、すばやく鍼孔を圧する。
2.芒鍼療法
太さは毫鍼と同じだが、鍼体が4寸以上のものである。治療によって必要な長さのものを選ぶ。右手で鍼柄を持ち、左手で鍼体の下端を挟んで、右手の指と手首を使って、左右の手に同時に力を込める。右手で捻鍼し、左手は少し下に圧力を加えて切皮し、そのあと鍼尖を目的部位まで到達させる。一般に捻転幅を小さくし、軽刺激する。施術が終わったら、ゆっくりと鍼を引き抜き、軽く抜鍼したあと、すぐに鍼孔を圧する。
3.臨床応用
小児麻痺の後遺症、ギラン・バレー症候群、そして治りにくい脳血管障害による片麻痺などに使う。例えば小児麻痺の後遺症では、巨鍼を使って、長強から命門まで透刺、命門から至陽まで透刺、至陽から大椎まで透刺するが、それを「背三鍼」と呼ぶ。
4.注意事項
取穴は選りすぐって少なくする。操作するときは、刺鍼方向と深さを把握し、重要な臓器や組織、器官を損傷しないようにする。
長くて太い鍼出刺激するのを恐れるものには、一般に使わない。
妊婦や出血傾向のあるものには、巨鍼は使わない。
楽な姿勢をとらせ、運鍼や置鍼の間、動かないようにし、切鍼を防止する。

六、皮膚鍼療法
短い鍼を束ねた梅花鍼などを使って皮膚を浅刺、速刺し、皮下組織には刺入しない方法である。体表の経絡や経穴を刺激して、気血の運行を調整し、全身の疾患を治療する。運動麻痺の治療では、皮膚鍼は補助治療として使われるので、他の方法を組み合わせる。
1.鍼
鍼柄は15〜20cm、エボナイトや有機ガラスで作ってあり、丈夫で弾力性がある。鍼頭はカナヅチのようで、ハスの実のように鍼が束になって填め込まれている。鍼は短くて、鍼尖が水平にそろって円状になっていなければならない。
2.操作方法
右手の親指、中指、薬指、小指で鍼柄を握る。人差指は鍼柄の中程に置き、手首のスナップを使って前腕を動かし、鍼を皮膚に垂直に当るように、すばやく均一に叩刺する。引っ掻いたり、斜刺や慢刺とならないようにする。
3.臨床応用
中風の半身不随、多発性神経炎、対麻痺や周囲神経の損傷によって起こった麻痺などの各種肢体の麻痺を治療する。一般に中強刺激で、局部の皮膚が紅潮するか血がにじむ程度にする。顔面麻痺にも使う。
肢体麻痺では、麻痺した四肢の叩刺、経絡に沿って叩刺するとともに、背骨とその両側(督脈と足の太陽脈)も叩刺する。また関節付近の経穴を重点的に叩刺する。顔面麻痺では吸い玉を併用し、治りにくい病気を治療する。
4.注意事項
叩刺は、上から下の順序でおこなうが、繰り返し叩刺してもよい。
局部の皮膚に潰瘍や損傷あればおこなわない。出血傾向のひどいものにも使わない。

七、灸治療
灸治療は、モグサを円柱状に巻いた棒灸や、円錐形にしたモグサに点火して経穴を刺激し、経絡を流通させて、血を循環させて滞りを解消し、陽を温めて気を助けることによって病気を治療する方法である。運動麻痺で使われるのは、棒灸、直接灸、灸頭鍼である。
1.棒灸
施灸するときに棒灸の端に点火し、経穴や患部の皮膚から2〜3cm離す。患者は局部を温かく感じるが、熱さは感じないようにする。各穴を5〜1分施灸するが、時間を延長してもよい。
2.艾 の灸
直接灸:麻痺では、麦粒かエンドウ豆大の艾 を使う。まず施灸部位にワセリンを塗って、艾 が落ちないようにしてから点火する。艾 が燃えて患者が熱さや痛みを訴えたら、燃え尽きていない艾 を取り去り、さらに第二壮をすえる。
隔姜灸:生のショウガを3〜4mmの厚さにスライスし、鍼でいくつか穴を穿けてから経穴の上に置き、その上に質の悪いモグサを乗せて点火する。局部が温まるか、皮膚が赤くなればよい。
3.灸頭鍼
毫鍼を置鍼している間、鍼柄にナツメの種大のモグサか、2cmぐらいに切った棒灸を挿して、下端から点火する。鍼下が温かくなればよい。
4.臨床応用
脳血管障害による麻痺と顔面麻痺に使うが、そのほかの麻痺に対しても補助治療として使う。中風の半身不随では、天窓、百会、曲鬢、承霊、正営、そして中風十二穴を取り、棒灸で温めたり、麦粒大の艾 を神庭穴にすえると効果がある。顔面麻痺には灸頭鍼、棒灸、隔姜灸が使われるが、葦管器を使った灸(葦の管の一端を、アヒルのクチバシのように切り落とし、そこにモグサを置いて点火し、垂直に切り落とした方を耳に差し込むと、煙は管を伝わって鼓膜付近を温める)でも効果がある。棒灸はいろいろな麻痺に対して、家庭で補助治療として使える。
5.注意事項
患者は身体を水平にし、施灸時に艾 が落ちて皮膚を火傷しないようにする。
麦粒大の艾 は、燃え尽きる前に取り去る。棒灸は皮膚に近づき過ぎないよう。
ようするに、灸は虚証や寒証に適している。

八、刺絡吸い玉療法
三 鍼で点刺したり梅花鍼で叩刺して局部から出血させたあと、吸い玉を使う方法で、筋を緩めて血を循環させて麻痺の治療をする。
1.操作方法
経穴を決めたら、三 鍼で点刺するか梅花鍼で叩刺して血をにじませ、さらに適当な大きさの吸い玉を10〜20分ほど乗せる。吸い玉を取り除いたら、乾いた綿で局部の出血部分を拭く。
2.臨床応用
一般に脳溢血で関節がこわばったり、慢性の顔面麻痺に使う。
3.注意事項
出血傾向のあるものに対しては、本法は使わない。
吸い口の大きさは適当なものを選ぶ。顔面部では特に小さな吸い玉を使う。
火を使う吸い玉では、アルコールを余分に付けないようにする。火の付いたアルコールが滴って火傷する。
刺絡では出血させる量を把握する。

九、電気鍼療法
刺鍼して気を得られたら鍼に電流を通して、電気刺激で刺鍼操作の代用とするもので、刺鍼と電流の総合刺激によって刺鍼の効果を高めるものを電気鍼療法と呼ぶ。麻痺の治療ではパルス電流がよく使われる。
1.操作方法
術者はパルス器の性能をよく知り、初めて電気鍼治療を受ける患者には、その治療の特徴と鍼感を説明し、暈鍼を避けるためできるだけ臥位で治療する。
取穴や刺入法は毫鍼療法と同じで、穴位に刺入したら運鍼し、気を得たらパルス器のボリュームが0になっていることを確認して、一つの肢体の鍼柄に出力コードをそれぞれつなぐ。両側につなぐと心臓に電気が流れるので避ける。
電源につないだら、適した波形を選び、必要な電流になるまでボリュームをゆっくりと回す。
パルス電流の強さは、患者の病状、体質、年齢、刺鍼部位などに基づいて決めるが、一般に患者が心地好く感じる程度とする。
通電して数分すると、電流の適応現象が起こり、刺激が弱まったと感じるので、そのときは再びボリュームを回して刺激を強くする。
通電時間は一般に15〜30分である。スイッチを切ったらボリュームを0に戻し、コードをはずしたあと抜鍼する。
2.臨床応用
いろいろな麻痺に使う。毫鍼の処方にパルス電流を加えるが、一般に同側の肢体から2〜4穴を取って通電する。小児麻痺の後遺症では電気排鍼法(鍼を縦に並べる)を使う。
3.注意事項
コードをつなぐ前に、ボリュームが0になっているかどうか、スイッチは切れているか確認する。もし0でなく、スイッチが入ったままだと、慣れて強くしたままの電流が急に鍼に通じるので、強烈なショックがある。
頭穴では慎重に電流の強さと波形を選ぶが、一般には弱電流がよい。妊婦は下腹部や腰仙部の経穴、合谷や三陰交に電気鍼をすると、流産の恐れがある。
電流を調整するとき急に強めると、筋肉が強く収縮して弯鍼や切鍼の恐れがある。
毫鍼は鍼柄や鍼体を検査して使う。鍼柄の表面が酸化していると電気を通さないし、鍼体に折れ曲がった痕があると切鍼の恐れがある。
心臓病の患者では、電流が心臓を流れないようにする。

十、穴位注射療法
ある種の薬物を経穴に注入するもので、刺鍼と薬物の相乗効果を使って治療する。穴位注射とか水鍼療法と呼ばれている。
1.本治療法では滅菌済みの注射器と針を使う。使われる注射器は1m 、2m 、5m と10m のもので、針は4〜6号の普通の注射針である。
運動麻痺治療で使われる薬物は、ビタミンB1、B2、B12、ATP、コエンザイムA、ガランタミン、スポコラミン、丹参注射液などがある。
2.操作方法
マニュアル通り皮膚を消毒し、滅菌注射器に必要量の薬剤を吸入させ、針をすばやく穴位に刺入して一定の深さに達したら、提挿などの手法で気を得る。気が得られたら少しピストンを引き上げ、血が注射器の中に入ってこなければ、ゆっくりと注射器を引き上げながら薬剤を押し出す。血が入ってくるようならば穴位注射でなく血管注射になっているので位置を替える。注入速度は遅いほうがよい。針を皮膚から抜鍼するときは迅速にして、アルコール綿花でしばらく圧迫する。
3.臨床応用
各種運動麻痺に使う。
4.注意事項
少なく選穴するので、1〜3穴が適当。それぞれの穴位への注入量は1m 程度で、多すぎないようにする。
門や風府、胸背部の経穴に深刺してはならないが、刺鍼方向にも注意する。
ピストンを引っ張ったとき血が注射器の中に入ってくるならば、刺鍼方向を替えて引いても血が入らない部分で注入する。
以上の方法以外にも、穴位埋線や穴位結扎、レーザー照射などもある。

麻痺鍼灸の処方原則

麻痺の鍼灸治療の処方は、取穴、操作、治療時間そして治療法などの内容を含む。治療では、疾病の診断と麻痺の類別、辨病(病名分類)と辨証(証の分類)を組み合わせ、間の程度などの具体的な状態に合わせて、適した鍼灸治療をする。

一、疾病の診断と鍼灸処方
麻痺とは、さまざまな原因によって引き起こされた神経系統の損傷であり、それによって肢体の運動や感覚などが部分的、あるいは完全に消失するものである。鍼灸治療では疾病をはっきりと診断し、その適応症を考慮して適切な鍼灸治療を採用し、取穴処方することが効果を高めるために重要である。麻痺を起こした病因と神経障害の範囲にもとづいて治療をおこなうのが、麻痺の鍼灸治療の原則である。
脳障害による麻痺は、脳血管障害による麻痺、小児の脳性麻痺、脳炎の後遺症などを含むが、主な損傷部分は中枢神経系統にあり、脳実質と脳血管の病変が主である。鍼灸治療では、百会、前頂、後頂、絡却、通天、四神総、懸釐、曲鬢、 門、風府などの頭部経穴を主とし、刺鍼や灸、電気鍼や穴位注射などによって患者の脳の血流を改善し、患肢の筋力を高め、肢体の運動機能を回復に有利に作用する。最近では頭鍼療法によって中風の半身不随や小児の脳性麻痺を治療することを推奨されているが、それは伝統的な頭部の経穴への刺鍼を発展させたものであり、麻痺の鍼灸治療の効果を高めることにとって重要な意味がある。
対麻痺の損傷部位は脊髄で、発病原因は脊髄炎と脊柱の外傷であるが、鍼灸治療も一定の効果がある。鍼灸治療では督脈経穴と夾脊穴から選ぶが、脊髄の損傷部分と損傷された水平面の状態に基づき、合理的な鍼灸治療をおこなえば、麻痺した肢体の機能回復を助ける。例えば「断面九針穴」の処方は督脈穴と夾脊穴を主とし、深刺や電気鍼をする。最近では「脊髄鍼」法が提唱されている。これは損傷した脊髄平面の上下二つの椎体の間隙に各一本ずつ刺鍼し、深刺して電気刺激を加えるものだが、これは伝統的な督脈穴に対する刺鍼を発展させた方法である。
周囲神経が損傷されて起こった麻痺は、肢体局部の穴位を取って鍼灸治療をおこなう。症状の違いによって循経取穴をしたり、損傷した神経幹に刺鍼したりするのが、こうした種類の麻痺に対する鍼灸処方の形式である。例えば橈骨神経が損傷していれば、頚臂、極泉、扶突などを取穴し、総腓骨神経の損傷では承扶、殷門、環跳、陽陵泉、足三里などを取穴する。
ここで言っておきたいのは、麻痺の鍼灸治療は一定期間治療することが必要で、一回目の治療ではまったく効果がないことが多く、二回目や三回目からはっきりした効果が現れてくる。鍼灸処方で、長期にわたって治らない麻痺患者に対しては、頭部穴、背部穴、四肢穴を組み合わせてグループに分け、交替に使って治療する。
このほか麻痺の症状や原因の違いによって、穴位を変えることも大切である。例えば中風の半身不随で、痙性麻痺ならば陰経の経穴を主とし、弛緩性の麻痺なら陽経の経穴を主とする。急性脊髄炎によって起こった対麻痺ならば、腎兪や大腸兪などの背兪と、関元や中極などの募穴を組み合わせ、それに下肢の経穴を加えて、まず陽経に、次に陰経に刺鍼する。外傷性の対麻痺では、一般に督脈経穴と夾脊穴を主とする。

二、辨証分類と鍼灸処方
辨証論治は中国医学の原則である。疾患によって現れる症状の違いと、患者の体質などを考慮して治療方法を変え、優れた効果を上げられる。麻痺の鍼灸治療では、辨証によって型に分類し、経穴の処方や操作方法を組み合わせてゆく。
例えば多発性神経炎は、脾胃が虚弱、気滞血 、湿邪の稽留などの証候に分類される。それに対応させて、脾胃虚弱型では中 、胃兪、脾兪を使って脾を丈夫にして胃を和ませる。気滞血 型は合谷、太衝、三陰交で経絡を流通させ、気を調えて血を活発に循環させる。湿邪稽留型は陰陵泉、公孫を使って湿邪を取り除けば効果が高まる。
ギラン・バレー症候群の場合、中医辨証では三つの型に分ける。肺熱で陰が傷付いた型では大椎、肺兪、列缺、少商を取って、熱を清めて陰を養い、肺気を通らせて行き渡らせる。脾胃の湿熱型は曲池、手の三里、足三里、三陰交(または梁丘、血海、外関、合谷)を取って、熱を清めて湿を取り去り、脾を丈夫にして胃を和ませる。肝腎虚弱型では、腎兪、曲泉、三陰交、関元兪、血海、梁丘、足三里、臂臑、手の三里を取って、腎を補い肝を助け、経絡を流通させる。
また脳血管障害による片麻痺では、現れた症状の違いによって分類し、それに基づいて鍼灸処方をする。肩 、曲池、合谷、環跳、陽陵泉、委中、懸鐘など、肢体の経穴を基本穴として取り、さらに肝陽が旺盛になり過ぎた型には合谷、太衝、足三里、三陰交などを加えて瀉法をし、肝の陰陽バランスを取り戻させて陽を潜める。気虚による血 型では、気海、関元、腎兪、足三里などを加えて補法をし、気を助けて血を循環させる。肝腎の陰虚型では、腎兪、命門、太谿、照海を加えて補法をし、肝腎を補益する。脾虚により痰が経絡を阻んだものは、尺沢、太淵、豊隆、陽陵泉、梁丘を加え、補法したり瀉法をし、脾を健全に運化させて痰をなくす。
顔面部の筋肉麻痺でも同様に辨証分類してから鍼灸治療をおこなう。顔面局部の穴位を基本とし、風邪が絡脈にあるものは曲池と外関を加える。風寒が外襲したものは風池と曲池を加える。風熱が溜って塞いだものは、中渚、頭維、内庭を加える。湿痰が絡脈を阻害したものは、豊隆と足三里を加える。気滞血 には人中、承漿、三陽絡、太衝を加える。脾虚により血が少ないものは、血海、足三里、膈兪、脾兪などを加える。証候の違いに基ずいて、異なった治療方法と操作方法を使って治療効果を高めることができる。

三、罹病期間と鍼灸処方
麻痺の罹病期間と鍼灸治療の効果は関係がある。一般的に、麻痺してからの時間が短いほど治療効果がよく、時間が経ったものほど効かない。そのため治療では明確な診断が前提であるが、各種の原因で起こった麻痺に対して、早期に合理的な鍼灸治療をすることが大切で、それによって治療効果を高めることができる。例えば顔面神経麻痺で、炎症によるものでは発病してから7日目ぐらいに治療を始めるのが最もよく、周囲性の顔面麻痺では1ケ月以内に鍼治療をすれば治る。中風の半身不随は正確な診断をし、すぐに鍼灸治療をする。早期治療で治療効果は高まる。脳出血による片麻痺患者では、以前は初期の鍼治療はよくないと考えられていた。しかし現代の臨床報告を見ると、意識が回復したら、発病後2〜3日、遅くとも10日以内に鍼灸治療を始めれば、治療効果を大幅に高めることができる。
麻痺の罹病期間の鍼灸治療は、その時期に合わせた処方をするが、これを「分期処治」と呼ぶ。顔面麻痺を例に挙げれば、急性の炎症期には現代薬による消炎を主とし、鍼灸は補助となる。発病して1週間から半年の安定期では鍼灸が主となり、薬物や漢方薬は補助として使う。病気が慢性化してこじれたら鍼と漢方薬を併用し、現代薬は使わない。また急性期(発病してから2週間以内)の症状は顔面神経の浮腫なので、顔面部からの取穴は避け、遠隔穴を使って鍼灸をおこない、病状が安定してから顔面部の穴位を使ったほうがよいとする人もある。初期では浅刺で刺激量は少なく、なるべく顔面部からの取穴は少なくする。後期では透穴法を使い、刺激量を多くして顔面部からの取穴を主とする。
また中風の半身不随に対する鍼灸治療でも、罹病期間に合わせて処方する。発病初期では健側の穴位を取り、経絡を流通させて、実を瀉して虚を補う。発病してから半年以上経て、病気が中期となったものは、両側の経穴を取り、気を助けて血を活発に循環させ、陰陽バランスを取り戻す。後期で、肢体の関節が変形したり筋肉が萎縮したものでは、患側を主とした取穴し、関節の機能を矯正することに主眼を置く。中医理論では、激しければ対症療法をおこない、緩ければ根治するのが原則である。中風の半身不随では、百会、前頂、後頂、通天などの頭部穴を主とし、急性期や病気が繰り返すものには風池、列缺、足三里、三陰交、八邪、八風を加えて標を治療する。回復期や老人では、列缺、照海、足三里、懸鐘、合谷、陰谷、曲池などを加えて本を治療する。
また急性感染性の多発性神経根炎では、初期では背兪穴や夾脊穴を主とし、すばやく刺鍼して強刺激する。中期や末期では肢体の経穴を主とし、置鍼して中刺激をする。

四、穴位の組分けと鍼灸処方
複雑で時間が経過しており、すぐに治癒させることが難しい運動麻痺に対して鍼灸治療をするときは、複数の経絡から複数の経穴を処方しなければならないが、具体的な状態に合わせて、それらの経穴をいくつかのグループに分けて順番に使って行く。穴位の組分け治療の方法は、頭部、背部、四肢の経穴に分けて組み合わせたり、一回にある一経脈の経穴や、複数経の経穴を取って順番に使用するなどの形式で処方する。
例えば対麻痺の鍼灸処方では、複数の経脈から複数穴を取ったり、グループに分けて順番に使うなどの形式を取ることがある。北京の故老中医、王楽亭先生は「対麻痺治療の十一法」を提唱していたが、それは督脈穴、夾脊穴、背兪穴、足の太陽経穴、任脈穴、足の太陽と足の陽明経穴、足の厥陰と足の少陽経穴、手の三陽経穴、手の三陰経穴などのグループに分けて処方するもので、「対麻痺治療は、まず督脈穴」を基礎として、局部と全体を組み合わせる治療原則に重点を置き、段階に分け、順序にしたがって鍼灸治療をする。それによって全身の十二経脈、奇経八脈および所属する臓腑の機能を調整し、脊髄神経の伝達機能を改善して、運動麻痺や知覚麻痺のある肢体を正常に回復させる。現在使われている同一経脈の経穴を交替で使用する方法は、督脈、夾脊、足の太陽、足の陽明、足の少陽、任脈に、足の三陰経を組み合わせて六組の経穴グループとし、交替で使う。毎日1グループの鍼灸処方を使い、外傷性の対麻痺を治療して優れた効果を上げている。
難治性の日本脳炎の後遺症患者に対しては、罹病期間が長く、病状も複雑なので、やはり複数経脈から複数経穴を取り、経穴グループに分けて治療する方法を使う。例えば王乃一氏は循経取穴、局部取穴、原絡配穴を組み合わせ、複数経脈から複数経穴を取穴して、それをグループに分けて日本脳炎の後遺症を治療して、一定の効果を上げている〔中国鍼灸 :39,1989〕。また慢性で長期間治療しても治らない脳卒中の半身不随では、百会、風池、通天、承光などの頭部穴と、上肢なら頚椎の5〜6と胸椎の1〜2、下肢の麻痺では胸椎の11〜12と腰椎の1〜4の夾脊穴、そして四肢の経穴を組み合わせ、グループに分けた取穴処方をして交替で使っても、優れた効果を上げた。

五、総合療法と鍼灸治療
麻痺は難病の一つである。少なからぬ麻痺患者は病状が複雑で罹病期間が長いため、速く治すことができなかったり、変形や筋肉が萎縮している。罹病期間が短い場合でも、治療が適切でないために、機能回復の可能性がなくなり、長期化して治りにくい複雑な病状となっている。そのために各種療法を総合した治療方案が提唱されているが、それは麻痺の治療効果と健康回復の水準を向上させるための、現代の重要な治療原則である。
各種の異なった鍼灸治療を使い、鍼灸の刺激部位と刺激の強さの違いによって、さまざまな麻痺を治療し、患者の体質を改善して肢体の運動麻痺と感覚などの機能を回復させ、各種の併発症を緩解させたり治療することは、臨床的な意義がある。現在の治療では、刺鍼、灸、穴位注射、電気鍼などを総合的に使って麻痺の治療をしている。また鍼灸療法を主とし、マッサージ、気功、運動、心理療法や薬物療法などを組み合わせるものもある。
中風の半身不随で、頭鍼、体鍼、耳鍼を組み合わせ、頭皮鍼は運動区、感覚区、足運感区を取り、体鍼は鷹上と足起穴を取り、耳穴では心、肝、脾、腎および肢体の対応部分の耳穴を取って鍼灸治療をし、漢方薬と薬物治療を併用した標準的治療を受けたグループと比較観察をおこなったところ、治療効果に著しい違いがあった〔中国鍼灸 :8,1988〕。またある人が百会から曲鬢までの頭皮鍼、肢体の巨鍼を使った透刺、そして井穴、十宣、太陽、曲沢、委中からの三 鍼を使った刺絡などを組み合わせて中風の半身不随を治療したところ、その治療効果を一般の鍼灸治療と比べると明らかに差があった〔鍼灸学報 :13,1990〕。このほか頭穴と体穴、眼鍼を併用したり、気功、按摩、鍼灸、電気興奮を組み合わせて中風の半身不随を治療して成功した例もある。
また唐祥輝達は刺鍼を主として対麻痺患者の総合治療をおこなった。刺鍼、灸、按摩、穴位注射、漢方薬を使った局部入浴、機能訓練と漢方薬や医薬品を使った総合治療をおこなったところ、患者の肢体の機能回復水準が向上し、尿路感染や褥瘡などの併発症の発生を抑えられた〔中国鍼灸 :4,1988〕。韓子 は穴位注射、鍼灸、電気鍼、赤外線照射、磁気治療あるいはマイクロ波を使った総合治療で、374例の外傷性の対麻痺と横断性脊髄炎患者を治療したところ、基本的に治癒した37例、著効があった81例、改善した210例、無効46例だった〔中国鍼灸 :3,1987〕。
比較的難しい小児の脳性麻痺患者に対し、現在比較的完成された鍼灸治療と言えるのは穴位注射だが、経穴の刺絡吸角(吸い玉)法と漢方薬浴を組み合わせても効果があった。田洪森は、この方法で19例の乳児の麻痺を治療したところ、治癒15例で、好転と無効は各2例だった〔山東中医雑誌 :20,1987〕。
鍼灸治療に按摩、気功、機能訓練と心理療法などを組み合わせれば、関節の変形や筋肉萎縮、機能喪失などの身体障害の発生を有効に減少でき、麻痺した肢体の筋力と運動、知覚などの機能を改善して心身の健康を増進する。中医治療では「動静結合」を強調しており、患者に適当な機能訓練をすれば、治療効果を高める上で大いに有効である。それは本書の関係する章節で詳しく述べるので、ここでは省略する。

片麻痺の鍼灸治療

片麻痺とは左側あるいは右側の上下肢の運動麻痺で、運動筋力が減弱したり消失するものである。対側面の下部筋肉麻痺を伴うこともある。
片麻痺の大部分は大脳の病変や脊髄の病変により起り、運動神経元性の運動麻痺を主とする。片麻痺の鍼灸治療は、急性の脳血管障害(中風)によって起こった片麻痺が主要な適応症であるが、頭蓋骨の外傷や脳炎によって起こった片麻痺治療にも参考となる。小児の大脳片麻痺や日本脳炎の後遺症による片麻痺は、本書の関係する章を参照する。

一、急性の脳血管障害(中風)
急性の脳血管障害は中風とも呼んでいる。意識障害、半身不随、失語などが突然発生するのが特徴で、中枢性の顔面麻痺を伴うこともある。脳出血、脳血栓、脳栓塞、クモ膜下腔出血や一過性の脳の虚血発作などを含む。
(一)症状
1.脳出血
脳出血とは脳実質内に出血するものをいう。ほとんどは大脳半球に発生するが、脳幹や小脳に起こる場合もある。発病原因の主なものは高血圧症や動脈硬化である。
中高年の高血圧症や動脈硬化の患者に多く、発病前に血圧が急激に上昇する。
昼間発病することが多く、頭を使い過ぎたり感情が激しく変化したときなどに急激に発病する。
多くは急に意識がなくなり、その程度もひどい。一部には意識が徐々になくなっていったり、少数では意識が回復した後、再び昏睡状態となるものもいる。
最初や意識があるときは、急に頭痛が起こったり、少数には癲癇発作がある。半数は嘔吐し、ひどいものは胃から出血してコーヒー色の吐瀉物を吐く。
顔色は紅潮したり蒼白、紫色となり、呼吸は不規則で脈拍は緩慢で強く、血圧は以前より上がる。
半分の顔面麻痺と肢体の片麻痺が起こり、急性期には腱反射や皮膚反射が消失する。
脳脊髄液の圧力が高くなり、血液が混じってピンク色となる。

CTでは、脳の実質内に高密度の出血病巣があり、それが脳室系統に侵入している。
2.脳血栓形成
脳動脈の血栓形成の発病原因は、脳動脈のアテローム変性による動脈硬化である。
老人に多く、脳動脈硬化や高血圧の病歴があったり、糖尿病や赤血球増加症などの病歴がある。
発病の前に、頭痛、目まい、記憶力減退、肢体の知覚異常や無力、言語障害などのはっきりした前駆症状がある。
多くは、血圧が下がったり、血流が緩慢になったり、血液の粘稠度が高くなる安静時に発病し、睡眠中は特に発病しやすい。
一般に意識ははっきりしており、明らかな意識障害はない。しかし一部は発病時に軽度の意識障害があり、対側の肢体、舌、顔面下部の中枢性の片麻痺が起こったり、半身の知覚障害や半盲など動脈閉塞部を特定される症状が現れる。肢体の麻痺は痙攣性が多い。
体温、呼吸、脈拍、血圧にはっきりした変化はない。脳脊髄液の検査も正常。
CT検査では低密度の梗塞病巣があり、閉塞された血管分布と一致する。多くは底辺から外に向かう扇形となっている。
3.脳栓塞
心臓病、特にリューマチ熱による心臓病で僧帽弁狭窄に心房顫動の伴うものが多く、血栓が剥げ落ちて血管に入り、それが脳血管に詰まって脳組織に血液が行かなくなり、虚血や軟化、壊死が起こるが、血管本体には病変のないものである。
青少年に多いが、中高年にも起こる。心臓病の症状や既往症がある。
急激に発病し、頭痛、嘔吐、一過性の意識障害が起こる。大きな動脈が詰まると昏睡状態となる。
運動麻痺、知覚麻痺、半盲によって障害部分を特定でき、左半球を障害されると失語症となる。片麻痺がもっとも多い。限局性の癲癇発作は、ほかの脳血管障害より多い。
脳脊髄液検査は正常。
CTは脳血栓の時と似ている。
4.クモ膜下腔出血
病因で多いものは、脳動脈瘤の破裂や脳血管の奇形、血管の破裂などで、先天的な原因である。また動脈のアテローム硬化で紡錘状となった動脈瘤が破裂しても起こる。この病気は急性脳血管障害の5〜10%を占める。
青壮年に多いが、老人にも起こる。脳血管の病変や動脈硬化歴がある。
力を入れたり頭部の外傷、感情変化によって急激に発病するものが多い。
出血量が多ければ脳内圧が高まった症状が現れ、一過性の軽微な意識障害が起こる。しかしほとんどは意識障害は起こらない。
激しい頭痛、頻繁な嘔吐、後頚部の硬直などの髄膜刺激症状がはっきりしている。もし出血病巣が大脳皮質の運動区を刺激すれば、癲癇発作が起こる。
一部には片麻痺や半身の知覚障害などが起こるが、一般的に後遺症は少ない。
脳脊髄液の圧力が上昇し、血液が混じってピンク色になる。
CTでは血液がクモ膜下腔、大槽、脳溝内に溜り、典型的な高密度の影となる。
発病した後も再発を繰り返しやすい。
5.一過性の脳の虚血性発作
本病は脳の病巣性血液循環障害によって起こる一過性の虚血発作で、ある血管の支配区域に繰り返し現れる常同性の神経症状がある。50歳以上の老人に多い。おもな原因は脳血管の動脈硬化があって、さらに微小な血栓ができることである。
急に発病し、目まい、頭痛、悪心嘔吐などの前駆症状がある。
発病と同時に血圧が上昇し、片麻痺、失明、失語あるいは昏睡やヒキツケが起こる。
罹病期間が短く、後遺症もない。しかし再発しやすく脳梗塞となる。
6.中医辨証
二つに大別される。一つは重症な臓腑に当った中臓腑で、閉証と脱証に分かれる。もう一つは経絡が塞がった中経絡で、症状は軽い。
中臓腑:急に意識がなくなって人事不省となり、顔面麻痺や片麻痺が起こる。両手を堅く握り締め、大小便が出ず、歯を食い締め、顔が紅潮し、呼吸が粗くて痰の音がし、舌苔が厚くて膩、脈が弦滑なものを閉証とする。目を閉じて口を開け、手をダランとさせてイビキをかき、大小便を失禁して手足が冷たくなり、脈が弱くて絶えそうであれば脱証。
中経絡:片麻痺、顔面麻痺、舌がこわばって言葉が出ず、嚥下困難がある。中風の昏睡から覚めて後遺症が残ったものや、昏睡はないが麻痺が残ったもの。
(二)鍼灸治療
急性脳血管障害の中で、脳出血、脳血栓形成、脳栓塞では片麻痺が起こり、後遺症となって残る。クモ膜下腔出血や一過性脳の虚血発作でも片麻痺は起こるが、一般に後遺症は残らない。少数の脳血管の奇形や脳動脈瘤が破裂したものも、片麻痺が後遺症となって残る。
急性の脳血管障害によって起こった片麻痺の鍼灸治療は、異病同治の方法を使う。脳血管障害によって起こった顔面麻痺については、本書の関連部分で解説する。
1.頭皮鍼
処方
取穴:下肢の運動麻痺は頂中線、健側の頂顳前斜線の上 と頂旁1線を取る。上肢の運動麻痺は頂中線、健側の頂顳前斜線の中 と頂旁2線を取る。
操作:坐位か仰臥位。マニュアル通り消毒し、30号1〜1.5寸の毫鍼で、毛髪孔を避け、頭皮に沿わせてすばやく刺入して帽状腱膜の下層に達し、指の下がきつくも緩くもなくて鍼を吸い込むように感じられたら、抽進法の補瀉操作をおこなう。抽気法は、急に力を入れて鍼を3回引っ張るが、一回に1分まで引き出し、続いて鍼を1寸のところまでゆっくりと押し入れる。進気法は、急に力を入れて鍼を3回押し込むが、一回に1分ぐらい押し込んだ後、ゆっくりと鍼を1寸のところまで戻す。どちらも数回繰り返す。一般に急性期や回復期には瀉法である抽気法を、後遺症には補法である進気法を使う。運鍼しているときは患側の肢体に、怠い、腫れぼったい、重い、痺れ感、熱感、涼感、発汗などの反応が現れる。そのとき患側の肢体に鍼感があるかどうかは、気を得られたかどうかの基準となるので治療効果に直結する。だから気が得られなかったら運鍼を続けて気を得て、治療効果があるようにする。そのあと2〜24時間置鍼し、その間は間欠的に運鍼する。
治療期間:急性期は一日1回で10回を1クールし、各クール間は3〜5日開ける。回復期や後遺症期には隔日に1回治療し、5回を1クールとし、各クール間は10〜20日開ける。
注意事項:運鍼時、患者は患肢を運動させなければならない。例えば頂顳前斜線の上 や頂旁1線を運鍼していれば、下肢を運動させる。頂顳前斜線の中 や頂旁2線を運鍼していれば、上肢を運動させる。運動するときは、患者は患肢に注意を集中させ、意識に合わせて患肢を運動させるようにする。随意運動のできないものは、術者や家族が手伝って他動運動させるが、その場合も患者は患肢に意識を集中し、どうやって手足を正常に動かすかを考えるようにすれば効果がよい。置鍼の間、立てないものに術者は患者を手伝って立ち上がらせ、あるいは自力で立ち上がらせ、手伝って歩かせる。さらに自力で歩くようにさせる。どうしても座ったり立ったりできないものは、ベッドの上で肢体運動する。
処方
取穴:百会と曲鬢を結ぶ頂顳后斜線。
操作:1.5〜2寸の毫鍼で、頭皮に沿わせて百会から曲鬢に向けて刺鍼する。三段接力刺(三段リレー刺し)を使う。つまり頂顳后斜線を三等分し、第1鍼目は百会から頭皮に沿わせて1.5寸透刺する。第2鍼目は頂顳后斜線の中 のところを刺入点とし、頭皮に沿わせて1.5寸透刺する。第3鍼目は頂顳后斜線の下 のところを刺入点とし、頭皮に沿わせて1.5寸、曲鬢まで透刺する。そのあと各鍼を毎分200回前後の速さで5分間捻転し、5分休んだら再び5分間捻転する。こうして3回捻鍼し、30分したら抜鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:麻痺した肢体と対側の側頭部。耳尖の直上2寸のところと、その前後それぞれ1寸開くところ。全部で3穴。
操作:30号1.5寸の毫鍼で、頭皮に沿わせて下に1〜1.2寸刺入し、提挿捻転をおこなう。虚証には補法、実証には瀉法、虚実がはっきりしないものは平補平瀉をする。5分に一回運鍼し、30分で抜鍼する。
治療期間:上と同じ。
2.眼鍼
取穴:下肢の麻痺では下焦区を取り、上肢の麻痺には上焦区を取る。そして肝胆区や脾胃区を状態によって加える。
操作:仰臥位。マニュアル通り消毒したあと、左手で眼球を圧して眼窩の皮膚をピンと張り、右手で0.5寸の毫鍼を持って上に述べた穴位を選び、眼窩から2mm離れたところを沿皮刺し、真皮層から皮下組織に刺入する。それ以上刺入してはならない。刺入したあと手法は使わない。患肢が怠い、痺れる、熱い、冷たい、そして心地好さ、および触電感、上下に気が動く感覚等があれば気は得られている。気が得られなければ鍼体を少し引き上げ、方向を変えてから刺入する。気が得られたら5〜10分置鍼する。抜鍼するときは渇いた綿花で鍼孔を圧迫し、出血を防止する。
治療期間:一日1回で10回を1クールとし、各クール間は3〜5日開ける。2クール治療した後、隔日に1回の治療に改める。
注意事項:置鍼の間は、患肢を随意運動させたり、按摩する。
3.毫鍼
処方
取穴:下肢の麻痺は環跳、陽陵泉、足三里、懸鐘を主とし、髀関、伏兎、風市、委陽、陰陵泉、下巨虚、三陰交、解谿、崑崙、太衝を加える。上肢の麻痺は肩 、曲池、外関、合谷を主とし、頚臂(鎖骨の内から と外から の交点の上1寸、胸鎖乳突筋の鎖骨頭外縁)、天泉、中渚、手の三里を加える。
操作:主穴は必ず取り、配穴は順番に使う。麻痺の初期は患肢に刺鍼し、瀉法か平補平瀉をする。罹病期間が長ければ、両側の肢体の経穴に刺鍼するか、交互に取穴して補法をする。手法は捻転と提挿を組み合わせた中強刺激で、患者が耐えられる程度とする。10〜20分置鍼し、その間は数回、間欠的に運鍼する。
治療期間:片麻痺の初期では一日1回。後遺症期では隔日1回治療する。どちらも10回を1クールとし、各クール間は5〜7日開ける。
注意事項:頚臂穴に刺鍼するときは、鍼尖を肺尖に向けてはならない。深刺する必要はなく、腕に触電感があればよい。
処方
取穴:肩 、曲池、合谷、外関、髀関、環跳、伏兎、足三里、陽陵泉。滞りをなくして血を循環させるため内関、三陰交、陰陵泉、血海と、経脈に対応した少商、商陽、隠白、 兌などの井穴を加える。
操作:マニュアル通り操作する。井穴は0.5寸の毫鍼で1〜2分刺入し、気が得られたらすぐに抜鍼する。そのほかの経穴は平補平瀉し、気を得たら15〜30分置鍼し、その間1〜2回運鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:初期では陽経の経穴を主とし、後期では陰経の経穴を主とする。陰経と陽経の経穴は単独で使うか、両方を組み合わせる。
上肢は肩 、曲池、外関、合谷、尺沢、曲沢、青霊、少海、内関を取る。下肢は環跳、風市、陽陵泉、足三里、懸鐘、陰陵泉、三陰交、曲泉、膝関、照海、太谿を取る。
操作:毎回7〜8穴を患肢から取穴し、初期ならば刺鍼して瀉法をし、後期では平補平瀉か補法をしたあと、30〜45分置鍼し、その間2〜3回運鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴: 弛緩性の麻痺には肩 、曲池、合谷、外関、後谿、環跳、陽陵泉、足三里、懸鐘、解谿などの陽経経穴を主とし、尺沢や陰陵泉などの表裏関係にある陰経経穴を1〜2穴加える。
硬直性の麻痺には曲沢、尺沢、間使、内関、大陵、太淵、神門、曲泉、陰谷、陰陵泉、三陰交、中封、太谿、太衝などの陰経経穴を主とし、曲池や陽陵泉などの表裏関係にある陽経経穴を1〜2穴加える。
操作:マニュアル通り操作する。刺鍼して瀉法か平補平瀉し、気が得られたら30分置鍼し、その間1〜2回運鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:上肢穴(健側の上肢を胸の前に曲げ、前腕の尺側内縁の中点から上に0.5寸上がったところ)と、下肢穴(仰向けに寝て、健側の下肢を屈曲させ、腓骨頭から2寸上がったところ、大腿二頭筋腱の上縁)。
操作:健側に刺鍼する。28号の毫鍼で、すばやく切皮し、軽く捻転をしながらゆっくりと鍼を刺入し、手足の直径の約 の深さまで到達させると、患肢に力が入る、軽くなるなどの感覚が起こって運動機能が幾らか改善し、術者の指下が硬くなったような感じがする。そうなったら30〜90分置鍼する。もし手足の直径の の深さまで刺入しても気が得られなかったら、鍼をいったん皮下まで引き上げ、方向を修正して刺入する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:肩 、曲池、手の三里、合谷、環跳、陽陵泉、足三里、解谿。
操作:三つの段階に分けて健側と患側の経穴を取る。第一段階は健側から取穴し、刺鍼して瀉法で2分間運鍼したあと、患者の患肢を運動させる。もし効果がなかったら、10分置きに1回運鍼を繰り返す。それでも反応がなければ、24時間後に再び治療をおこなう。患肢が少し動くようになったら、第二段階の治療をおこなう。健側の経穴には瀉法をおこない、患側にも刺鍼して補法をする。患肢の運動状態が明らかに改善されたら、第三段階の治療をおこなう。第三段階は患肢の経穴に補法をおこなうことが主となり、補助として健側の経穴は補法をする。こうして治療は健側から患側へと徐々に中心が移る。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:病状に合わせて分類取穴する。
肝陽上亢:合谷、太衝、足三里、三陰交を主とし、肩 、曲池、手の三里、環跳、陽陵泉、秩辺、委中、飛陽、懸鐘を加える。
気虚血 :気海、関元、足三里、腎兪を主とし、肩 、手三里、合谷、環跳、風市、陽陵泉、飛陽、懸鐘を加える。
肝腎陰虚:腎兪、命門、太谿、照海を主とし、曲池、外関、陽陵泉、懸鐘、 陽を加える。
脾虚痰阻:尺沢、太淵、豊隆、伏兎、梁丘、陰陵泉を主とし、肩 、曲池、合谷、環跳、陽陵泉、懸鐘を加える。
操作:肝陽が亢進した脳卒中型では、刺鍼して瀉法をする。気虚血 型では、刺鍼して補法をし、抜鍼後に棒灸で温和灸をする。肝腎の陰虚型では、陽経経穴には刺鍼して瀉法をし、陰経経穴には刺鍼して補法をする。脾虚により痰ができて経絡を阻んだものでは、尺沢、太淵、陰陵泉穴には刺鍼して補法をし、そのほかの経穴には刺鍼して瀉法をする。気が得られたら30〜45分置鍼し、その間1〜3回運鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:頭臨泣から正営への透刺、風池、内関、三陰交、人中を主とし、極泉、曲池、環跳、殷門、陰陵泉から陽陵泉への透刺を加える。
操作:まず健側の肢体に刺鍼するが、それと同時に患者の患肢を運動させる。患肢が動き始めるようになれば、両側に刺鍼する。人中穴は雀啄法を使い、目が涙で潤むようならよい。風池、極泉、環跳、殷門穴は、刺鍼して強刺激で瀉法をし、気が得られたら抜鍼する。頭臨泣から正営への透刺は、速い捻転を5分おこない、曲池、内関、陰陵泉から陽陵泉への透刺、三陰交、太谿は刺鍼して瀉法をしたあと15〜20分置鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:頚の4〜6の夾脊穴、腰の3〜5の夾脊穴。
操作:頚の夾脊穴は、刺入して捻鍼はしないか、わずかに捻鍼する程度。痺れるような触電感が腕に伝わったら、刺入をやめて抜鍼する。腰の夾脊穴は、3寸ほど直刺し、やはり捻鍼しないか、わずかに捻鍼する程度。痺れるような触電感が足先か下肢に伝わったら抜鍼する。このような鍼感がなかったら、鍼を引き上げてから方向を変えて気が得られるまで刺入する。
治療期間:一週間に2〜3回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴:華佗夾脊穴の胸5、7、9、11、14。状態によって四神総と風池を加える。
操作:うつ伏せか側臥位。1寸ぐらい背骨に向けて斜刺し、提挿補瀉をして鍼感を肋間か背骨に沿わせて伝わらせ、30分置鍼する。四神総は百会に向けて1寸ぐらい沿皮刺する。風池は1寸ぐらい直刺か斜刺する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとし、各クール間は1週間休む。
処方
取穴: 門と風府を主穴とする。患肢の経穴では、上肢の麻痺には曲池、内関、合谷、極泉、外関、肩 を加える。下肢の麻痺には風市、陽陵泉、三陰交、解谿、委中、隠白を加える。そして健側の内関と足三里、そして両側の風池を加える。
操作:主穴の 門と風府は交替で使う。術者は左手の親指で患者の第2頚椎棘突起のところを圧し、右手に鍼を持ってすばやく切皮し、3.5cmぐらいの深さにゆっくりと刺入して、気が得られたら抜鍼する。置鍼はしない。配穴は一回に6〜10穴選び、刺鍼して気が得られたら20分通電する。
治療期間:一日1回で12〜14回を1クールとし、各クール間は3日開ける。一般に3〜4クール必要である。
注意事項: 門や風府は、操作マニュアルの通り慎重に刺鍼し、常に注意して観察し、刺入して気が得られたらよい。深さを追求してはいけない。昏睡患者では気が得られたことが分からないので、刺鍼深度は首の円周の12〜14%とする。患者の首回り(x)と風府、 門の刺入深度(y)の方程式は、
風府穴の刺入深度ycm=2.6475±0.0778x
門穴の刺入深度ycm=2.7183±0.07x
一般に、首の円周の12〜14%とする。
処方
取穴:内関、人中、三陰交を主とし、極泉、尺沢、委中、合谷を加える。
操作:まず両側の内関に1〜1.5寸直刺し、提挿捻転瀉法を1分おこなう。次に人中を鼻中隔に向けて0.5寸斜刺し、涙が流れるか眼球が潤む程度に雀啄瀉法をする。三陰交に刺入するときは鍼尖を後ろに向けて1〜1.5寸斜刺し、提挿瀉法をおこない、患者の下肢がピクピクと三回引き釣ればよい。曲泉は1〜1.5寸直刺し、提挿瀉法をして上肢が三回ピクピクと引き釣ればよい。委中は仰臥位で足を挙げて取穴し、0.5〜1寸直刺して提挿瀉法をし、下肢が三回ピクピクと引き釣ればよい。指の屈伸ができなければ、合谷から三間に向けて透刺し、提挿瀉法をする。
治療期間:一日2回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴: 肩 から臂臑への透刺、肩 から臑会への透刺、曲池から少海への透刺、四 から臂中への透刺、環跳、殷門、陽陵泉から陰陵泉への透刺、崑崙から太谿への透刺。
頚臂、曲池から支溝へ透刺、合谷から後谿への透刺、梁丘から伏兎への透刺、血海から箕門への透刺、足三里から承山への透刺、三陰交から懸鐘への透刺。
以上二つのグループの経穴を交替で使い、対症療法として他の経穴を組み合わせる。
操作:28号の2.5〜5寸の毫鍼を使って刺入し、気が得られたら捻転と提挿を併用した手法で1〜3分運鍼する。5分に1回この運鍼を繰り返し、全部で3〜4回運鍼したら抜鍼する。刺激量は患者が我慢できる程度とする。強烈な鍼感があれば、すぐに運鍼を中止する。
治療期間:一日1回で、一週間に6回治療して1クールとする。
注意事項:刺入時には鍼の方向を把握する。そうでないと到達点の経穴に達しない。操作時には、大きな提挿をすると鍼の方向が変わるのでよくない。捻転も最初は軽く、徐々に強くし、刺鍼の深さは患者の状態に基づいて適当に調整する。
4.巨鍼
取穴:上肢の麻痺では大椎から至陽まで透刺し、肩 から曲池までの透刺か外関から曲池までの透刺を加え、合谷から後谿まで透刺する。下肢の麻痺では至陽から筋縮までの透刺、命門から腰陽関まで透刺し、環跳と崑崙を加える。症状に基づいて八邪、足三里から懸鐘までの透刺、陽陵泉から崑崙までの透刺、丘墟、陰陵泉から三陰交までの透刺などを加える。
操作:ステンレス製の直径0.5〜1mm、鍼体2寸から3尺の巨鍼を使い、患者の病状や体型に合わせて柔軟に使う。肩部の諸穴に刺鍼するときは、鍼感は下に向かって指先まで到達させる。腕部の諸穴に刺鍼するときは、鍼感が上の肩部に向かって伝わるようにする。環跳穴に刺鍼するときは、鍼感は下の足の指に伝わらなければならない。
治療期間:一日1回治療し、10回を1クールとする。
5.電気鍼
処方
取穴:上肢は肩 、曲池、外関、合谷を取り、肩 、手の三里、陽池、中渚を加える。
下肢は環跳、陽陵泉、足三里、解谿を取り、風市、委中、崑崙、太谿を加える。
操作:刺鍼して気が得られたら電気鍼機に接続し、120〜180回/分のパルス電流を、筋肉がはっきりと収縮する程度の強さにして15分通電する。
治療期間:一日1回で、15回を1クールとする。
処方
取穴:肩 、曲池、外関、合谷、環跳、風市、陽陵泉、懸鐘。
操作:麻痺した部位に基づいて、毎回2〜3対を取穴する。刺入して提挿し、鍼感を遠隔部に放散させたあとパルス刺激を加える。刺激量を徐々に強くし、少し止めた後で引き続き30秒通電する。3〜4回その操作を繰り返し、患者に腫れぼったい怠さや、痺れるような触電感、熱湯をかけられたような感覚を起こさせ、関係する筋肉群をリズミカルに収縮させる。
治療期間:一日1回か隔日1回治療し、10回を1クールとする。
6.耳鍼
取穴:皮質下、脳点、心、肝、脾、腎、神門、三焦および肩、肘、腕、大腿、膝、踝などの麻痺した肢体と対応する耳穴。
操作:0.5寸の毫鍼をすばやく刺入し、中刺激で捻転すると、刺鍼後1分ぐらいで耳郭の血管が充血し初めて皮膚の色が赤くなり、局部の皮膚温度が上昇し、患者は局部と頭面部が発熱したように感じる。5分あとには全身が軽くなったり温かく感じてくるので、それから30分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、15回を1クールとする。
7.梅花鍼
取穴:腎兪、肝兪、華佗夾脊穴、曲池、太淵、陽陵泉、風市、懸鐘、大敦。
操作:軽い中刺激で上から下に、内側から外側に向かって叩刺し、特に背部の夾脊穴と麻痺した肢体の経穴を重点的に叩刺する。皮膚が充血するが出血しない程度とする。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとする。
8.灸
処方
取穴:天窓、百会。
操作:棒灸。まず健側の天窓穴に、そのあと百会穴に施灸する。患者は局部が温かく、心地好く感じる程度で、各経穴に15分施灸する。
治療期間:一日1〜2回治療して30日を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。
処方
取穴:百会、耳の前の髪際、肩井、風池、曲池、足三里、懸鐘、崑崙。
操作:毎回4〜5穴を選び、各経穴に艾 を3〜5壮すえる。
治療期間:毎日か隔日に1回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴: 百会、四神総、陽陵泉。 正営。 百会、聴会、頬車、地倉、曲鬢、風池、大椎、肩 、曲池、風市、足三里、懸鐘(中風十二穴)。
操作: は火鍼で灸に替える。血管鉗子で燔鍼を挟み、アルコールランプで赤くなるまで焼いて、経穴に1mmぐらい直刺する。各経穴を三回点刺する。 右側の片麻痺には左側の正営穴、左側の片麻痺には右側の正営穴を取り、温灸器でいぶす。一回に90〜120分温め、一日2回治療する。 中風十二穴は順番に使い、各経穴に5〜10分、棒灸で温和灸をする。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとする。
処方
取穴:百会、承霊、曲鬢。
操作:棒灸。火の着いたところと頭皮を1cmぐらい離し、百会穴から施灸を始める。患者が熱さに耐えられなくなったら、すぐに承霊穴に移動させ、最後に曲鬢穴を熱する。3穴に灸を繰り返し、全部で30分すえる。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:神庭穴。
操作:直接灸。0.2gのモグサで艾 を作り、神庭穴に無瘢痕の直接灸をすえる。続けて7壮、約10分すえる。
治療期間:上と同じ。
9.穴位注射
処方
取穴:百会と上星を交替で使う。
操作:テトラメチルピペラジン注射液1m を、6号針を付けた2m 注射器に吸入させ、百会穴から上星穴あるいは上星穴から百会穴に1寸ほど透刺し、提挿手法で局部に鍼感があれば、ピストンを引いても血が逆流してこないことを確かめてから、薬剤をゆっくりと注入する。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとする。
処方
取穴: 肩中兪、内関、風市、承山。 曲池、外関、陰陵泉、崑崙。交替で使う。
操作:経穴はマニュアル通り消毒し、鍼を刺入して気が得られたら、ピストンを引いても血が逆流してこないことを確かめて、それぞれの経穴に丹参注射液を0.5m ずつ注入する。
治療期間:一日1回で、15回を1クールとする。
処方
取穴:風池。
操作:片麻痺の初期には5%γアミノブチル酸1.5m か、ATPを10〜20mg経穴に注入する。後期には、ビタミンB1100mgに ニコチン酸アミド50mgを加えた薬剤を経穴に注入する。刺鍼の深さは気が得られる程度とし、深すぎてはならない。
治療期間:一日1回か隔日1回治療し、10回を1クールとする。
10.穴位埋線
取穴:手の三里、曲池、足三里、陽陵泉、三陰交。
操作:毎回1〜3穴を取る。術者の両手、患者の皮膚、医療器具などは皆マニュアル通り消毒する。各経穴に0.5〜1%塩酸プロカインかリドカインで局部麻酔をした後、羊腸線を2〜3cmの長さに切り、ピンセットで挟んで針尖部からトローカルの中に挿入する。この時に針尖の斜めになった面から線の端が露出しないようにする。そのあと左手で埋線部位を握り、右手で穿刺針を斜めになった面を下にして持ち、力を入れて切皮したあと穿刺針を回して斜めになった面を上にし、さらに力を入れて必要な深さまで刺入する。そのあと左手でスタイレットを固定し、右手でトローカルを外に引き上げて注射針の凹凸を揃えれば、羊腸線は全部管から出て経穴内に残る。さらにスタイレットを引き上げて、消毒用アルコールで埋線部分を圧し、右手で穿刺針を全部抜き去る。出血がなければ、すぐにヨードチンキの綿花で針孔を押さえ、バンソコウで貼る。
治療期間:毎月1回。
注意事項: 本法は後遺症患者に使う。 局部麻酔は深くかけないようにする。でないと治療効果に影響する。 術後は体温の変化に注意する。もし局部が感染すれば化膿止めを飲み、局部が痛めば痛み止めを飲む。 異物に対してアレルギー反応のあるものは本法は適さない。
11.穴位のレーザー照射
取穴:上肢の麻痺には肩 、外関、曲池、合谷。下肢の麻痺には環跳、陽陵泉、委中、足三里を取る。
操作:出力10mWのヘリウムーネオンレーザーで、光斑直径2mm、皮膚からの距離50cmとし、一回に4穴、それぞれの経穴に4〜8分ずつ照射する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとし、各クール間は1週間開ける。
12.穴位マイクロ波鍼灸
取穴:曲池、手の三里、陰市、足三里。
操作:刺鍼して気が得られたら、DBJ− 型微波鍼灸儀を鍼柄に接続し、患者に刺痛感がないような強さに出力を調節し、15〜20分通電する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(三)治療効果
1.中風の半身不随に対する頭皮鍼治療は、本世紀の70年代後半から普及し始めた刺
鍼法である。頭皮鍼療法とは、毫鍼を頭部の経穴に刺入し、気血の運行を調整して全身に対応する疾患を治療する方法である。現在中国では片麻痺治療に頭皮鍼が使われており、その効果は80〜90%に達する。片麻痺に使われる頭皮鍼の手法は、速い捻転手法と抽進法による補瀉である。刺鍼方法は一般に沿皮刺を使った透刺が多いが、直刺や頭部の経穴を浅刺する方法も使われる。本節で紹介した頭皮鍼の処方 は、頭穴治療線の沿皮刺による透刺を強調し、急激で速い小幅の提挿と長時間の置鍼をおこない、さらに肢体の運動と患者の意識運動を組み合わせている。この方法で中風の半身不随を治療すると、必ず患者の肢体の運動機能が部分的に改善され、漢方薬、按摩、導引と心理療法を組み合わせることにより、機能回復を加速する。もし快速捻転法を使うならば、患肢の対側か同側の頂顳前斜線か頂顳后斜線を使う。処方 は 瑞顳三鍼だが、臨床では四神総、合谷、太衝、風府などの経穴を加えて効果を高める。
2.眼鍼療法は遼寧中医学院の彭静山教授が、中国医学の五輪八廓理論と経絡学説に基づき、臨床治療を積み重ねて作り上げた眼窩周囲の穴区の刺鍼法である。中風の半身不随に対する眼鍼治療は、罹病期間が3ケ月以内のものに効果がよく、意識がはっきりしていて筋肉や関節の萎縮がなく、筋力が0〜3級の者に適している。彭氏は167例の中風による半身不随患者を治療したところ、治癒40例、はっきり効果があった66例、好転56例、無効5例で、有効率は97%だった〔中国鍼灸 :23,1987〕。臨床では、眼鍼治療は脳梗塞患者に対する有効率が高かった。
3.毫鍼による刺鍼治療は、やはり現在でも中風の半身不随を治療する、主要な鍼灸療法である。一般の刺鍼取穴は患側肢体の経穴を主とするが、患側の経穴と健側の経穴を交互に使用するものもある。麻痺の罹病期間の違いによって、患側あるいは健側の肢体から取穴し、それぞれ異なった刺鍼手法を使って、本病の治療効果を高めることができる。例えば王毅剛達は251例の中風による半身不随患者を治療したところ、有効率は96.8%、治癒と著効を合わせると64.6%だった〔中国鍼灸 :8,1987〕。
4.最近ではかなりの人がいろいろな取穴法則を使って中風の半身不随患者を治療しているが、伝統的な取穴処方よりも治療効果が優れている。例えば李定明は風府と 門を主とし、46例の脳出血患者を臨床観察した。急性期には風府と 門に刺鍼し、病状が安定してから配穴を加えたところ、麻痺した肢体の筋力が速やかに向上した。主穴の風府と 門を加えず、他の経穴を全て同じ条件にして治療したグループと比較すると、治療効果にはっきりとした差があり、P<0.01だった〔中医雑誌 :30,1988〕。また脳血栓のできた患者89例と、脳出血の回復期の患者36例を治療すると、治癒42例、著効20例、有効16例、死亡1例で、有効率は98%以上であった〔山西中医 :37,1988〕。石学敏達は内関、人中、三陰交などに刺鍼し、醒脳開竅法と称して中風の半身不随を治療した。何樹槐達は、胸の5、7、9、11、14の華佗夾脊穴を主として中風の半身不随を治療し、すべてかなりの治療効果があったが、参考にする価値がある。
5.現在では耳鍼療法を使った本病の治療報告は少なくなった。張戦軍は、耳鍼と頭皮鍼、そして体鍼を併用して本病を治療すれば、後遺症期の麻痺で四肢の筋の張力が高まっているもの、特に肘、腕、足関節の機能障害がある者に対する治療効果は、単に頭皮鍼と体鍼を併用したものよりも優れていると考えている〔中国鍼灸 :8,1988〕。筆者の治療は、一般に耳鍼、頭皮鍼、体鍼を交替で使っているが、特に頭穴に長期間置鍼できないものに、王不留行の種や皮内鍼を耳穴に使って治療効果を高めている。
6.棒灸を使った天窓や百会の温和灸は、脳血管の血流の指標と麻痺した肢体の機能を改善できる。張登部達が治療した33例の臨床観察によると、有効率は97%である〔山東中医雑誌 :12,1987〕。中風による半身不随に伝統的な中風十二穴を処方した治療で、周 声は温灸法を使い、火鍼を組み合わせて本病を治療し、片麻痺後遺症および緩解の段階に適しているとした〔中医雑誌 :165,1988〕。
(四)論評
1.脳血管障害は発病率が高く、死亡率も高く、また後遺症が残る可能性も高い。片麻痺の後遺症で最もひどいものは、患者の肢体の運動機能に影響して身体障害を残すものである。中風の半身不随に対する鍼灸治療には、はっきりした効果がある。鍼灸を使った各種の方法による片麻痺治療は、単独でも使えれば併用もでき、現代のリハビリや心理療法と組み合わせれば、大きな効果がある。
2.鍼灸治療を始める時期。過去には「急性脳出血では必ず4〜6週間は安静にし、全ての刺激を避けねばならない。そうでないと病状が悪化したり、再び出血が起こる」と信じられていた〔肖鎮祥など編さんの『脳血管疾病』,人民衛生出版社,1979〕。しかし現代の研究によると、脳出血のあと再び出血することは極めて少ない。関係する専門家が1500名の高血圧による脳出血患者を追跡観察したところ、20年間で再度脳出血が起こったのは30例だけで、二回目の脳出血が起こったのは、最初の発病から3ケ月から2年経った頃が多かった。死体解剖によると、二度目の出血は、すべて別の場所で起こっていた。その理由は最初の出血で局部の器質化により瘢痕が形成され、瘢痕が出血しやすい小血管を支持し保護する作用を果たすとともに、その部分の血流量が少なくなって圧力が小さくなり、簡単には出血しない〔隋邦森『生命を脅かす『文明病』』〕。李定明は、脳出血患者を診断した後すぐに風府や 門に刺鍼すれば、不良反応がないばかりでなく、逆に治療期間を著しく短縮し、治療効果を高めると考えている。発病10日以内に刺鍼した患者の、治癒と基本的に治癒したものの割合は、それぞれ39.47%と21.05%であった。そして11日〜31日の間に刺鍼治療したものでは、治癒したものは1例もなく、基本的に治癒したものは50%であった。この実験によると、できるだけ早く風府と 門に刺鍼することは、とても重要である〔中国鍼灸 :1,1987〕。石学敏達も同様に、早期の刺鍼治療が本病患者の機能回復のポイントであり、治療時期と治療効果は、はっきり関係があると考えている。発病2週間以内、4週間以内、4週間以上の患者が入院して鍼治療を受け、治癒したものが各患者グループで占める割合は、68.4%、47%、38.9%であった。そして彼等は脳出血には刺鍼治療がよいとする考え方を支持するようになった(中国鍼灸 :11,1984〕。筆者は、脳梗塞患者はできるだけ早く刺鍼治療を受けるべきで、脳出血患者は生命の危険がなくなって安定したら、すぐに鍼治療と機能訓練をし、そうすれば治療効果は上がると考えている。
3.脳出血と脳梗塞の鍼灸治療に関する治療効果の比較。一般に脳梗塞に対する鍼灸の効果は脳出血に対するものより優れていると考えられているが、これに関して異なる観点からの報告もある。例えば石学敏達は、脳出血患者は脳梗塞患者よりも機能回復が早いと考えており、出血病巣が徐々に吸収され、血腫も減少して消失するが、CTでも患者の症状の改善と脳の回復は一致していることが確かめられている〔中国鍼灸 :11,1984〕。
4.刺鍼治療では、血圧が200/120mmHg以上のものに対しては慎重に操作すべきで、強烈に刺激する手法は使わない。
5.日頃から高血圧症がある患者では、片麻痺の肢体機能が回復した後、やはり効果を安定させるために治療を続けなければならない。そこで曲池、太衝、風池、足三里などを交互に刺鍼したり、耳穴を圧迫すれば本病の再発を予防できる。
6.脳血管障害の症状に、顔面麻痺、失語、嚥下困難、肢体の知覚異常などがあるが、それは病状に基づいて辨証取穴をすればよい。

二、外傷性の片麻痺
ひどい頭部の外傷や頚部の外傷によっても片麻痺は起こり、後遺症が残る。
(一)症状
1.頭部や頚部に外傷歴がある。多くは打撲や刃物で切ったり、堅いものにぶつかったりなどの、急激で直接的な外力で引き起こされる。また墜落して臀部や足から着地し、外力が背骨を伝わって頭部や頚部を損傷するなどの、急激で間接的な外力で起こるものもある。ほかにもスピードの出ている車両が急ブレーキをかけたため、慣性の衝撃によって起こったものもある。
2.頭蓋骨のX線検査で頭蓋骨の骨折部分を特定できる。骨折部分では頭皮の損傷があるほか、骨の陥没が触知できる。
3.頭蓋骨の骨折により脳膜血管が損傷されたり、脳挫傷により脳組織が出血すれば、昏睡や同側の瞳孔拡大、対側肢体の不完全麻痺、足底反射が陽性となるなどの病理反射が現れ、血圧が上昇し、脈拍は緩慢で強くなり、呼吸は遅く深くなるなどの特徴が現れる。
4.頭部のエコー検査では中線波が一側にはっきりと片寄り、ひどいものは4mm以上移行している。これは脳内血腫の診断に一定の価値がある。
5.脳血管の造影は血腫の部位の診断の助けとなる。
6.CTで頭蓋骨の骨折と脳内の出血巣を見れる。
(二)鍼灸治療
鍼灸の治療方法は脳血管障害を参考にする。頭皮鍼を使った治療は、頭皮に外傷があるため刺鍼できないが、反対側の頭部の穴位を使えば同じような治療効果を得られる。頚部の外傷によって起こった対麻痺は、本書の「対麻痺」の治療方法を参照する。

三、散発性脳炎
脳炎は、脳実質に病原微生物が侵入して起こった炎症である。一般的に神経細胞を損傷するビールス性脳炎と、神経組織の各成分とも損傷される非ビールス性脳炎、そして散発性脳炎のような原因不明の脳炎に分けられる。
散発性脳炎は、近年では発病率が高くなり、しばしば見受けられるようになった。その病因は不明で、診断でも統一見解はない。脳部の髄鞘が脱落する疾病が大部分と思われ、片麻痺や両側の肢体麻痺を引き起こす。
(一)診断の要点
1.ほとんどは急性か亜急性である。急性に発病したものは数日の内に症状がピークとなるが、亜急性のものは10日〜2ケ月で症状がピークとなる。季節性や地域性はない。
2.約半数に悪寒、発熱、頭痛、全身の倦怠感、鼻水が出る、咳嗽、下痢、悪心、嘔吐などの前駆症状があり、少数では結膜炎、口唇ヘルペス、筋肉痛などがある。
3.約半数の症例で精神障害などの初期症状があり、ぼーっとする、あまり喋らない、注意力散漫、連想できない、理解や判断力の低下、見当識、計算、記憶障害、無表情で情感に薄いなどの症状が現れ、元の仕事ができず、答えが問題と違っている、行動が幼稚、怠惰な生活となり、だんだんと小便を失禁するようになって、自分で身の回りのことができなくなる。しかし中にはおしゃべりとなり、心がウキウキするものもあり、ひどいものは錯覚、幻覚、妄想、動き回って落ち着かないなどの症状がある。
4.意識障害があり、嗜眠や意識朦朧していたものが昏睡状態となる。
5.癲癇発作があるが、大発作が起こるものが多い。
6.一側あるいは両側の錐体束の病理がある。症状は片麻痺や両側の手足の麻痺、筋の張力の増加(少数では張力が低下する)などの症状があり、多くは両側に病理反射がみられる。部分的には手掌オトガイ反射、吸引反射および仮性球麻痺などの症状がある。
7.動眼、外展、顔面および舌下神経麻痺、眼球震顫、嚥下困難などの、脳神経損傷症状も起こる可能性もあり、また球麻痺、交叉性麻痺あるいは交叉性の知覚障害などの球麻痺症状も起こり得る。さらに運動失調、失語、知覚障害および髄膜刺激症状などもある。
8.汗をかき、ひどければダラダラとかく。さらに中枢性の高熱も起こる。
9.頭痛、嘔吐および視神経乳頭の浮腫などの脳内圧が上昇した症状が起こり、ひどければ脳ヘルニアも起こす。
10.周囲の白血球は10000/mm3以上となるが、なかには25000/mm3以上にまで達するものもある。
11.脳脊髄液は一般に無色透明で、半数以上の圧力、細胞数、生化学の指標はすべて正常であるが、圧力が増加する症例もある。白血球の増加は一般に100/mm3 以内で、リンパ細胞が主である。
12.脳波検査では80〜90%に異常があり、ほとんどはビマン性の異常で、側頭部や前額部の変化が主である。
13.頭部のエコー検査では、少数に中線波の移行がある。
14.CT検査では境界が不鮮明、密度が低い、ビマン性の病巣が幾つもあり、しかも白質に多い。
(二)鍼灸治療
本病は回復期に鍼灸治療をする。治療方法は脳血管障害によって起こった片麻痺の治療と同じなので異病同治である。ほとんどは治癒するか好転する。そのほかの脳炎によって起こった片麻痺でも参照する。このほか穴位注射も使う。
取穴:上肢では肩 、手の三里、四 、内関。下肢は伏兎、健膝(膝蓋骨の上3寸のところ)、足三里、三陰交。項頚部の軟弱なものは天柱と大椎を加え、起居できないものは腎兪を加える。
操作:穴位注射のマニュアル通り操作する。一日に体重1kg当り0.01〜0.05mgのスポコラミンを穴位注射する。
治療期間:一日1回で、30回を1クールとする。必要があれば治療を中止し、7〜10日後に第2クールをおこなう。
注意事項:スポコラミンには視力がぼやける、痩せる、嘔吐、食欲不振、ウワゴト、イライラ、頭痛、関節痛、頻尿、尿貯溜などの副作用が現れるが、薬剤の量を減らせば症状は消失する。
(三)治療効果
スポコラミンの穴位注射で、散発性脳炎によって起きた運動麻痺46例治療した結果、治癒5例(10.9%)、著効12例(26.1%)、好転27例(58.7%)、無効2例(4.3%)で、有効率は95.7%だった。3年後の最調査で、再発したのは2例あった。
(四)論評
現代医学の研究で、運動麻痺と筋肉萎縮そして神経の損傷、虚血、アセチルコリンの失調は関係があると考えられている。スポコラミンの有効成分はスポコレチンである。それを穴位注射すれば血管の作用を調整し、微小循環を流通させ、神経や筋肉は血液による栄養供給が受けられる。損傷された脊髄神経の回復を促進する作用がある。神経のフィードバックを抑制し、アセチルコリンのバランスを調節する作用がある。そして薬物と経穴の相乗効果による治療作用を発揮できる〔中医雑誌 :46,1988〕。

四、片麻痺後遺症
いろいろな原因で起こった半身不随は、重症だったり、手遅れ、リハビリ不足などによって、多かれ少なかれ、重かれ軽かれ、幾らかの運動麻痺の後遺症が残る。鍼灸治療は片麻痺後遺症の健康回復にとって一定の効果があるので、ここに紹介する。
(一)関節の硬直
1.毫鍼
処方
取穴: 関節周囲の陰経穴。 肩関節の硬直には曲垣と天宗、肘関節は鷹上(肘を曲げて尺骨の尖ったところから上4寸、尺側に一横指よったところ)、指関節は合谷から労宮か三間までの透刺、膝関節は膝陽関と曲泉、趾関節は八風を取る。
操作:鷹上穴は上に向けて1.5寸斜刺し、大きく捻転して刺激量を強くする。そのほかの経穴は平補平瀉する。すべて20〜30分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴:缺盆(鎖骨上窩の正中で動脈部)、肩 、肩前 (肩の内側で上腕骨頭の下、三角筋の内側上縁で、中府穴と同じ高さ、上腕内側の腋の端にある)、肩 下廉(肩 穴の下1.5寸)、天井、腕骨、上労宮(大陵と労宮を結ぶ線の中点)、三間。
操作:缺盆穴は、1.5寸の毫鍼で上腕の方向に0.3〜0.5寸刺入し、痺れるような感覚を上肢に伝わらせる。肩 、肩前 、肩 下廉は直刺して気が得られたら、青龍擺尾の手法を使って操作すれば、屈曲したまま伸びない肩肘関節の機能回復する。天井穴は教科書通り操作する。腕骨穴は、掌心に向けて沿皮刺する。大陵穴は直刺する。三間穴は掌心に向けて沿皮刺する。以上の経穴は気が得られたら青龍擺尾法を使うか、強刺激の捻転手法をすれば、拘縮した指を機能回復できる。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.電気鍼
取穴:毫鍼の処方 と同じ。
操作:刺鍼して気が得られたら、G6805治療機をつなぎ、連続波、電流の強さは関節が緩む程度で15〜20分通電する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.灸頭鍼
取穴:肘関節が拘縮したものは曲沢、膝関節が拘縮したものは委中、指関節が拘縮したものは大陵と魚際、足趾が拘縮したものは太白と照海を取る。
操作:刺鍼して気が得られたら、鍼柄に短い棒灸か、丸めたモグサを挿して下から点火する。
治療期間:上と同じ。
4.刺絡吸い玉
取穴:拘縮した関節局部。
操作:梅花鍼で局部を繰り返し叩刺し、少し出血する程度になったら吸い玉を置き、15分後に取り去る。
治療期間:上と同じ。
(二)肢体の痛み
1.毫鍼
取穴:痛みのある付近の経穴。
操作:提挿捻転の瀉法をし、20〜30分置鍼し、その間2〜3回運鍼をする。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.電気鍼
取穴:上と同じ。
操作:刺鍼して気が得られたら、G6805治療機をつなぎ、15〜20分、疎密波で通電する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.灸頭鍼
取穴:上と同じ。
操作:毫鍼を刺鍼して気が得られたら、鍼柄に1〜2cmの長さに切った棒灸を突き挿して下から点火する。あるいは抜鍼後、局部の経穴に棒灸を使って皮膚が紅潮する程度に温和灸をしてもよい。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
4.耳鍼
取穴:皮質下、神門、腎上腺(副腎)、そして肩、肘、腕、指、大腿、膝、踝、足趾などと対応する耳穴。
操作:0.5寸の毫鍼を刺入し、強刺激で捻転したあと20〜30分置鍼し、その間2〜3回運鍼をする。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。
5.赤外線の穴位照射
取穴:痛みのある周囲の経穴。
操作:四肢の肘膝などの筋肉が豊満な部分では、短波の赤外線を使い、四肢末端の筋肉が薄い部分では、長波の赤外線を使う。一回に20〜40分照射する。
治療期間:毎日1〜2回治療し、10〜20回を1クールとする。
(三)膝を上げる力がない。
1.頭皮鍼
取穴:頂中線、頂顳前斜線の上 。
操作:沿皮刺で、鍼体が帽状腱膜の下層に達して1寸ほど刺入したら、抽気法を使う。つまり急に鍼を外に向かって、一回に0.1寸ずつ、3回にわたって引き出し、再びゆっくりと元の1寸刺入の位置まで鍼を戻す。この操作を繰り返しおこなう。2〜24時間置鍼し、その間何回か運鍼する。運鍼と置鍼の間は、患肢の膝を引き挙げる運動をする。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.耳鍼
取穴:膝、 (大腿)。
操作:0.5寸の毫鍼を刺入して、中強刺激で捻転したあと30分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.毫鍼
取穴:血海、梁丘、陰市、伏兎。
操作:平補平瀉を使って、気が得られたら15〜30分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
4.電気鍼
取穴:上と同じ。
操作:刺鍼して気を得たら、G6805治療機を接続し、15分間連続波で通電する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(四)足の下垂
1.毫鍼
取穴:足起穴(内踝と外踝をつなぐ線の中点の上1.5寸、脛骨外縁)。
操作:26号1.5寸の毫鍼ですばやく切皮し、刺入したあと中強刺激で提挿捻転をおこない、気が得られたら抜鍼する。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとする。
2.電気鍼
取穴:陽陵泉、陰陵泉、下巨虚、丘墟、商丘、解谿。毎回2〜4穴を取る。
操作:刺鍼して気を得たら、G6805治療機に接続し、連続波で15分通電する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.耳鍼
取穴:踝、足。
操作:毫鍼を使って強刺激したあと、30分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(五)指の屈伸ができない。
1.毫鍼
取穴:間使、内関、神門、外関、合谷から三間または合谷から労宮への透刺、八邪。
操作:八邪は一回に2〜3穴を取り、100回捻転したあと抜鍼する。そのほかの経穴は提挿瀉法を使った15〜20分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.頭皮鍼
取穴:頂顳前斜線の中 。
操作:鍼を帽状腱膜の下層に刺入し、抽気法を使って運鍼し、2〜24時間置鍼する。運鍼と置鍼の間は、患者に指の運動をさせる。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.耳鍼
取穴:指。
操作:毫鍼で強刺激したあと20分置鍼する。あるいは王不留行の種をバンソコウで貼り付け、患者に自分で毎日3〜4回マッサージさせる。
治療期間:耳鍼は毎日あるいは隔日に1回治療し、10回を1クールとする。耳穴圧丸法(種の貼り付け)は、3〜5日に1回貼り替え、5〜7日を1クールとする。
4.赤外線照射
取穴:指の経穴。
操作:赤外線を患部の指に30分照射する。
治療期間:毎日1〜2回治療し、7〜10回を1クールとする。
(六)握力減弱
1.毫鍼
取穴:金津、玉液、海泉(舌小帯の正中点)。
操作:28号1寸の毫鍼を使って、舌下の金津、玉液穴から点刺出血させる。さらに両穴の周囲に1〜2本点刺し、最後に海泉穴を点刺する。以上の操作はすべて鍼尖を舌根部に向けて斜刺をする。
治療期間:隔日1回治療し、5回を1クールとする。
2.頭皮鍼
取穴:頂顳前斜線の中 。
操作:沿皮刺で、鍼を帽状腱膜の下層に刺入したら、抽気法で運鍼したあと、2〜24時間置鍼し、その間3〜5回運鍼する。運鍼と置鍼の間は患者に指の屈伸をさせたり、手を握る運動をさせる。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(七)肢体のむくみ
毫鍼
取穴:肩 、尺沢、外関、八邪、髀関、陰陵泉、豊隆、三陰交を主とし、中 と水分を加える。
操作:肢体の経穴は刺鍼して瀉法をおこない、腹部の経穴は灸頭鍼をする。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(八)足の内翻、外翻
1.毫鍼
取穴:足の内翻には申脈と糾内翻(承山穴の外側1寸)を取る。足の外翻には照海と糾外翻(承山穴の内側1寸)を取る。
操作:申脈と照海は刺鍼して補法をする。糾内翻と糾外翻は平補平瀉をする。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.頭皮鍼
取穴:頂顳前斜線の上 。
操作:沿皮刺で鍼を帽状腱膜の下層に刺入したら、抽気法で運鍼したあと、2〜24時間置鍼する。運鍼と置鍼の間、足の内翻や外翻を矯正する運動をする。ベッドで横になっているとき、あて木で患足を固定し、機能できる位置を保持する。歩くときウェートをかけたり抵抗を加えるなどして筋力を訓練する。足の内翻では外転や外反の運動を多くし、ウェートをかけるときは、脛の外側の筋肉群に負荷をかけるようにして矯正する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(九)肩が挙がらない
1.毫鍼
取穴: 第6頚椎棘突起の傍ら0.5寸。 肩 、肩 。 天宗、肩 、臑会、臂臑。
極泉。 中平(足三里穴の直下1寸)。いずれか一組を選ぶ。
操作:第6頚椎棘突起の傍ら0.5寸のところは、鍼尖を棘突起に向けて斜刺し、平補平瀉して痺れるような腫れぼったさがあれば、上肢を挙げることができる。肩 、肩 、極泉は患側を取り、直刺して瀉法をする。天宗、肩 、臑会、臂臑は患側を取り、補法をする。中平穴は健側を取る。理想的には立って取穴するが、立てないものは腰掛けるか仰向けに寝て取穴し、28号2〜3寸の毫鍼を直刺し、気を得たら提挿で運鍼しながら、患者に肩を動かすようにさせ、できるだけ高く挙げさせる。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.頭皮鍼
取穴:頂顳前斜線の中 、頂旁2線。肩の痛むものには頂顳后斜線の中 を加える。
操作:沿皮刺で、帽状腱膜の下層に刺入したら、抽気法で運鍼したあと、2〜24時間置鍼する。運鍼と置鍼の間は肩関節を動かす。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.耳鍼
取穴:肩、鎖骨。
操作:毫鍼を刺入して強刺激で捻転し、気が得られたら30分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(十)下肢の無力
1.毫鍼
取穴:大腿の外転が無力ならば、腰の4、5の夾脊穴、居 、跳躍(腸骨稜の最高点の後下方2寸のところ)。
大腿の内転が無力ならば、急脈、陰廉、血海、箕門。
膝の屈曲が無力ならば、承扶、殷門、委中、環跳。
膝の伸展が無力ならば、衝門、髀関、伏兎、四強(膝蓋骨上縁の中点直上4.5寸)。
操作:マニュアル通り操作し、平補平瀉したあと30分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.灸頭鍼
取穴:太谿、三陰交、中 、関元、足三里。
操作:マニュアル通り刺鍼し、補法をしたあと30分置鍼する。置鍼の間、鍼柄に2cmぐらいの棒灸を突き挿して下から火を着け、灸頭鍼する。
治療期間:上と同じ。
3.棒灸
取穴:腎兪、脾兪、関元、足三里。
操作:棒灸で温和灸をする。毎回それぞれの経穴を5分ずつ温め、皮膚が紅潮する程度にする。
治療期間:一日2回治療し、10回を1クールとする。
4.頭皮鍼
取穴:頂顳前斜線の上 、頂旁1線。
操作:沿皮刺で、帽状腱膜の下層に刺入し、進気法をする。つまり急に力を込めて鍼を3回押す。1回で1分ずつ入るように3回押し、ゆっくりと元の位置まで引き戻す。この操作を何回も繰り返す。2〜24時間置鍼し、運鍼と置鍼の間は患肢の機能訓練をする。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(十一)腰背の怠さ
1.頭皮鍼
取穴:枕上正中線、枕上旁線。
操作:沿皮刺で、帽状腱膜の下層に鍼を刺入したら、抽気法で運鍼したあと、2〜24時間置鍼する。運鍼と置鍼の間は、腰部の機能訓練をおこなう。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.毫鍼
取穴:腎兪、足三里、太谿、三陰交。
操作:腎兪と足三里は中強刺激、太谿と三陰交は弱刺激をし、30分置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.耳鍼
取穴:腰仙椎、腎、膀胱。
操作:毫鍼で中強刺激をして15〜20分置鍼する。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。
4.吸い玉
取穴:腎兪、大腸兪。
操作:上に挙げた経穴に10分間吸い玉をする。
治療期間:上と同じ。
5.赤外線照射
取穴:腰椎および傍ら1.5寸の経穴(足の太陽脈)。
操作:赤外線を局部に30分照射する。
治療期間:上と同じ。
(十二)筋肉の萎縮
1.毫鍼
取穴:中 、気海、三陰交、足の三里、血海を主穴とし、肩 、曲池、外関、合谷、環跳、風市、陽陵泉を加える。
操作:それぞれの経穴をグループ別に分ける。一回に主穴から2〜3穴選び、配穴を3〜4穴加える。提挿捻転で補法をしたあと、30分置鍼する。各グループは交替で使う。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.電気鍼
取穴:毫鍼と同じ。
操作:刺鍼して気が得られたら、G6805治療機に接続し、連続波を使って15分通電する。
治療期間:上と同じ。
3.頭皮鍼
取穴:両側の額旁2線と、患肢と対側の頂顳前斜線、頂旁1線、頂旁2線。
操作:進気法をしたあと2〜24時間置鍼し、間欠的に運鍼する。運鍼と置鍼の間、患肢の運動とマッサージをおこなう。
治療期間:上と同じ。
4.耳鍼
取穴:脾、内分泌、腎、肝、皮質下。
操作:毫鍼を耳穴に刺入したあと30分置鍼し、5分に一回捻鍼する。
治療期間:上と同じ。
5.灸法
取穴:患肢の萎縮した筋肉の局部経穴。
操作:棒灸を使って温和灸をする。一回10分程度で、皮膚が紅潮すればよい。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
(十三)片身の知覚麻痺
1.毫鍼
取穴:中 、気海、後谿、申脈。
操作:提挿捻転補法を使い、刺鍼のあと中 と気海に、それぞれ5〜10分ずつ棒灸を使って温和灸をする。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.頭皮鍼
取穴:健側の頂顳前斜線を使う。下肢の知覚麻痺なら上 、上肢の知覚麻痺ならば中 を取る。
操作:抽気法で運鍼したあと2〜24時間置鍼し、間欠的に運鍼する。運鍼と置鍼の間は患肢のマッサージをおこなう。
治療期間:上と同じ。
(十四)論評
1.片麻痺後遺症では、急性期と回復期にリハビリが必要である。例えば片麻痺患者では肢体の関節の痛みが起こることが多いが、一般に血液循環障害によって局部の栄養不良が起こり、そして屈伸する筋肉が不均衡となって関節包を牽引して起こると考えられている。次に多いのは、脳血管障害によってデジュリン・ルシー症候群となり、自律神経機能に影響を与えて起こるものである。だから早期にリハビリを開始して、関節及び周囲組織が正常に栄養されるようにし、筋肉の張力を調整すれば肢体の疼痛を予防できる。
2.鍼灸治療は各種の片麻痺後遺症に対して一定の効果があり、漢方薬の内服や漢方薬浴、按摩や気功、リハビリなどを組み合わせれば、さらに優れた効果がある。鍼灸治療の方法によっては、片麻痺後遺症に対して特殊な治療効果があるので無視できない。例えば舌下鍼を使って、15例の握力の減退した患者を治療すると、刺鍼前そして刺鍼後5分、15分、30分に、それぞれ患者の握力を1回ずつ測定したところ、治癒(握力増加が8kg)3例、著効(握力増加が4kg)3例、好転(握力が幾らか増加した)8例、無効1例だった〔江蘇中医(12):25,1987〕。このほか、巨鍼を使った片麻痺後遺症患者の治療で、軽症者には1〜2クール、重症者には2〜3クール治療したところ、優れた治療効果があった〔中国鍼灸 :8,1988〕。

対麻痺の鍼灸治療

対麻痺は脊髄の損傷により神経の伝達障害が起こり、肢体が麻痺したもので、両側の下肢の麻痺や四肢麻痺などがある。その病因の主なものは、脊髄の急性や慢性の炎症、脊柱の外傷、脊髄の圧迫および変性などである。

一、対麻痺の診断

表1 損傷部位による症状の違い
+−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| | 症 状 |
| 症 状 項 目 +−−−−−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
| | 頚 椎 | 腹 部 | 腰 仙 部 | 馬尾神経 |
+−−+−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
|脊柱| 棘突起 | 頚の1〜6 | 頚7〜胸9 |胸10〜腰1|腰2から下|
| +−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
|部位| 椎 体 | 頚の1〜6 |頚7〜胸10|胸11〜腰1|腰2から下|
+−−+−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
| 損傷した組織 | 脊 髄 | 脊 髄 | 脊髄と円錐 | 周囲神経 |
+−−−−−−−+−+−+−−+−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
| |四|上|頚6|伸性強|両下肢の痙性|両下肢は一般| |
| 運 | | | |直外旋|麻痺(筋の張|に弛緩性麻痺| |
| |肢| +−−+−−−+力が増強し、|(筋の張力減| |
| 動 |の| |頚7|肘屈曲|腱反射亢進す|弱や腱反射消|両下肢の弛|
| |運| +−−+−−−+る。病理反射|失がある。病|緩性の麻痺|
| 機 |動|肢|頚8|指硬直|やクロヌスが|理反射やクロ| |
| |麻+−+−−+−−−+あり、筋肉の|ーヌスはなく| |
| 能 |痺|下| 痙 性 |萎縮ははっき|筋肉ははっき| |
| | |肢| 麻 痺 |りしない) |り萎縮する)| |
+−−−−−−−+−+−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
| |損傷平面から下の感覚| | | 左と同じ |
| 感 覚 機 能 |が減弱したり消失する| 左と同じ | 左と同じ |(知覚解離|
| |(知覚解離現象あり)| | |現象なし)|
+−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
| 膀胱の機能 | 反射性尿失禁 |反射性尿失禁|自律性尿失禁|自律性失禁|
+−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
| | | |多くは不明瞭|多くは痛み|
| 痛 み | ほとんどは不明瞭 |多くは不明瞭|か、会陰部の|がはっきり|
| | | |軽い痛み |している |
+−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+
|陰経勃起と射精| 可 能 | 可 能 |残ったり喪失|減弱か喪失|
+−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+

対麻痺は完全対麻痺と不完全対麻痺に分けられる。完全対麻痺とは脊髄横断症状が現れる脊髄の機能障害で、その脊髄から下の機能が完全になくなり、損傷平面から下の脊髄の運動、感覚、反射および自律神経の働きが完全になくなる。不完全対麻痺は脊髄横断症状のない脊髄の機能障害で、脊髄の損傷は異なる水平面上にあるが、しかしある平面から言えば、障害される範囲が不完全なものである。脊髄の非横断性の損傷は、脊髄に部分的に圧力が加わって脊髄の伝達機能に影響して起こったものもある。また激しい衝撃によって脊髄部分に機能障害が起きたものもある。さらに脊髄のある部分が破壊され、局所性の伝達障害を起こしたものもある。臨床ではそれらをひっくるめて不完全性の対麻痺と呼ぶ。
対麻痺は中医では「痿証」とか「風 」と呼ばれ、督脈の損傷によって起こったものである。督脈は全身の陽経を取り仕切っており、手足の三陽経と督脈は交わっている。督脈を損傷すると気血の運行は障害されるが、それは手足の三陽経に及び、経絡が通じなくなって肢体の痺れや感覚麻痺、運動麻痺などが起こり、ひいては臓腑の陰陽バランスの崩れを引き起こすので、排尿や排便障害が起こる。
脊髄損傷の診断は理学的検査が中心となり、臨床診断と病理診断は、かならずしも完全に一致しない。臨床診断は脊髄機能に基づいて検査する。例えば脊髄の伝達機能が完全に損傷されているものは、脊髄横断性の損傷か完全対麻痺に属しているが、病理形態からすると脊髄は中断されてはいない。
脊髄の機能検査は、運動と感覚の伝達機能が中心となるが、反射や自律神経の機能検査も参考とする。脊髄損傷平面の診断は鍼灸治療にとって大変重要である。そのため前のページに損傷部位による症状の違い(表1)と脊髄損傷の程度による症状の違いを挙げておいた。

表2 脊髄損傷の程度による症状の違い
+−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+
| | 完全性横断損傷 | 不完全性横断損傷 | 半横断損傷 |
+−−−−+−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+
| 運 | 胸 |筋の張力は増強し|一時的に完全性横断損|肢体の麻痺は一側性で|
| | 節 |腱反射は亢進。ク|傷があるが、以降は部|ある。 |
| 動 | か |ローヌスや病理反|分的に筋力が残り、は| |
| | ら |射がある。全反射|っきりした全反射もな| |
| 機 | 上 |ははっきりある。|い。 | |
| +−−+−−−−−−−−+ | |
| 能 |腰仙|筋肉は萎縮し、筋| | |
| |以下|力は完全に喪失。| | |
+−−−−+−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+
| 感 |損傷平面以下の痛覚や温|知覚は完全に失われて|麻痺した側の深部感覚|
| |度感覚も完全に失われ、|おらず、両側で差があ|は消失し、対側の痛覚|
| 覚 |しかも多くは対称性であ|る。あるいは知覚を失|や温度感覚もなくなる|
| |る。 |った水平面と筋肉麻痺|。 |
| 機 | |のある水平面が一致し| |
| | |ない。 | |
| 能 | | | |
+−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+
|膀胱機能| 障 害 さ れ る | 障 害 さ れ 得 る | 障害の程度は軽い |
+−−−−+−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−+
二、対麻痺の鍼灸治療
(一)鍼灸治療
1.毫鍼
処方
取穴:主穴は、督脈経三穴(上は損傷平面上の棘突起一つ、下は第5腰椎棘突起とし、上下を結ぶ中点の棘突起を一つ)、この三穴の両側の夾脊穴、ともに全部で9鍼、これを断面九鍼穴と呼ぶ。配穴は、大小便の機能障害に八 、天枢、気海、中極、中極の傍ら0.5寸の部位、三陰交。
操作:督脈穴は、左手の人差指と中指で皮膚を固定し、右手で鍼を持って直刺したら、ゆっくりと慎重に刺入する。刺入深度は具体的な状況によって調整するが、一般に1.5〜2.5寸である。術者の刺し手に弾力的な抵抗があり、刺鍼局部に感応が現れるが、引き続き慎重に刺入する。すると突然、抵抗を突破したような空虚になった感じを刺し手に受けると同時に、患者は下肢や会陰部に刺痛感を感じるので、すぐに刺入を中止する。
夾脊穴も上と同じように刺入するが、部位が異なるので鍼感はそれぞれ両側に向かって放散するか、神経根の対応する部分の体腔内が締めつけられる感じが起こる。また部位によって上肢や下肢に鍼感が放散する。刺鍼方向は椎間孔の部分で、刺入深度は1〜1.5寸、提挿と捻転を併用した手法で運鍼する。
天枢穴では、鍼感を鼠径部に伝わらせる。任脈穴では鍼感を会陰部に伝導させる。軽か中刺激で平補平瀉する。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。各クールは5〜7日開ける。
処方
取穴:主穴は、損傷平面の上下それぞれ棘突起1〜2個の督脈穴、あるいは損傷平面の上下それぞれ棘突起1〜2個の夾脊穴。配穴は関元、中極、天枢。秩辺、殷門、委中、崑崙。髀関、伏兎、衝陽、足三里。陽陵泉、懸鐘。
操作:すべて直刺。主穴は1.5〜2.5寸直刺する。督脈穴の刺鍼方法は処方 と同じ。必ずゆっくりと慎重に刺入してゆき、刺し手に突破感があったり、患者の肛門や陰部および下肢に触電感があれば、ただちに刺入を中止する。でないと脊髄を損傷する。配穴は提挿と捻転を組み合わせて運鍼する。中極と関元は交替で使い、1〜1.5寸刺入するが、刺鍼の前に排尿して膀胱を空にしておく。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:腎兪、大腸兪、次 、環跳、秩辺、関元、中極、気衝、足三里、陽陵泉、太谿。先に背部と臀部の経穴を取り、後で腹部と下肢の経穴を取る。
操作:腎兪穴は捻転提挿の強刺激をする。大腸兪は分刺法を使う。まず3寸の長鍼を使って脊柱起立筋から深部に刺入し、鍼感を足趾にまで放散させた後、それぞれ灸頭鍼を3〜5壮すえる。次 は、マニュアル通り刺鍼し、強刺激をする。秩辺や環跳は痺れるような怠さが起こればいいが、電流が流れるような感じが足趾にまで伝われば申し分ない。腹部や下肢の経穴では、捻転提挿の弱刺激をし、気が得られたら灸頭鍼を3〜5壮すえる。
治療期間:一週間に2回治療し、20回を1クールとする。
処方
取穴: 督脈経は人中、大椎か陶道、身柱、至陽、脊中、懸枢、腰陽関。そして百会、神道、筋縮、命門を状況によって加える。
第2胸椎下縁の両側0.5寸の夾脊穴から椎体毎に第4腰椎まで左右16穴。
足の太陽脈の大杼、肺兪、心兪、膈兪、肝兪、脾兪、腎兪。
足の陽明脈の梁門、天枢、水道、帰来、髀関、陰市、足三里、上巨虚、髀関穴の下2.5寸の邁歩。
足の少陽脈の京門、五枢、維道、環跳、風市、陽陵泉、懸鐘、丘墟、足臨泣、太衝。
任脈と足の三陰脈は承漿、中 、建里、水分、気海、関元、中極、章門、三陰交、地機、血海、湧泉。
毎回1組を取り、交替で使う。
操作:マニュアル通り刺鍼し、補法をしたあと30〜60分置鍼し、その間2〜3回運鍼する。督脈穴および背兪穴、夾脊穴は、上から下の順序で刺鍼する。毫鍼の太さや刺激の強さは人によって異なるが、罹病期間が長いものほど太い鍼で強刺激をする。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、12回を1クールとする。各クールは7日開ける。
2.頭皮鍼
取穴:頂中線と両側の頂顳前斜線。上肢の麻痺には中 、下肢の麻痺には上 を取る。
操作:抽気法を使う。頂中線は前頂から百会に向けて沿皮刺する。1寸のところまでゆっくりと刺入したら、急に力を入れて1分ずつ鍼を引き出す。これを3回繰り返したあと徐々に1寸の元の位置まで戻す。この動作を何回か繰り返す。頂顳前斜線の手法も頂中線と同じなので、両手で同時に抽気法で運鍼してもよい。2〜24時間置鍼する。
また振動術を使ってもよい。鍼を一定の深さまで刺入し、1分ほど置鍼したら鍼体を ほど引き上げて、軽く旋捻と雀啄をして九回ほどわずかに振動させる。これを9回繰り返すので、全部で81回振動させてから抜鍼する。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。治療間隔は5〜7日開ける。
注意事項:頂中線に刺鍼しているときに、患者の意識運動をさせ、病気が回復したイメージを描かせて、肢体の運動をさせる。頂顳前斜線に刺鍼したときも、同様に肢体の運動を組み合わせ、意識を患肢に集中させ、それによって肢体の運動をコントロールする。イメージするときは、雑念を排除し、「入静」状態になる。
3.梅花鍼
取穴: 損傷部分の夾脊穴を4〜6椎、腎兪、八 、殷門、委中、崑崙。
気海、天枢、髀関、風市、足三里、解谿。
環跳、風市、陽陵泉、懸鐘、丘墟。
以上の三組の経穴を交替で使用する。小便を失禁するものは、大腿の内側を叩刺する。
操作:それぞれのグループの循行路線を梅花鍼で叩刺する。軽、中刺激で、患者の皮膚が紅潮し、出血しない程度とする。
治療期間:上と同じ。
4.電気鍼
処方
取穴:断面の上下1〜2個の椎体の督脈穴と、相応する夾脊穴を主穴とする。配穴は髀関、伏兎、足三里、解谿、陽陵泉、腎兪、次 、委中、承山。大小便には秩辺と中極。
操作:督脈穴と夾脊穴は1〜1.5寸刺入する。気が得られたら少し鍼を後退させ、督脈穴と、同側同士の夾脊穴をG6805治療機に接続し、低周波の連続波で15〜20分通電する。配穴からは毎回2〜4穴を交替で選び、15〜20分通電する。秩辺に刺鍼すめときは、鍼尖を少し内側に向けて3.5寸刺入する。
治療期間:隔日1回で、15回を1クールとし、各クールは5〜7日開ける。
処方
取穴:腰陽関、十七椎、腰兪および相応する夾脊穴を主穴とする。配穴は次 、環跳、秩辺、承扶、殷門、足三里、陽陵泉、懸鐘。尿失禁には関元、中極、三陰交を加える。
操作:毎回4〜5穴を取り、督脈穴と夾脊穴を主とする。操作方法は処方 と同じ。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:上肢の麻痺には外関から内関への透刺、曲池、外臂中(四 穴の上1cmのところ)。下肢の麻痺には三陰交から懸鐘への透刺、足三里、四強(膝蓋骨上縁の中点の直上4.5寸)。
操作:1.5〜2寸の毫鍼で、刺鍼して気が得られたらG6805治療機に接続し、連続波で、電流の強さを患者に合わせて、患肢がリズミカルに跳動するようにしたら30〜60分置鍼する。抜鍼後、足三里に棒灸で2〜3分温和灸をする。
治療期間:一日1回で、7回を1クールとする。
処方
取穴:神経幹を電気鍼で刺激する。上肢の腕神経叢の刺激には扶突穴、橈骨神経には曲池穴、尺骨神経には少海穴。下肢の大腿神経には衝門穴、総腓骨神経には陽陵泉穴、坐骨神経には環跳、脛骨神経には委中穴。脊髄の損傷部分の上下端、直刺して鍼尖を硬膜に到達させる。腹部は中極、関元、維胞(維道穴から内斜め下方1寸)。
操作:毎回6〜8穴を選ぶ。背側と腹側の経穴は、毎回交替で使用する。刺鍼して気が得られたら、パルス電流治療器の出力コードをつなぎ、10〜15分電気刺激する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴: 大椎と命門。 脊髄損傷平面の上下を取穴の指標とする。もし下の境界がはっきりしなければ命門穴を使う。 相応する分節の夾脊穴。
操作:患者を側臥位か伏臥位にし(腹部に座布団を入れて高くし、脊椎の間隙をはっきりさせる)、無菌操作で刺鍼する。上下の椎体の間隙にそわせて2〜2.4寸刺入すると(脊髄の硬膜外にあたる)、痺れ感や電気ショックのような感覚が起こるが、そのあとで電気鍼治療機に接続する。患者が耐えられる範囲で徐々に電流を上げ、30分置鍼する。
治療期間:毎日か隔日に1回治療し、15回を1クールとする。
処方
取穴:脊髄損傷平面の上下二つの椎体の間隙(脊髄鍼)。
操作:脊髄損傷平面の上下の椎体の間隙に、それぞれ一本ずつ鍼をクモ膜下腔にまで刺入し、パルス電流を通電する。痙性麻痺では密波を使い、出力電極の+極を上に、−極を下につなぐ。弛緩性の麻痺では疎波を主とし、出力電極の+極を下、−極を上につなぐ。電流の強さは筋肉がはっきり収縮する程度か、下肢に怠い、痺れる、腫れぼったい、電気が流れる感じがあり、患者が耐えられる範囲とする。30分通電する。
治療期間:一日1回で、12回を1クールとする。
5.穴位注射
処方
取穴:腰兪、八 、秩辺、殷門、伏兎、足三里、陽陵泉、関元、中極。
操作:肢体麻痺にはビタミンB類、当帰注射液、ATP、硝酸ストリキニーネ注射液、尿失禁には臭化水素酸スポコラミン注射液を使う。一回に1〜3穴を選穴すればよい。肢体の麻痺では督脈、足の太陽脈、足の陽明脈などから取穴し、尿失禁では関元か中極を取穴する。穴位注射のマニュアル通り、一定の深さに刺入して提挿により気が得られたら、ピストンを引いても血が注射器内に入ってこないことを確かめてから、ゆっくりと薬剤を注入する。腰兪などの督脈穴に注射するときは、気が得られればよく、深く刺入し過ぎないようにする。関元や中極に注射するときは、あらかじめ排尿して膀胱を空にしておく。抜鍼は軽くすばやくおこない、綿花でしばらく鍼孔を揉んで薬剤が周囲に分散するようにする。使用する経穴は毎回順番に替え、各経穴には0.5〜1m の薬剤を注入する。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴:血海、足三里、承山、腎兪、三陰交。
操作:毎回それぞれの経穴に、紅花注射液か丹参注射液を0.5〜6m 注入する。経穴は交替で使用する。穴位注射の方法は上と同じ。
治療期間:上と同じ。
6.レーザーの穴位照射
取穴:命門、腰陽関、次 、陰陵泉、三陰交、気海、関元、中極。
操作:ヘリウム−ネオンレーザー治療機を使い、出力効率10mW、光斑直径2mmとし、それぞれの経穴に4〜8分ずつ照射する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。各クールは一週間開ける。
(二)治療効果
1.督脈穴と夾脊穴を主とする「断面九鍼穴」の処方に、刺鍼治療と穴位注射を併用して治療したところ、外傷性の対麻痺に対し明らかな効果があった。李観栄達は、124例(痙攣性71例、弛緩性53例)をこの方法で治療すると、治癒10例、有効102例、無効12例で、有効率は90.32%だった〔中医雑誌(12):34,1985〕。
2.各種の鍼灸療法を使った総合治療で、穴位注射、電気鍼、鍼灸、レーザー照射、赤外線照射、低周波の磁気治療を使い、リハビリを組み合わせて外傷性の対麻痺369例、横断性脊髄炎6例を治療した結果、基本的に治癒37例、著効81例、好転210例、無効46例だった〔中国鍼灸 :3,1987〕。
4.張広発達は、電気鍼だけを使って神経幹を刺激する方法と、電気鍼に薬物の穴位注射を加える方法で、対麻痺患者131例を治療すると、治癒11例、著効34例、有効76例、無効10例だった。大小便の失禁に関しては、薬物の穴位注射を併用したグループの方が、電気鍼で神経幹を刺激しただけのグループよりも効果が優れていると考えている〔中国鍼灸 :5,1990〕。脊髄鍼の電気刺激を主とし、他の方法を組み合わせて対麻痺の治療をしたものは286例で、基本的に治癒39例、著効157例、好転87例、無効3例で有効率は98.9%だった〔中国鍼灸 :7,1990〕。
5.頭皮鍼を使った対麻痺治療は、一定の効果がある。李観栄達は頭皮鍼の振動術を使って本病を治療し、患者の脳波と肢体の血流の変化を観察した結果、この方法は大脳の興奮抑制機能を有効に調整し、肢体の血流や脳波を改善して病気の治療に有効とした〔中国鍼灸学会兪穴研究会頭鍼研究組成立曁学術交流会論文匯編1988年;鍼灸学報 :3,1990〕。
6.ある人は対麻痺患者には、先に陽を取って後で陰を取穴するべきだと考えている。まず背兪穴と臀部の経穴を取って強刺激をし、後で腹部や下肢の経穴を取って弱刺激を使い、腎を補って髄を助け、経を温めて絡を通らせ、治療効果を上げるとしている。また対麻痺は、腎気が不足して督脈が空虚になり、それにつけ込んで邪が風に乗って侵襲して起こったもので、その本は足の少陰にあり、標は足の陽明にあると考えている。だから取穴では「痿の治療は、ただ陽明のみを取る」という『内経』の言葉に捕らわれてはならない〔中医雑誌(11):847,1981〕。例えば前に述べた経穴処方に一穴多鍼の手法(つまり何本かの毫鍼を同時に一穴に刺鍼し、提挿捻転をする)などで、刺激を強めてはっきりした鍼感があれば、治療効果もそれに応じて高くなる。
(三)論評
1.鍼灸治療は脊柱の外傷や脊柱結核、急性脊髄炎などで起こった対麻痺に適するが、腫瘍による圧迫などで起こった対麻痺には効果がない。
2.鍼灸治療は原発性疾患が処理された後の、回復期におこなう。
3.鍼灸治療は一般に総合治療として使う。取穴処方では督脈穴、夾脊穴、四肢の経穴を組み合わせて、交替で使用する。また治療方法も鍼灸、電気鍼、マッサージなどを組み合わせる。そして麻痺した肢体の機能訓練も加えれば、治療効果は高まる。
4.鍼灸治療は損傷された脊髄の伝達機能を改善し、患肢の運動、感覚そして栄養機能を回復させる。しかし正確な診断と、時期を逃さない合理的な治療が必要で、例え完全性対麻痺患者であっても、長期にわたって治療を続ければ、患者の麻痺した肢体の機能は部分的にでも改善する余地はある。

四肢麻痺の鍼灸治療

四肢麻痺とは両側の上、下肢の随意運動が減弱したり消失する麻痺の類型である。
四肢麻痺を起こす原因は多い。四肢麻痺の鍼灸治療は、多発性神経炎、重症筋無力症そして周期性麻痺を主とする。筋ジストロフィーや多発性筋炎などの筋源性の麻痺でも、本節を参照して鍼灸治療をおこなうことができ、脳血管障害や脳炎、脊髄空洞症、脊髄灰白髄炎、急性脊髄炎、外傷などによって起こった四肢麻痺に対しては、本書の片麻痺、対麻痺、単麻痺の鍼灸治療を参照するため、ここでは触れない。

一、多発性神経炎
多発性神経炎は周囲神経炎とか末梢神経炎とも呼ばれ、対象性の肢体遠端の知覚障害と弛緩性麻痺、そして栄養障害が特徴である。全身性の感染、栄養不良、代謝障害、金属や薬物中毒などによって引き起こされる。結合組織の病変や癌などでも多発性の神経の病変が起こる。
多発性神経炎は中医では「痺証」や「痿証」である。
(一)症状
1.急性や亜急性、慢性に発病する。
2.手足が腫れぼったい、痺れるあるいは痛みや蟻走感が現れ、徐々に体幹に向けて進行する。
3.四肢末端の手袋や靴下を着ける部分に、対称性の知覚減退や消失、あるいは焼けるような痛みがある。
4.対称的に肢体の遠端の筋力が減退し、筋の張力が低下して、腱反射が減退したりなくなったりし、筋肉に圧痛がある。急性期の後では遠端の筋肉の萎縮が現れる。
5.肢体の遠端の皮膚が冷たく、テカテカに光ったり、薄くなったり乾燥してヒビが切れたり、指(趾)の爪がパサパサになったり、ひどくカサカサになったり、汗が出たり、出なくなったりする。
6.両側の肢体が対称的に発病するのが特徴で、肢体の遠端の症状が近端よりもはっきりしている。
7.ヒ素中毒によるものは、下肢の損傷がひどく、四肢末端に激痛があったり、深部感覚が減弱したり消失したりするのが特徴である。鉛中毒によるものは、橈骨神経が損傷されて腕が下垂する。脚気によって起こったものは、知覚障害と運動障害があり、一般に下肢が上肢よりも症状が重く、腓腹筋にはっきりした圧痛がある。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼
取穴:上肢は肩 、曲池、外関、合谷、八邪。下肢は環跳、陽陵泉、足三里、懸鐘、三陰交、八風。
操作:26号2寸の毫鍼を使って、マニュアル通り消毒した経穴に深刺し、中刺激で刺激する。または鍼体直径0.8〜1mm、長さ3〜8寸と鍼体直径0.4〜0.5mm、長さ2〜3寸の粗鍼を使い、それぞれ四肢と手足の経穴に刺鍼する。刺鍼するときは、浅いところから深いところへ、ゆっくり押し込み速く引き上げる提挿と捻転を組み合わせ、触電感があればよい。10分置鍼する。抜鍼で鍼孔から出血しなければ抑えなくてよい。
治療期間:毎日か隔日に1回治療し、15〜30回を1クールとする。
2.電気鍼
取穴:上肢には 曲池、外関、八邪。 手の三里、合谷、後谿。下肢には 足三里、承山、八風。 陽陵泉、三陰交、太白。 と を交替で使う。配穴は、胃腸(脾胃)の虚弱には中 、胃兪、脾兪を加える。血流が悪(気滞血 )ければ太衝を加え、合谷に補法、三陰交に瀉法をする。手足が重怠い(手足に湿邪が行く)ものは陰陵泉と公孫を加える。
操作:上下肢では、主穴の八邪と八風以外は、刺鍼して気が得られたら疎密波か連続波のパルス電流を20〜30分通電する。配穴は中 、胃兪、脾兪は補法を使う以外、瀉法をする。みな20〜30分置鍼し、その間1〜2回運鍼する。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、15回を1クールとする。
3.耳鍼
取穴:交感、神門。肘、腕、指、膝、踝、足趾などの肢体と対応する耳穴。
操作:毫鍼を使って軽い中刺激したあと15〜20分置鍼して、その間1〜2回運鍼をする。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。各クールは5〜7日開ける。
4.頭皮鍼
取穴:頂顳前斜線の上 、中 。頂顳后斜線の上 、中 。
操作:マニュアル通り消毒し、30号1〜1.5寸の毫鍼を使って、頂顳前斜線の上から、中 と下 のの交点まで三本の毫鍼をリレーさせて刺鍼する。そして次の二つの方法で頂顳后斜線に刺鍼する。 頂顳后斜線に沿って頂顳前斜線と同じように三本の毫鍼をリレーさせる。 頂顳前斜線上から頂顳后斜線に向けて三本の毫鍼を透刺する。こうして九本の毫鍼を透刺したら、抽気法で運鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。各クールは5〜7日開ける。
5.梅花鍼
取穴:夾脊穴は胸椎の1〜4がポイントで、腰仙部の陽性物と四肢患部を叩刺する。配穴は、上肢の病変には前腕の内側と外側、手掌、手背および指の末端。下肢の病変では脛の内側と外側、足背および足趾の末端。
操作:梅花鍼を使って、中度か重度刺激で諸穴および患部を叩刺し、叩刺部位が紅潮して出血しないかわずかに血がにじめばよい。指の末端や足趾の末端は点刺出血する。
治療期間:毎日か隔日1回治療して10〜15回を1クールとし、各クール間は2〜3週間開ける。
6.穴位注射
取穴:毫鍼と同じ。
操作:一回に2〜4穴を選び、ビタミンB1とビタミンB2、ビタミンB12などを、それぞれの経穴に0.5〜1m ずつ注入する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(三)治療効果
1.本病に対して筆者が毫鍼を刺鍼し、気が得られたG6805治療機に接続して15分パルス刺激を使って通電したところ、発病初期や罹病期間の短い患者に対しては優れた効果があり、完全に治癒して後遺症も残らなかった。しかし罹病期間の長い患者では治療効果が劣り、無効のものもあった。
2.関海岐は粗鍼を使って、本病患者36例を治療したところ、治癒率は63.89%、著効22.22%、好転11.11%で、有効率は97.22%だった〔中国鍼灸 :
14,1982〕。
(四)論評
1.本病は病因を治療し、適当に栄養を与える。
2.本病の回復速度は比較的遅いので、辛抱強く治療を続けなければならない。一般にいろいろな刺鍼法を総合して使ったほうが優れた効果がある。
3.運動障害のあるものは、刺鍼治療の際に理学療法や運動療法、薬物治療などを併用し、リハビリを加えれば治療効果が上がる。

二、急性感染性多発性神経根炎
急性感染性多発性神経根炎は急性多発性神経根神経炎とかギラン・バレー症候群とか呼ばれている特殊な多発性神経炎である。年齢、季節を問わず発生する。その原因はビールスの感染や、ビールスや細菌による感染、予防接種などに対する身体のアレルギー反応、あるいは自己免疫反応によって起こるものと考えられる。病変は周囲の神経幹、神経根などに影響を与えるが、脊髄の前角細胞や脳幹の運動核を損傷する場合もある。
(一)症状
1.発病の数日から数週間前に、上気道感染や下痢などがある。
2.最初の症状は四肢が対称的に無力となり、無力は遠端から近端に広がったり、また逆に近端から遠端に広がったり、あるいは遠近同時に無力となったりする。そして体幹に波及し、重症になると肋間筋や横隔膜が障害され呼吸麻痺も起こす。
3.麻痺は弛緩性で、腱反射が減弱したり消失し、病理反射は陰性、筋肉にはっきりとした圧痛がある。
4.初期では筋肉の萎縮ははっきりしない。重症のものは筋肉が萎縮するが、一般に四肢遠端にはっきり現れる。
5.知覚障害は一般に運動障害より軽く、四肢遠端の知覚異常や呼び手袋、靴下状に知覚が減退する。患者によっては痛みがはっきりあるが、かなりの患者は知覚障害はない。
6.ほとんど脳神経にまで障害が及び、両側の顔面神経麻痺がよく見られる。次には舌咽神経と瞑想神経が麻痺し、構音障害や嚥下困難などの延髄麻痺症状が起こる。また眼筋神経の麻痺を伴うこともある。
7.心筋が障害されると、心不全が起こる。
8.脳脊髄液の検査では、細胞蛋白の解離現象があって細胞数は正常か少し高くなる。50〜100mg/d は軽度の増加だが、ひどいものは200mg/d を超え、まれには1000mg/d に達するものもある。蛋白の増加は発病して7〜10日後から現れ、三週目にもっともはっきりし、六週目から徐々に正常に回復する。一部の患者の脳脊髄液は正常である。
9.約 の患者は、四肢遠端の運動神経の伝達速度が正常の60%程度となり、筋電図の筋肉動作電位の振幅は正常だが、近端の筋肉動作電位は低くなる。約 の患者の運動神経の伝達速度は、遠端では正常で、近端で遅い。
(二)鍼灸治療
集中治療によって危険状態から助かり、病状が安定したら鍼灸治療を始める。手足の陽明脈を主として取穴する。
1.毫鍼
処方
取穴:上肢では手の三里、合谷を取り、肩 、肩 、肩貞、曲池、外関を加える。下肢は腎兪、大腸兪、環跳を取り、秩辺、髀関、足三里、陽陵泉、懸鐘、崑崙を加える。体幹は夾脊穴、肝兪、脾兪、腎兪を取る。嚥下困難には廉泉、 門、人迎を取る。顔面麻痺には地倉、頬車、翳風、四白を取る。
操作:乳幼児では、すばやく切皮し、補法をしたら抜鍼する。年長者では15〜20分置鍼する。
治療期間:毎日1回治療して10〜15回を1クールとし、2〜3日開けたら第2クールを始める。
処方
取穴: 中、中 、陽陵泉、太淵。 大杼、膈兪、懸鐘、章門。両組を交替で使う。
操作:マニュアル通り刺入し、平補平瀉して気が得られたら15分置鍼する。
治療期間:上と同じ。
2.電気鍼
取穴:上肢は胸の夾脊穴を、下肢は腰の夾脊穴を主とし、毎回6対を使う。
操作:マニュアル通り操作し、刺入して気が得られたら、鍼柄に電気鍼機の出力コードをつなぎ、15〜20分通電する。電流の強さは患者が耐えられる限度とする。
治療期間:上と同じ。
3.灸頭鍼
取穴:毫鍼の処方 と同じ。
操作:刺鍼して気が得られたら、提挿捻転の補法をする。置鍼の間、2cmぐらいの棒灸を棒灸と皮膚が2〜3cm離れるようにして挿し、棒灸の下から点火する。またはナツメ大のモグサで鍼柄を包んで、やはり下から点火してもよい。燃え尽きたら灰を取り去って、しばらくしてから抜鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10〜15回を1クールとする。各クール間は2〜3日開ける。
4.粗鍼
取穴:大椎から身柱への透刺、神道から至陽への透刺。上肢は中府、手の三里、内関、合谷を加える。下肢は環跳、殷門、承山を加える。
操作:主穴は直径0.8mmの粗鍼で透刺し、2時間置鍼する。配穴は直径0.4mmの粗鍼で強しげきをしたら抜鍼する。
治療期間:上と同じ。
5.頭皮鍼
取穴:頂中線。上肢の運動麻痺には頂顳前斜線の中 、下肢の運動麻痺には頂顳前斜線の上 、顔面麻痺には頂顳前斜線の下 と顳前線。上肢の知覚障害は頂顳后斜線の中 、下肢の知覚障害は頂顳后斜線の上 をそれぞれ取る。
操作:マニュアル通り消毒したら、30号1.5寸の毫鍼を治療線から帽状腱膜の下層に刺入し、抽気法で瀉法したあと2〜24時間置鍼する。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。各クール間は5〜7日開ける。
注意事項:運鍼しているときは、対応する肢体の意識運動と、肢体の能動運動か受動運動を組み合わせる。例えば頂中線か頂顳前斜線の上 を運鍼するときは、患者は対側の下肢の患部に意識を集中させ、形態や動くかどうかに係わらず、イメージのもとで運動を組み合わせることが重要で、すでに回復しているところを思い浮かべる。そして能動運動ができれば、腿を挙げたり、足をバタつかせたり、膝を伸ばしたり曲げたり足趾を動かし、能動運動ができなければ家族に手伝ってもらって上のような運動をする。置鍼の間はイメージしながら下肢の各部分を動かすが、足の親指から動かし、さらに次々と他の足の指を動かし、足全体を動かしていると想像し、同時に下肢患部の能動運動や受動運動をする。
6.梅花鍼
取穴:上肢では陶道、身柱、肩 、曲池、合谷、陽谿、外関、尺沢。下肢では髀関、足三里、解谿、環跳、陽陵泉、腰陽関、陰陵泉を主とする。脊柱の両側、上肢は肩、肘、腕関節および指の間、下肢は膝関節や足関節、足趾の間を加える。
操作:梅花鍼を薬酒に浸し(75%アルコール500m に馬銭子20g、麝香1gを入れて一ケ月余り経ったもの)、中刺激で叩刺する。経穴の表皮は直径0.5〜1.5cmの範囲内を10〜20回叩刺する。脊柱の両側1、2、3cmのところは、上から下に向かって三行叩刺する。上肢と下肢の関節や指、指の間などは中刺激で叩刺する。
治療期間:上と同じ。
7.穴位注射
取穴:毫鍼処方 と同じ。
操作:毎回4〜6穴を選び、ATP、コエンザイムA、ビタミンB1、ビタミンB2、ガランタミン、ノボカインそれぞれ一本ずつ注射器にに吸入させ、経穴を消毒したら、すばやく切皮して提挿法か雀啄法を使い、患者に怠い、痺れる、痛い、腫れぼったいなどの得気感を起こしたら、各経穴に薬剤を0.5m ずつ注入する。
治療期間:隔日1回治療して15回を1クールとし、各クール感は2〜3日開ける。
刺鍼と穴位注射は交替でおこなってもよい。
(三)治療効果
1.麻痺した筋肉群の状態に基づいて循経取穴をするが、手足の陽明経穴を主として適当に手足の少陽、足の太陽の経穴を組み合わせて刺鍼治療をすると本病に効果がある。趙蘭達は、刺鍼と穴位注射を組み合わせて50例を治療し、治癒23例、著効16例、好転11例で、有効率は100%だった〔中国鍼灸 :7,1983〕。
2.施炳培達の報告によると、本病に対する総合治療は優れていたが、それは次のようなものである。上肢が麻痺して腕が挙がらないものには大椎、肩井、天宗、肩 、肩 、臂臑、挙臂(肩峰の前下方3寸半)。肘が伸ばせないものは肱中(天泉の下2.5寸)、肩貞、曲池。肘が曲げられないものは曲池、尺沢、曲沢、臂中(腕関節横紋と肘関節横紋をつなぐ中点で、両骨の間)。手が下垂するものは曲池、手の三里、四 、外関。指の屈伸が困難なものは間使、内関、神門、合谷、外関、八邪。下肢の麻痺で腿が挙がらなければ大腸兪、腎兪、環跳、衝門、髀関、伏兎。股関節や膝関節画屈曲して拘縮するものには腎脊(第2腰椎棘突起の下で、傍ら0.5寸。腎の夾脊穴だから腎脊)、殷門、膝陽関、風市、鶴頂(膝蓋骨上縁中央)。股関節の外転が無力ならば腰4、5の夾脊穴、居 、跳躍(腸骨稜の最高点の下2寸)。股関節の内転が無力ならば急脈、陰廉、血海、箕門。膝の屈曲が無力ならば承扶、殷門、委中、環跳。膝の伸展が無力ならば衝門、髀関、伏兎、四強(膝蓋骨上縁中点の直上4.5寸)。足が下垂するものは足三里、上巨虚、下巨虚、解谿、太衝、下垂点(解谿穴の上3寸で、脛骨の外縁から傍ら1寸)。足の外翻には陰陵泉、三陰交、太谿、糾外翻(承山穴の内側1寸)。足の内翻には陽陵泉、懸鐘、下巨虚、丘墟、糾内翻(承山穴の外側1寸)。仰趾足には委中、承山、跟平(内踝と外踝をつなぐ線がアキレス腱の中央と交わるところ)、崑崙、太谿。足趾の屈伸困難には解谿、太衝、八風、委中、承山。穴位注射ではニトロフラントイン、ビタミンB1 、ビタミンB12、複方当帰液あるいは複方丹参注射液、コエンザイムA、ATP、ガランタミンなどから麻痺の状態に合わせて一回で2〜4種類の薬物を選び、4〜8穴を取穴して、各穴位に薬剤を0.5〜1m ずつ注入し、隔日1回治療して10回を1クールとし、各クール間は7〜10日開け、4〜8クール治療した。電気鍼は損傷した筋肉群の神経分布に基づいて、上に述べた穴位から二つを対にし、毎回順番に2〜4対の穴位を選び、連続波で刺激の強さとパルス間隔は患者が耐えられる限度とし、できるだけ筋肉が収縮するようにして10〜15分通電した。治療間隔は穴位注射と同じである。穴位埋線と穴位結扎は、上に挙げた穴位の中で筋肉の厚いところは結扎し、薄いところは埋線処理した。一回に3〜4穴を取り、一日1回ずつ0〜1号の羊腸線で穴位に結扎か埋線をおこない、好転するか治癒するまで続けた。軽度の麻痺(筋力が 級以上のもの)には穴位注射か電気鍼のどちらかを単独で使ったが、2〜3クール治療しても効果がはっきり現れないものには、二つの方法を交替で使った。重症の麻痺(筋力が 級以下のもの)で、穴位注射と電気鍼を3〜6クールしても効果がはっきりしなかったり、罹病期間が6ケ月以上のものには、穴位結扎か穴位埋線治療をした。617例の小児の麻痺の中で49例を本病と診断し治療したところ、治療効果は神経の損傷と脊髄灰白炎などの麻痺に優れていた〔中医雑誌(12):51,1988〕。
(四)論評
1.本病は看護を強化し、褥瘡や肺の感染および肢体の変形などを予防する。そうでないと治療効果に重大な影響を及ぼす。
2.取穴治療は、上から下の順序でおこなう。例えば上肢では肩、上腕、肘、前腕、手の順序で刺鍼治療する。
3.鍼灸治療とともに、マッサージやリハビリを加えれば治療効果が上がる。

三、重症筋無力症
重症筋無力症は神経筋接合部の伝達機能障害によって筋肉収縮に影響する慢性疾患である。横紋筋が疲労しやすいのが特徴で、最初は眼、顔、喉が疲労しやすいものが多く、徐々に四肢の筋肉に及ぶ。
(一)症状
多くは20〜30歳で発病し、女性に多い。損傷された部分の違いにより三つの型に分かれるが、一部には混合型もある。
1.眼筋型:児童に多く、眼瞼下垂、外輪筋の麻痺や斜視、複視があったり、眼球を動かせなかったりする。病気が長期化すると徐々に延髄筋や全身の骨格筋に及んでくる。
2.延髄筋型:構音障害や食べるときむせたり、進行性に声が低くなる。咀嚼が無力となったり、嚥下困難となる。顔に表情がなくなる。ひどければ気道が塞がって生命の危険もある。
3.全身型:中年以降の男性に多く、急に発病する。全身の筋肉が極度に疲労し、食事や呼吸、呑み込んだり寝返りうったりが困難となり、治療をしないと生命が危険となる。
4.障害されている筋肉群の症状は、朝は軽く、午後や夕方になるとひどくなり、労働した後や疲労するとひどくなるが、休憩すれば幾らか回復する。神経系統の検査では異常なし。
5.疲労試験:障害された筋肉は、速い、繰り返し動作のあと疲労し少し休めば症状が緩解したり消失する。罹病期間が長くて症状が固定したものは、疲労試験も難しい。
6.抗コリンエステラーゼ剤試験:判定が難しい患者では、ネオスチグミンを0.5〜1.5mg(0.6mgの硫酸アトロピンを加えてもよい)筋肉注射すれば、30分〜1時間で著効があるので正確に診断できる。もし顔面蒼白、多汗、余だれを流す、腹痛などのムスカリン様反応が現れたら、アトロピンを注射する。
7.電気刺激テスト:パルス電流で障害された筋肉を持続的に刺激すると、短時間のうちに収縮が起こらなくなるが、これを筋無力反応と呼んで診断の助けとする。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼
処方
取穴:中 、気海、三陰交、足三里、血海を主穴とする。
上眼瞼挙筋麻痺には攅竹、魚腰、瞳子 、絲竹空を加え、太陽、合谷、風池を配穴す。
内側直筋麻痺には睛明、攅竹、魚腰、陽白を加え、合谷、承泣、四白を配穴する。
上斜筋麻痺には攅竹、睛明、球后を加え、合谷、陽白、承泣、太陽を配穴する。
全眼筋麻痺には球后、睛明、攅竹、絲竹空を加え、承泣、太陽、魚腰を配穴する。
延髄筋型で、嚥下困難には風池、天突、廉泉、 門を加える。咀嚼が無力ならば下関と
合谷を加える。構音困難で発音が曖昧ならば、 門と廉泉を加える。
全身型は肩 、曲池、外関、合谷、環跳、風市、陽陵泉、太衝を加える。
操作:一回の治療で、主穴から2〜3穴、配穴から2〜3穴取り、経穴グループを作って交替で使用する。毫鍼で1〜1.5寸直刺し、提挿捻転補法を使って運鍼したあと、15〜30分置鍼する。
治療期間:一日1回で6回を1クールとし、各クールは2日開ける。
処方
取穴:百会、 中、足三里を主穴とし、陽白、攅竹、睛明、魚腰、絲竹空、四白を配穴する。
操作:皮部に浅刺する。足三里以外は0.5〜1寸の毫鍼を皮内に2分ほど刺入し、吊り下がるようにする。局部では患側に刺鍼する。足三里は両側を取り、1.5寸の毫鍼で直刺する。すべて20分置鍼する。
治療期間:上と同じ。
2.頭皮鍼
取穴:頂中線、頂顳前斜線の上 、中 、枕上旁線。
操作:頂中線は進気法を使って補法、頂顳前斜線と枕上旁線は抽気法で瀉法をする。2〜24時間置鍼し、間欠的に運鍼する。または刺鍼して気が得られたら、G6805治療機に接続し、50〜100回/分のパルスを15分通電する。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。クール間隔は3〜5日。
3.耳鍼
取穴:皮質下、脾、眼を主穴とし、肝、内分泌、腎を配穴する。
操作:両耳に刺鍼する。一回の治療で3〜4穴取穴する。0.5寸の毫鍼を刺入して30分置鍼し、5分に1回捻鍼する。
治療期間:上と同じ。
4.穴位注射
取穴:曲池、外関、合谷、風市、血海、足三里、陰陵泉、陽陵泉、三陰交。
操作:毎回2〜3穴を選び、両側に刺針する。針を刺入してピストンを引いても血が入ってこないことを確かめてから、それぞれの経穴にビタミンB1と ビタミンB12の混合液を1m ずつ注入する。
治療期間:上と同じ。
(三)治療効果
刺鍼治療は重症筋無力症に一定の効果がある。例えば鞠桂琴は毫鍼による刺鍼で眼筋型を治療し、治癒率は95.3%に達し、好転1.6%、無効3.1%だった〔上海鍼灸雑誌 ,1988〕。霍金山は浅刺皮部法と按摩を組み合わせ、百会、 中、風池、肝兪、脾兪などを使って、経を通らせ絡を循環させ、陽を昇らせて気を調え、肝気を流通させて風を流し去り、目をはっきりさせ、臓腑を調理して陰陽バランスを是正して免疫機能を高め、3例の患者はすべて治癒した〔中医雑誌 ,1990〕。葉増桂は頭鍼にパルス通電を併用し、眼の周辺の経穴を加えて本病の眼筋型16例を治療した結果、治癒8例、好転7例だった〔中国鍼灸4 12,1984〕。許瑞征は『耳鍼研究』の中で、耳鍼は軽症のものに効果があり、全身型では効果がなかったと発表している。
(四)論評
1.重症筋無力症は、中医辨証では肝腎陰虚、脾胃気虚、気血両虚型に分かれる。鍼灸治療で辨証取穴できるが、補法を主とする。
2.本病に対する鍼灸治療は一定の効果があるが、長期に渡って治療する必要があり、一般に半年異常治療して、ようやく効果が現れる。眼筋や体幹型の治癒率はよいが、延髄筋や全身型では少し劣る。漢方薬の辨証施治を組み合わせてもよい。
3.治療時には患者を休憩させ、感情変化や感染を避けなければならない。
4.全身型の重症なものや、筋肉の無力で危険となっているものは、すぐに入院して薬物治療したり救急治療が必要である。手遅れとならないように。

四、周期性麻痺
周期性麻痺はカリウムの代謝障害により、弛緩性の麻痺が繰り返し起こるもので、少数には遺伝による傾向がある。大部分の患者は、発作が起こると筋肉内のカリウムの含有料が増加し、血清中のカリウム濃度が低くなる。しかし血清のカリウム濃度が発病前よりも高くなったり、はっきりした変化が現れない患者もある。一部の患者ではパセドウ病を併発することがある。
(一)症状
1.低カリウム性周期性麻痺
10〜30歳で発病し、男性に多い。
発病時間は明け方か夜間に目が覚めたとき。誘発原因は食べ過ぎや激しい運動をしたときなどに多い。
四肢は対称性に麻痺を起こし、下肢でひどい。ひどい症例では頚筋、体幹の筋肉、呼吸筋、咀嚼筋まで影響を受ける。
麻痺した肢体では腱反射が減弱または消失し、筋肉の電気刺激に対する反応も減弱したり消失する。
心筋に影響すれば、心拍が乱れて血圧が低下する。
麻痺は数時間続くが、中には数日経ってからだんだんと回復するものもある。
発作時の血清カリウムが3mEq/ 以下ならば、心電図にカリウム不足の変化が現れる。
2.高カリウム性周期性麻痺(少ない)
10歳前に発病する。
激しい運動をしたあとで休憩したり、寒冷刺激やカリウム塩を飲むと誘発される。
症状は低カリウム性麻痺と同じだが、継続時間は数分かに数時間と短い。筋肉の痛みや痙攣がある。
顔面筋や舌筋に筋硬直が起こる場合もある。
発作時の血清カリウムは5mEq/ 以上で、心電図に高カリウムの異常が現れる。
3.正常カリウム周期性麻痺(少ない)
症状は低カリウム性麻痺と同じで持続時間が長く、数日から数週間に及ぶ。
血清カリウムは正常で、カリウム塩を使って治療しても効果がない。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼
取穴:上肢の麻痺には中府、手の三里、合谷を取り、下肢の麻痺には秩辺、合陽、陽陵泉、足三里を取る。
操作:直径0.5mmの粗鍼を使って強刺激をしたら抜鍼する。
治療期間:毎日か隔日に1回治療し、10回を1クールとする。
2.頭皮鍼
取穴:下肢の麻痺には頂中線、頂顳前斜線の上 、頂旁1線。上肢の麻痺には頂中線、頂顳前斜線の中 、頂旁2線を取る。
操作:マニュアル通り消毒し、すばやく切皮して鍼体を帽状腱膜の下層に沿皮刺で刺入したら、鍼体を寝かせて抽気法を使って瀉法をしたあと、2〜24時間置鍼し、間欠的に運鍼する。
治療期間:上と同じ。
(三)治療効果
本病に対する鍼灸の効果は優れている。「粗鍼療法」では粗鍼を使って強刺激し、一回の治療で立って歩くことができる。頭皮鍼による治療でも、一回で立ち上がって歩くことができる(詳しくは本書のカルテ集)。

単麻痺の鍼灸治療


単麻痺とは一方の上肢か下肢だけが麻痺するものである。上運動神経元性の単麻痺は、ほとんどが運動皮質の病変によるものだが、脊髄の病変によって起こるものもある。下運動神経元性の単麻痺は、急性灰白髄炎、脊髄空洞症、進行性脊髄性筋萎縮および腕神経叢の損傷などによって起こる。
単麻痺は発病原因によって症状が違うので、鍼灸治療方法もそれにより変わってくる。

一、脊髄灰白髄炎
急性灰白髄炎はポリオビールスによって起こった急性の伝染病で、主に消化器系統を通して伝染するが、初期では呼吸器系からも伝染する。その伝染経路は、主に日常生活の経口感染である。口を通して身体に侵入したビールスは腸や喉のリンパ節から血液循環に入り、中枢神経系統に達すると脊髄前角の灰白質の運動神経細胞を直接損傷し、浮腫を起こして血行障害を起こすので、神経細胞は酸素不足となり壊死して麻痺が起こる。
本病は夏から秋に流行し、1〜5歳までの小児に多く、一部の患者には弛緩性の麻痺が起こるので小児麻痺とも呼ぶ。
本病の急性期は中医の「温熱病」であるが、麻痺が現れると「痿証」となる。
(一)症状
1.接触したりワクチンを受けたかを尋ねる。夏秋の季節でワクチンを受けていない児童(特に流行している地区)に、発熱、頭痛、悪心、嘔吐、腿の痛み、うなじの痛み、知覚過敏などがあれば、この病気の可能性を考えなければならない。
2.発病初期は発熱、喉の痛み、咳嗽、食欲不振、下痢、多汗などの消化、呼吸器系統と全身症状が現れる。1〜4日で諸症状は消失し、引き続いて頭痛、嗜眠、肢体の痛みや痺れ、知覚過敏、腰仙部の痛みなどが起こり、再び発熱する。
3.麻痺の起こる前に、背筋の硬直して後ろに反り返り、安定して座れず、両手を後ろに伸ばして体幹を支えるなどの、軽い髄膜刺激症状が現れる。嬰児では大泉門が張りつめることがある。
4.麻痺は発熱して2〜5日目か、二度目の発熱があってから2〜5日目から起こる。麻痺は弛緩性の麻痺で、四肢へ分布もバラバラで、対称性もない。いずれか一つの筋群、しかも大筋群を主とし、下肢の損傷が最も多い。近位の筋肉の損傷がひどければ、遠位の筋肉も障害される。腱反射は消失するが知覚は残っている。
5.麻痺は四肢に起こるほか、背筋(一人で座れない)、腹筋(麻痺側の腹壁が隆起して腹壁反射がなくなる)、呼吸筋(呼吸困難や酸素欠乏症状)などの麻痺症状が現れる。
6.熱が下がってから数日は、麻痺がそれ以上進行せず、だいたい6ケ月〜1年の内に治癒に向かう。少数では肢体が萎縮したり、変形などの後遺症が残る。
7.後遺症は一般に運動障害、筋肉や靭帯の緩みや筋の張力の減退、筋肉の萎縮、皮膚温度の低下、筋腱の拘縮や関節の変形、姿態の異常などである。
8.本病は伝染性多発性神経根炎と鑑別しなければならない。後者は発熱などの前駆症状がなく、麻痺は数週間にわたって徐々に進行し、全部の肢体に広がり、両側性、対称的などの特徴があり、知覚障害を伴う。
9.脳脊髄液の検査では、多くで細胞数が増加するが、正常なものもある。一般に1mm3 で500個を超えず、リンパ細胞を主とし、蛋白質が少し増加する程度で、臨床検査でもはっきりした変化はない。
10.条件が整えば、脳脊髄液や糞便からビールスを分離すれば確実に診断できる。
(二)鍼灸治療
鍼灸治療は本病の回復期や、後遺症の段階に対しておこなう。
1.毫鍼
取穴:毫鍼の取穴では、手足の陽明経穴を主とし、循経取穴と局部取穴、陰経と陽経、健側と患側、治療穴と一般穴を組み合わせておこなう。グループ別に分けて交替に使ってもよい。
上肢麻痺:大椎、肩 、曲池、手の三里、外関を取り、肩 、肩貞、頚の5〜7の夾脊穴を配穴する。
下肢麻痺:命門、環跳、髀関、伏兎、風市、殷門、足三里、陽陵泉、腰の1〜5の夾脊穴を取り、秩辺、委中、崑崙、懸鐘、解谿を配穴する。
うなじ、背中から腰の背筋麻痺:風池、天柱、大杼、気海兪、腎兪、上 、夾脊穴。
腹筋麻痺:中 、天枢、関元、気海。
操作:麻痺が起こったらすぐに刺鍼をする。浅刺で多刺がよく、捻転雀啄術で10秒〜1分運鍼したら抜鍼する。置鍼はしないか短い間だけおこなう。実証では瀉法、虚証には補法を使う。罹病期間が長いものは深刺して中刺激を使い、15〜30分置鍼し、その間2〜3回運鍼をする。
治療期間:毎日か隔日に1回治療し、1ケ月を1クールとする。各クール間は20日開ける。
2.巨鍼
取穴:長強、命門、至陽。
第一鍼目は長強から命門まで透刺する。第二鍼目は命門から至陽まで透刺する。第三鍼目は至陽から大椎まで透刺する。これを「背三鍼」と呼ぶ。
上肢の麻痺には、肩 から曲池と、外関から曲池への透刺を加える。下肢の麻痺には、委中から承扶への透刺を加える。足の外翻には、内踝の尖ったところから三陰交への透刺を加える。足の内翻には外踝の尖ったところから光明への透刺を加える。膝関節が後傾するものは足三里から膝陽関への透刺を加える。
操作:8寸26号の毫鍼を使って、すばやく切皮してから鍼体を水平に倒し、皮膚と15〜30度の角度で皮下に沿わせて、速やかに相手の穴位まで透刺する。督脈では必ず前に向けて刺入し、片寄らせてはならない。鍼体を一定の長さ刺入したら、3〜5回提挿して鍼体を皮膚から5mmだけ出し、さらに左右に運鍼する。このとき脊椎と30度の狭角となるよな方向とする。配穴も巨鍼を使い、沿皮刺する。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
3.口鍼
取穴
上肢の区域:上顎の切歯から第2大臼歯までと、口腔前庭粘膜のところ。
上腕穴(上臂穴):上顎左側の第2小臼歯と第1大臼歯の間の口腔粘膜。
前腕穴(前臂穴):上顎左側の犬歯と第1小臼歯の間の口腔粘膜。
下肢の区域:下顎の切歯から第3大臼歯までと、口腔前庭粘膜のところ。
大腿穴:下顎左側の第2小臼歯と第1大臼歯の間、歯槽下方の口腔粘膜。
膝関節穴:下顎左側の第1、第2小臼歯の間の歯槽下方の口腔粘膜。
脛穴(小腿穴):下顎左側の犬歯と第1小臼歯の間の歯槽の下方の口腔粘膜。
上に述べた二つの区域の穴位は左右同じである。
操作:患側の穴位を取り、30号0.5〜1寸の毫鍼で斜刺か横刺(平刺)をし、30分置鍼する。鍼を刺入したあと患肢を動かす。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
4.穴位注射
処方
取穴:上肢の麻痺では頚椎4〜胸椎2の傍ら1寸を取り、下肢の麻痺には胸椎12〜腰椎5の傍ら1寸を取穴する。
操作:毎回それぞれ2対の穴位(つまり4つ。左右で2つずつ)を取穴し、マニュアル通り消毒したあと、注射針で脊柱方向に45度の角度で斜刺し、気が得られたらビタミンB12、ビタミンB1200mg(あるいはガランタミン1〜2.5mg) を混合し、それぞれを穴位に注入する。
治療期間:毎日か隔日に1回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴:殷門、環跳、伏兎、足三里。
操作:10%の葡萄糖20m を、穴位注射のマニュアル通りに3〜5m 注入する。または持効性ビタミンB1を各経穴に1m ずつ注入する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:上肢の麻痺には肩 、手の三里、四 を主穴とし、外関、内関、陽池、中渚、八邪、大椎を配穴する。
下肢麻痺は伏兎、足三里、健膝(膝蓋骨上縁の正中から上3寸)を主穴、髀関、血海、承扶、委中、糾外翻(承山の内側1寸)、糾内翻(承山の外側1寸)、跟平(内踝と外踝をつなぐ線のアキレス腱上)、解谿を配穴とする。
操作:体重1kgあたりスポコラミン0.01〜0.05mgを一日分として、3〜4穴に注入する。
治療期間:毎日1回治療し、30回を1クールとする。必要があれば治療を7〜10日中止した後で第2クールを始める。
5.電気鍼
処方
取穴:経絡辨証を主とし、患者の病変部位、経絡分布や循行方向に基づき、麻痺した筋肉の分布と機能状態を関連させ、関係する経脈と経穴から処方する。第1グループは脾胃経穴グループ、第2グループを膀胱、胆経グループとし、毎日一グループを取り、交替で使う。以上の二グループを基本に、毎回さらに任脈か督脈から経穴を2〜3穴加える。
操作: 時間治療:子午流注納支(子)法に基づいて、脾胃経脈の経気が旺盛となるのは「辰巳」の刻(午前7時〜11時)だから、その時間に治療する。 操作方法:関係する経穴を確定した後、経絡の循行路線に沿って、損傷部位を起点とし上から下に順次刺鍼する。下肢では二列に、各鍼を1寸ずつ離して刺入する。そのあと順次運鍼してゆき、気が得られたら刺激を強めるため、鍼を押し込むことを主とした提挿をする。押し込む動作を引き挙げる動作より強くして鍼感を誘発し、経絡に沿わせて上下に伝導させ、鍼感を病変部の経絡に伝える。最後に細い銅線で各鍼をつなぎ、鍼柄にパルス電流を流す。一回の治療時間は20分とする。通電時は電気刺激を徐々に強め、前半の8分は疎波、8〜10分は疎密波、10〜20分は連続波を使い、電流は最大にする。
 治療期間:毎日1回治療して12回を1クールとし、各クールは7日開け、3クール治療したあと6ケ月休み、そのあと第二段階の治療を3クールおこなう。
処方
取穴:上肢の麻痺には肩貞、臂臑、曲池、外関。
下肢の麻痺には環跳、秩辺、陰廉、伏兎、委中、承山、陽陵泉、足三里。
以上の経穴を対にして電気鍼治療をおこなう。一般に2〜3対を取る。
操作:毫鍼を穴位に刺入したあと、運鍼して鍼感を肢体の末端に拡散させ、そのあとG6805治療機に接続して通電する。電流は徐々に強め、関係する筋肉群に電気刺激によって規則的な収縮が起きる程度でよい。また30秒ほど通電し、少し止めたあと再び30秒通電する方法を3〜4回繰り返してもよい。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
6.梅花鍼
取穴:上肢の麻痺には後頚部、胸部、肩部および患肢を取る。重点的に胸椎1〜4の両側、患肢および曲池、外関、陽性物のところ、指先を叩刺する。
下肢の麻痺には腰仙部、患肢を取る。同時に足の陽明胃経、足の太陰脾経、足の厥陰肝経などの循行路線に沿わせて叩刺してもよい。重点的に腰椎4〜5、仙骨部および足三里、陰陵泉、解谿、環跳、陽性物のところを叩刺する。
症状がほぼ回復したら脊柱の両側を叩刺し、重点的に胸椎5〜12及び腰部を叩刺し、患肢を軽く叩刺する。
操作:軽度(皮膚が少し赤くなる)か中度(皮膚が赤くなるが、出血しない)刺激、患肢は毎日叩刺し、健側は隔日に1回叩刺する。
治療期間:上と同じ。
7.灸
取穴:毫鍼と同じ(筋肉が萎縮した肢体)。
操作:毎回主穴から3〜4穴選び、棒灸を使って温和灸をする。各経穴を5〜10分、局部が紅潮して少し汗をかき、皮膚がしっとりする程度に温める。
治療期間:上と同じ。
8.穴位埋線、結扎
取穴:手足の陽明経を主とし、麻痺した筋群を補佐とする。配穴では先に陽経を取った後で陰経を取り、先に肢体上部の経穴を取ったあと下部の経穴を取る。筋肉が萎縮したり変形していれば、先に萎縮を治療し、あとで関節の変形を治療する。複数の肢体が麻痺していれば、先に軽い側の肢体を取り、あとで重症の肢体を取る。上肢の麻痺では大椎、肩 、曲池、外関を取る。下肢の麻痺では命門、環跳、邁歩(髀関の下2寸)、足三里を取る。毎回3〜5穴を使う。
操作: 三角縫合針埋線法:皮膚を消毒して、穴位の両側1.5〜3cmのところに局所麻酔をし、持針器で羊腸線を通した三角縫合針を挟み、局部麻酔の一点から刺入して、もう一点から出し、何回も引っ張って擦り、局部に痺れるような腫れぼったさが起こったら、皮膚に密着したところで羊腸線を切り、ガーゼで被う。できるだけ長い羊腸線が体内に残るようにし、線の端は必ず皮下に入れて外に露出させてはならない。この方法は浅表の経穴の大部分に使える。
穿刺埋線法:1〜2cmの羊腸線を腰椎穿刺針(針尖を平らに研摩する)の前端に入れ、穴位を消毒したあと刃先で皮膚を破り、穿刺針を穴位に刺入したら按摩刺激をし、痺れるような腫れぼったい感じを起こさせる。按摩の刺激量は、患者が耐えられる限度とする。そのあと針を後退させながらスタイレットを推し、羊腸線を経穴内に入れてピンセットで切り口を合わせてガーゼを被せ、縫合はしない。この方法は環跳のような深部の経穴に使う。
穴位刺激結札療法:皮膚を消毒して経穴の傍ら1.5〜2.5cmのところに、経絡の走行と垂直方向に局部麻酔をする。穴位の傍ら1.5〜2.5cmのところを、刃先を使って切り口が3〜5mmとなるように、皮膚の全層を突き破る。そのあと血管鉗子を使って切り口のところを斜めに押し、筋肉層の敏感点に至ったら按摩をし、気が得られるか麻痺した肢体に反応があったら血管鉗子をはずす。次に羊腸線を通した大きい三角縫合針を切り口に刺入し、敏感点の浅層(筋膜層)を通らせて元の切り口から出し、羊腸線を結んで残った部分を切り落とし、線の結び目を切り口の深部に入れるが、縫合はしない。最後に局部を消毒して包帯する。
治療期間:以上の方法で毎月1回治療する。
(三)治療効果
1.本病の麻痺の初期、回復期や後遺症に鍼灸治療はよい。筆者の経験では、低年齢で罹病期間が短いほど、病状が軽いほど効果がよい。呂興斎は毫鍼を使って本病患者を212例治療し、治癒率は49.5%、有効率は96.2%だった〔河南中医 :44,1984〕。郭転は巨鍼を使って、罹病期間が8日〜2年の患者310例を治療したところ、治癒50.9%、著効35.5%で有効率は99.1%だった〔河南中医 :39,1984〕。
2.王其徳は、本病の治療では「三関」により取穴しなければならないと考えている。三関とは、上肢の肩関節、肘関節、腕関節。下肢では股関節、膝関節、足関節で、関節局部や近隣の経穴を取穴することである。下肢麻痺の治療では、左右を問わず毎回腎兪(両側)、命門、大腸兪(両側)に刺鍼して置鍼せず、刺鍼後に吸い玉を加えて出血させる。上肢の麻痺では大椎穴に毎回必ず刺鍼する。上肢、下肢の関節局部や近隣の経穴は交替で使い、毎回各関節から3〜4穴取る。大幅の捻転と提挿を使い、後期では一般に瀉法から補法に変え、刺鍼する経穴も徐々に少なくする。上肢、下肢を問わず、やはり頚胸部や腰部には面積に合わせて吸い玉をする。刺鍼に始まり吸い玉で終わる。始めから終わりまで赤外線を照射する〔中国鍼灸 :15,1985〕。
3.賈広田は本病の治療で、上肢の麻痺には肩 、肩 、曲池、手三里、合谷、腰兪を主穴とし、肩を挙げられなければ天宗と臂臑を加え、肘の屈伸が無力ならば臂中、内関、外関を加え、手の掌屈、背屈には陽池、陽谿、後谿、四 、少海を加え、腕の下垂には外関と四 を加える。以上の各症状には、扶突穴の電撃刺法(ゆっくりと刺入して雀啄し、大きく捻鍼して電気が流れるような感じを指先に放射させる)を加える。下肢の麻痺には腎兪、大椎、命門、環跳、八 、殷門、梁丘、委中、陽陵泉、解谿を主穴とし、腿を挙げられないものは髀関を加え、膝の屈伸が不自由なものは陰市、承山、崑崙を加え、足の下垂には解谿を加え、足の内翻には風市、丘墟、懸鐘を加え、足の外翻には陰陵泉と内庭を加え、尖足には伏兎、足三里、内庭を加える。三 鍼で点刺したあと薬罐で 血を吸い出す。膝を支えて歩くものは、四つの竹板を結んで簾状にして膝に巻き付け、そのあとで秩辺に刺鍼して、電気が流れるような鍼感を足先に放射させるか、筋の痙攣を起こさせる。そして薬物の竹罐療法と、高温の火鍼療法を併用する〔中国鍼灸 :11,1987〕。
4.顧光達は電気排列鍼を使い、小児麻痺の後遺症患者1000例を治療した。脾胃経穴と膀胱経穴、胆経穴を選び、督脈穴、任脈穴を加えて子午流注の納子法に基づき、辰巳の時刻に治療したところ、著効360例、有効360例、好転260例、無効40例で、有効率は96%だった。ならびに41例の大腿四頭筋の筋電図を観察したところ、治療によりはっきりと好転したのは32例(78.1%)で、前角細胞の機能が部分的に回復していることを表している。治療後に血液中の5−ヒドロキシトリプタミンと5−ヒドロキシインドール酢酸の含有量がはっきりと上昇し、血清のコリンエステラーゼの活性がはっきり減少した。これは本病に対する電排鍼治療は、5−ヒドロキシトリプタミン系統の作用が関係し、それによって血管運動系統の機能が改善され、患肢の筋肉群への血液供給が改善され、機能回復を助けることを表している〔中国鍼灸 :1,1988〕。
(四)論評
1.本病はポリオワクチンの接種によって発病はなくなった。
2.本病にかかると1〜10%の患者に筋肉の萎縮や麻痺などの後遺症が起こり、中国に約300万人の後遺症患者があって、新たな患者も見つかる。だから刺鍼による後遺症治療は一定の意義がある。
3.一般に総合的な鍼灸治療は、一種類の刺鍼療法による治療に比べて、治療効果にはっきり差があると考えられている。だから麻痺の罹病期間や部位に基づいて、按摩、理学療法、リハビリなどいくつかの治療法を組み合わせれば治療効果を高められる。
4.関節の変形には、手術により矯正する。

二、脊髄空洞症
脊髄空洞症は、脊髄の中央に空洞ができるため、感覚が鈍くなったり消失したり、筋肉の萎縮、肢体の無力に伴う栄養障害などが起こり、慢性に進行する疾患である。病因は不明だが先天的な奇形を伴っているので、先天的な発育異常と関係があるとされている。空洞は脊髄下段の頚椎に縦長に起こり、いくつかの分節を占める。横断面は空洞が拡大して運動や感覚の伝導路である、前角、後角そして側角細胞を破壊する。現在有効な治療法はない。
本病は緩慢に進行し、治療するといくつかの症状は緩解する。少数の症例では進行が止まり、数年あるいは数十年経っても症状にあまり変化がない。
その特徴からすれば、本病は中医では「痺証」や「麻木」、「痿証」である。
(一)症状
1.学齢期の児童から青少年期に症状が現れることもあるが、ほとんどは20〜30歳で発病する。男性の発病数は女性よりも少し高い。
2.最も早く現れる症状は分節性に分布し、損傷された脊髄分節横断面によって垂直方向上の範囲は異なる。症状は上肢から起こるものが多い。
3.知覚障害:病変側の手部、腕の尺側および上胸部に分節性の痛覚、温度覚障害が現れ、触覚や深部感覚は障害がないか正常である。あるいは内側に対称性の分節性解離性の知覚障害や、分節性完全性の知覚障害があったりする。知覚障害区に火傷や無痛性の潰瘍があったりする。
4.運動と反射障害:上肢に筋萎縮、筋の無力(短母指外転筋、骨間筋が最も早く、最もひどく損傷される)が起こる。損傷された筋肉には筋束顫動がある。上肢の腱反射は減退するか消失する。錐体束が損傷されると下肢に痙攣性の麻痺が起こって筋の張力が高まり、腹壁反射は減弱するか消失して腱反射は亢進する。背部の両側の筋肉は非対称性に萎縮し、無力となり、脊柱が側弯する。
5.栄養障害:筋肉の萎縮を伴い、皮膚は肥厚して青くなり、汗が多いか少なく、爪周囲炎、皮下組織の限局性萎縮、水疱性皮疹および四肢末端に青黒い色素が珍着すなどの症状が起こる。頚段の側角に病変があれば、ホルネル徴候(同側の眼球が陥凹し、瞳孔が縮小し、眼瞼下垂および同側顔面の無汗症)が現れる。ほとんどの患者は、分節性に痛覚がなくなった部分の四肢末端に、火傷の瘢痕と慢性の潰瘍がある。指や足趾は変形し、指の末節や指全体に無痛性の壊死や欠落が起こったりする。約25〜30%の患者に関節の損傷が起こり、上肢で下肢より多く見られる。
6.空洞が深く延髄まで入り込めば、顔面部の感覚障害や眼球震顫、嚥下困難や発音困難、筋束顫動や軟口蓋麻痺を伴う舌筋の萎縮、胸鎖乳突筋や僧帽筋の萎縮が起こる。
7.脳脊髄液の細胞数および蛋白は一般に正常だが、後者では少し高いこともあり、圧力も正常のことが多い。末期には脊柱管が塞がり、蛋白質が多くなる。頭蓋骨と脊柱のX線検査により、先天的な骨格の発育異常が発見される。脊髄造影では脊髄が圧迫されたり広がったりしている。放射性核種スキャンでは空洞の範囲や脳脊髄液の動的変化がはっきりする。
(二)鍼灸治療
鍼灸は対症療法とする。
1.毫鍼
取穴:夾脊穴、復溜、肩 、曲池、手の三里、外関、合谷、魚際、八邪、環跳、髀関、伏兎、血海、梁丘、足三里、陽陵泉、解谿、懸鐘、八風を主穴とし、天宗、肩 、少海、小海、中 、気海、関元および患部近辺の経穴を配穴する。
操作:提挿捻転補法を主とする。刺鍼して気が得られたら、G6805治療機に接続して15分通電するか灸頭鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
2.頭皮鍼
取穴:頂中線、頂顳前斜線の上 と中 、頂顳后斜線の上 と中 、枕上正中線、枕上旁線。
操作:頂中線は進気法、そのほかは抽気法で運鍼したあと2〜24時間置鍼し、その間3〜5回運鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
運動:運鍼と置鍼の間、患者は対応する患部の能動運動や他動運動をおこない、意識を患部に集中する。運動する時間は毎日少なくとも2時間、少し汗をかいて全身が温まればよい。
3.梅花鍼
取穴:背骨の両側、患部、陽性物のところ。患肢の指先から3日毎に一回出血させる。
操作:皮膚ははっきり赤くなるが出血しないか、少し出血する程度の、中くらいかやや強い刺激をする。患部には密刺する。
治療期間:上と同じ。
(三)治療効果
1.本病では病状を改善し、症状を軽減させたり、知覚消失部分を縮小するなどの効果がある。
2.『中国梅花鍼』には、梅花鍼治療を5回おこなうと、患側の出汗が前よりも多くなり、指の痛みが軽減した。35回の治療で、症状は引き続き軽減し、出汗も多くなった。80回の治療で、指は痛まなくなり、患側半身の麻痺も軽くなる。122回の治療で、疼痛と知覚麻痺がなくなる。141回の治療で、両側の出汗が同じようになり、不快感もなくなった。治療を止めて観察する。13ケ月後に再調査すると、患者は以前のように仕事をしており、症状もなかったので治療効果は安定している。
(四)論評
1.本病の中医辨証は、気血不足により、肝、脾、腎、肺が病変を起こしたことと関係があると思われる。鍼灸治療では対症療法を主とし、絡脈を通らせて痛みを止め、経脈を温めて通らせ、気血を調和させる。そのために毫鍼、頭皮鍼、ビタミンB類の穴位注射、温灸、梅花鍼、赤外線の穴位照射などの総合治療によって症状を緩和させたり改善する。
2.痛覚のないものは、火傷や凍傷にならないように注意する。
3.鍼灸治療とともに、麻痺した筋肉をマッサージしたり、他動運動を加えれば、肢体の機能回復に大いに助けとなる。

三、腕神経叢損傷
腕神経叢は、第5から第8頚神経の前枝と第1胸神経の前枝から構成され、鎖骨下動脈の後上方を行き、斜角筋の間隙を経て鎖骨後方から腋窩に入り、腋窩で腋窩動脈に絡まって三つの束となる。腋窩動脈の内側にあるのを内側束、外側にあるのを外側神経束、後側にあるのを後神経束と呼ぶ。腕神経叢が損傷されると上肢や肩の運動障害を起こし、この神経が支配する上肢に部分的な知覚の喪失が起こる。
(一)症状
1.外傷歴か分娩外傷歴がある。
2.損傷された側の上肢麻痺、肩の運動障害があり、ひどければ大胸筋、小胸筋、前鋸筋も麻痺する。
3.三角筋区の上部と上腕内側を除いて、上肢の知覚がなくなる。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼
取穴:頚5〜胸1の夾脊穴、肩井、肩 、肩貞、肩内陵(腕を垂らし、巨骨と腋窩横紋前端の中点)、肩外陵(三角筋中央。肩内陵と肩後の中点)、曲池、外関、合谷、後谿。
操作:夾脊穴は患側か両側を取る。26〜28号1.5〜2寸の毫鍼で直刺し、平補平瀉する。肢体から一回に3〜4穴取り、大きく提挿捻転し、肢体に触電感があるか不随意にピクピク動けばよい。
治療期間:毎日1〜2回治療し、10回を1クールとして、各クールを7〜10日開ける。
2.電気鍼
取穴:毫鍼と同じ。
操作:毎回2〜4穴を取り、運鍼して気が得られたらG6805治療機に接続し、パルス刺激をする。電流を徐々に上げて患者が耐えられる程度とし、15〜20分通電する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.穴位注射
取穴:毫鍼と同じ。
操作:ビタミンB120mgとビタミンB120.1mg、ガランタミン1mgを混合し、毎回2穴を選び、気が得られて血が逆流してこなければ、それぞれの穴位に0.5〜1m
注入する。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
4.頭皮鍼
取穴:頂顳前斜線の中 (健側)、頂旁2線(健側)、頂結后線(絡却穴から百会穴までをつなぐ線)。
操作:30号1.5寸の毫鍼を使い、マニュアル通り消毒してすばやく切皮し、帽状腱膜の下層に刺入したら、抽気法でを使って瀉法で運鍼する。運鍼と置鍼の間は患肢を運動させ、2〜24時間置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
注意事項:頂顳前斜線と頂旁2線に刺鍼するときは、患者は麻痺した上肢に意識を集中させ、患者に能動運動か他動運動させる。頂結后線に刺鍼するときは、患者の意識を患部の肩に集中させ、やはり肩の運動をさせる。置鍼の間、患者の上肢と肩はの運動は、毎日少なくとも2時間以上する。運動は外転、挙上、内転、伸展などや、軽いものをもって動かす。
(三)治療効果
1.腕神経叢の損傷によって上肢や肩の運動障害があるものは、負傷してから3ケ月以内に治療すれば回復に有利である。特に閉鎖性の損傷の場合、なるべく早く刺鍼治療をおこなえば機能を回復でき、後遺症の発生を減らす。
2.馬志義は、石灰石が左肩に当って腕神経叢の神経が麻痺し、筋肉が萎縮した患者にビタミンB1100mg2本、ビタミンB12250mg2本を それぞれ肩井、肩三鍼(肩 、肩前、肩后)、肱中(天泉の下2.5寸)、外関、抬肩(肩峰前方直下1.5寸)、挙臂(肩峰の前下方3寸半)、頚椎5、6の左側の神経根、臑兪などに穴位注射した。毎回4穴を取って、それぞれの経穴に1.5m の薬物を注入し、併せて機能訓練と刺鍼、電気鍼を併用して治療すると、10クールで治癒した〔上海鍼灸雑誌 1986〕。楊玉泉達は電気鍼を主として、腕神経叢の神経損傷を含む44人の患者を治療したところ、治癒20例、著効4例、好転6例だった。そして圧迫、挟まれた、牽引などによって損傷したものの効果がよいと考えている〔上海鍼灸雑誌 1983〕。
3.神経が完全に切断して起こったものに鍼灸治療をしても効果がない。

四、腕神経叢炎
腕神経叢炎は冷えたり、インフルエンザの後、近隣組織の炎症や各種の感染をした後に発生し、腕神経叢の神経分布区の疼痛や、腕神経叢が支配する筋肉が無力となったり萎縮することが症状である。
本病は中医学の「痺証」である。
(一)症状
1.成人に多くて急に発生し、冷えたり、風邪をひいたり、感染して病巣ができたりしたことがある。
2.一側か両側の頚部や鎖骨上部に痛みがあり、肩の後ろ、上腕、前腕、手に沿って痛み、腕を外転させたり挙上させると痛みがひどくなる。鎖骨上下の凹みや腋窩に、はっきりした圧痛がある。最初は間欠的に焼けるような、あるいは針で刺すような、怠く腫れぼったいなどの痛みがあるが、あとでは持続性となり陣発性に痛みが激しくなる。
3.腕神経叢の支配する筋肉は、無力となるか麻痺、萎縮する。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼
取穴:頚臂。仰向けに寝て取穴し、枕は使わずに頭を患側に向ける。鎖骨の内側から と、外側から の交点の直上1寸が、この穴位である。配穴は、痛みが橈側に放散すれば曲池を加える。尺側に放散すれば小海を加える。上肢の近端と肩部の痛みが強いものは肩内陵(腕を垂らして、巨骨と腋窩横紋前端をつなぐ中点)を加える。
操作:頚臂穴に刺鍼するときは0.5〜0.8寸直刺する。決して下に向けて斜刺をしてはならず、深刺もよくない。肩内陵の刺鍼では、肩の後方に1〜1.5寸透刺し、刺鍼して気が得られたら、パルス間隔120回/分のパルス電流を30〜60分通電する。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
2.頭皮鍼
取穴:頂結后線、頂顳前斜線の中 と頂顳后斜線の中 (全部病巣と対側)、頂中線。
操作:帽状腱膜の下層に鍼を刺入したら、抽気法で運鍼したあと24時間置鍼する。
治療期間:一日1回治療し、5〜7回を1クールとする。
注意事項:運鍼と置鍼の間は、患肢を適当に運動させる。最初は弱く、徐々に強く動かし、我慢できるまで動かす。
3.灸頭鍼
取穴:頚椎の5、6の夾脊穴、肩井、臑兪、肩 、肩内陵、肩外陵、外関、巨骨。
操作:毫鍼で刺鍼して気が得られたら、2cmほどの棒灸を鍼柄に挿し、モグサと皮膚を2〜3cm離して下から点火する。火が熱すぎたり、火が落下するのを防ぐため、施灸前のに鍼柄から穴の穿けた厚紙を被せる。モグサが燃え尽きたら灰を取り除き、しばらく待った後で抜鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
(三)治療効果
1.刺鍼には消炎、止痛効果と筋力を回復させる作用があるので治療効果はよい。鄒忠尭達は20例の患者を治療し、治癒16例、好転3例、無効1例だった〔江蘇中医雑誌 1985〕。一般に6〜8週間で完全に回復する。
2.腕神経叢の支配筋肉が麻痺したり萎縮していれば、灸頭鍼の効果がよい。また日常のリハビリを続ければ治療効果が上がる。
3.本病の治療では病因の治療もしなければならない。
4.本病は頚椎症で続発するので、X線検査で確かめられたら両方同時に治療しなければならない。
限局性麻痺の鍼灸治療

限局性の麻痺とは、周囲神経の病変と筋障害によって、身体のある一部の筋群に随意運動の筋力低下や喪失が起こるものである。
限局性麻痺に対する鍼灸治療は、周囲神経が損傷されて起こるものに対し効果がある。周囲神経の損傷は、閉鎖性の損傷と開放性損傷に分けられる。閉鎖性の損傷は、局部を長時間圧迫したり、捻挫したり、伸ばされたり薬物刺激などで起こり、一般に神経はつながっている。開放性の損傷は、刃物や火器により直接神経を損傷したもので、神経が完全に切れているものもある。鍼灸治療は一般に閉鎖性神経損傷によって起こった、周囲神経の病変(例えば橈骨神経、正中神経、尺骨神経、大腿神経、腓骨神経、脛骨神経、筋皮神経の損傷など)に対して治療効果が優れている。
限局性麻痺では、さらに神経繊維腫症、椎間板ヘルニア、筋障害などによって起こったものでは、原発性疾患を治療するうえで、鍼灸は対症療法の補助的手段となる。

一、橈骨神経損傷
橈骨神経は、腕神経叢の神経の中で最も損傷されやすい一枝である。その上段は上腕骨中段背側の橈骨神経溝に密着し、上腕内側から外側に行くため、上腕骨を骨折したときに損傷されやすい。このほか睡眠中に腕を枕の代わりにしたり、手術で上肢を長期にわたって外転していたり、熟睡して上肢を硬いものの上にぶらさげているなどで橈骨神経の損傷が起こる。症状は運動障害である。
本病は中医では「痿証」である。
(一)症状
1.上腕骨を骨折したり、上肢を損傷したことがある。
2.損傷した上肢の伸筋および回外筋が麻痺し、肘、手首、指関節が真っ直伸ばせず、前腕が回外できない。
3.前腕を挙げるとき、下垂手となる。
4.知覚のない部分は、手背の第1、第2中手骨の間が最もはっきりしている。

(二)鍼灸治療
1.毫鍼
処方
取穴:頚椎5〜胸椎1までの夾脊穴、極泉、肩 、臂臑、尺沢、曲池、手三里、偏歴、合谷。
操作:夾脊穴は患側か両側を取り、1〜1.5寸直刺して平補平瀉をする。肢体の経穴は毎回3〜4穴取り、大きく提挿捻転する。痛みがあれば瀉法、麻痺には瀉法を使い、手に電気が流れるような感じがあるか、不随意にピクピク動けばよい。運動障害があれば、患者に患肢を動かさせる。
治療期間:毎日1〜2回治療して、10回で1クール。各クールは7〜10日開ける。
処方
取穴:頚臂、極泉、手の三里、曲池、合谷から後谿への透刺。
操作:頚臂穴に刺鍼するときは患者を側臥位にし、鍼尖をやや後ろを向けて水平に刺入する。刺入は捻鍼しながら、ゆっくりと0.3〜0.8寸の深さに刺入して、怠さや痺れるような感じ、及び触電感が腕から指先まで伝わればよい。軽い手法で、水平方向に刺入し、絶対に下に向けて斜刺をしてはならない。そのほかの経穴は瀉法をする。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
2.粗鍼
取穴:手の三里。また経穴にこだらず、正中神経や橈骨神経に刺鍼する。
操作:90mmの長さで、直径6mmの粗鍼を使い、強刺激をしたら抜鍼する。
治療期間:一日1回治療し、10回を1クールとする。
3.電気鍼
取穴:肩貞、曲池。手の三里、合谷。
操作:以上の二つのグループから一組を取る。毫鍼を経穴に刺入して気が得られたら、G6805治療機に接続し、肩貞と手の三里は−極、曲池と合谷は+極をつないで、パルス間隔は20〜30回/分として徐々に電流を強め、患者の腕が動くか我慢できる程度で20〜30分通電する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。
4.穴位注射
取穴:毫鍼と同じ。
操作:毎回2穴を取り、ビタミンB1 20mg、ビタミンB120.1mg、ガランタミン1mgを混合し、それぞれの経穴に提挿して気が得られたら、血が注射器内に逆流してこないことを確かめて、それぞれ0.5〜1m ずつ注入する。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
5.頭皮鍼
取穴:頂中線、頂顳前斜線の中 、疼痛があるものは頂顳后斜線の中 。すべて患側の反対側を使う。
操作:帽状腱膜の下層に刺入したら、抽気法で運鍼したあと2〜24時間置鍼し、運鍼と置鍼の間、患肢を運動させる。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
注意事項:運鍼と置鍼の間、腕、肘、手の関節を屈伸させたり、前腕を回外させたり、腕を挙げるなどの能動運動や他動運動をおこない、知覚のない部分をマッサージしたり揉んだりする。
6.耳鍼
取穴:肘、腕、皮質下、神門、内分泌、腎上腺(副腎)。すべて患側から2〜3穴を取穴する。
操作:鍼を刺入したあと、200回/分以上の速さで3分ほど捻鍼する。この捻鍼を5分に一回、全部で3回おこなう。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、7回を1クールとし、各クールは5日開ける。治療を中止している間は、耳穴に粒を貼り付けて治療効果を強化する。
(三)治療効果
1.早く治療するほど治療効果もよい。刺鍼は機能を回復し、後遺症を減少させる。
2.羅国礼達は、電気鍼を使って橈骨神経を損傷した患者30例を治療すると、治癒18例、著効3例、好転8例、無効1例だった〔陜西中医(鍼灸増刊)12,1983〕。
3.楊玉泉達は、電気鍼を主として周囲神経を損傷した患者44例を治療したところ、効果は橈骨神経を損傷したものが最も優れていた〔上海鍼灸雑誌 :33,1983〕。
4.劉無忌は、外傷性橈骨神経損傷患者39例(上腕骨の骨折によるもの)を治療し、整復して固定したあと、患肢の扶突、手の三里、合谷穴に刺鍼し、気功を使って気を指に至らせたあと運鍼し、患者は治療の前後で患肢の機能回復の運動をイメージさせたると、治療効果が上がった〔中医雑誌 :33,1989〕。

二、総腓骨神経損傷
総腓骨神経は坐骨神経の主要な分枝の一つだが、刃物や圧迫、腓骨の上端の骨折、虚血や間質性の炎症などによって損傷される。
本病は中医では「痿証」に含まれる。
(一)症状
1.睡眠の姿勢が不適当だったり、脛に包帯を巻き付けたり、石膏がきつすぎたりして腓骨小頭の下にある腓骨神経を圧迫したり、冷えやインフルエンザでも引き起こされる。
2.急に発病する。
3.腓骨筋、前脛骨筋群に麻痺や萎縮が起こる。患者は足を伸ばしたり足を上げたり、指を反らせたり、外旋や内旋ができない。
4.足が下垂して内翻し、足趾の第1節が屈曲する。長引くと内翻尖足となり、歩行時に足を高く上げ、股関節と膝関節を過度に屈曲させる。足を地に着けるときは足先が下垂し、それからカカトが着地する。
5.脛の前外側と足背に知覚障害があり、脛の前外側の筋肉が萎縮する。アキレス腱反射は正常。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼
取穴:腰の4〜5の夾脊穴、殷門、委陽、陽陵泉、足臨泣。環跳、足三里、陽陵泉、解谿、太衝。
操作:以上の二つのグループの内、いずれか一組を選ぶ。夾脊穴は患側か両側を取り、2〜3寸直刺して提挿捻転し、患肢に触電感を起こさせる。そのほかの経穴は3〜4穴を選び、大きく捻鍼して患肢が不随意にピクピク動くようにする。第2グループの足三里と解谿は提挿捻転の補法をし、そのほかの経穴には瀉法をする。みな患側の穴位を取る。気が得られたら30分置鍼し、10分に1回運鍼をする。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。
2.芒鍼
取穴:三健、三陽、三陵、光明、解谿、丘墟。
操作:三健穴は健歩、健中、健下の三穴。承扶穴の外側2寸が健歩、殷門の外側2寸が健中、健中穴の下2寸が健下。操作するときは患者を側臥位にして膝を屈曲し、坐骨神経幹に向けて3〜4寸に直刺し、電気で痺れるような感覚が上や下に放散して、臀部や指先に達すればよい。
三陽穴は陽陵泉穴と、その直下2寸、4寸のところ各一穴、全部で三穴ある。操作するときは、鍼尖を脛骨後縁に向けて斜刺で1〜3寸刺入し、怠い、痺れる、腫れぼったいなどの感覚を足に放散させる。
三陵穴は腓骨小頭の後ろ1寸のところと、その直下2寸、4寸のところ各一穴で、全部で三穴ある。鍼尖を脛骨の内側に向けて2〜3寸の深さに斜刺し、怠い、痺れる、腫れぼったいなどの感覚が下肢に放散するようにする。そのほかの経穴は刺鍼して瀉法をする。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとし、各クールは一週間開ける。
3.電気鍼
取穴:足三里、陽陵泉、環跳、委陽、懸鐘、解谿。
操作:刺鍼して気が得られたら、G6805治療機に接続し、疎密波で麻痺した筋肉がはっきりと収縮するような電流の強さで通電する。毎回2〜4穴を取り、10〜15分通電する。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとし、各クールは5日開ける。
4.穴位注射
取穴:電気鍼と同じ。
操作:ビタミンB1 100mg、ビタミンB12500μg、臭化水素酸ガランタミン注射液1〜3mgの三種類の薬物を混合する。提挿して気が得られたら、血が逆流しないことを確認して薬物を注入する。毎回3つの経穴を使い、順番に注入する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとし、各クールは5日開ける。
5.梅花鍼
取穴:大椎、命門、長強、肺兪、膈兪、脾兪、八 。
操作:辨証によって型を分ける。 血型では長強を強く叩刺し、膈兪を軽く叩刺する。寒湿型では命門と八 を強く叩刺する。湿熱型では肺兪と脾兪を軽く叩刺し、大椎を強く叩刺する。軽い叩刺は皮膚が紅潮する程度で、強い叩刺は少し血がにじむ程度とする。叩刺するときは、督脈と足の太陽膀胱経の背兪穴のラインに沿って、各経穴をそれぞれ60〜80回叩刺する。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとする。毫鍼治療に併用する。
6.頭皮鍼
取穴:頂中線、頂顳前斜線の上 。
操作:マニュアル通り消毒し、毫鍼を帽状腱膜の下層に刺入したら、鍼体を寝かせて抽気法で運鍼しながら下肢を運動させる。頂顳前斜線の上 に刺入するときは、病巣の対側を取ってラインに沿わせて横刺(平刺)し、さらに頂顳后斜線の方向に一本透刺し、同時に抽気法で運鍼したあと2〜24時間置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
注意事項:運鍼と置鍼の間、患者は患肢に意識を集中させ、足を伸ばしたり、足を上げたり、指を上げたり、内旋や外旋、そして歩いたりなどの能動運動や他動運動をし、萎縮した筋肉にも按摩やマッサージをする。毎日少なくとも3時間は運動させる。能動運動では、術者が傍にいて不正確な動作を矯正し、機能訓練を励ます。
(三)治療効果
1.外傷や虚血、または水を渡って冷えたり、伝染病で発熱したことによる総腓骨神経損傷には、毫鍼治療は効果がよい。解霖源達は本病40例治療したところ、一般に7〜12回の治療で、すべて治癒した〔中医雑誌 :43,1982〕。
2.「芒鍼療法」で紹介した治療法で本病を治療すると、1クールで患肢に力が入るようになり、歩行も徐々に好転し、足関節を上げる機能訓練を併用して、連続3ケ月治療をすると、基本的に治癒して職場に復帰した。
3.曽昭傑は、筋肉注射によって総腓骨神経損傷を損傷した患者36例を、電気鍼に穴位注射を併用して治療したところ、すべてに有効で治癒率は84.62%、著効率12.82%、好転率2.56%だった〔中国鍼灸 ,1987〕。張連城は、辰の刻に両側の足三里に穴位注射をして28例を治療し、治癒したのは27例だった〔浙江中医雑誌(11):501,1990〕。
4.姚尊華は辨証分型して、梅花鍼に毫鍼を併用して本病を52例治療したところ、基本的に治癒46例88.5%、著効4例7.7%、無効2例3.8%で、有効率は96.2%だった。平均治療回数は16回、治癒するまでの平均日数は28日だった〔中医雑誌 :49,1983〕。
5.筆者は頭皮鍼と毫鍼を交互に使って本病を治療しても、優れた効果が得られた。特にすぐに治療をすると効果がはっきりしている。
(四)論評
1.総腓骨神経が損傷することは比較的多いが、長い間うずくまって膝を曲げたまま作業をしたり、水に入って冷えたり、長いこと湿地で作業したためや、湿邪が入って長引いて発熱したり、筋肉注射で傷付けたり、転んで損傷したり骨折したり、圧迫されたりで起こるので、その原因を治療するが、必要があれば鍼灸も併用する。
2.治療は手遅れにならないうちにおこない、早く治療するほど効果がよい。罹病期間が長くて筋肉が萎縮しているときは、灸頭鍼や棒灸を使って経絡を温めて通らせ、血液循環を促進すれば治療効果が高まる。
3.脊髄の疾患や脳出血、低カリウム血症、小児麻痺などで起こった麻痺と区別することが必要である。

三、周囲神経麻痺
橈骨神経損傷と総腓骨神経損傷は紹介したが、ほかの周囲神経が損傷されることもあって、それによる支配筋肉群の麻痺も起こる。
(一)症状
1.腋窩神経損傷:上肢の三角筋が麻痺し、皮膚感覚がなくなって肩関節が下垂し、上肢を挙げたり、前後に運動できなくなる。三角筋が麻痺して萎縮すると、肩はもとの丸さがなくなってしまう。
2.筋皮神経損傷:肘の屈曲ができなくなり、肘から前腕にかけて前外側の知覚が消失する。
3.正中神経損傷:円回内筋と方形回内筋が麻痺し、前腕が回内できなくなる。手根屈筋と指屈筋が麻痺し、手首を屈する力が弱まり、動作が部分的に喪失して親指と人差指、中指が屈曲できない。短母指外展筋が萎縮して指を対立させられなず、手は平坦になって「猿の手」のようになる。橈側の三本の指の手掌面、背面の第一、第二節および対応する手掌の知覚がなくなる。
4.尺骨神経損傷:尺側手根屈筋が麻痺し、手首を屈曲する力が弱くなり、母指内転筋が麻痺すると親指の内転ができなくなり、小指対立筋が萎縮して平坦になり、小指の動きが制限され、骨間筋が萎縮し、各指を互いに合わせることができず、各中手指節関節は伸直し、第4、第5指の指節間関節は第3、第4虫様筋の萎縮により屈曲して「鷲手」となる。尺側の一本半と相応する手掌と手背の知覚がなくなる。
5.大腿神経損傷:膝関節が真っ直伸ばせず、大腿および脛の前面、内側面の知覚がなくなる。
6.坐骨神経損傷:膝関節が曲げられなくなり、脛から下の筋肉が麻痺する。脛の後外側と足の知覚がなくなる。
7.脛骨神経損傷:足趾を底屈できなくなり、足の内転や内翻ができない。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼
取穴
腋窩神経損傷:頚5〜6の夾脊穴、肩井、肩 、肩貞、肩内陵、肩外陵、臂臑。
筋皮神経損傷:頚5〜6の夾脊穴、曲池、小海、少海、尺沢、天井、外関、支正。
正中神経損傷:頚5〜6の夾脊穴、極泉、曲池、支溝、 門、内関、合谷。
尺骨神経損傷:頚7〜胸1の夾脊穴、肩貞、曲池、小海、支正、液門、極泉、後谿。
大腿神経損傷:腰2〜4の夾脊穴、髀関、伏兎、足三里、血海、陰陵泉、三陰交。
坐骨神経損傷:腰4〜5夾脊穴、次 、中 、陰陵泉、三陰交、足三里、太谿、八風。
脛骨神経損傷:腰4〜5の夾脊穴、足三里、陽陵泉、懸鐘、解谿、丘墟、八風。
操作:夾脊穴は患側か両側を取る。頚椎の夾脊穴は1〜1.5寸直刺し、腰椎の夾脊穴は2〜3寸直刺する。提挿捻転の平補平瀉で、患部に重い、腫れぼったい、痺れるあるいは放電したような感覚があれば気を得られている。 肢体の経穴からは毎回3〜4穴を選び、大きく提挿捻転する。疼痛には瀉法を使い、麻痺や萎縮には補法をする。運鍼ではできるだけ触電感を得るか、不随意なピクピクする動きが起こるようにする。15〜30分置鍼し、5分に1回運鍼をする。
治療期間:毎日1〜2回治療して10回を1クールとし、各クール間は7〜10日開ける。
2.電気鍼
取穴:毫鍼と同じ。
操作:毎回2〜4穴を取穴し、刺鍼して気が得られたら、G6805治療機に接続して20〜30分通電する。連続波か疎密波を使い、電流は弱から徐々に強くして患者が耐えられる程度まであげる。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.頭皮鍼
取穴
上肢の周囲神経の損傷:頂中線、頂顳前斜線の中 (健側)、頂旁2線、頂顳后斜線の中 (健側)。
下肢の周囲神経の損傷:頂中線、頂顳前斜線の上 (健側)、頂旁1線、頂顳后斜線の中 (健側)。
操作:抽気法で運鍼する。刺鍼して帽状腱膜の下層に刺入したら、鍼体を倒して1寸のところまでゆっくりと刺入したら、急に力を入れて1分ずつ鍼を引き出す。これを3回繰り返したあと徐々に1寸の元の位置まで戻す。この動作を何回か繰り返すと同時に患部を運動させる。抽気法で運鍼したあと2〜24時間置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
注意事項:頭皮鍼で運鍼するときや置鍼するときは、患肢の能動運動と他動運動を組み合わせる。例えば腋窩神経損傷の治療では、肩関節の挙上と前後運動を組み合わせる。筋皮神経損傷の治療では、肘の屈伸をする。正中神経損傷の治療では、前腕の回内や手首の屈伸、指の屈伸運動をする。大腿神経損傷の治療では、膝関節の屈伸や、蹴り上げる運動をする。坐骨神経損傷の治療では、膝関節の屈伸や大腿を蹴り上げる、足をバタバタさせるなどの運動をする。脛骨神経損傷の治療では、足趾を背屈させたり、足の内転や内翻などの運動をする。頂顳后斜線を運鍼しているときや置鍼するときは、知覚喪失部分のマッサージなどをおこなう。
4.穴位注射
取穴:相応する経穴を選ぶ。毫鍼の処方を参考にして、毎回2穴を選ぶ。
操作:ビタミンB1 20mg、ビタミンB120.1mg、ガランタミン注射液1〜3mg(または丹参注射液2m )を混合し、刺鍼して気が得られたら、血が逆流してこないのを確かめて、それぞれの経穴に注射液を0.5〜1m ずつ注入する。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
5.梅花鍼
取穴:患肢の井穴、頂顳前斜線と頂顳后斜線の過敏点(健側)を取る。
操作:梅花鍼で初めに患肢の井穴を叩刺する。毎回12回ずつ、痛みがあるように叩刺する。次に頂顳前斜線と頂顳后斜線およびその傍らの頭皮の過敏点を叩刺し、患肢に痺れる、熱い、汗が出るなどの感覚があればよい。
治療期間:一日1回で、6回を1クールとする。
(三)治療効果
1.周囲神経の損傷によって起こった支配筋肉の麻痺と知覚障害は、刺鍼治療によって機能回復でき、後遺症の発生を減らすことができるが、できるだけ早く治療すれば効果もよい。
2.楊玉泉は、電気鍼を主として周囲神経の損傷44例を治療し、治癒20例、著効4例、好転6例、無効14例だった。それぞれの神経損傷を、治療効果のよかった順に並べると、橈骨神経、顔面神経、反回神経、副神経、腓骨神経、腕神経叢、尺骨神経、正中神経損傷の順だった〔上海鍼灸雑誌 ,1983〕。
3.陳体偉は、梅花鍼による毛刺を主とし、50例の麻痺患者を治療し、治癒30例、著効15例、好転3例、無効2例で、有効率は96%だった〔雲南中医雑誌:12 ,1991〕。この方法は周囲神経の損傷によって起こった麻痺に応用する。
4.曽昭傑は、電気鍼と穴位注射を組み合わせて、総腓骨神経損傷36例、脛骨神経損傷を3例治療し、治癒33例、著効5例、好転1例で、有効率は100%だった〔中国鍼灸7 ,1987〕。
5.筆者は、頭皮鍼と電気鍼を組み合わせて周囲神経の損傷を治療しているが、いつも効果がある。知覚がなくなったり筋肉が萎縮したものには、赤外線の穴位照射や温灸治療を併用すれば、治療効果を高められる。
(四)論評
1.周囲神経が損傷したものに対する鍼灸治療は、圧迫や挟んだり、引っ張ったりなどによる、閉鎖性損傷に対する効果はよいが、神経が完全に切れているものには、鍼灸は効果がない。

小児の脳性麻痺の鍼灸治療

小児の脳性麻痺は出産前や周産期に、さまざまな原因によって起こった脳疾患である。その特徴は非進行性の中枢性の運動機能障害で、知能低下やヒキツケ、聴覚や視覚障害を伴う。その発育は正常な児童に較べて明らかに劣っている。
日本脳炎は、急性の季節性の伝染病で、ビマン性の脳実質の急性炎症である。高熱、昏睡、痙攣などの急性症状の後、患者によっては肢体の麻痺や失語、精神異常などの後遺症が現れる。
鍼灸治療は、上に述べたような疾患に一定の効果があり、次に述べる。

一、小児の脳性麻痺
小児の脳性麻痺の病因には次のようなものがある。
1.脳の酸欠:流産の兆候、前置胎盤、胎盤の早期剥離および臍帯の脱垂などによって起こる。
2.脳内出血:難産、分娩外傷、脳血管の病気、全身性出血性の病気によって起こる。
3.感染: 母親が妊娠初期に風疹やヘルペス、インフルエンザなどにかかり、脳の発育に影響したり、出産してからの中枢神経系統の感染による後遺症などで起こる。
4.早産。
5.核黄疸:母子の血液型が適合しなかったり、そのほかの原因によって新生児が高ビリルビン症となり、総ビリルビンが20mg/d を超過して起こる。
6.そのほか:脳内の奇形、先天的な水頭症、妊娠初期にひどい栄養不良となったり、放射線を照射したなどを含む。
小児の脳性麻痺では、四肢の運動麻痺、片麻痺、対麻痺とか単肢麻痺、三つの肢体が麻痺したものなどがある。
(一)症状
1.出産前や周産期に母体が発病しなかったか、分娩するときの状況や嬰児が生まれてからの感染、および脳性麻痺を起こす原因などを尋ねる。
2.初期にはニギリ反射が増強する。緊張性頚反射が生後6ケ月まで続く。
3.麻痺した筋肉の筋の張力が強まり、内転筋で特にはっきりして、痙性麻痺となる。
4.垂直に抱き上げると、両足を真っ直伸ばし、内転と内旋により両脛を交叉させてハサミのようにし、爪先から着地する。軽症では下肢が軽い麻痺となり歩行が安定しない。
5.上肢の症状は下肢よりも軽く、両肘の関節を屈曲させて胸の前に内旋させ、手頚や指の関節も屈曲する。軽症では両手の動きが、ぶきっちょなだけである。
6.神経の反射は、各種の深部反射が亢進し、足クローヌスがある。二歳以降でもバビンスキー反射は陽性である。
7.核黄疸の後遺症では、錐体外路系の症状が現れる。無目的な不随意運動があり、睡眠中は消失し、乳幼児では筋の張力がやや低い。児童では手足のアテトーシスや舞踏様の動作となる。
8.少数では筋の張力が低下し、膝蓋腱反射はあるか、少し亢進する。
9.痙攣型、錐体外路型、筋張力低下型ならびに混合型があるが、痙攣型と錐体外路型の混合型が最も多い。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼
処方
取穴
主穴: 門、天柱、大椎、大杼、陽陵泉、懸鐘、太衝。
配穴:理解力や記憶力が劣っていたり、独り言を言ったり、ぼーっとしているものは、太鐘と神門を加える。発音がはっきりしないものは、金津、玉液、天突、通里を加える。食欲のないものは公孫を加える。
操作:主穴は毎回必ず取る。 門穴は捻鍼法を使い、左右の目の中線に向けて1〜1.3寸刺入したあと、引き続き徐々に捻転し、気が得られたら局部に温かい感じが起こり、それが下に向けて伝導し、全身および四肢に行き渡って、手足の裏が発熱して汗が出ればよい。天柱穴は、0.5〜0.6寸(太った者でも1寸を超えてはならない)直刺し、気が得られたら鍼感を同側の首やうなじ、背中、腰仙部から下肢、足の外側に伝わらせる。大椎穴は、0.6〜0.7寸直刺し、気が得られたら全身の熱感を倍増させ、身体中を通らせてゆったりと流れさせる。大杼穴は、0.5〜0.6寸直刺し、気が得られたら、すぐに上半身の疲労感がなくなる。陽陵泉は1寸直刺し、気が得られたら下半身の疲労感がなくなる。太衝と懸鐘は気が得られたら、頭がすっきりするような鍼感が必要である。太衝穴は、刺鍼したあと両目がはっきりし、視力がよくなればよい。配穴では、太衝と神門は、必ず軽く揉んでから刺鍼する以外は同じである。主穴は一般に20〜30分置鍼し、配穴はすぐに抜鍼する。
治療期間:毎週2〜3回治療し、20回を1クールとする。
処方
取穴:上肢麻痺は、肩 、曲池、外関、合谷。下肢麻痺は、環跳、伏兎、足三里。腰部麻痺は、腎兪、腰陽関。肘関節の引きつりは、手の三里、支正。指関節の屈伸不利には合谷から後谿への透刺。腕の下垂は、外関、陽池、陽谿。足の内翻には、絶骨か崑崙、あるいは承山の外1寸(糾内翻)。足の外翻には、三陰交と太谿、あるいは照海と承山の内1寸(糾外翻)。足の下垂は、解谿、商丘、丘墟。内股で歩くものには、風市、陽陵泉、懸鐘。知能低下には、百会、風池、四神総。言語障害には、通里、廉泉、金津、玉液。首が据わらないものは、天柱、大椎か身柱。
操作:提挿捻転の補法を主とし、置鍼はしない。
治療期間:一日1回で、3ケ月を1クールとする。
処方
取穴:風池穴の直下3寸のところで、第5頚椎と水平の高さ。まず、深さ1.5〜2寸に直刺し、次にもう一本、皮膚と45度の角度で椎体方向に1.5〜2寸斜刺する。さらにもう一本、椎体に向けて2寸ほど横刺(平刺)する。左右の経穴を交互に使う。これを「一穴三鍼」と呼ぶ。
操作:刺鍼して気が得られたら大きく捻転し、頚、肩、肘に熱感が起こったら15分置鍼する。また症状に合わせて他の経穴を1〜2穴取り、平補平瀉してもよい。
治療期間:一日1回で、7回を1クールとし、各クールは3〜4日開ける。
2.頭皮鍼
処方
取穴:下肢の麻痺には、対側の頂顳前斜線の上 と頂旁1線を取る。上肢の麻痺には、対側の頂顳前斜線の中 と頂旁2線を取る。涎を流したり、舌が片寄ったり、運動性の失語症では、対側の頂顳前斜線の下 と額中線を取る。知覚障害には、対側の頂顳后斜線を取る。小脳の病変には、枕下旁線を取る。精神異常は、額中線と右側の額旁1線を取る。
操作:28号の毫鍼で、帽状腱膜の下層に1〜1.5寸沿皮刺し、抽気法で運鍼して、軽い刺激で気が得られればよい。30〜40分置鍼し、その間2〜3回抽気法で一回5〜8分運鍼する。
治療期間:一日1回で、15回を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。
注意事項:運鍼と置鍼の間は、子供は麻痺した肢体の運動をする。
処方
取穴:上に述べた頭皮鍼の治療線のほか、さらに顳3鍼(大脳の外側溝以下の側頭葉後部に相当し、上側頭回、中側頭回、下側頭回の後部を含む)、額5鍼(上前頭回、中前頭回、下前頭回に相当する)、運動前区を加える。
操作:顳3鍼の第1鍼は、頭頂結節下縁の前1cmのところから後ろへ1寸刺入する。第2鍼は、耳尖の上1.5cmのところから後ろへ1寸刺入する。第3鍼は、耳尖の下2cmの、後ろ2cmのところから後ろへ1寸刺入する。額5鍼は、髪際から2cm離れたところで、左右の大脳外側溝表面の線のところである。線と垂直になるように、前から後ろに5本、1寸ずつ刺鍼する。運動前区には3本、中間の一本は頂顳前斜線の中点の前4cmのところから、後ろに1寸刺入し、それと左右に1.5cm距離を置いて一本ずつ刺入する。すべて28号1.5寸の鍼を使い、すばやく帽状腱膜の下層に刺入して、旋捻も強刺激もせずに2時間置鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとし、各クールは1週間開ける。
注意事項:置鍼の間、子供を自由に運動させると治療効果がよい。
3.耳鍼
処方
取穴:交感、神門、脳幹、皮質下、心、肝、腎、腎上腺(副腎)、小腸、胃、耳の内側面の上背、中背、下背。また麻痺した部位によって配穴する。
操作:一側の耳穴を使い、左右を交替で使用する。王不留行の種を上に述べた耳穴に貼り付け、バンソコウで固定してマッサージする。毎日2〜3回マッサージする。
治療期間:2〜3日に1回治療し、15回を1クールとする。
処方
取穴:脳幹を主穴とし、皮質下と腎を配穴する。運動障害には肝を加え、知能低下には心を加える。左右を交替で使用する。
操作:0.5寸の毫鍼を上に挙げた耳穴に0.1〜0.2寸刺入し、捻鍼して気が得られたら30分置鍼する。
治療期間:毎日1回治療し、20回を1クールとする。
4.梅花鍼
取穴:長強から大椎までの督脈の循行路線。曲骨から天突までの任脈の循行路線。髀関から内庭までの足の陽明経の循行路線。
操作:梅花鍼を使って、経脈に沿わせ中刺激で、皮膚が紅潮するが出血しない程度に叩刺する。各線をそれぞれ3〜5回ずつ叩刺する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
5.穴位注射
処方
取穴: 門、腎兪。 風池、足三里。 大椎、内関。督脈穴は脳の病変を主として治療する。知能邸が飲みがあれば、順番に一組の経穴を使えばよい。また症状に合わせて、他の経穴から2〜3穴加えてもよい。
操作:それぞれの経穴に注射液を1〜2m 注入する。 門、風池、大椎の三穴では、刺入深度を1〜1.5寸までとする。頭部の経穴にはアセチルコリン100mg一本、体幹や四肢の経穴にはニトロフラントイン液20mg一本を使う。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとして、各クールは7〜10日開ける。
処方
取穴:片麻痺には対側の頂顳前斜線の上、中、下の等分点。知能低下には頂中線、額中線。脳性の尿失禁には百会を取る。
操作:数個の穴位を順番に注射する。各決意には、それぞれ1m ずつ注入する。薬剤は、アセチルコリン100mg/一本、ニトロフラントイン20mg/一本、アミノブチル酸250mg/一本のうち、いずれか一つを選ぶ。尿をしっきんするものは、三種類の薬物を混合して、2〜3m を注入する。
治療期間:上と同じ。
(三)治療効果
1.小児麻痺の鍼灸治療は、方法がとても多く、治療効果も満足できる。おもに毫鍼、頭皮鍼、穴位注射などが使われるが、毫鍼と穴位注射、頭皮鍼と穴位注射を併用するものもある。併用による総合療法が一種類の方法のみを使うよりも、効果が優れていると考える人もある。
2.杜冠文は毫鍼を使って本病による知能低下55例を治療したところ、治癒39例、著効16例だった〔中国鍼灸9 :24,1989〕。李嗣嫻達は、頭部に穴位注射して小児の大脳の発育不全50例を治療し、著効37例、有効7例、無効6例だった〔中国鍼灸 ,1983〕。さらに先天的に知能の低い子供に対しても効果があった。それからすると、鍼灸は麻痺した子供の運動機能を回復するだけでなく、知能の発育を促す一定の作用があると思われる。
3.頭皮鍼は本病に対する有効な治療手段の一つである。申秀蘭は頭皮鍼で小児の脳性麻痺144例を治療し、治癒44例、著効62例、有効37例、無効1例だった〔河南鍼灸 ,1987〕。林学倹達は、頭皮鍼で73例を治療し、著効34例、有効38例、無効1例だった〔上海中医薬雑誌 :36,1981〕。頭皮鍼の穴位は、大脳皮質の機能の定位によって選ぶだけでなく、額 鍼や運動前区のような神経生理学の観点からも結び付けて選穴すると、治療効果が上がると考えているものもある。
4.現在は、穴位注射を使って小児の脳性麻痺を治療した報告がかなりある。たとえば施炳培は、穴位注射を使って脳の発育不全患者270例を治療し、著効30例、好転145例、無効95例だった〔遼寧中医雑誌 :33,1984〕。林麗玉は、酸欠によって起こった小児の脳性麻痺50例を治療し、基本的に治癒2例、著効16例、有効30例、無効2例だった〔上海鍼灸雑誌 :9,1987〕。
(四)論評
1.小児の脳性麻痺は世界でも難病と公認されていて、病因が複雑で危害がひどく、子供が座ったり、立ったり、歩いたり、話したりなどの機能に影響し、知能低下、斜頚、癲癇、涎を流すなどの症状を伴う。この病気は固定的な脳の病変によるもので、一般的には治らない。しかし早期に発見して、すぐに治療すれば機能障害を軽減することができる。特に軽度の運動麻痺がある子供では、麻痺した四肢の機能が元々よりも改善され、知能は正常か正常に近いところまで回復が望め、予後もよい。
2.治療効果に影響を与える主な要因は、大脳の損傷の程度と、子供の年齢である。ひどい損傷ほど効果が悪く、年齢が高いほど効果がない。
3.鍼灸治療と同時に、患者の看護を強化し、十分な栄養を与え、合理的な教育とリハビリをすれば、鍼灸の治療効果を高める助けとなる。
4.小児の脳性麻痺の特徴に基づいて、患者に基本的なリハビリをおこなう以外に、日常生活の動作の訓練、言語訓練を強化し、自分で身の回りのことができるようにし、理学療法やマッサージなども併用して、筋肉の引きつりを予防して緩める。
5.癲癇症状のあるものには、癲癇の治療を併用する。関節が変形したものは、外科手術による矯正が必要である。

二、日本脳炎の後遺症
日本脳炎は、日本脳炎ビールスによっるビマン性の脳実質の炎症を起こす急性伝染病である。ビールスは蚊によって媒介される。発病には季節性があり、蚊の多い地域で発病率が高く、児童に多い。急性発作が起こり、高熱、昏睡、ヒキツケ等があり、中医では「暑温」と呼ぶ。急性症状が治まると、頭が鈍くなる、失語、癲癇などの後遺症が起こる。長期間治療しても効果のないものの多くは、熱が激しくて陰を傷付けたり、陰が虚して風が動いたり、経脈が滞ったものである。
(一)症状
1.発病に季節性があり、7〜9月に発生する。
2.青少年に多く、10歳以下が60〜70%を占める。
3.急性に発病し、高熱、意識不明、ヒキツケを起こし、髄膜刺激症状がある。
4.典型的な患者では、次の四つの段階に分かれる。
初熱期(発病後3日ぐらい):体温38〜39℃ぐらい、頭痛、倦怠感があり、患者によっては軽度の嗜眠、悪心、嘔吐および頚部の軽い硬直などがある。
極期(発病4〜10日):体温が徐々に高くなり、40℃以上になる。各種症状もひどくなり、意識不明や昏睡、ヒキツケ、硬直、ピクピク痙攣するものもある。脳膜刺激症状があり、腹壁反射、挙睾筋反射および腱反射が消失する。嬰児では大泉門が隆起する。ひどい患者では中枢性の呼吸不全を起こす。
回復期:体温が徐々に下がり、いろいろな精神神経症状が好転する。ひどいものは意識の遅鈍、痴呆、失語、嚥下困難、顔面麻痺、四肢の硬直性の麻痺(一部に弛緩性の麻痺もある)などがある。治療すれば半年ぐらいで回復する。
後遺症期:発病してから半年過ぎても、やはり精神神経症上が残るが、中でも失語、麻痺および精神症状が多い。治療すれば大部分は徐々に回復する。
5.病状の程度と神経系統の症状によって、日本脳炎を軽型(衛気型)、普通型または中型、重型(気営型)、極重型あるいは暴発型、凶型(営血型)の四つに分ける。軽中型は罹病期間が7〜10日で、回復期の症状はなく、体温は38〜40℃の間。重型は意識がなくなり、ヒキツケを起こして、体温は40℃以上、病理反射もはっきり現れて、呼吸不全もあり、罹病期間は2週間以上で回復期の症状があったり後遺症が残る。暴発型は急に発病し、高熱となって、すぐに深い昏睡状態となり、強く痙攣して、中枢性の呼吸不全を起こして死亡する。
6.臨床では軽中型が多い。流行の初期では重型が多く、流行の後期では軽型が多くなる。暴発型は少ない。
7.臨床検査:血液の白血球は1万〜3万となり、中性多形核白血球が多い。脳脊髄液は脳圧が高くなり、白血球の中等度は高くなって500ぐらいとなり、好中球が多い。蛋白は少し高くなり、糖と酸化物は正常で、補対結合反応は、ほとんどが2〜5週間以内に陽性となる。
(二)鍼灸治療
鍼灸治療は、一般に回復期と後遺症期に使われる。ここに紹介するのは小児の日本脳炎によって起こった脳性麻痺だが、成人にも参考となる。
1.毫鍼
処方
取穴:風池、風府、百会、大椎を主穴とする。配穴は、顔面麻痺には、頬車、翳風、下関、地倉、迎香を加える。涎を流すものは、地倉、頬車、承漿を加える。嚥下困難があれば、廉泉と天突を加える。首が据わらなくて支えられないものは、百労、身柱、陶道、夾脊穴を加える。知能低下には、神門と大陵を加える。動眼神経麻痺には、睛明、絲竹空、承泣、合谷を加える。失明したものは、睛明、陽白、攅竹を加える。聾唖には、聴宮、聴会、耳門、 門、外関を加える。足に力が入らないものは、解谿、陽陵泉、懸鐘、太谿、風市、環跳を加える。
操作:平補平瀉をしたら抜鍼する。置鍼はしない。主穴には必ず刺鍼する。首の力がなければ大椎に灸をする。知能低下には百会に灸をする。動眼神経の麻痺には、梅花鍼で前頭部を叩刺する。そのほかの各経穴にも、症状に応じてマッサージや電気鍼を加える。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴
主穴:神門、支正、太衝、光明、太白、豊隆、太淵、偏歴、太谿、飛陽、大陵、外関。
配穴: 百会、人中、上星、頭維、瞳子 、陽白、攅竹、魚腰、睛明、下関、頬車、廉泉、耳門、聴宮、聴会、翳風、肩 、臂臑、曲池、手の三里、合谷、内関、労宮、中 、関元、環跳、風市、照海、足臨泣、湧泉。
風池、風府、 門、天柱、大椎、至陽、筋縮、命門、腰陽関、心兪、膈兪、肝兪、脾兪、胃兪、腎兪、承扶、殷門、委中、承山、後谿、崑崙、申脈。
操作:主穴は両側を取って、毎回必ず刺鍼する。配穴は、意識障害、失明、耳聾、言語障害および手足の運動麻痺に基づいて、順番に使用する。平補平瀉で、すばやく6〜7回捻鍼したら抜鍼する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。
処方
取穴: 百会、四神総、 門、合谷、通里、陽谷、曲泉、復溜。
大椎、風池、腎兪、肝兪、大陵、神門、太衝、太谿、そして対応する夾脊穴。
風府、廉泉、聴宮、耳門、聴会、頬車、地倉、目窓、内関、光明。
肩 、曲池、腕骨、環跳、陽陵泉、梁丘、足三里、解谿、三陰交。
症状の軽重や緩急に基づいて、交替で使用する。一回の選穴が多くなり過ぎないようにする。
操作:毫鍼ですばやく切皮し、平補平瀉して置鍼はしない。抜鍼後は棒灸を使って、百会、大椎、関元、腎兪(毎回1穴を取り、交替で使用する)に温和灸を10分程度する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:内関、人中、足三里、三陰交を主とし、嚥下困難には翳風、失語には廉泉、上肢の麻痺には肩 と臂中、下肢の麻痺には委中と陽陵泉を加える。
操作:内関穴は、0.5〜1寸の毫鍼を両側の経穴に刺入し、提挿捻転瀉法で30秒ほど運鍼する。人中穴は、鼻中隔に向けて下に0.3寸斜刺し、30秒ほど雀啄する。上の二つの経穴には置鍼はしない。そのほかの経穴はマニュアル通り操作し、平補平瀉して気が得られたら15分ほど置鍼する。
治療期間:上と同じ。
2.頭皮鍼
取穴:頂中線、頂顳前斜線、頂旁1線、頂旁2線を主とする。失語には額中線、右の額旁1線、顳前線を加える。嚥下困難には額中線を加える。情緒障害には額中線、右の額旁1線を加える。耳聾には顳后線を加える。失明には枕上正中線、枕上旁線を加える。
操作:乳幼児には半刺を使う。つまり0.5寸の毫鍼で治療線の上を点刺して、何回か切皮する。児童は帽状腱膜下層に刺入し、抽気法で運鍼したあと抜鍼する。置鍼しない。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとする。
3.耳鍼
取穴:心、腎、枕(後頭部)、神門、脳幹、脳点、皮質下および病変部分と対応する部分。
操作:毫鍼で3分ほど捻鍼したら抜鍼する。
治療期間:一日1回で、10〜15回を1クールとする。ほかの刺鍼治療を併用してもよい。
4.穴位注射
取穴: 門、腎兪。風池、足三里。大椎、内関。
操作:以上の三つのグループを交替で使用する。頭部の経穴にはアセチルコリン(50mg/m )を2m (両側の経穴では1m ずつ)注入する。四肢や体幹の経穴では、ニトロフラントイン(25mg/m )を1m ずつ注入する。
治療期間:隔日1回治療し、10回を1クールとし、各クールは7〜10日開ける。
5.灸
取穴:百会、大椎、関元、腎兪。
操作:棒灸を使う。30cmの棒灸が燃えて一段とし、四穴に交替で灸をすえる。各経穴に1〜2段灸をする。
治療期間:一日1回で、10回を1クールとする。
6.赤外線照射
取穴:百会、風池、大椎、内関、三陰交。合谷、曲池、外関、足三里、懸鐘。
操作:二組に分けて刺鍼し、平補平瀉のあと10〜15分置鍼する。置鍼の間赤外線を照射する。患者が心地好く感じるように離し、四肢では紅斑ができるぐらいがよい。
治療期間:一日1回で、10〜15回を1クールとする。
7.梅花鍼
取穴:重点的に頚椎、腰仙部、顎の下、気管の両側、口の周辺、そして 門、風府、合谷、少商、翳風、頬車などを叩刺する。
操作:軽刺激で、皮膚がやや赤くなればよい。
治療期間:上と同じ。
(三)治療効果
1.鍼灸治療は、おもに日本脳炎の後遺症に対して使う。脳性麻痺および併発症に有効だが、初期のうちに治療しなければならず、罹病期間が短いほど治療効果がよい。
2.高 は毫鍼を風池、百会、大椎などに刺鍼して日本脳炎の後遺症患者148例を治療し、治癒111例、著効6例、好転29例、無効2例で、治癒率は75%、有効率は98.65%だった〔中国鍼灸 :1984〕。王乃一は多経刺鍼治療で15例の日本脳炎後遺症患者を20〜25回治療したところ、症状は完全になくなって満足できる効果が得られた〔中国鍼灸 :39,1989〕。蘇尓亮は腎兪、脾兪、中 、気海、懸鐘、神門を基礎穴として、重症の日本脳炎の回復期の患者112例に刺鍼治療したところ、有効率89.2%治癒率70.5%だった〔江蘇中医 :43,1986〕。
3.日本脳炎の後遺症に対する治療では、一般に総合的な鍼灸治療が使われる。例えば楊金安達は、前頂、後頂、絡却(両側)から百会に透刺する頭穴刺鍼と、他の刺鍼治療を併用して日本脳炎を治療しても優れた効果を得ている〔中医雑誌 :50,1983〕。また体鍼と頭鍼や電気鍼を併用したもの、刺鍼と穴位注射や頭皮鍼を併用したもの、刺鍼と灸を組み合わせたり、体鍼に赤外線照射を加えたり、耳鍼や頭鍼を加えたものがある。
(四)論評
1.本病は予防をすることによって発病率は大幅に下がったが、発生はする。蚊の駆除や日本脳炎情報、及び予防接種をしなければならない。
2.高熱、意識不明、ヒキツケなどの起こっている急性期でも、鍼灸は一定の治療効果がある。嘔吐や頭痛に対しても、緩解させたり、すぐに吐き気や痛みを止めたりできる。
3.そのほかのビールス性脳炎、結核性脳膜炎などによって起こった後遺症にも、本法に基づいて治療できる。小児でない日本脳炎の後遺症患者でも、本法に基づいて治療できる。

ヒステリー性麻痺の鍼灸治療

ヒステリー性麻痺の診断では、ヒステリーと診断されていなければならない。これは心因性の疾患で、ある種の不愉快な精神的要素によって引き起こされる。女性に多く、その症状も多種多様で、精神症状と肉体的症状があるが、ヒステリー性の麻痺もその中の一つである。ヒステリーを中医では「臓躁」、「百合病」、「厥証」、「鬱証」としている。

一、病気の診断と鍼灸治療
(一)症状
1.患者は青壮年で、女性に多い。
2.急に発症し、単麻痺や対麻痺となる。暗示性が強い。
3.発症しているときは、患者は立ったり歩いたりできないが、ベッドに横たわると身体を自由に動かせる。おかしな歩き方をするものもある。
4.腱反射は正常か増強し、筋の治療力も正常で、病理反射も筋肉の萎縮もなく、大きく肢体を振るわせたり、不規則に痙攣したり、舞踏様の動作をする。
5.肢体の痺れや、知覚がなくなるなどの症状も起こる。
(二)鍼灸治療
1.毫鍼

処方
取穴:主穴は湧泉。配穴は、上肢では外関と曲池、下肢では足三里と懸鐘を加える。
操作:18〜22号の太い毫鍼を湧泉に刺鍼して、知覚を回復させる。もし効果が悪ければ配穴を加えて3〜5分置鍼する。
治療期間:一回で完全に治癒しなかったら、3〜7日後に再度治療する。
処方
取穴:下肢は泉中穴(湧泉の後ろ1寸)、上肢は寸平穴(背側腕関節横紋中点の上1寸のところから、橈側に0.4寸の位置)。配穴は、扶突、曲池、衝門、陽陵泉。
操作:22〜26号の太い毫鍼で、泉中穴と寸平穴を2〜3cm直刺し、提挿と捻転を加えて患者に鍼感が現れたら、まず他動運動、そのあと能動運動をさせ、患肢が自由に動くようになったら抜鍼する。そしてベッドから降りて身体を鍛える。
治療期間:上と同じ。
2.頭皮鍼
取穴:額中線、額旁1線(右)、頂中線、頂顳前斜線の上 (下肢の麻痺)、中 (上肢の麻痺)。
操作:まず額中線に刺鍼し、患者に息を止めさせ、毫鍼をすばやく帽状腱膜の下層に刺入して抽気法で運鍼し、患者が息を止められなくなったら、口を開けて深呼吸をさせる。右の額旁1線に刺鍼するときも、額中線と同じ操作をする。頂中線に刺鍼するときは、丹田に意識を集中し、抽気法もゆっくりと運鍼する。頂顳前斜線に刺鍼するときは、下肢の麻痺では上 を取り、上肢の麻痺では中 を取って、両側同時に抽気法で運鍼し、同時に患肢を運動させる。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、7回を1クールとする。
注意事項:頂中線や頂顳前斜線を運鍼するときは、患者は意識を麻痺した手足に集中させ、手足が動くと想像してから動くことを試させる。運動をさせる。
3.電気鍼
取穴:毫鍼の処方を同じ取穴。
操作:G6805治療機に接続し、電源電圧6V、出力電圧は+極で25V以上、極で40V以上のパルス電流を使い、断続的に刺激を続ける。電流は患者が耐えられる範囲とする。通電したあと患者に、患肢が電流刺激によって収縮したり顫動しているようすを観察させ、暗示を加えて強化する。もし電気鍼でも症状が変わらなかったら、毫鍼処方 の経穴に電気鍼をつなぎ、患肢の神経幹を刺激する。上肢は、扶突穴(腕神経叢)に2〜3cm刺入して上肢に触電感を起こさせ、曲池穴(橈骨神経)は3〜4cm刺入し、前腕に触電感があればよい。下肢では、衝門穴(大腿神経)に2〜3cm刺入して大腿四図筋を収縮させ、陽陵泉穴(総腓骨神経)に2〜3cm刺入して、脛の外側に触電感があればよい。電気鍼は、パルス間隔60〜100回/分で、神経幹が支配する筋肉群がリズミカルに収縮させると同時に、患者にそれを観察させる。
治療期間:毫鍼処方 と同じ。
4.耳鍼
取穴:主穴は心、皮質下、枕(後頭部)、脳点。配穴は肝、内分泌、神門、子宮そして相応する部位。
操作:3〜4穴を選び、両側の耳穴に同時に雀啄で強刺激をした後20分置鍼する。また電気鍼を使ってもよい。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、7回を1クールとする。
5.穴位注射
取穴:内関、足三里、曲池、合谷、陽陵泉。
操作:経穴を二つ取り、ビタミンB1注射液を各経穴に0.5m ずつ注入する。
治療期間:上と同じ。
6.梅花鍼
取穴:発作時には後頚部、仙骨部、風池、内関、人中そして指先。発作が起こっていないときには、後頚部、仙骨部、頭部、大椎、中 、肝兪、胆兪、内関、脛の内側。
操作:中強刺激で皮膚が赤くなり、少し出血すればよい。
治療期間:上と同じ。
(三)治療効果
1.本病に対する鍼灸治療の効果は優れている。筆者は湧泉穴に刺鍼し、だいたい一回で効果がある。張振英は湧泉穴の刺鍼により、ヒステリー性の麻痺患者1316例を治療し、心理療法やリハビリを併用したところ、1287例が治癒し、治癒率は97.8%、そのうち一回の治療で治癒したものは900例だった。その中で、長期にわたって調査したのは125例で、再発のなかったもの98例、患肢が怠いとか痺れるとか痛いなどの自覚症状が残っているものは4例、再発したものは23例だった〔中医雑誌 1986〕。趙吉民達は、泉中穴と寸平穴に刺鍼してヒステリー性の麻痺患者1443例を治療し、治癒は1413例だった〔中国康復医学 :19,1987〕。
2.『耳鍼』では、ヒステリー発作で全身麻痺が一日続いた症例を耳鍼治療した例が紹介されており、暗示を併用して一回の治療で治癒させている。『中国梅花鍼』には、梅花鍼を使って一ヒステリー患者を治療した例を紹介している。14日前から頭がフラつき、そのあと意識がぼんやりする、胸の不快感、喋れない、涎が出る、手足の振るえなどの発作が毎日1〜2回、多いときは3〜4回起こっていたが、一回の治療で振るえが止まって意識がはっきりし、座ったり立ったりできるようになり、10回の治療で症状が完全になくなった。
(四)論評
1.本病は他の神経系統の器質性疾患によるものとの鑑別が必要である。症状の多くは急に発作が起こり、鍼灸や電気鍼を使って暗示を与えると、麻痺した肢体は回復する。患者を鍛練させ、自分や周囲の事柄に正確に対処できるように励ます。
2.鍼灸治療は、心理治療や言葉による暗示と組み合わせるとよい。心理治療により術者と鍼灸治療の信頼性を高め、必ず治るのだという自信を高めさせる。理想的なのは患者が切実に治療を要求し、その上で刺鍼すれば必ず効果がある。刺鍼のあとは患者を支えて何分か歩かせ、そのあとは自分独りで歩かせる。
3.他の症状のあるヒステリー患者も、やはり鍼灸を併用して治療すれば、優れた治療効果があり、またヒステリー性の運動麻痺の回復にも有利である。


顔面神経麻痺の鍼灸治療

顔面神経麻痺は、脳神経の病変の中でもっとも多い疾患である。臨床では中枢性の顔面麻痺と周囲性の顔面麻痺に分けられる。中枢性の顔面麻痺は、急性の脳血管病(脳出血)や脳血管の奇形、脳腫瘍などによって起こった、顔面神経核の上行性麻痺である。周囲性の顔面麻痺は、側頭骨内(顔面神経管)の顔面神経の炎症によって起こり、特に茎乳突孔や顔面神経管内の部分で、ビールスによる感染や顔面神経の浮腫、髄鞘や軸索の変性などが起こった、顔面神経核の下行性麻痺である。だから大脳皮質、脳幹の顔面神経核から顔面神経の末梢および顔面筋までの、いずれか一つにでも病変があれば顔面麻痺は起こる。
顔面神経麻痺は、急性の脳血管障害、脳炎、脳腫瘍、多発性神経根炎などの病気でも起こり、ものによっては各種の肢体麻痺を伴っていることもあるので、ここに紹介した。
顔面神経麻痺を中医では「口眼歪斜」とか「 僻」と呼び、古代は中風の一つとして検討していた。風邪の外襲、肝風の内動、気滞血 、脾虚による血虚、肝腎の不足などで起こるので、型に分けて治療する。

一、疾病の診断と鍼灸治療
(一)症状
1.中枢性の顔面麻痺
脳血管障害や脳腫瘍などで、橋部分にある顔面神経核から上に病変を起こし、また病変は脊髄内にある。
対側の肢体の運動障害を伴う。
病変と対側の下部の顔面筋が麻痺すると、口が歪んだり、鼻唇溝が浅くなる。上部の筋肉には影響がなければ、額にシワを寄せたり、目を閉じ足りの動作に影響がない。
2.周囲性の顔面麻痺
顔を冷やしたことがある。耳の付近に炎症があれば、舌の の味覚が減退し、耳鳴りや聴覚が鋭敏になるなどの症状が現れ、また前に述べた病因と関係のある発病過程や既往症がある。
発病年齢は20〜50歳が多く、男性に多い。
急に発病するが、多くは明け方に目が醒めたときに気が付く。
多くは一側性で、耳の内部や乳様突起に痛みがあり、患側の顔の表情はなくなり、目は閉じずに涙が流れ、額にシワを寄せたり眉をひそめることができない。
患側の筋肉の張力が低下し、口角は健側に引っ張られ、鼻唇溝は浅くなるか歪む。喋るときに息が漏れ、息を吹いたり頬を膨らませることができない。涎が流れ、食事で咀嚼するときに食物が患側に溜る。
ほとんどは発病してから1〜2ケ月で幾らか回復するが、少数は慢性となる。
完全に回復しないものは、顔面筋の攣縮や口角が患側に向かって引っ張られる(倒錯現象)、鼻唇溝が深くなる、眼裂が縮小するなどとなる。時には目を閉じるときに口角を上げたり、上唇を振るわせる。歯を剥き出すときに目を閉じたり、顔面の筋肉がピクピクケイレンするなどの連動動作がある。

(二)鍼灸治療
おもに周囲性顔面神経麻痺の治療を紹介する。中枢性の顔面麻痺にも参考とはなるが、それは片麻痺の治療に伴って顔面麻痺も好転する。
1.毫鍼
処方
取穴:地倉、頬車、陽白、四白、合谷を主穴とする。配穴は、眉をひそめられないものは攅竹を加える。鼻唇溝が浅くなっているものは迎香を加える。鼻唇溝が歪んでいるものは人中を加える。乳様突起の痛むものは翳風を加える。オトガイ唇溝の歪んでいるものは承漿を加える。舌が麻痺したり、味覚が減退したものは廉泉を加える。
操作:合谷は健側を取るが、それ以外はすべて患側から取穴する。主穴には斜刺か透刺をする。例えば地倉は頬車まで透刺し、陽白は魚腰まで透刺、四白は迎香まで透刺する。中刺激をするか、初期には瀉法で運鍼し、後期には補法を使う。気が得られたら30分置鍼する。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴:面 経験穴(下関と地倉をつなぐ線で、地倉穴に近い の位置)を主穴とする。罹病期間に合わせて1〜2穴を配穴する。罹病期間が一週間以内のものは風池、太陽、翳風、合谷、足三里を配穴する。二週間から一ケ月のものは翳風(または牽正)、頭維から懸釐への透刺、外関、太衝、足三里を配穴する。一ケ月以上のものは睛明、迎香、天容、列缺、照海、太衝、足三里。
操作:主穴は2寸の毫鍼を使って、ゆっくり捻鍼しながら下関に向けて沿皮刺する。皮膚が鍼によって少し盛り上がるようにすると、鍼感は患側の側頭部、眼、口、鼻および耳の後ろの乳様突起下方に放散する。配穴はマニュアル通り操作し、病気の虚実に基づいて瀉法か補法を使う。罹病期間により15〜30分置鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:顔面麻痺の原因と損傷部位によって取穴は異なる。
中枢性の顔面麻痺:兌端から巨 への透刺、地倉から頬車への透刺、承漿から大迎への透刺、翳風、合谷、頭皮鍼の頂顳前斜線の下 。
乳様突起から末梢までが損傷された顔面麻痺:陽白から魚腰への透刺、攅竹から絲竹空への透刺、四白から承泣への透刺、兌端から巨 への透刺、地倉から頬車への透刺、承漿から大迎への透刺、翳風、合谷。
顔面神経管から顔面神経核までが損傷された顔面麻痺:第 グループの取穴に、耳門から聴会への透刺、液門から中渚への透刺を加える。
操作:発病してから一週間目は刺鍼して瀉法を使い、一週間に患側を4回、健側を2回刺鍼して毎日一回治療する。
発病してから二〜四週までは平補平瀉を使い、刺鍼後顔面の筋肉を5分間マッサージする。隔日に一回治療する。
発病してから五週以降は補法を使い、棒灸で顔面部の経穴を30分温め、刺鍼後顔面を5分間マッサージする。一週間に患側を2回、健側を1回刺鍼して隔日に一回治療する。
治療期間:罹病期間や原因により、上のように毎日あるいは隔日に一回治療し、12回を1クールとして、各クールは5〜7日開ける。
処方
取穴:罹病期間に分けて取穴する。
急性期:合谷、風池、完骨、内庭(健側あるいは両側)、また患側の頬車、地倉、下関、四白、陽白、翳風を毫鍼で浅刺したり、梅花鍼で軽く叩刺してもよい。
安定期:陽白から魚腰への透刺、太陽から下関への透刺、地倉から頬車への透刺、巨 から四白への透刺、翳風(または完骨)。すべて患側を使う。
慢性期:安定期の取穴に加え、肝腎陰虚には太衝と太谿、脾胃虚弱には足の三里、中 、脾兪、胃兪を加える。
操作:急性期には、刺鍼して瀉法をおこない、30分置鍼する。安定期には、瀉法か平補平瀉をおこない、1時間置鍼する。慢性期には、補法をおこない、30分置鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:陽白から魚腰への透刺、四白から迎香への透刺、迎香から睛明への透刺、地倉から頬車への透刺、合谷。耳の後ろの痛みには翳風を加える。頚部の痛みは風池を加える。片頭痛があれば太陽を加える。
操作:罹病期間が短ければ実証だから、刺鍼して気が得られたら、親指を後ろに大きくバックさせるときに力を入れる捻転をすると同時に、鍼体を引き上げる。あるいは時計回りに鍼柄を旋回させ、抜鍼したあと鍼孔を圧しない。罹病期間が長ければ虚証になっており、刺鍼して気が得られたら、親指を前に軽く捻鍼しながら鍼体を押し入れる。すばやく抜鍼し、鍼孔はすぐに押さえる。虚実が入り混じった者は平補平瀉する。みな15〜20分置鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴: 合谷、太衝、足三里。 偏歴、支溝、豊隆。みな両側を取り、両グループを交替で使う。配穴は、地倉から頬車への透刺、人中から地倉への透刺、承漿から地倉への透刺、巨 から顴 への透刺、絲竹空から太陽への透刺。すべて患側を取り、毎回3穴を透刺する。
操作:主穴はマニュアル通り操作する。第 グループは補法、第 グループは瀉法を使う。配穴は沿皮刺で透刺する。みな20〜30分置鍼し、その間2〜3回運鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:頬車から地倉の透刺を主穴とし、陽白、四白、太陽、下関を配穴する。
操作:主穴は4寸の毫鍼を使って患側の頬車から地倉まで透刺し、一方に捻鍼して筋肉線維を鍼体に巻き付けたあと、鍼を10回ぐらい引っ張る。そして患者に鍼柄を10〜15分引っ張らせたあと、少し力を入れて抜鍼する。もし筋肉が硬く絡み着いて抜鍼できなかったら、逆方向に捻鍼して抜鍼する。配穴も一般に患側を取るが、罹病期間が長くて効果がはっきりしなければ健側を取ってもよい。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴: 地倉、頬車、四白、耳門、瞳子 、人中、合谷、足三里。
地倉、頬車、承漿、陽白、翳風、絲竹空、合谷、陽陵泉。
二つのグループを交替で使う。各グループから毎回顔面部の経穴を2〜3穴取り、四肢から1穴を取る。健側か両側を取る。
操作:患側の顔面部の経穴には1寸の毫鍼を使い、すばやく浅刺(毛刺)する。皮膚に入れて痛くないか、わずかに痛む程度とし、各経穴にすばやく刺入して抜鍼する操作を5回繰り返す。健側の顔面部の経穴はマニュアル通り操作し、平補平瀉する。四肢の経穴では、周囲性の顔面麻痺には刺鍼して瀉法をおこない、中枢性の顔面麻痺には健側に瀉法、患側に補法をする。健側の顔面部の経穴と四肢の経穴は15分置鍼する。
治療期間:上と同じ。
処方
取穴:攅竹から睛明への透刺、地倉から迎香への透刺、瞳子 から顴 へ透刺、陽白、頬車、翳風。以上の経穴は全部患側を使う。そして健側の合谷。以上は主穴。以下配穴。
風邪が絡脈に中ったものには、患側の曲池と外関を加える。
風寒が侵襲したものは、患側の風池と曲池を加える。
風熱が鬱積して絡脈が閉じたものは、患側の中渚、頭維、下関、内庭を加える。
風湿(痰)が絡脈を阻んだものは、両側の豊隆か足三里を加える。
気滞血 では、人中と承漿、患側の三陽絡と太衝を加える。
脾虚による血虚は、両側の血海と足三里を加える。
肝腎不足は、両側の三陰交、太谿、風市、太衝を加える。
操作:顔面局部は沿皮刺を使って透刺し、軽から中度の刺激する。病証に基づいて捻転補法か瀉法をする。四肢の経穴はマニュアル通り刺鍼し、適度に深刺したらやや強めの刺激で、提挿補法か瀉法をする。配穴は、 軽刺、捻転、平補平瀉。 軽刺、速い捻転。刺鍼後、頬車と翳風に灸を加える。 浅刺、瀉法。 豊隆か足三里は、刺鍼したあと灸を加える。顴 は吸い玉を加える。翳風は灸を加える。 刺鍼して瀉法をする。顴 は梅花鍼で刺絡して、吸い玉を加える。 刺鍼して補法をする。 刺鍼して補法をする。気が得られたら15〜30分置鍼する。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
処方
取穴:上面 穴(太陽の外側0.3寸、上0.3寸)、下面 穴(地倉と頬車をつなぐ線の中点)、面痙穴(瞳子 の下0.3寸)、麻痺点(人中と地倉をつなぐ線の中点)、翳風を取穴とする。配穴は、人中、承漿、攅竹、迎香、下関、陽白。
操作:上面 穴は、下に向けて2.5寸沿皮刺する。下面 穴は、上に向けて2.5寸沿皮刺し、上面 穴と向かい合わせに刺鍼する。面痙穴は、頬車に向けて沿皮刺で2.5寸透刺する。麻痺点は、四白に向けて沿皮刺で2寸透刺する。翳風は、地倉に向けて沿皮刺で2.5寸透刺する。人中と承漿は患側に向かって刺鍼する。迎香は鼻梁に向けて刺鍼する。下関は地倉に向けて刺鍼する。攅竹は絲竹空に向けて刺鍼する。陽白は魚腰に向けて透刺する。
治療期間:上と同じ。
2.眼鍼
取穴:眼鍼の上焦区、肝胆区。虚証には脾胃区を加える。
操作:マニュアル通り消毒し、眼窩辺縁に沿わせて皮下に刺入する。まず上焦区、後で肝胆区に刺鍼する。
治療期間:毎日1回治療し、10回を1クールとする。
3.耳鍼
取穴:眼、面頬、肝、口。配穴は、脾、額、神門、腎上腺(副腎)。
操作:初期では患側から3〜5穴を取り、毫鍼を使って軽刺激をする。数日したら電気鍼を使い、低周波か疎密波のパルス電流を通電する。
治療期間:毎日か隔日に1回治療する。病状が好転したら、耳穴圧丸法に替え、毎週一回貼り替える。
4.電気鍼
取穴:太陽から頬車への透刺、頬車から地倉への透刺、陽白から魚腰への透刺、合谷、翳風。
操作:合谷は健側に刺鍼するが、ほかは全部患側に刺鍼する。太陽から頬車への透刺、頬車から地倉への透刺では、28号3寸の毫鍼を使って沿皮刺する。陽白から魚腰への透刺では、30号1.5寸の毫鍼を使って沿皮刺する。透穴はG6805治療機に接続し、15〜30分通電する。断続波か疎密波を使い、初期は軽刺激、それから徐々に刺激を強くする。合谷と翳風は通電せずに同じ時間置鍼する。
治療期間:10回を1クーとし、最初の5回は毎日1回治療し、後の5回は隔日に1回治療する。もし完全に治らなければ、5〜7日開けてから第2クール目を始める。
5.灸頭鍼
取穴:主穴は下関と顴 。配穴は頬車、地倉、太陽、四白、攅竹、風池、合谷、陽白、迎香、人中、承漿、牽正(下顎結節前方の凹みと地倉の中点)、太衝、三陰交、間使。
操作:主穴は刺鍼して平補平瀉か熱補法で操作し、気が得られたら置鍼の間、1寸の棒灸を鍼柄に挿し、下から点火して施灸する。毎回1〜2壮すえ、施灸部分の皮膚が赤くなってしっとりすればよい。そのほかの経穴は5〜7穴を順番に取って、平補平瀉する。
治療期間:最初は毎日1回鍼灸をし、6〜7日続ける。病状が好転したら、隔日1回鍼灸をし、12回を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。
6.穴位注射
処方
取穴:瞳子 、下関、頬車、合谷。
操作:ビタミンB121m (ビタミンB12を15か50μg含む)ずつ、それぞれ患側の瞳子 、下関、頬車に斜刺で注入し、対側の合谷穴に直刺で注入する。
治療期間:毎週2回治療し、6回を1クールとする。
処方
取穴:太陽、陽白、四白、牽正、顴 、迎香、頬車、大迎、地倉。
操作:三つのグループに分け、交替で注射する。毎日一グループの経穴を選ぶ。それぞれの穴位に、0.4%の硝酸セクリニンを0.2〜0.3m 注入する。注射するときは針を上下させ、怠くて腫れぼったい感覚が起こったら、血が逆流してこないことを確かめて注入する。
治療期間:一日1回で、12回を1クールとし、各クールは2〜3日開ける。
7.レーザーの穴位照射
取穴:毫鍼と同じ。
操作:ヘリウムーネオンレーザーを使い、出力3mW、光斑直径2mmとし、各経穴に5分間照射する。毎回2〜3穴を取る。
治療期間:毎日か隔日1回治療し、12回を1クールとし、各クール間は3〜5日。
8.刺絡
処方
取穴: 頬車。 耳尖か耳垂。 こめかみの小静脈。 頬。 商陽。内一つを選ぶ。
操作:患側と健側を同時に使う。 頬車は細い三 鍼で3回点刺し、血を絞り出すか小さな吸い玉を使って2〜3m 出血させる。 耳尖や耳垂は細い三 鍼で点刺したあと、血を15〜20滴絞り出す。 こめかみの小静脈は揉んだ後、細い三 鍼で点刺し、3〜5m 出血させる。 頬は太い三 鍼で1〜2回点刺し、小さな吸い玉を使って2〜5m
出血させる。 商陽は細い三 鍼で10〜20滴刺血し、さらにこめかみの静脈から のように出血させる。
治療期間:発病して1週間以内のものは、毎日1〜2回治療し、7回を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。
処方
取穴:地倉、頬車、陽白、四白、下関、太陽、翳風、禾 。
操作:すべて患側を取り、梅花鍼で叩刺して少量出血させるか、叩刺したあとで小さな吸い玉を5〜10分おこなう。この方法は炎症期あるいは後遺症によって顔面が引きつっているもの、倒錯現象を起こしているものなどに効果が優れている。
治療期間:隔日1回治療し、7〜10回を1クールとする。
9.穴位埋線
取穴:耳垂の下0.5寸の部位から頬車への透刺、四白から顴 への透刺、地倉から迎香への透刺、陽白から頭光明への透刺。そして合谷、列缺、血海を配穴する。
操作:病変の状況によって、患部付近から一対の穴位を取り、細い羊腸線を穴位の皮下に入れる(局部麻酔は必要なし)。毎回遠端の経穴を1〜2穴加える。
治療期間:7〜10日に1回治療する。罹病期間が長いものに適用する。
10.隔姜灸
取穴:毫鍼と同じ。
操作:毎回3〜5穴を取り、ショウガを2〜4mmの厚さにスライスして穴位に置き、棒灸で3〜5分温める。
治療期間:一日1回治療して、10回を1クールとする。
11.葦管器灸法
取穴:耳の穴。
操作:葦管灸器の製法:直結4〜6mmの葦の管を5〜6cmの長さに切り、片側の端をアヒルのクチバシのように削り、平らな側はバンソコウで塞ぐ。バンソコウで塞いだ側を耳の中に入れ、アヒルのクチバシにもぐさを載せて施灸する。これは一節葦灸器の一つである。両節形葦灸器は、モグサを乗せる側の太さは直径が0.8〜1cm、やはりアヒルのクチバシ形で、長さ4cm。耳に入れる側は直径6〜8mm、長さ3cm。細い管の片側をバンソコウで塞いで耳の中に入れて太い管とつなぎ、やはりアヒルのクチバシにモグサを載せて施灸する。
施灸はピーナッツの半分の大きさにモグサを取り、葦灸器のクチバシに載せて線香で点火する。煙は管の中を伝わってバンソコウを温め、耳の奥を温める。一般に皮膚温が2〜3℃高くなればよい。灸を1壮すえおわったら、さらに1壮すえ、一回の治療で3〜9壮すえる。
治療期間:一日1回治療して、10回を1クールとする。
12.雷火針
取穴:患側の地倉、頬車、下関、陽白、太陽。
操作:雷火針の製法:モグサ150g、丁香、肉桂、乳香、木香、沈香、羌活、姜黄、防風、穿山甲をそれぞれ3gを粉にしてフルイにかけた後、麝香0.3gを加え、うすい糊でモグサと薬の粉末を均一に混ぜ合わせ、専用工具(25cm、内径2cmの鋼管を金ノコで半分に切り、鎖と一緒に準備する)を使う。鋼管の内側に少量のナタネ油を塗り、撹拌した混合モグサを管の中に満たし、さらに鋼管に詰めた混合モグサをつついて固め、そのあと鎖をゆるめて鋼管を半分にし、棒のようになった混合モグサを取り出す。さらにコットン紙に糊を付けて締め、外側は糊を付けた桑皮紙で5〜7層に巻き付けて、陰干しする。これが雷火針で、木の棒のように堅い。
施灸するときは二本の雷火針にアルコールランプで火を着け、施灸する経穴に3〜5枚のワラ半紙を載せて、火の着いた雷火針で、すばやく経穴を15〜30秒押しつける。冷めたらすぐにもう一本の雷火針に取り替えて押し当てる。一回の治療でそれぞれの経穴に3〜5回灸を押し当て、局部の皮膚は赤くなるが水疱はできないようにする。
治療期間:一日1回で、12回を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。第2クールは隔日に1回治療する。
13. 鍼
取穴:患側の口腔粘膜。上部の病変には患側の後部(つまり大臼歯対側)、中部の病変には患側の中部(すなわち小臼歯の対側)、下部の病変には患側の前部と前上部、前下部(つまり口角上下の犬歯の対側)。また経絡の循行部位を使ってもよい。
操作:手術用のメスで切る。深さ1〜3mm、長さ1〜1.5cmほど斜めに切るが、小児では深さを加減する。そのあと患側を指で指圧し、舌圧子で下に向けて血をこする。身体が頑丈なものは多く出血させ、虚弱なものは少量出血させるなど、患者の体質を見て出血量を決める。流れ出る血液の色が鮮紅色になったら止める。術後は少量の砂糖を切り口に塗り、5%の食塩水を染み込ませた綿花で押さえる。新患にはシコリのある部位や麻痺区、患側に向かって歪んだものは健側を割治してもよい。
治療期間:毎日か隔日1回治療する。体力の虚弱なものや慢性では、3〜5日に1回治療する。
14.鍼灸、電気鍼併用
取穴: 耳垂下、完骨、翳風を主とする。耳垂下の穴位は、耳垂と頬の皮膚が交わる点の直下0.3寸のところ。指先で擦ると直径3mmぐらいのヒモのようなものが触れ、これを押さえたとき患者は怠く腫れぼったい感じが起こるが、それが顔面神経幹である。
取穴は第 グループと同じ。額や眼の周囲の筋肉が麻痺したときは、陽白と太陽、頬の筋肉が麻痺していれば巨 、口角の筋肉が麻痺していれば地倉を加える。
操作: 罹病期間が半月以内のものに使う。耳垂下に棒灸で温めることを主とする。一回30分、一日2回おこなう。そして完骨か翳風の刺鍼をする。どちらか一穴ずつ、交替で使う。完骨は乳突切痕から印堂方向に1寸刺入する。翳風はやや上方に1寸刺入する。耳垂下は0.5寸直刺するか、顔面神経幹の上下に1寸斜刺する。完骨と翳風は雀啄法で軽刺激し、捻鍼はしない。耳垂下は捻鍼だけで、提挿はしない。みな20分置鍼する。
罹病期間が半月以上のものに使う。完骨や翳風、耳垂下の刺鍼法は第 グループと同じ。配穴はマニュアル通り操作し、雀啄法をする。みな10〜20分置鍼する。置鍼の間、主穴と配穴から一穴ずつ選んでG6805治療機に接続する。主穴は+極、配穴は−極を繋ぎ、弱い電流を流す。
治療期間:毎日か隔日に1回治療し、10回を1クールとする。
(三)治療効果
1.各種の鍼灸治療法を使った顔面神経麻痺の治療は、優れた効果がある。任留江は400例の顔面麻痺患者を分類し、棒灸と顔面マッサージを補助として透刺治療をした。そのうち中枢性は48例で、治癒48例、著効24例、有効4例、無効4例だった。顔面神経管から顔面神経核に損傷がある患者は160例で、治癒108例、著効40例、有効9例、無効4例だった。乳様突起から末梢が損傷された患者は192例で、治癒172例、著効16例、有効4例だった。その結果、顔面神経麻痺の鍼灸効果と病変部位は関係があり、損傷された部位が末梢となるほど効果がよかった〔中国鍼灸 :13,1987〕。
2.李志明達は鍼灸を主として、本病患者1041例を治療した。取穴は顔面部と四肢の経穴を組み合わせて一回に5〜7穴取り、刺鍼、灸頭鍼、レーザー鍼、隔姜灸、穴位注射、葦管灸のグループに分けて治療した結果、治癒603例、著効157例、好転242例、無効12例で、有効率は98.82%だった。その中で灸頭鍼(刺鍼では、平補平瀉か熱補法を使ったグループ)が最も効果が優れていた〔中国鍼灸 :1,1987〕。これからすると、顔面麻痺の鍼灸の効果は、治療法や操作法などとも関係するようである。
3.施土生達は顔面部の透刺法を主とし、罹病期間が3〜6ケ月以上のものには、穴位注射、棒灸、マッサージ、梅花鍼、穴位埋線などを併用して本病の治療をした。512例の患者のうち急性期は398例、内訳は治癒388例、著効8例、有効2例だった。慢性期は104例で、著効90例、有効9例、無効5例。後遺症は10例で、有効8例、無効2例だった〔中医薬研究 :13,1989〕。この結果は、本病の鍼灸効果と罹病期間が関係あることを表しており、なるべく早めの治療が治療効果を高めるポイントとなる。
(四)論評
1.臨床治療の結果、本病の初期では刺鍼による刺激量は小さく、顔面部からの取穴は少なく、軽い手法で、置鍼はしないか、短い間置鍼すると良い。後期では刺激量をかなり大きくし、患部からの取穴も多くして強刺激をし、長く置鍼するとよい。
2.本病では罹病期間によって分類治療すれば、治療効果を高められる。急性期では遠隔取穴を主とし、患部の刺激を避けるか、患部には浅く軽く刺鍼したり、健側にのみ刺鍼したりする。安定期には顔面部からの取穴を多くしてよく、毫鍼による透刺を主とする。
3.病気の特徴によって分類取穴し、それに合った刺鍼操作や治療法を選ぶのは、本病の治療に有益である。例えば呉旭初達は、本病患者に辨証論治をして異なる配穴を取り、異なる刺鍼操作をおこなって、刺絡吸い玉、穴位注射などを組み合わせて治療効果を高めた〔湖北中医雑誌 :42,1987〕。
4.鍼灸治療と同時に、自分では閉じられない目の保護に気を付ける。そして患側の顔面に温湿布をしたり、マッサージや赤外線照射などをする。

麻痺の補助療法

麻痺の鍼灸治療では対症治療と病因治療のほかに、補助療法を組み合わせることで治療効果が上がる。

一、機能訓練
機能訓練は病気に対し、医療を目的とする自発的な訓練で、麻痺患者が健康回復するプロセスの重要な措置である。中国の古代には「導引」と呼ばれていた。
麻痺患者をリハビリするときは、患者のイメージによる訓練とイメージによって運動を起こさせることが大切で、患者が自発的に医療に参加することにより、患者の病気と闘おうとする積極性が十分に発揮され、病気を克服し、治療効果を安定させ、労働力を回復させるためにもプラスに作用する。
機能訓練は筋肉や関節に直接作用するだけでなく、反射性に内臓器官の働きに影響を与え、病理のプロセスを改善し、患者の肢体や機能回復を速める。次に、麻痺は病理が変遷した結果であり、ある組織や器官の整理機能が低下したり機能障害を起こし、機能を失うものもある。機能訓練によって器官の働きを改善し、代償作用を高めて身体の生活の適応力や労働力を高める。
鍼灸と機能訓練を組み合わせれば、経脈を流通させて気血の循環にさらに有利となり、それとともに患者の注意を「動」の患部に集中させるので、刺鍼して「気を病の所に至らせる」効果を誘発し、邪を外に導き、動によって静を促し、刺鍼効果を高めて後遺症による麻痺を減少させる。
(一)機能訓練の方法
機能訓練の方法はいろいろあるが目的は麻痺した肢体の機能回復である。それを運鍼や置鍼と組み合わせてもよいし、単独に使ってもよく、道具は使っても使わなくてもよい。
1.イメージ訓練
イメージ訓練をするときは、患者の意識が外界に一切煩わされないようにして、動かそうとする肢体に意識を集中し、イメージによって身体の動きを引き起こす。
イメージ運動と他動運動を組み合わせる。他動運動は術者が患者の近端から遠端を助け、各関節にいろいろな運動をさせる。運動の幅は小さいところから大きく、順序を徐々に進め、再度の損傷を避けて、動かす患肢が予定のところまで到達したら止める。それと同時に、患者のイメージでは全力を尽くしてこの動作を完成させ、術者は励ますような言葉を使って、そのイメージ運動を促す。
イメージ運動と健側の肢体の運動を結び付けたり交替でおこない、健側の肢体によって補助したり患肢の運動を誘導する。具体的な方法は、患者が意識的に健側のでいろいろな運動をおこなうことによって、強いイメージを大脳に作り上げる。そのあと術者の指示で、患者は患肢を使って同じような運動をする。あるいはイメージによって健肢と患肢に交互に同じような運動をさせ、健肢を使って患肢の運動を誘導する。
イメージ治療。患者のイメージ能力を助けて、イメージによる想像で自分の病気はもう回復したんだと思わせ、麻痺した肢体はすでに発病前の正常な動作ができると思わせることにより、患肢の能動運動を促進できる。例えば章良虎は3例の対麻痺患者にイメージ治療をした。治療では、患者に禅の密筑基功を練習させ、背骨を内観させて、病気が回復するようイメージすると同時に、外気功、指圧、漢方薬などを使って総合治療した。それ以外の空いた時間はイメージによって足の親指をまず動かすと想像し、そのあと他の指も動くと想像して、イメージの練習で足をもち挙げる〔気功雑誌 :1987〕。
2.簡単な動作による訓練
上下の麻痺した肢体で、伸ばす、曲げる、前後させる、上げる、挙上する、開く、バタバタさせる、蹴る、座る、立つなどの単純な動作をさせる。術者は訓練の目標に基づき、リハビリの時間を設定し、繰り返し応援して強制的に患者に簡単な動作を繰り返させる。例えば指の屈伸を50回、リズミカルに応援して完成させる。座ったり、立ったりを50回、数えながら患者を励まして動作を完成させる。
3.医療歩行
下肢が麻痺したものは、筋力が少し回復してきた前提の下に、何も使わず、あるいは支えてもらって歩行訓練をする。こうした歩行訓練は医療を目的とする。例えば片麻痺患者の麻痺した下肢は、屈筋や内転筋の筋力が弱っていることが多いので、歩行時に股間を広げたり、膝を曲げたり、大腿を高く挙げたりして歩く動作を指導する。
歩行の速度、距離、坂の角度、時間は、病状を見て制限したり調整する。
歩行は術者の監視の下におこなう。動作の要領を説明した後は、患者の不正確な動作をすぐに矯正しなければならない。例えば片麻痺患者は、外旋や外転などの歩行をするが、すぐに注意して絶えず矯正する。例えば腓骨神経損傷患者では、足を伸ばし、足をもち挙げ、足の指を上げ、外転や内旋運動を強調する。
医療歩行では、杖を使わないほうがよい。杖を使うと身体を支える力が分散され、患肢の筋力はなかなか回復しなくなり、それが習慣になってしまって杖なしでは歩けなくなってしまう。他人が支えても患肢で歩く替わりにはならず、医療の目的は達せられない。だから患者が自分で歩くようにしなければならない。自分独りでは歩けない、ある種の対麻痺のような患者では、患肢が訓練できるようになるために、腕て支えて歩くことも当然必要である。
4.負荷訓練
負荷訓練は、一定の負荷をかけてリハビリをおこなうもので、回復と筋肉の力量の増強に顕著な作用がある。
これを指導する術者は、全身の各筋肉群の正常な運動機能を熟知しており、麻痺した筋肉群が正確に診断されているという前提の下に、この筋肉群の遠端に一定重量の負荷をかけ、その運動を繰り返す。例えば大腿四頭筋の訓練では、この筋肉は膝を伸ばしたり、大腿を屈する筋肉群なので、その遠端の脛に適当な重量の砂袋やそのほかの重量物をくくり付け、患者に腰掛けさせて膝を伸ばさせたり、仰向けに寝かせて足を真っ直にして持ち上げるなどの大腿を屈する動作をさせる。
5.機械を使う訓練
リハビリの機械は大変種類が多く、自分で作ることもでき、売ってもいる。例えば肩関節機能の機械、両手でボートを漕ぐような機械、肘や股関節の機械、ローラ式の歩行機、重量牽引式の足踏み機、肢体を揺り動かす機械、抵抗式足踏み機などがある。患者はこうした機械の助けを借りて、肢体の能動運動をする。こうした訓練の特徴は動作が比較的単純で、患者が簡単に要領を覚えられ、機械の目的もはっきりしており、病状に基づいてどの機械を使うか選べる。自分で機械を作る場合も方向性をはっきりさせ、麻痺の特徴や部位に基づいて専門に設計しなければならない。自分で製作する場合は機械の安全性に注意を払い、リハビリによって事故を起こさないようにする。
6.医療気功
麻痺患者の身体がある程度まで回復したら、五禽劇や太極拳、易筋経や八段錦などの医療体操をする。それについてはここでは触れない。
7.他動訓練
患者が自分で訓練できない状態なら、イメージによる訓練のほか、他動訓練をしなければならない。他動訓練は、術者や患者の家族がおこなうが、患者自身でもできる。簡単な他動運動は、患者を手伝って患肢の筋肉や関節を運動させ、また簡単なマッサージや按摩をする。例えば
按:指や手のひらで、患者の皮膚や経穴をリズミカルに按圧する。
摩:指や手のひらで、患者の皮膚や経穴を柔らかく摩擦する。
推:指や手のひらで、患者の麻痺した部位を前、上、外に向けて皮膚や筋肉を推す。
拿:片手や両手で患者の皮膚や筋肉、筋膜をつかみ、引っ張り上げたら放す。
揉:指や手のひらで、患部の皮膚や経穴をグルグル旋回させる。
搓:片手や両手で患肢や患部を揉む。
:指先を使って経穴に突き立てるようにする。
点:指の腹で経穴を指圧する。
叩:手のひらやゲンコツで肢体を叩打する。
(二)機能訓練の時期と時間
1.機能訓練の時期
麻痺患者がリハビリを始める時期でも、我々は早いほうがよいと言っている。患者にすれば病状の回復が早くなるだけではなく、それによって健康も大幅に取り戻せる。そのため患者が発病によって麻痺したあと病状がすでに安定し始めたら、その時は麻痺した肢体に萎縮が起こっておらず関節の変形もないので、例え急性期でも患肢の機能を保持させることぐらいはできるので、鍼灸治療と併せて早期に機能訓練をおこなえば、麻痺した肢体の機能をできるだけ早く回復させることは容易である。逆に長い間ベッドに寝ていれば、関節が変形して筋肉が萎縮し、機能訓練させるための人為的障害となるだけでなく、褥瘡ができたり、就下性肺炎を起こしたり、あるいは長く寝ていることで気を傷付け、全身の力がなくなり、便秘して食欲がなくなり、そのため健康回復が遅れる。
一般的に生命の危険がなくなったら、すぐに機能訓練をしなければならない。このことを大部分の麻痺患者は何の心配もしないが、ただ脳出血による片麻痺患者には受け入れられがたい。それは二度目の出血を起こして命が危なくなることを恐れるためだ。しかし、それは要らぬ心配だ。前に述べたように現代の研究では、脳出血を起こしたところが再び出血する可能性は2%程度で、そのうえ二度目の出血が起こるのはすぐではなく、早くとも最初の出血から約二ケ月後だからである。この二つは脳出血患者が早目にベッドから出て運動する根拠と保証になりうる。
2.機能訓練の時間
一回のリハビリは一般に20〜30分である。訓練をすると一定の疲労感があったり、あるいは患部の筋肉や関節が怠く痛むが、半日休めば、ほぼ元どおりになる程度とする。患者の機能が受け入れられる運動量より、少なすぎたり上回ったりしてはならない。そうでないと目的を達せられないばかりか、良くない結果を引き起こす。
患者の身体が適応する状況のもとでの一日の訓練時間の総和は、少なくとも二時間以上必要である。訓練時間以外はベッドに寝ているだけというのもよくない。気を傷付ける。
3.機能訓練の注意事項
機能訓練は、医者やリハビリ訓練士の指導と監督のもとでおこなう。動作のやり方と訓練の目的をはっきり話し、おかしければすぐに患者の不正確な動作を矯正する。また患者に独りで運動をさせないようにして、事故の発生を防ぐ。
訓練は最初は簡単で徐々に難しくし、回数も最初は少なくして後では増やす。強さも軽いものから重く、幅も小さいところから大きくし、速さもゆっくりから速くする。順々と進め、決して焦ってはならない。
術者は、例えどんなに小さな進歩でも良いところを発見し、患者を励まさなければならない。患者の最大の能力を発揮させ、士気を盛り上げ、自信を深めさせる。患者が気落ちしてやる気をなくしたら心理療法によって気持ちの障害や具体的な問題点を克服する助けをし、訓練を続けさせる。
訓練と休憩を適度にし、訓練の負担が重くなり過ぎないように、そして患者の脈拍、呼吸、血圧の変化に注意する。

二、心理療法
心理療法とは精神療法で、中医では「情志治療」と呼ぶものである。広義には、心理療法は患者の環境や生活条件の改善を含み、周囲の人(医者を含む)の言葉の作用、特殊な環境設定、および医者のおこなう専門の心理療法の技術である。狭義には、心理療法は医者が患者におこなう心理療法技術であり、カウンセリング、暗示、精神分析、行動療法などであるが、フィードバック、気功治療、ヨガ、運動療法や音楽療法なども、ある意味から言えば心理療法である。
心理療法は一般に医者の言葉、表情、姿勢、態度そして行動によって、患者の感受性や考え、感情、態度や行動に影響を与えたり変化させるもので、それによって患者の苦痛となるさまざまな緊張要因、消極的感情や異常行動、およびそれによって引き起こされる各種の身体の症状を軽減させたり取り除く。
心理療法は麻痺患者、ヒステリー性麻痺患者だけではなく、脳血管障害による片麻痺、対麻痺などに対しても、心理療法が受けられる年齢の患者でさえあれば、その作用と意義は大きい。
(一)患者のよくない感情や態度が健康回復に及ぼす影響
麻痺の発生する前後で、患者の精神状態は、その社会と家庭内の地位に根本的変化が起こるのに伴って、以下のような病気の回復に悪影響を及ぼす心理状態が芽生え始める。
1.自信喪失。何人かの片麻痺、対麻痺、四肢麻痺、単麻痺患者にすると、自分は不治の病になったと考えて、しばしば意気消沈し、精神的に萎縮して、ひどければ頭が混乱して治療を受け入れがたくなる。
2.治癒を求める。自分が一夕一朝に元のように回復することを求め、長期的に病気と闘おうとする心の準備ができていないため、治療を疑い、家族の看護を責め、名医を求めて捜し、満足できないと自信喪失する。
3.恐怖の心理。自分は命が危く、鍼灸治療もリハビリも病気をひどくし、生命の危険があると思い込む。だから治療をするのが容易でなく、自暴自棄になったり、熱心になったと思えばさめやすく、症状を誇張したり、ささいな病気に大げさな治療を求める。
4.依存的考え。薬物に頼り、人に頼り、特に貴重な薬物や高い薬物に頼るばかりで、自分では積極的にリハビリをする気がない。
こうした不良な心理状態は患者に対して有害で、時には肉体的麻痺よりもさらに重大で長期化することがあり、罹病期間や予後に大きく影響する。精神的な絶望や不安は、身体の機能を失調させ、気の運行が悪くして、身体に不快な症状を引き起こす。次に、やりたい放題にするのは、危険な状態になりやすく、特に脳出血患者では病状が悪化しやすくなり再発する。第三番目に治療期間を長引かせたり、治療する時期を逃したりする。患者に依存的考えが起きたり自信を無くすと、長いこと病床に臥せったり消極的に待つだけとなり、適度な能動運動や他動運動がおこなえなくなり、そのため精神状態は悪くなり、食欲がなく力が出ず、肢体が軟弱となったり、身体が肥えてブクブクになり、動くと心臓がドキドキし、息切れするようになって、ついには罹病期間が長引いて、患肢の筋肉が徐々に萎縮したり、固まったりしてリハビリの時期を逃す。
(二)心理療法の方法
心理療法は形式的に、個別心理療法と集団心理療法、そして家庭心理療法がある。内容からはカウンセリング、教育療法、催眠暗示、精神分析、音楽療法、芸術療法、心理劇、彫刻療法、作業療法、内観法などがある。我々は中医の理論と分類により、以下にいくつかの心理療法を紹介する。
1.開導祝由、移情変気法
『霊枢・師伝』に「人の情として、死にたくなくて楽しく生きたいものだ。医者の言いつけを守らなければ害になり、守れば健康回復の助けとなると説得する。そして患者を治りやすいように導き、そうしなければ病気はさらにひどくなることに目を開かせる。そうすれば以下に非道の人でも、耳を傾けないことがあろうか?」とある。開導では「人の情として、死にたくなくて楽しく生きたい」ことが前提となる。患者が害を避けて利に走る本能を把握し、患者を説得し、導き、説明し、勧告して、患者を病気に対して真剣にならせ、患者のいろいろな不安や消極的な心理状態を取り除き、病気に勝つ自信を高める。祝由とは、病気が起こった原因を説明して患者の精神状態を変化させる治療法の一種で、それによって患者の不安を解消させ、気の流れを調整し、気血が乱れた状態を改善して情緒を安定させる。これは現代の心理療法のカウンセリング、教育療法や精神分析などと似ている。実際では、いくつかの病状が激しく、罹病期間が短く、治療効果がよい症例を挙げて患者に説明し、また患者に関係のある病理プロセスや最新の研究成果などを簡単に分かり易く解説し、不安を取り除いて自信を持たす。例えば「人の脊髄が損傷されても、一定の条件さえあれば再生する可能性はある。ましてや神経系統の機能は回復できる」などと言えば、対麻痺患者に対して疑いもなく大きな励ましと教育的効果があり、患者が自分で病理状態を改善しようとする助けとなり、鍼灸治療においても積極的にする効果がある。
2.情で情に勝つ法
感情の働きは五臓に分けられ、五行の生克に帰納でき、異なった感情によって臓腑の気の流れに異なる変化を引き起こす。病理状態で、ある感情が起こるように誘導し、それに相対する過激な感情変化によって起きた臓腑の気血の乱れを改善し、身体のバランスを取り戻させて病気を治療する、それが情をもって情に勝つ治療法である。これは現代医学の行動療法と近い。例えば、がっくりして自信を無くし、表情もなく、物も言わず、昼夜寝たきりで、ベッドから出てリハビリをしたがらない脳出血患者に対しては、例えば「××さんは、もうあんたよりかなりよくなった」などと言って、彼を怒らせる方法を使っている。こうして「怒れば考えない」ような状態にさせ、雑念を払い退ければ、競争心が湧いてベッドから降りてリハビリをするようになる。
3.暗示療法
この方法は単独にも使え、他の方法と併用することもできる。暗示には他者暗示と自己暗示がある。他者暗示とは、暗示する者がある観念暗示を被暗示者に与え、その観念が被暗示者の意識と無意識に作用するもので、開導や祝由などの方法とも併用して使える。また患者に自己暗示を教えれば、感情を調整して、緊張や興奮などの感情を緩和できる。もちろん他者暗示でも自己暗示でも、患者の心理状態や行動、そして生理機能を改善し、鍼灸の治療効果を高め、それによって疾病治療の目的を達せられる。
4.自己調整と自律訓練法
これは一定の特殊な順序によって、身体の一種の反応を起こし、それにより身体のもう一つの反応を改善する行動療法の一つである。治療でよく使われ、患者に教えられているもっとも基本的で、もっとも簡単な気功は、放松功、強壮功、昇降調息功などであるが、患者にリラックスゼーションを起こさせ、緊張や焦りを解きほぐし、麻痺患者の精神状態を安定させ、併発症や合併症の発生を減少させる。
(三)心理療法の注意事項
1.心理療法は人間の全体を重視し、部分だけを対象としてはいない。病理の治療も、やはり病態に対する治療ではない。だから人の全身と生活環境を調整することによって調和が得られ、それによって心理状態や身体の病態が取り除かれ、麻痺の鍼灸治療の助けとなり、鍼灸治療の効果を高められる。
2.心理療法は指向性が強い。うまい心理療法なら、医者は麻痺患者の病状、診断を知るのに役立つだけでなく、患者の過去の経歴、個性的特徴、趣味や教養なども分かり、そのうえで治療を進めればより良い効果が得られる。
3.治療のプロセスでは、患者の主観的な積極性が必要で、治療のプログラムを守り、医者と患者が協力することで満足できる効果が得られる。医者は患者の友人に過ぎず、教育者ではないことをよくわきまえなくてはならず、医者の権威を振り回して患者に依存的態度を起こさせては逆効果である。

三、家庭鍼灸の補助療法
麻痺患者の多くは病院で急性期を過ごした後、家に帰って治療とリハビリを続ける。それと同時に鍼灸師も家庭に行って、引き続き麻痺患者の鍼灸治療をおこなう。また置鍼や各クールの期間に、家庭で簡易鍼灸の補助療法を使えば治療効果を高め、麻痺の回復や好転を速められる。
(一)赤外線の経穴照射
赤外線は、血液循環と細胞機能を増強し、鎮静させて痛みを止め、筋肉の引きつりを解除する作用がある。患者の肢体や筋肉の麻痺、萎縮、疼痛及び関節の硬直などを緩解する作用がある。家庭で赤外線を使って肢体や筋肉に照射すれば、鍼灸治療の助けとなって治療効果を高める。
操作時には、光線を経穴やその周囲に定め、治療部位の斜め上方か傍らから照射する。明かりとの距離は一般に30〜50cmだが、ランプの出力によって調整し、患者が気持ち良く感じ、皮膚が赤くなったり紅斑が現れる程度でよい。一回の照射時間は20〜30分とし、一日1〜2回照射する。
治療では火傷を防止する。特に患肢に知覚障害のある患者では注意が必要である。また目には直接照射しない。もし顔面麻痺の治療で必要ならば、水に浸した綿花やガーゼで目を被う。患者に照射したあと、疲労感、不眠、目まいなどが起こらないか注意し、ひどい場合は照射を一時中断する。重症の動脈硬化、代償機能不全性心臓病、出血傾向のあるもの、高熱の患者などには禁忌である。
赤外線は店で売っている。
(二)マイクロウエーブの穴位照射
マイクローウエーブは身体の粒子を振動させ、病変部分に熱作用と生科学反応を起こさせるものである。また人体の生物電界を調整し、病変状態を改善する。麻痺した肢体や筋肉、及び損傷された神経、変形した関節に、炎症を鎮めて、腫れをひかせ、痛みを止め、血液の微小循環を改善し、新陳代謝を促して組織の回復と再生する機能を増進させる。
使用するときは電源に差し込んで5分ほど予熱すればよい。治療器具を直接病巣や経穴に照射すればよい。照射する部分の衣服は付けず、距離を一般に15〜25cm離す。照射量は患者の感覚や皮膚の赤くなりぐあい、皮膚の温度などによって判定するが、一般に局部が心地好く、皮膚にピンク色の紅斑が現れ、皮膚の温度が45℃以上にならない程度とする。一回の照射時間は30〜40分で、一日1〜2回治療し、6〜8日を1クールとし、各クールは3〜5日開ける。
注意事項は赤外線と同じ。家庭用のマイクロウエーブ治療器は市販されている。小さくて使い良く、鍼灸治療のよい補助治療である。
(三)温灸
温灸は灸法の一つである。家庭では棒灸、箱灸、熨灸、日光灸などがある。
1.箱灸
箱灸は、木で作ったキャップ形の温灸器に棒灸を差し込んで施灸する方法である。施灸時にはモグサに点火して差し込み、灰が落ちないように網を皮膚に置き、温灸器を乗せればよい。温度は棒灸の距離で調節する。毎回15〜30分施灸し、一回に複数穴を取る。麻痺により肢体の筋肉が萎縮したり、関節が固まったりしたところや、顔面麻痺患者の顔全体に施灸する。
2.熨灸
熨灸はモグサを経穴や患部に乗せて布を被せ、アイロンや熱湯の入ったコップを使って布を繰り返しこすって、モグサを通して温めるものである。麻痺した肢体や筋肉の痛み、萎縮などに使う。
3.日光灸
日光灸はモグサを経穴や患部に乗せて日光浴する方法である。毎回20〜30分さらせばよい。強い陽射しのもとでは、日射病と正常な皮膚の保護に注意しなければならない。これは麻痺した肢体の痛みや、萎縮、ヒキツリなどの症状に使う。
(四)家庭用マッサージ器
家庭用マッサージ器は、麻痺した肢体の筋肉を按摩したり、マッサージしたり、指圧する作用があり、麻痺した局部の血流を循環させ、組織の栄養状態を改善し、筋肉の正常な代謝を促進するので、筋肉の萎縮や痙攣などに一定の効果がある。同時に滞りを無くして痛みを止め、経脈を温めて絡脈を通らせ、気血の流通を促進し、麻痺した肢体の痺れ、冷えて痛む、重怠さなどの知覚障害改善する。マッサージ器の使用法は説明書を読む。
(五)磁石 鍼
磁石 鍼は、古代の九鍼と磁石治療を組み合わせて作った新型の鍼で、ボールペンのような形をしている。家庭で患者や家族が使え、痛みも傷付けることもなく、皮膚の消毒もいらない。刺鍼したときの一部の作用がある。
磁石 鍼で治療するときは、一般に病巣から取穴するか痛みのある部分を使う。一回で2〜3穴を取り、按圧するときは鍼体と皮膚を垂直にする。押さえている時間は一回1〜10分で、一日1回治療する。
家庭の鍼灸補助療法はたくさんあるので、麻痺の回復に役立つならば使って早く回復させる。

補足一:典型的な症例の分析

一、脳血管障害
呂×、女、81歳。1986年5月6日初診。
患者は1986年5月1日の夜、小便に起きたところ、言葉が喋れなくなり、右半身が片麻痺となったため翌朝、本院に治療にきた。鍼灸科で診察してもらった。
検査:意識ははっきりしており、右側の鼻唇溝は浅くなり、失語、右の上肢と下肢の筋力は0級。脳血栓と診断し、右側の肢体が麻痺している。
治療:額中線、頂中線、右頂顳前斜線を取って頭皮鍼治療をし、肢体の運動と併せて抽気法で運鍼する。刺鍼のあとすぐ簡単な単語が言えるようになり、立ったり、大腿を挙げたり、手を挙げたり、支えられて歩けるようになった。3日目には独りで500mぐらいよろよろと歩けるようになった。続いて治療して15回目には、身の回りのことができるようになり、基本的に治癒したので退院した。現在に至っても治療効果は安定している。
解説:この患者は高齢のため、脳血栓によって右側の肢体が片麻痺となり、失語を伴っている。頭皮鍼の頂顳前斜線と頂中線に刺鍼し、患肢の筋力を強くして中風の半身不随を治す。額中線に刺鍼して精神を安定させて意識を醒させ、運動性の失語を治す。本法は脳梗塞や脳出血の後遺症によって起こった片麻痺に、優れた効果がある。

二、片麻痺の後遺症
蔡×、女、64歳。1986年6月17日初診。
患者は1985年10月27日の朝起床したところ左側の肢体に麻痺が起こっており、口眼歪斜、言葉が喋れないことが分かって、すぐに現地の郷衛生院で診断してもらったところ、脳血栓による左側の片麻痺と診断された。約8ケ月ほど、薬物や漢方薬で治療したが、やはり左側の肢体は動かせず、排尿や排便でベッドから降りられず、口は右側に向かって歪んで涎が流れるので、我院に鍼灸治療にきた。
検査:意識ははっきりしており、体型は肥っており、血圧は正常。左側の鼻唇溝は浅くなり、口は曲がり、発音はあまりはっきりしていない。肢体は弱々しくて力がなく、腰掛けたり立ったりできない。左側の上肢の筋力は 級、下肢の筋力も 級で、筋肉はすべて軽度に萎縮している。
治療:すぐに頂中線と枕上正中線に刺鍼し、腰掛けたり立ったりさせる。そのあと額中線に刺鍼し、嚥下動作と言語を訓練をする。さらに頂顳前斜線の上 と中 に刺鍼して肢体の運動をさせる。頭皮鍼はすべて抽気法で運鍼する。こうして運鍼と運動を組み合わせて30分治療すると、患者はついに独りで腰掛けられるようになり、足をバタバタさせたり蹴ったりできるようになり、上肢は第3ボタンまで挙がるようになった。また短時間ではあるが独りで立っていられるようになった。24時間置鍼して、隔日1回治療し、10回を1クールとする。
第1クールの後、患者は独りで歩けるようになったが、左足が少し内翻する。左上肢は肩まで挙がるようになったが、指は器用には動かせない。左側の顔面麻痺は基本的に回復し、言葉も流暢になって発音もはっきりしている。10日休んだ後、第2クールの治療をすると伝える。
第2クールは頭皮鍼と体鍼を一日置きに交替で刺鍼し、10回を1クールとする。頭皮鍼の取穴は第1クールと同じで、体鍼は肩 、肩 、臂臑、曲池、外関、合谷、環跳、伏兎、梁丘、陽陵泉、足三里、糾内翻、懸鐘、丘墟を取る。毎回、上肢と下肢から4穴ずつ選んでG6805治療機に接続し、連続波で15〜20分通電する。こうして頭皮鍼と体鍼を5回ずつおこなって、ほぼ治癒した。4年目の調査では、患者の上肢は自由に動いて家事ができ、下肢も5m以上歩くことができ、階段の上り下りや、うずくまって立ち上がるなどが自由にできる。
解説:中風の半身不随患者では、一般に生命中枢が安定してすぐに刺鍼すれば治療効果がよい。一般に発病してから1ケ月〜3ケ月以内が、治療をして最も効果があがる時期である。だからその時期を逃さず、できるだけ早く治療しなければならない。しかし実際の治療で、回復する時期はそれだけに留まらないことが証明されている。この例の患者は片麻痺となり、ベッドに寝ついて8ケ月経っているが、2クールの鍼灸治療で基本的に回復した。これからすると片麻痺後遺症に対する鍼灸治療の効果は、十分はっきりしている。

三、脳挫傷に伴う下肢の麻痺
徐×、男、48歳。1988年1月29日初診。
患者は88年1月25日午後4時頃、重い物を背負っていて転び、引っ繰り返って4〜5mの深さの穴に頭から落ちて、意識がなくなった。約2時間後、家に担いで帰ったが、やはり意識不明で、左耳や鼻腔から血を流し、右の下肢は動かず、頭痛、悪心、嘔吐、食べることができないなどの状態となり、現地で治療を受けてやや良くなり、1月27日に本院に替わってきた。
検査:意識ははっきりしており、検査はできる。体温37℃、脈拍77回/分、呼吸数18回/分、血圧126/72mmHg、左の瞳孔は3.5mm、右3mm、対光反射あり、両上肢の筋力は正常、右下肢の知覚が劣る。筋力 級、膝蓋腱反射陽性、バビンスキー反射、ケルニッヒ徴候ともに陰性。右足関節が下垂している。頭蓋骨のX線検査では頭蓋底骨折がある。
診断: 頭蓋底骨折。 脳震蕩。 脳挫傷に伴う右下肢の不完全麻痺。鍼灸科に治療にきた。
検査:頭皮に外傷無し。精神状態はよい。右耳からやはりピンク色の液体が出ている。そのほかは上と同じ。
治療:頂中線、左の頂顳前斜線の上 を取って、二本透刺する。抽気法で瀉法しながら右下肢を挙げさせると、筋力は 級に増加していた。この方法を毎日1回続けると、3日後にはベッドから起きてヨタヨタと歩けるようになったので、隔日1回の治療に改め、10回を1クールとして治療すると、筋力および皮膚の知覚は正常に回復した。
解説:この例は外傷によって脳挫傷となり、下肢に麻痺が起こったものである。その原因は脳血管障害とは異なるが、頭皮鍼で頂顳前斜線を取り、同じような著しい効果がすぐに得られた。10回治療したあと、基本的に治癒して退院した。もし麻痺した肢体と反対側の頭皮に外傷があれば、同側の頂顳前斜線を取って治療しても、同じような効果が得られる。

四、高位の対麻痺
趙×、男、57歳。1986年5月25日初診。
患者は1985年2月1日の夜12時頃、火災を消火していたときに、樹木が頚部に落ちてきた。すぐに両足が痺れて手足が動かなくなり、2月2日某病院の救急科に行った。
検査:意識ははっきりしていて、質問に正確に答える。両方の瞳孔も同じ大きさで、対光反射も良好、脳神経は陰性、左の額に二度の火傷があり、頚椎にはっきりした圧痛や変形はない。両上肢の筋力は0級、両下肢の筋力も0級、血圧110/60mmHg。頚椎のX線は、正側位、左斜位では骨折や脱臼はない。第4頚椎から下の生理的湾曲が正常より1〜2mmずれている。
診断: 頚髄損傷。 頭部の火傷。すぐに入院治療する。頭蓋骨を牽引し、抗炎治療と対症療法をすると病状が幾らか好転した。48日経っても両上肢や指は動かせず、感覚もない。両下肢の筋力は 級だが、立つことはできず感覚もない。便秘し、導尿する。3月20日、自分から退院を要求する。退院時の診断は頚髄損傷。
退院してからは、ずーっと漢方薬で治療していた。今日は鍼灸科の外来にやってきた。
検査:意識ははっきりしており、質問に答える。頚の運動はよく、圧痛もない。両上肢の筋力は 級、筋肉は明らかに萎縮し、軽い震顫がある。両下肢の筋力は 級で、立つことができない。筋の張力は低下している。ホッフマン徴候は陽性、左足のクローヌスは陽性、バビンスキー反射陽性。大小便は、自分では出せない。知覚は第4頚椎水平面以下が減退。
診断:高位の対麻痺。
治療:頚椎の夾脊穴、風池、肩 、曲池、中渚、陽池、外関、合谷。腎兪、命門、膀胱兪、大腸兪、次 、環跳、秩辺、殷門、承扶、風市、委中、足三里、陽陵泉、承山、三陰交、崑崙、丘墟、関元、気海、中極、天枢を取り、交替で刺鍼する。上肢と下肢からは四穴選び、G6805治療機に接続し、連続波で15〜20分通電する。そして頭皮鍼の頂中線、頂顳前斜線、頂顳后斜線に刺鍼し、抽気法で運鍼したあと24時間置鍼し、患肢の能動運動と他動運動をさせる。隔日1回治療し、10回を1クールとする。
4〜5クール治療を続け、患者の筋力は幾らか回復した。両足でに歩けるようになったが安定してはいない。股関節、膝、足関節の屈伸運動は良好。上肢の肩、肘関節の運動も良好で、腕関節は屈伸できる。やはり便秘しているが、尿のカテーテルは取り外した。知覚障害も幾らか好転したようだが、はっきりしていない。以降は治療せず、家庭でリハビリをさせる。91年に調査すると、両手で7.5kgのものを挙げることができ、足で5キロ歩くことができる。大便は6〜7日に1回で、質は硬く、下剤を常用している。排尿は基本的に正常だが、指や足趾、足底の感覚は鈍い。
解説:この例は頚椎の脊髄損傷によって高位で対麻痺が起こったものである。中医では督脈が損傷され、経絡が塞がれて気血が急に停滞したため、四肢が栄養できずに麻痺して感じなくなったと考えている。現代医学、中医そして鍼灸治療と、徐々に回復している。鍼灸では頂中線と頚椎の夾脊穴を取って、督脈の経気を触発させ、背兪穴と四肢の経穴、そして頭皮鍼の頂顳前斜線と頂顳后斜線で上肢、下肢の運動障害と知覚障害を治療し、さらに能動運動と他動運動を組み合わせ、気を病巣部に誘導したため、効果が得られた。

五、多発性神経炎
徐×、男、16歳。1985年7月10日初診。
患者が夏休みにテレビを見ているとき、手足をよく動かしてじっとしていないことを母が発見した。その理由を尋ねると手足が腫れぼったく感じ、痺れたようになって数日経つと初めて訴えた。そして我鍼灸科の外来にやってきた。
検査:手足が腫れぼったく、痺れる感じ、蟻走感があり、手袋型、靴下型に知覚が減退し、ときどき焼けるような痛みがあり、手のひらや足の裏が厚ぼったく感じる。
診断:多発性神経炎。
治療:毫鍼で刺鍼する。取穴:曲池、外関、八邪、足三里、三陰交、八風。中刺激で提挿捻転する。最初の5回は毎日1回治療し、後の5回は隔日1回治療する。そしてG6805治療機に接続し15〜30分通電する。栄養のある物を食べるように申し付け、幹部の肢体を運動させるよう注意する。1クールの治療で治癒した。
解説:この患者は顔色が黄色くくすんで痩せていたので、恐らく栄養不良から本病が起こったのではないかと思われる。しかし年齢が若く、発見も早く、症状も軽かったので、刺鍼に電気鍼を使って1クール治療したら治癒した。筆者は臨床で本病をかなり多く見かけるが、サルファ剤、イソニアジッド、有機リン中毒などの薬物によって本病が起こったものが多い。罹病期間が長く中毒症状の激しいものほど効果が上がりにくく、時には効果があっても再発したりする。初期に発見して原因に注意を払わなければ、優れた効果は得られない。

六、周期性麻痺
呉×、男、56歳。1989年10月26日初診。
患者は近日農作業で忙しく、激しい労働に参加した。今朝ひどい疲労感があり、足に力が入らなくなって麻痺し、立つことができなくなって来院した。患者は外傷歴や発作の既往症はなく、家族にもいないという。
検査:両下肢は対称性に麻痺が起こっているが、両上肢には症状がない。下肢の腱反射は減弱し、血清カリウムは2.8mg/d 、心電図には低カリウム血症の変化がある。
診断:周期性麻痺。
すぐにカリウムを飲ませるとともに、カリウムを点滴した。翌日、症状はやはり元のままで、立つことができなかったので、鍼灸治療を要求した。
治療:頭皮鍼の頂中線、両側の頂顳前斜線を取り、抽気法で運鍼する。刺鍼後すぐに立てるようになり、そのあと歩けるようになった。そこで頭に置鍼したまま帰宅させる。彼の家は病院から100mのところで、途中で急に足の力が抜けて転んだ。しかし起き上がって家に歩いて帰った。
2日目の再診のとき、自分で下肢に前より力が入るようになったと言った。この方法で毎日1回、7回治療して完全に回復した。
解説:この周期性麻痺では、両下肢の対象性の麻痺症状がひどく、上肢の麻痺症状ははっきりしなかった。刺鍼して頭皮鍼と運動を組み合わせただけで、はっきりした効果があり、最初の治療で100m歩くことができた。再診では基本的に治癒していた。あとの5回は治療効果を安定させるために刺鍼を継続した。現在でも再発はない。


七、急性灰白髄炎
葉×、男、4ケ月。1989年6月21日初診。
患者は88年5月28日に発熱して泣き、席をしていた。翌日、左足が軟弱で無力となり、右足の力と釣り合わなくなっていることを発見した。今日、我病院の鍼灸科の外来にきた。
検査:患者は発熱する前に、小児麻痺糖丸(1型)を1粒飲んでいた。現在熱はなく、意識もはっきりして、上肢の運動は正常のようで、右の足は屈伸ができるが、左足は力が入らず、皮膚の温度も右足よりも冷たく、腱反射もない。
診断:小児麻痺。
治療:環跳、髀関、風市、伏兎、足三里、陽陵泉、懸鐘、解谿に浅刺して、2〜3回捻鍼したらすぐに抜鍼する。毎日1回治療し、10回を1クールとし、各クールは4〜5日開ける。
1クールの後、下肢の皮膚温は上昇し、運動状態も好転した。5日開けて第2クールの隔日1回の刺鍼を始める。こうして4クール治療した。各クールの間隔は10〜30日と一定していない。患肢の筋力は基本的に回復し、筋肉の弛緩や萎縮はない。1990年、患者は歩くようになり、両親は歩き方が少しおかしいと感じたので、再び治療を求めて来た。そこで電気鍼治療に改めて2クール治療した。
91年に訪れると、患肢の筋力は正常で、筋肉の萎縮はなく、股関節、膝、足関節の変形もない。しかし手の親指と中手指節関節の屈曲が無力なため、歩く姿もおかしく感じられる。
解説:この例の患者では毫鍼と電気鍼治療をした。足の陽明経を主とする三陽経穴を取り、最初は浅刺で多く刺鍼し、少し捻鍼して実邪を取り除き、そのあとは刺激を強めた。電気鍼を併用して筋肉の萎縮や関節の変形を防ぎ、最後には基本的に治癒した。

八、顔面神経麻痺
呂×、男、40歳。1961年5月9日初診。
患者は昨晩、口眼歪斜となっているのを発見し、今日鍼灸科の外来にきた。
検査:顔面の右側患部の額の横紋がなくなり、目を完全に閉じられず、鼻唇溝も浅くなり、口角は左側に向けて歪曲し、口をすぼめて息を吹き出そうとすると息が漏れる。右側の味覚も減退し、食物が口の中に溜まる。耳の後ろに痛みや圧痛はなく、中枢性の症状もない。
診断:周囲性の顔面神経麻痺。
治療:30号45〜90mm(1.5〜3寸)の毫鍼を使う。患側の陽白から魚腰への透刺、太陽か頬車への透刺、頬車から地倉への透刺、四白、翳風を取る。そして健側の合谷を加える。G6805治療機に陽白と四白、太陽と頬車を接続し、20分、連続波で通電する。最初の5回は軽刺激、後半の5回は刺激量を徐々に上げる。そしてマイクロウエーブ治療機を患側の頬に、皮膚がピンク色になるまで照射する。隔日1回治療し、10回を1クールとする。1クールの治療が終えると完全に治癒し、後遺症もなかった。
解説:この顔面麻痺患者の取穴は精錬されている。急性期に電気鍼刺激をし、迅速に回復して後遺症も残らない。だから筆者は、顔面麻痺の急性期には患部に刺鍼をしてはならないという説に、捕らわれる必要はないと考えている。

九、尺骨神経の損傷
李×、男、52歳.1991年5月16日初診。
患者は長距離バスに乗り、左手を窓に長い間置いていたら、尺側の筋肉が痺れたと感じたので外来にきた。
検査:患者の左手は腕を屈する力に乏しく、小指の付け根の盛り上がったところの筋肉の力が弱くなり、第4、第5指の動きが悪く、知覚も減退している。
診断:尺骨神経損傷。
治療:小海、少海、曲池、支正、外関、後谿を取り、刺鍼して気が得られたら、G6805治療機に接続し、連続波で20分通電する。隔日1回治療し、10回を1クールとする。1クール治療すると回復した。
解説:この例は尺骨神経が長時間圧迫されたことによって損傷されたもので、症状は軽く、また治療も早かった。さらに日頃患部を揉んだり、関節を動かしたりしていたので、回復が早かった。

十、ヒステリー性の麻痺
王、男、22歳。1985年7月26日初診。
患者は約1時間前、畑で農作業していたら、急に両足の力が抜け、続いて動かなくなった。そこでリアカーに引かれて鍼灸科に来た。
検査:患者の両足は麻痺して力がなく、立てない。腱反射は正常で、筋の張力も正常。病理反射は無し。
診断:ヒステリー性の麻痺。
治療:両側の湧泉穴を取り、26号45mm(1.5寸)の毫鍼をすばやく刺入し、提挿捻転の強刺激すると、すぐに足がピクピク動いたので、10分置鍼して、その間3回運鍼する。抜鍼して患者にベッドから降りるように言うと、立つことができるが歩行は安定していない。筆者がその場で支えて何分か足踏みさせ、再び歩くように言うと、歩くほど力が入るようになり、正常に回復した。そして患者は二人の付き添い人をリアカーに乗せて帰った。
解説:この患者は急に発病して、すぐに治療した。湧泉穴に強刺激し、施術しながら暗示すると立てたのですぐに治った。筆者は臨床でいつもこの方法を使い、一回で治している。

補足二:筋力検査方法

筋力は筋肉の収縮力である。各筋肉の運動機能は重複しているので、一般的な週間で関節を主として筋肉群の屈伸力、あるいは外転、内転、回内、回外などの機能を検査する。上運動神経元の病変および多発性周囲神経の損傷によって起こった運動麻痺に対しては、この方法で十分である。しかし一本の周囲神経が損傷されている尺骨神経、橈骨神経、正中神経、総腓骨神経などの麻痺や、限局性の脊髄前角の病変、例えば灰白髄炎や進行性脊髄性筋萎縮などでは、それぞれの筋肉に対して別々の検査が必要である(表3)。検査方法は、患者に順次関係した筋肉の収縮運動をさせるもので、検査するものは抵抗を加えてその筋力を判断するか、患者に力を入れさせてある姿勢を維持させ、検査をするものがそれを動かす方法によって判断する。もし患者の筋力に抵抗する力がなければ、患者に引力に対して抵抗させ、どれぐらい挙がるか、あるいは何度まで挙がるかを観察する。もし引力にも逆らえないようならば、支えのある水平面でどれぐらい動かせるか注意する。肩部の筋力を検査する時は腰掛けさせ、そのほかの間接の運動では仰向けに寝かせるか坐位で検査して、左右を比較する。
筋力は六等級で記録する。
0級 完全な麻痺。
1級 筋肉は軽微に収縮するが、運動を起こすまでではない。
2級 肢体が平面上を移動するが、持ち上げることはできない。
3級 肢体がベッドから離れる。
4級 抵抗に逆らって動かせ、患者は運動制限なく動かせる。しかし筋力は弱い。
5級 正常な筋力。

一、一般的検査方法
下の運動から、筋肉群の筋力を測定する。
肩:外転、内転。
肘:屈曲、伸展。
手:背屈、掌屈。
指:内転、外転。
股:屈曲、伸展、外転、内転。
膝:屈曲、伸展。
足:背屈、底屈。
趾:屈曲、伸展。
頚:前屈、後屈。
体幹:仰臥位で頭と肩を上げる。検査するものは抵抗力を加え、腹筋の収縮力を観察する。俯臥位で頭と肩を持ち上げる。脊柱の傍らの筋肉の収縮状況を検査する。

二、肢体の軽い麻痺の検査方法
軽い麻痺で、普通の方法では確定できないとき、次の方法を使って診断の補助とする。
1.上肢: 軽い片麻痺で、片側の小指が常に軽く外転している。 握力検査で、健側と差があり過ぎる。 手のひらを下にして両手を水平に挙げたとき、患側の上肢が徐々に回内(手のひらが外側を向く)したり下垂する。
2.下肢: 仰臥位で患側の下肢が外旋(爪先が外を向く)する。 足の背屈の筋力が健側より差があり過ぎる。 うつ伏せで、両膝を90度に屈曲すると患側の脛が徐々に下降する。仰向けでもこの検査をできる。またうつ伏せで、患者の膝を曲げさせてカカトをできるだけお尻に近づけさせると、患側は距離がある。

三、各筋肉の筋力測定(表3)
表3 各筋肉の筋力検査
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|筋肉|分節 |神経 |機能 | 検査方法 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|菱形筋 |頚4〜5 |肩甲背神経|肩甲骨の内転と回旋 |手を腰に当てて、肘を後ろに向ける。検査者は抵抗を加える。|
|棘上筋 |頚5〜6 |肩甲上神経|上腕の外転15度 |上腕を15度外転させ、検査者は抵抗を加える。 |
|棘下筋 |頚5〜6 |肩甲上神経|上肢の外旋 |肘を90度に曲げ、後ろに上腕を外旋させ、検査者は前腕の外|
| | | | |側から抵抗を加える。 |
|前鋸筋 |頚5〜8 |長胸神経 |肩甲骨の外転|両腕を伸ばして壁を推させ、患側の肩甲骨が胸壁から離れて翼|
| | | | |状の肩甲骨となる。両手を降ろすとき患側の方甲骨は脊柱の中|
| | | | |線に向かって移動する。 |
|肩甲下筋|頚5〜6 |肩甲下神経|上肢の内旋 |肘を90度に屈曲したあと、前腕を内旋させ、検査者は前腕の|
|小円筋 |頚5〜6 |腋窩神経 |上肢の内転と外旋 |内側から抵抗を加える。 |
|大胸筋 |頚5〜胸1|前胸神経 |上肢の内転と内旋 |外側に水平に挙げ、上肢を内旋させ、検査者は上腕の内側から|
| | | | |抵抗を加える。 |
|広背筋 |頚6〜8 |胸背神経 |上肢の内転、伸展、内旋 |上腕を水平に外転させた位置から、下に向かい後ろに向けて動|
| | | | |かす。検査者は肘の下方に抵抗を加える。 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|三角筋 |頚5〜6 |腋窩神経 |上肢の外転 |上肢を水平に外転させ、検査者は肘を下に向けて押さえる。 |
|上腕二頭筋 |頚5〜6 |筋皮神経 |前腕の屈曲と回外 |前腕を屈曲させて回外させ、検査者は抵抗を加える。 |
|上腕三頭筋 |頚7〜8 |橈骨神経 |肘を伸ばす |前腕を屈曲させたあと伸展させ、検査者は抵抗を加える。 |
|腕橈骨筋|頚5〜6 |橈骨神経 |前腕の屈曲と回内 |前腕を回内させたあと屈曲させ、検査者は抵抗を加える。 |
|橈側手根伸筋 |頚6〜7 |橈骨神経 |腕関節の伸展と橈屈 |検査者は手背橈側から抵抗を加える。 |
|尺側手根伸筋 |頚7〜8 |橈骨神経 |腕関節の伸展と尺屈 |検査者は手背の尺側から抵抗を加える。 |
|総指伸筋|頚6〜8 |橈骨神経 |示指から小指までの伸展 |末節から中節を屈曲させた後、検査者は近端の指節に加圧。 |
|長母指外転筋 |頚7〜8 |橈骨神経 |母指の外転 |検査者は第1中手骨の外側に抵抗を加える。 |
|長母指伸筋 |頚7〜8 |橈骨神経 |母指指節間関節の伸展 |手のひらを下に向け、検査者は末節に抵抗を加える。 |
|短母指伸筋 |頚7〜8 |橈骨神経 |母指中手指節関節の伸展 |手のひらを下に向け、検査者は基節に抵抗を加える。 |
|橈側手根屈筋 |頚6〜7 |正中神経 |肘の屈曲と回外 |検査者は手の橈側に抵抗を加える。 |
|尺側手根屈筋 |頚7〜胸1|尺骨神経 |肘の屈曲と回内 |検査者は手の尺側に抵抗を加える。 |
|浅指屈筋|頚7〜胸1|正中神経 |示指から小指の中節の屈曲|検査者は抵抗を加える。 |
|深指屈筋|頚7〜胸1|正中神経と尺骨神経 |示指から小指の末節の屈曲|検査者は抵抗を加える。 |
|長母指屈筋 |頚7〜胸1|正中神経 |母指の末節の屈曲 |検査者は抵抗を加える。 |
|短母指屈筋 |頚8〜胸1|正中神経と尺骨神経 |母指の中手指節関節の屈曲|検査者は抵抗を加える。 |
|短母指外転筋 |頚8〜胸1|正中神経 |母指の外転 |検査者は第一中手指節関節の外側の抵抗を加える。 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|筋肉|分節 |神経 |機能 | 検査方法 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|母指対立筋 |頚8〜胸1|正中神経 |母指を他の指に対立させる|母指と小指を対立させた後、検査者はそれらを引き離す。 |
|母指内転筋 |頚8〜胸1|尺骨神経 |母指の内転 |母指と示指に紙を挟み、検査者がそれを引っ張り出す。 |
|短小指外転筋 |頚8〜胸1|尺骨神経 |小指の外転 |検査者は抵抗を加える。 |
|虫様筋 |頚8〜胸1|示指と中指は正中神経|中手指節関節の屈曲 |検査者は抵抗を加える。 |
| | |環指と小指は尺骨神経|指節間関節の伸展 | |
|背側骨間筋 |頚8〜胸1|尺骨神経 |示指、中指、環指を外転 |検査者は広げた指を揃えるような抵抗を加える。 |
|掌側骨間筋 |頚8〜胸1|尺骨神経 |示指、環指、小指の内転 |指の間に紙を挟む。 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|腸腰筋 |腰2〜4 |腰神経叢、大腿神経 |股関節の屈曲|検査者は抵抗を加える。 |
|大腿四頭筋 |腰2〜4 |大腿神経 |膝関節の伸展|検査者は抵抗を加える。 |
|大腿の内転筋群 |腰2〜5 |閉鎖神経、坐骨神経 |股関節の内転|仰臥位で、両膝をそろえさせ、検査者は膝を広げる。 |
+--------+----------+----------+------------+----------------------------+
|小臀筋や大腿筋膜|腰4〜仙1|上臀神経 |股関節の外転|仰臥位で両膝を外転させ、検査|
|張筋などの股関節| | |と内旋 |者は抵抗を加える。 |
|の外転筋群 | | | | |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|梨状筋とか内閉鎖|腰4〜5 |仙骨神経叢|股関節の外旋|仰臥位で、下肢を真っ直伸ばし|
|筋、上下双子筋、| | | |たあと足を外旋させ、検査者は|
|大腿方形筋などの| | | |抵抗を加える。 |
|股関節の外旋筋群| | | | |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|大臀筋 |腰5〜仙2|下臀神経 |股関節の伸展と外旋 |俯臥位で膝を屈曲させた後、大腿を挙げさせて膝関節を床から|
| | | | |離し、検査者は抵抗を加える。 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−----+--−−−−−−−−−−−−−+
|大腿二頭筋、半腱|腰4〜仙2|坐骨神経 |膝関節の屈曲|検査者は抵抗を加える。 |
|様筋、半膜様筋 | | | | |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|前脛骨筋|腰4〜仙1|深腓骨神経|足関節の背屈と内反 |検査者は抵抗を加える。 |
|長母指伸筋 |腰4〜仙1|深腓骨神経|母指と足関節の背屈 |検査者は抵抗を加える。 |
|長指伸筋|腰4〜仙1|深腓骨神経|2〜5趾と足関節の背屈 |検査者は抵抗を加える。 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|腓腹筋と|腰5〜仙2|脛骨神経 |足関節の底屈|検査者は抵抗を加える。 |
|ヒラメ筋| | | | |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+
|長母指屈筋と長指|腰5〜仙2|脛骨神経 |足趾の屈曲 |検査者は抵抗を加える。 |
|屈筋 | | | | |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−+



                    北京堂鍼灸